第八十九話 骨喰いの前に、晒す屍(ホネ)はない ~レイン視点・前編~
お久しぶりです。四宮です。
イベント開始のトップを飾るのはマオではなく、ホネ喰いたるレインです。前後編での公開予定です。
誤字脱字がありましたら、連絡をお願い致します。
5月5日 誤字の修正・名称の変更をしました。
ワシが【う"いあーるげえむ】というものを始めて、初めての大型イベンツゥーが始まったのじゃ。
実のところ、このイベンツゥーに対して大した期待を持っていたわけではない。
運よくレアな素材を手に入れたなら、魔坊と一緒に魔改造するだけ──そういう気持ちじゃった。
──そう。あの"あなうんす"を聞くまではのぅ……
『出現モンスターの大まかな情報は────。最後は"西側"ですが、こちらはアンデット系のモンスターを多数配置しております』
──まて。アンデットゥとは、"ホネ"も含まれなかったかのぅ?
『動く死体、醜鬼──』
──腐肉付など、美味しくもない! まあ、ホネを出すようなら狩ってもいいがのぅ
『魔法全般が得意な不死の王が率いる──』
──なんじゃ? 『イモたる』?? よくわからんが、旨そうな名前じゃのぅ。蒸かし芋が食いたくなった。
説明を聞きながら飯のことを考えていたワシの鍛え抜かれたバデイを、雷光の如く貫いた言葉を衰えを知らぬ耳が捉えた。こらそこぉ! コ坊の言葉を『聞こえていない』だと?
聞いていないだけじゃ! 間違えんでくれぃ!!
ワシのバデイを貫いた言葉は……
『スケルトンの軍勢との戦いになります。さらに、最強の配下である【ボーンドラゴン】が登場します。
スキル〈魔法無効化・上〉を所持しているので、上級魔法を越える〈最上位魔法〉でしかダメージを与えられませんが、このモンスターは一定の範囲内からは────』
──それ以外の言葉はいらん! 何も考えず、突貫のみ!!
「──うむ。ワシは西に向かうとしようかのぅ」
「それを選ばないようなら"お爺ちゃん"とは言えないよね」
「────それを言ったらお仕舞いではないですか?」
魔坊とキルステが何かを言っているが、ワシはバデイの奥から溢れ出る"何か"を抑えることなどできん!!
「ぱーりぃーじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
腹の底に溜まっていた熱を、雄叫びと共に解き放つ!!
魔坊より貰った"竜のホネ"。旨かった。
あの時は10本や20本だったが、今回は違う!!
全取り……ばくどりー? だったか? まあ、いい。
頭から尻尾まで、美味しくいただこう!! 決定じゃ!!
「(たぎる……たぎるぞぃ! 何時以来じゃぁ? これほど、気力が充実したのは!!)」
レインが内面で興奮していたとき、周囲には多様な変化が起きていた。本人が生み出す被害も大きいが、予期せぬところで生み出す余波の方が酷かった。
地面にはクモの巣状のヒビが入り、小石が浮かび上がっていたのだ! どこぞの戦闘民族を彷彿させるが、気のせいだと言いたい!
ちなみに、この現象はゲーム内で発生するモノである。竜の咆哮とか……超魔獣と呼ばれる大型種を越えるモンスターがよく起こす。普通じゃないが、規格内の仕様ではある。
リアルワールドはレインを【ありえない生き物】と認めた瞬間だったのかもしれない。
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ぐごごご……
突然響いた低音に、周囲にいるヤツらが警戒して辺りを見回しておるが、音源の特定が出来ないようじゃ。当然というべきか……
──ワシの"腹の音"だからのぅ!!
空腹を満たす料理を遠巻きに眺めていると、ワシの後ろでコ坊とキルステが合い挽きをしておった。言い間違いえた『逢い引き』じゃのぅ。
「──すんごく、イヤな予感しかしないんッスけど……」
「ドンマイ。『その通り』としか、私には言えないわ」
肩を落とすコ坊と、それを慰める? キルステの姿に、在りし日のワシと妻の姿を写し見たが、コ坊のようにヨナヨナと萎れておらんかったと記憶しておるがのぅ。
それにしてもキルステの姿は、若き日の妻の姿を思い出させるのぅ。凛々しさ、逞しさの中に秘められた美しさ。それに集るハエどもを蹴散らした青臭かった若き日々。
その日々を思い出すだけで、何倍もの力がバデイを満たすのじゃ!!
──レインたちは気付いていないが、周囲10メートルからプレイヤーが退いていた。レインの凶悪に歪んだ笑顔が原因であることは間違いない。
普段の表情も十分凶悪なのだが、今の表情は【マフィアを束ねる大ボス】と表現しても生温いレベルであり、どう表現すればよいのだろうか? バケモノでは足りないし……
『──お待たせいたしました。只今より、【大侵攻】を開始いたします!』
「うぉぉぉおおおおおぅぅ!!」
雄叫びと共に、後ろにいた『コ坊』の頭を掴んだ。
「滾れぃ!! ワシのタマスィよ!!」
「コカ!!」
キルステの悲鳴が聞こえた気がするが、今は先手を打つのが先じゃ!! 先手必勝、ホネはワシのモノ!!
「──ワシの超必殺技【唸れ、我が拳よ】!!」
ばひゅん! ──という場違い過ぎる音ともに、コ坊が真っ直ぐに飛んで行く。その姿はヤクザ映画に出てくる『鉄砲玉』のように感じるのぅ。(ある意味で似ていますが、まったく違います byマオ)
「────おぉぉぉぉたぁぁぁすぅぅけぇ!?」
レインは気付いていないが投げられる寸前、コカは十字をキッていた。祈る神は、何処の神なのだろうか? 死神ではないと思うが……
「────着だ~ん、今じゃ!!」
タイミングを合わせたワシの声と共に、遠方では土煙がモクモクと上がった。土煙の規模からして、コ坊が上手いこと暴れてくれたようじゃのぅ♪
「──お、おじいちゃん?」
「ほうれぃ! ボサっとせんと、突っ込まっんかい!!」
「「「ひぃぃぃぃぃ!!!!」」」
ウドの大木と化したヤツらのケツを叩き、ワシもキルステを引き連れて突貫する。
ヤツらはワシから離れるように駆け出し、大きな『V』の形になった。
「──ほう。【鶴翼の陣】か……悪くない判断じゃのぅ」
「そんなワケないでしょ!!」
「キルステよ! ワシらが"要"だぞ!!」
「だから、違うって言っているわよねぇ!!」
「ダァハハハハハハ!! パーリイーじゃ!!」
キルステが何かを言っておるようじゃが、ワシはタマスィーの叫ぶがままに鎚を振るい、ホネどもを蹴散らした。ある時は拳で砕き、ある時は"噛み付いて"周囲のホネを駆逐した。
ワシが喰ったホネの食レポ? とやらを上げようかのぅ。
「う~む。お主、"かるしうむ"が足らんのではないか?
歯応えが軽すぎるぞ??」
「おおぅ! 中々の歯応えじゃが、──コクが足りん」
「ちい~っと、薄味過ぎるのぅ。あとカスカスじゃ」
「ダァハハハハハハ!! 歯応え・コク共にし及第点じゃ! 精進せぃ!!」
「デカいだけではいかん! コクが無さすぎる!!」
「舌触りに関してのみ、花丸をやろう!」
ワシは目の前にいるホネどもを手当たり次第に捕らえ、喰らいながら進むが満足はできない。沸々と魔坊が言っていた『これじゃない感』というものが溜まってゆく。
そんな状態じゃが、ここは戦場。駆け抜ける脚は止めることはない。
そんな中、前方に『変な形のオブジェクトゥ』があるのに気付いた。何というか逆さまになった『大』の字と言ったところか。
「──コカ!!」
コ坊とな??
あやつ……いつの間に『地面から生える男』になったのじゃ?
巷で噂の"ランクゥアップゥ"というヤツか!?
地面から生えるコ坊に駆け寄るキルステじゃが、それを狙う不届きなホネに気付いた。その様な蛮行──
「させぬぞぃ!!」
ガシィっと地面から生える物体の脚を掴む。掴んだ瞬間、それがコ坊であることを理解する。遠慮は無用というこじゃな!!
「キルステ~ぃ! 伏せろ!!」
ワシの声に反応したキルステは地面の上で蹲った。
魔坊と共に編み出した【魔業】という名の"アーツ"を放つ! ただ、アーツと違い『力業』になるがのぅ。
この【魔技】というのは『悪魔のような業ですので、基本的に使わないようにお願いします』と魔坊が言っておったが、愛孫の安全の方が大事じゃ!!
「ダァハハ! 【ワシとタマスィーの大車輪】!!」
その瞬間、ワシは1つの風──『竜巻』となった。右手に鎚を、左手にはコ坊を携え、戦場を荒々しく駆け巡る絶対たる暴威。ワシの通った後には1つのホネも残っておらん。
──それも当然と言えばそうなのだがのぅ。
魔坊曰く【ホネっこホイホイ】という、限定の壺の効果らしい。大きさは栄養ドゥリンクの箱より小さいのだが、収納できる容量がどれくらいあるかは魔坊本人もわからんらしい。
名前も気に入っておるが、ベルトにかけて持ち運べる、鮮度ぅが"入れた瞬間から落ちない"という点が、お気に入りの秘訣で"伝どぅ入り"を果たしておる。
「コ~カ~!! 気を抜いたら死ぬわよ~!!」
キルステが何かを言っておるようじゃが、ワシの進む道を邪魔するホネが鬱陶しい!! せめて、こやつらが美味ならいいんじゃが……
こう、群がって来られては魔坊から【禁断の奥義】と教わった【骨壷の舞】を使って、この場を切り抜けるしかないのかのぅ。
大きさは『ご◯んで◯よ』の瓶くらいなのじゃが、残念なことにホネっことは違い『鮮度ぅ保護』がないんじゃ。非常に残念じゃが、重要なことじゃから2回いうぞ? 魔坊が『強度をとったら、鮮度が犠牲になりました。鮮度をとると、砲弾を貫通するレベルの水風船になってしまい、それではボクは満足できません』と言っておった。
魔坊の言葉に納得させられたのぅ。自作の包丁をワシが振るえば、砲弾くらいは真っ二つじゃ!!
嘆かわしいことじゃが、ワシの息子もそれくらいの包丁を作るくらいはして欲しいのぅ。ボゥリングの玉を真っ二つにする程度で満足しては、職人としては"未熟"というものじゃ。
魔坊もワシもボゥリングの玉くらいは、素手で砕けるからのぅ。
「──も……だめ……ッス」
「はぁ────」
孫娘と結婚したいなら、コ坊ももう少し強くならんとな……
今のままじゃあ、息子レベルにも届かんかもしれん。半端もんにくれてやるほど、孫娘は安くないからのぅ。精進せい。
現状から打てる手段が少ないのが残念じゃ。
「仕方ない。──気分的に頼りたくないが、この群れの向こうからくる"美味しそうな匂い"のヤツを喰らうためじゃ。うむうむ。
──魔坊よ。禁断のスイッチを押させてもらうぞ?」
「おじいちゃん、コカはもう限界よ!?」
「安心せい。魔坊の作った【何処とはいえない、カッチンコウスイッチ】を押せば、コ坊は無敵となるのじゃ」
「イヤな予感しかしないんだけど!!」
「──ポチッとな」
「──ちっ、ちょっと!?」
キルステの言葉を遮り、ワシはコ坊の腰に巻き付けてあるベルト──魔坊は『変身ベルトっぽいモノです!』と言っておったな。バンクル? まあよい。四角い金具に付いておるスイッチィを押すと、真ん中の渦巻き模様がクルクルと回転し出した。
ジッと見ておると、目を回しそうじゃ。そんなワシを驚きが襲った。
「──ぬぉぅ!?」
押すと同時にワシの手に、120キロくらいの愛用バーベルゥを持ったときと同じ重さが加わった。一瞬で重さが変わったので取り落としそうになったが、そこは根性の出番かのぅ。
手に伝わる感触から、コ坊は『息子が鍛えたレベルの鉄塊』くらいの強度になっておるようじゃ。少々不安があるが、先程までのコ坊と比べれば安心できるのぅ。
そういえば魔坊が『強度は"超大型ダンプが高速で"ぶつかるレベルです』と言っておったな。まあ、そのレベルが妥当だのぅ。
「──さ~て、パーリイーの時間じゃ!!」
「コ──カ──!!」
群れの最奥から漂う"美味しそうな匂い"を目指し、ワシは歩み出した。その時の動画? を見た魔坊が『世紀末覇王っぽいですね』と言ったが、何のことなのじゃ??




