第九十話 ホネ喰いの前に、晒す屍(ホネ)はない ~レイン編・中編~
お久しぶりです。四宮です。
約10ヶ月ぶりの更新でしょうか?
ある意味、イベント盛り押しの去年。
今年は良い年でありますように。
3月16日 骨材をホネに変更しました。
レインが超硬度、超重量化した動かない何かを携えながら歩いているとき、彼を遠目で見ている存在がいた。
それは、アンデットの主"不死の王"である。
彼は配下の僅かな脅え、怯みを敏感に感じ取っていた。ホネである彼らに人格や感情はなく、ただ1つの『憎い生者を殺す』という本能しかない──ハズであった。
そんな配下が本能的に感じ取った危機感に、彼は向かってくる集団の中に"脅威的な存在"が混じっていることを感じ取っていた。ある意味では『流石である!』というべきか?
「──我が軍勢に"畏怖"を感じさせるとは、相当な使い手がおるということか?」
古に失われた禁術により、生きたままアンデットの王となった元魔導師はそう判断したが、真実は非情で残酷で残念なモノであった。
彼の知識の中には『ホネ喰いレイン』に関する情報がまったく入っていないからだ。それを「当然だ!」とは言わないで欲しい。
故に、彼が知る事の出来る情報は『目の前で起きている光景を見て収集した情報のみ』となる。
不死の王たる彼の視線の先には、1人の大柄な老人が自軍のど真ん中を悠々と歩く姿を捉えていた。モー◯の如くスケルトンたちが引き下がり、道が生まれる光景は清々しい印象を受ける。
その光景を眼球のない目で見ていると言うのも変だが、古に忘れてしまった"寒気"の様なモノを感じた気がしたのは仕方がない事だろう。
彼の戸惑いは幸にも、周囲の配下には気付かれなかった。
隣で控えている相棒のボーンドラゴンも似たような雰囲気を纏っている事に少し不安に思うのは、生物としての"危機感"からきているモノだが、今の彼らには理解できない。
目の前を悠然と歩く男の2つ名を知っている人はその感覚に共感するだろう──異名【ホネ喰い】
レインの前では"不死の王"と呼ばれている存在であろうが、まな板の上の鯉、皿の上の料理と何ら変わらない。
ただ、食べられる存在であった。
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「おるぞ……」
ワシの"ちょぃっかん"(直感)が、──そう告げておる。
周囲におるスケルトンより遥かに強大な存在に近付いていると……
周りにおるプレイヤーはそこそこ強いだろうが、ワシの本能が警告してくるヤツには勝てんじゃろう。(レインはそう判断したが、彼らは準・攻略組である)
勝てないであろう理由は、技術や経験といった積み重ねたモノではなく、本能的な部分が非常に強いからじゃ。
嘆かわしい話じゃが、今時の若いもんは『生死を分かつ戦場』というモノを、正確に理解しておらん。ワシも"戦争"というモノは経験しておらんが、世界各地で未だに燻る"紛争"に関わったことくらいはある。
「──お、お爺ちゃん……彼処にいるのって──」
「(ほぅ……)」
そんなワシが"強さの確固たる差"を感じられるのは当然じゃろうが、経験のないハズのキルステが"群れの主"との力の差を感じ取れた事に驚かされたのぅ。
ワシが『普通のプレイヤー』とやらだったら、この奥に潜む敵に正面から勝つのは難しいじゃろう。いや、不可能と言ってもいいのかもしれん。
このゲームが始まってからの時間で限界まで強くなっても、届かぬ可能性の方が高いじゃろう。
──それくらいの強敵じゃ。
最悪の場合、管理しておる者たちからすれば『クリアできなくて当然』という考えを持っていても不思議ではないのぅ。
「…………(気にくわぬ……のぅ)」
少々の愚痴が混じるのは許せ。歳をとると湿っぽくなっていかんな……
キルステの見せた成長に喜びを抑えきれない反面、視線を向けた先で『どう表現したらいいのか分からない食欲』も覚えていた。
それを見たワシに、あやつらに対する感情はなくなった。食欲が最優先じゃ!!
今のワシを支配するのは、魔坊から貰った『アッサリとしつつも、濃厚で芳醇な味』を食べたときに初めて感じた"満足感"を……
目の前の存在から放たれる波動が『あのとき以上に満たしてやる』とワシに訴えかけ、その男前っぷりに胃袋がジワジワと沸き上がり、タマスィーが震え上がってくるのぅ。
ドゴシャ! ガキィィ──ン!!
ワシは握っておったコ坊を放り投げ、愛鎚たる【燃えよ! ワシのたますぃ~】を地面にブッ刺した。
今までの間食とは違う、主食に進む前の前菜。
──当然、心構えに差が出てしまう!
ん? 『いもーたるはどうなんだ?』と?
目の前に映るあの巨体を見ればアレがドラゴンとしか言えんし、その横の細っこいヤツも強いのだろうが、『旨そうか?』と聞かれると首を傾げそうじゃ。
目の前のゴチソウに心を囚われているワシを、現実に引き戻したのはキルステじゃった。
「────ま、まさか……お爺ちゃん、あれに突っ込む気じゃないよね??」
「何を言っとるのじゃ?」
いくらワシでも、喰いでのなさそうな『細っこい』のを喰うための突撃はせん!
「そ、そうよね。いくらなんでも──」
ただ、じゅーしぃな匂いを漂わせているボーンドラゴンに対しては別じゃ!!
抑えられぬ空腹と共に叫ぶ。
「あのデカブツは! ワシが喰らうんじゃぃ!!」
雄叫びと共にメインデイッシュに向けて駆け出す準備を行う。
ガゴォン……っと四股を踏むと地面が捲れ、土が巻き上げられる。
眼前のドラゴンを睨み付けると、バックンバックンと速度を上げて激しく波打つ、心臓の熱き叫び。
──燃えるのぅ。
それよりも──
ぎゅぎゅるる~ぎゅぎゅぅぅぅ~~
不意に腹の虫が騒ぎ出したが、仕方がないじゃろう。
どうも、ホネども相手に自制が効かぬようじゃ。
喰らえ!! と囃し立ておるわい。
──もっとも自制などする気もないが……
腕を何度か回し、準備運動を行う。拳を軽く打ち出したり、全力で打ち込んだりする。
軽い運動は美味しく食べるための秘訣じゃ! 適度の空腹は食欲を刺激するからのぅ。
地面にブッ刺していた【燃えよ! ワシのたますぃ~】を引っこ抜いてアイテムバッグにしまう。
そして、魔坊から戦前に貰った鎚を取り出したのじゃが、鎚部分が『赤色』で柄が『黄色』という、少々奇抜な色合いじゃ。
────たしか『ぴこぴこはんまー』と言っておったかのぅ?
魔坊の話ではコミカルな音と威力のギャッぷ? とやらが、最大の特長らしい。大きさにしても五十センチくらいか。
その割に重さは大金槌と何ら変わらんという『謎仕様』じゃ。
「────うむ。取り回しに不都合はないのぅ」
ブンブンと振り回して感触を確かめていると『ピコん!』とコ坊の足に当たってしまった。
「にょ□ふら×ぁ!?◯&@!!」
「コ……コカァァァァァ!?」
騒ぐキルステを無視して、気になった違和感について考える。
「────おかしいのぅ」
コ坊に当たった感触はズッシリとした重さで、与えたであろう一撃の大きさを感じさせたのじゃが……コ坊めはピンピンと埋まっておる。(正確にはHPが徐々に微減しているが……)
もしや──秘密が隠されておるのではあるまいか?
確認すると、頬が弛んだ気がした。
「────ほぉう……」
見て納得の性能じゃ。この場に置いては、最強と言えるやも知れん。
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【ピコピコハンマー・マオ式】
見た目はオモチャのハンマーその物だが、重さは十数キロと規格外な物体Xから作られている。
特性・生物に対して相応の威力を出すが、ダメージは『1』で固定。アンデット族に対しては絶大──いや、過剰過ぎる一撃を与える事が出来る。
所有者の能力に応じて一撃で葬る事も可能。
特記:レイン専用装備 食欲の昂りを威力に変化
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その文面を見たワシは『流石、魔坊じゃ! よくわかっとる!!』と内心で感心した。
ただ、効果に対する感想は『良くも悪くも魔坊』と言うものだったのは、通常営業じゃろう。
「────さぁ~て『ぐきゅるるるぅ~、ぎゅぎゅ』 おふぅ!?」
「お、お爺ちゃん!?」
「な──何が、起こったのじゃ??」
腹の虫がなったと思えば立つことも出来ぬ疲労感を味わい、ワシは崩れ落ち地に膝を着いた。
これは、過去の紛争地帯で味わった感覚に近い。
もしや! と思い『すてーたす』を開いたワシに、追い討ちをかける文字が写った!!
[満腹度 五十%(急下降中)]
ワシが「ぬわにぃ~!!」っと叫ぼうとした瞬間、場違いな音が『ヒィ~~ハァァァ!!』っと鳴った。
それは、魔坊専用の着信音じゃ。
「魔王様からのチャット?」
『あ、あ~、こちらマオです。レインさんの事ですから、ボクの贈った武器をそろそろ使用しているのではないでしょうか?』
「その通りなんじゃが、腹が減って敵わんぞ……」
「────(場違いなくらいのんびりした雰囲気と、物騒な音は何なの?)」
隣でキルステが何か言っておるが、電話で話す内容は現状で味わっておる『空腹感』についてじゃ。
向こう側から聞こえてくる音は『ヒュィィ~ン チュドォォォォォン!!』とか、『パラリラ、パラリラ』という場違い感満載な音が聞こえてくる。
──気にはなるが、聞いたら負けと思ってしまう。
『単刀直入に説明しますと、その極度の空腹はピコハンの秘匿情報の【空腹超加速】というモノで、通常の数倍、下手をすれば十倍近い速度で減ります』
「この間で『五ぱーせんとぅ』減ったぞィ」
『だいたい、二十倍──くらいですかねぇ? 予想以上です♪
その対価──というか、空腹感を煽る"ある効果"があるのです。【嗜好の超美味化】という謎スキルですが……』
「────(ニュアンス的には理解できるけど、ろくでもない効果じゃないのかしら?)」
隣ではキルステがボソっと呟いておる。
『効果は『好きなものが"とても美味しくなる"』という、戦闘面では対して役立たないモノです。
まあ、ホネの旨味が増す──とボクは予想していますが、申し訳ないのですが御自身で確認していただけますか?』
「────ふむ。『突撃しろ!!』ということじゃな??」
「(それは、違うと思うわ)」
『あと、特殊なのでしょうか? アーツが一つ付いてまして、【ホネ、おいてけぇ!!】と言います。
効果は『ドロップするホネの品質上昇』で、レインさん以外の人には不要な効果かもしれませんね』
「(間違いなく、お爺ちゃん以外に必要とする人がいないと思うわ)」
「わかった、わぃ……」
危機的になった空腹と効果を聞いたが故の、止まらない胃袋の悲鳴。もう、我慢などできん!!
『ただ、──「突貫じゃぃ!!」』
「お、お爺ちゃん!?」
駆け出したワシの耳には魔坊の言葉も、キルステの言葉も届いてはおらなんだ。
目の前に近付くホネどもに、ワシはぴこぴこはんまーをきつく握り絞め、振りかぶった。
「貴様らぁぁぁぁ!! ワシの為に【ホネ、おいてけぇ!!】!!」
「────お爺□×◯×□!!」
ゴパァァァァン!!
花火の如く弾けるホネども。
弾けとぶホネは光を跳ね返し、キラリっと光った様に感じた。
ワシがいうのは変かもしれんが、光輝いたホネに『宝石のようじゃ!!』という感想を抱いた。
それよりも、味が気になったのは秘密がじゃが。
パリィ──
手に入れたホネの一本を口に運び、喰ってみた。
「────!!」
この味を表す言葉がワシにはなかった!! 無念じゃ!
「────もっと」
ワシの中の何かが、弾けとんだ気がした。
「────もっと、ホネをおいてけぇ~~ぃ!!」
後にキルステから聞いた話じゃが、そのときのワシは暴走しとったらしい。『魔人が出た!!』とか『鬼人から逃げろぉ!!』とか周囲の人が叫んでいたそうな。
あと、ワシの二つ名も変わってしまったらしい。
──げせぬ。
只今、花粉症で鼻や喉がヤバい状況です。
花粉症をお持ちの方、体調管理にお気をつけ下さい。
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