第九十八話 マオ、正式に"魔王"と呼ばれてしまう (NPCからも)
イベントも終盤に差し掛かりました。
残酷な表現があるかもしれませんので、ご注意下さい。
5月27日 誤字の修正をしました。
レインさんが突貫すると共にチャットが切れてしまいました。
「──レインさんの事ですから、問題ないですよね??」
そう言いながらも、暴走するレインさんに振り回されるコカ君、慌てて介抱に向かうキルステさんの姿が脳裏に浮かびます。
「いつも通り──といえばいつも通りの光景ですね」
ボクの感想に『あんまりじゃねぇ?』との意見が聞こえた気がしますが、その言葉に少し傷付きます。
ガキィィィィィン!!
大きな金属音が聞こえ、考え事が中断されました。
音の先には盾を構え、ゴブリンロードの振り下ろした鉄棍棒を防いでるシアの姿がありました。
『グォォォォォォォォ!?』
攻撃を仕掛けたゴブリンロードの方が悲鳴を上げました。
それも当然でしょう。
シアの構えている盾は"凶悪"といってもいいレベルの効果が付いています。
【愚者に裁きを与えるまな板】
装着者が"敵"と認識した攻撃を防いだ時、受ける予定だったダメージの15%前後を反射する。
ただし、反射が発動するのは『物理攻撃』に限定され、属性が付与されたスキルの場合は発動しない。
魔法に関しては通常の盾より少し高い防御を誇るが、専用の盾よりは低い。
大きさはタワーシールド並みにあるが、重さは金属製のスモールシールド程度なので扱いやすい。
【物理攻撃確率反射】【HP自然回復】【HP回復量UP】【防御成功時HP回復】【守護者の魂】【ガーディアン】
この効果が普通に高いのか、理不尽なレベルなのかは分かりません。
この盾のセールスポイントは『HPを回復する確率が高い』事で、今までより長時間の戦闘も可能になっています。
何よりもその回復を支えているのは【守護者の魂】と【ガーディアン】の効果です。
【守護者の魂】はシールドでの防御時にボーナスが入り、ジャストガードの発生率が"極大"に上がります。
【ガーディアン】は"背後にいる仲間の人数"の防御力が上がる効果があり、さらに堅い盾になります。
1人で2倍、2人で2.5倍と少しずつ上がっていきます。
ミイで2倍、拡大した解釈ではボクが加わるので2.5倍に上昇していると思います。(背中側にいるってことで……)
あくまでも推測ですが、大きく外れていないと思えます。
──実際、今のシアを倒すのは難しいです。
そのシアが攻撃を防ぎ、ミイが攻撃を加えています。
弓から放たれた矢が弧を描き、左右と上から襲いかかってる"曲射"と呼ばれる撃ち方です。
曲射を使いこなせて"一人前の弓使い"と言われていますが、曲射でアーツを放てるミイはどうなのでしょう?
着弾前に矢が複数に分裂しているのはアーツ【ガトリングアロー】を使ったのでしょう。
『ギャブァァァァァァァァァァァァァ!!??』
ミイの放った矢に注意を引かれた瞬間、"男"の急所に剣が刺さりました。
その光景にボクのモノが"キュ"っと縮み上がります。
しかも刺突は"連続で小刻み"に繰り出されています。
嫌な汗が背中を流れるのを感じます。
──待ってください! シアの手にしている剣は【細剣】と呼ばれる"レイピア"系の武器じゃないですか!?
肘から先が"残像"を産み出す速度で動き、ストト……と突き刺さっては別の場所に刺さっています。
あれは【ハンドレッド・ニードル】──トップクラスのプレイヤーなら1人で"100連撃"は繋げられるという、クールタイム・コストと非常に優れるアーツです。
問題なのはアーツではなく、使用している剣です。
【殺激武痛剣・魔王式】
刺突に特化した"拷問用"の刺突剣。
攻撃判定があるのは『剣先から3cm』と先端部分にしかない反面、刺す度に効果【罪と咎】を発動する。
単発で刺した時は『蚊に刺された』程度の痛みだが、10……20と10刻みで倍の激痛が発生する。
それだけでは普通だが"魔王印"の真骨頂はそこではない!
"超"特殊効果【狂喜と狂気の乱舞】というダジャレのような効果が、真の姿を見せる!!
【狂喜と狂気の乱舞】
アーツ【ハンドレッドニードル】と【殺激武痛剣・魔王式】のコラボが生んだ奇跡の拷問用の効果である。
100連撃まで"同じ部位"に攻撃を加えると『激痛で気を失うと共に、その激痛で目覚める』を繰り返す、凶悪を周回遅れにし過ぎた状態を引き起こす。
この効果から逃れる方法は『連撃を無効化』するだけだが、身動きも出来ない状況では実行不可能な方法といえる。
激痛からの解放は"死ぬ"事だが、効果の【激痛超特化武器】が敵対者に圧倒的に不利な状況を産み出すのでHPが高いほど"解放"まで遠くなる。
──敵対者は"死を望む"事だろう。
ちなみに、装着者の意思でトドメを刺す【死という名の解放】というアーツがあるが、この武器を使用をしている時点で"使う可能性は果てしなく低い"と思う。
【罪と咎】 【狂喜と狂気の乱舞】【激痛超特化武器】【死という名の解放】【攻撃毎にMP回復(1固定)】
備考:シア専用
────そうですよね、ボクも"チート武器"だと思います。
え? 『武器とは違う!!』と言われても、チート以外の何物でもないと思うのですが……??
まあ、武器の事は置いて、シアがアーツを"使うか"ですが……あの様子では"ない"と言えますね……
あの眼は"理不尽"なレベルで怒っていますから……
『ギャブゥホォォォォォォォォ!!??』
──あっ! 連撃が100に到達したようです!
シアが上体を限界まで捻って、力を溜めています。
解放された力は限界まで溜めた"捻力"を、剣先の一点に集中させて"あるアーツ"の威力を高める動作です。
剣術系アーツ壱式奥義【呀突・螺旋撃】
武器"突剣"に位置する『レイピア・刀』専用の奥義に当たるアーツで、突進で威力を高めた"突き"に捻りが加わる事でダメージが飛躍的に上がります。
ブレードは"日本刀"そのものですが"斬撃・刺突"に向いた武器なので、この奥義を使う事ができます。
ロングソードでも使えますが、奥義には【適正武器】という内部ステータスがあるらしく、威力に『マイナス補正』がかかるそうです。
ちなみに【奥義】は"すべての武器"にあるので、ボクとキキ以外は使えます。
キキはアーツを覚えられず、ボクは"武器スキル"を持っていないのが使えない原因ですね……
『ギョブァァァァァァァァァァァァァァ!!』
ああ……部位欠損が発生したようです。
ゴブリンロードは"オス"から"オメハ"になりました。
一応、オメハは『オスでなく、メスでもない半端者』の意味を持つ、ボクたちだけが使う造語です。
ユウキたちなら理解しそうですが。
憐れ……シンボルを喪った彼は、その事実と共に亡くなりました。
その光景に背中とある部分がゾクッとします。
加えて、前に倒れ込んだゴブリンロードのお尻の"ある場所"に矢が突き刺さっています!!(複数本)
いけません! あれはダメなヤツです!!
ぶるりと震える身体を股下から出した尻尾と一緒に抱きしめ、その恐怖に耐えます。
ゴブリンロードの不幸は、鎧を着ていたのが"上半身"だけだった事でしょう。
下はボロ布と、ちょっと厚めの革の前掛けだけでしたから……
後が無防備過ぎますよ!
シアとミイの仕打ち(この場合は"討伐方法"でしょうか?)に逃げ出したい衝動に駆られたボクですが、突如響き渡った雄叫びに正気に戻りました。
『アオォォォォォォォォォォォォォォォォン!!』
『キュルアァァァァァァァァァァァァァァァ!!』
リュオとハクガが天に向かって上げる、勝利の雄叫びでした。
地面に転がっているのはオーガロードで、所々に引っ掻き傷と抉られた跡があります。
引っ掻き傷はハクガの爪痕で、抉られた跡はリュオの"石の棘"でしょう。
ただ、よく観察すると"凍傷"の跡や、火傷っぽい跡が目に付きます。
凍傷がハクガの属性攻撃なら、火傷はリュオの攻撃の跡なのでしょうか??
取り敢えず、格上の敵に勝利したハクガとリュオを呼び戻して褒めなくては!
ハクガとリュオを褒めていると、先ほどの恐怖が薄れていく気がします。
そんなボクの耳に声が届きました。
『ここまで凶悪な攻撃をする者がいるとは……』
声が聞こえた方向を見上げると、崖の上に立つ人影がありました。
黒いコウモリのような翼と、細長く先が矢のように尖った尻尾。
その中でも異彩を放つのが頭に生えてい2本の角と、深紅に輝く瞳です。
それを見た瞬間感じたのは『ロードたちを合わせても"足元"にも及ばない強さを秘めている』という事でした。
今まで探索したエリアで最高レベルといえるジャングルの"ボス"と最低でも同レベルと判断できるロードたち……
その3匹を合わせても"まだ足りない強さ"を感じさせる存在に、ユウキから聞いた言葉が浮かび上がりました。
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「未確定情報だがグランドクエストに絡む強敵の中に、最強種と呼ばれる強さの【悪魔族】がいるらしい」
「"悪魔族"ですか? 魔族じゃなくて??」
「まったく違うって話だ。
魔族は『魔法に秀でた種族の総称』で、悪魔族とは根本的に違うらしい……」
「──では、見た人は"いない"と?」
「ああ。β版でも遺跡に『悪魔』と思わしき"絵"があっただけなんだ」
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その時の話を思い出していたボクを見つめ、悪魔族と思わしき存在は言いました。
『魔王らしき魔力を感じたが、まだ"種"の段階か……』
その言葉がボクに向けたモノだと、ハッキリと理解させられました。
『種が芽吹き、貴様が"真の魔王"になる日が待ち遠しいぞ』
身動きする事もできないボクを見て笑う存在。
それは、意味の分からない言葉を残して、存在感ごと消え去りました。
存在感が消えると共にドッと襲ってきた疲れに立つ事できず、地面に膝を着けました。
「(────見逃された……そうとしか思えません)」
汗で身体中がベタベタになっているボクに、アナウンスが入りました。
[シークレットイベント【悪魔族との遭遇】を達成しました。
悪魔族に認められ、固有称号【魔王種と呼ばれし者】を入手しました。
この称号は一定の条件をクリアすると、上位の称号に変化します。
この称号を入手した時点で、この世界の住人はあなたを【魔王候補】として認識します]
色々と分からない言葉だらけですが、ボクは名実共に(プレイヤー、NPCを含め)なってしまったようです……【魔王】に。
お母様──ボクはどこに向かうのでしょうか?
マオの歩みだす【魔王道】!
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