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第八十八話 イベント開始で歓ぶのは、魔王より骨喰い

 お久しぶりの更新です。

 今回からイベントが始まります。

 コカ君が悶え苦しんでいる姿を横目に、広場(ここ)にいたプレイヤー(みなさん)の意識はアナウンスに向かいました。

 レインさんは当然のことながら、キルステさんもアナウンスに集中し、コカ君のことが頭から抜け落ちていました。

 コカ君が部分的に空気化(リアル・ハイド)を獲得した瞬間でした。ですが、必要性を考えると皆無なスキルでしょう。間違いなく、誰も(ユウキたちは)必要としないでしょう。そんなコカ君のニュースキルについて考えていると、アナウンスを聞き終えたレインさんが口を開きました。


「──うむ。ワシは西に向かうとしようかのぅ」

「それを選ばないようなら"お爺ちゃん"とは言えないよね」

「────それを言ったらお仕舞いではないですか?」


 アナウンスでは、どの方角に"どんな敵が出るか"を説明しており、レインさんが向かう方向を決めた"理由"は単純です。

 その先に"ホネがあるから"といえば、『レインという名の鍛冶師』を知っている方は納得するかと思います。


「(天高くに轟く雄叫びが上がったら、その声の主はレインさんで間違いないでしょうね……)」

「ねぇ~、スッゴい大声でみんなが迷惑しているんだけどぉ~」

「──五月蝿いですね。物理的に閉ざしましょうか?」

「……お爺ちゃん。すっごく恥ずかしいんだけど」


 クイ……クイっと袖を引かれる感覚に気付いたボクは振り向きました。袖を引っ張っていたのはミイで、半泣き状態の顔になっていました。

 小さな手で耳を押さえているのですが、尖った部分は外に飛び出しています。「もしや──?」と思い"あるモノ"の効果を切った瞬間、今までは聞こえなかった"大音量"が耳を射ち貫きました。


「ぱーりぃーじゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 テンションがおかしい状態になったレインさんの叫びは、大気を震わせるだけでは済まず、ピシィ! っと大地が悲鳴を上げていました。小さな小石が宙に浮かび上がる様は、某アニメの「オ◯怒ったぞぉぉぉぉ!!」のシーンを思い出させます。

 見えないハズの"オーラ(何か)"が、レインさんの周囲を囲む……いえ、包んでいる気がするのは気のせいと思いましょう!


 そうそう、あの時はユウキに『D◯全話耐久マラソン』というものを体験させられた日──天国に旅立ったはずの大爺様の姿を再び拝見するという奇跡に出会いましたが、大爺様は声無き声(口パク)でボクに『こっちに来ては、ならんぞ!!』と語りかけてくれました。


 ──たぶん、その一言がボクを現世に引き止めたのは言うまでもないでしょう。


 まあ、現状と「関わりがあるのか?」と聞かれると、全くない話ですが……としか言えません。

 実際に、無関係な話だからです。ボクにとっては。



「これを着けるといいですよ」

「?」


 首を傾げるミイの耳に"あるモノ"を差し込みます。キュポンっという気持ち良い音が聞こえそうな感じで、ミイの耳に収まったのは"耳栓"です。ハルにも差し出します。何も聞かずに着けてくれる辺り、信用というか信頼はかなり高いようです。

 いつも通り、性能に関しては申し分ないのですが、こと今回に関しては"名前"にツッコミを入れたいところです。



通しま栓アンリミテッド・ミミセン魔王(マオ)(カスタム)

 見た目は何処にでもある"耳栓"である。しかし、この耳栓(物体)に封じ込められた技術は、正直なところ『正気を疑う』レベルである。

 VRらしく、簡単に使用者の耳にフィットしたり、着けっぱなしでも一定レベル以下の音は素通りするので、着脱の手間は不要であったりと色々とご都合な部分があったりする。

 憶測の域はでないが、効果から考えるに"ドラゴンの咆哮"を無効化できると思われる。

 装備品外装備というのか、道具というのか悩むべきモノであるが、最初に所有者が決定すること以外での使用制限はない。

 余談ではあるが、殺菌・防菌・抗菌作用があり、不清潔になることはない。



 うん。色々とツッコミが聞こえた気がします。普通のモノならそこら辺で簡単に手に入れることができますから……

 ありふれた、当たり前のモノが……ですが──

 何故、ありふれたモノが、本来なら"あり得ない効果"を持っているのか不思議ですね!

 ユウキに聞いてみたところで「お前以外では、不可能だ!!」と、逆ギレ風味でキレられるでしょう。


 ────いつもの事ですが、納得いきませんね。


「ねぇ、マオ。これって『どうなっている』の?」


 ミイの質問に、答えることができません。


「…………"魔王印品(マオ・ブランド)"」


 目を反らしたボクの意思とは反対に、口からはそんな言葉が漏れ出しました。これは、"覆水、盆に帰らず"と判断するべきでしょうか?

 オリジナルというには、製作したアイテムのほとんどに【魔王印】が付いているので、1品ものとは言いにくいでしょう。そうなると必然的に系統商品的な扱いが近いでしょう。


 ポンポン


 考えごとに集中していたボクは、肩を叩かれるまで気付けずスルーしていました。肩を叩いていた主は、とてつもない表情でボクを見下ろしていました。


「魔王さま。私も、それを貰えないかい? 」

「……………………………」


 その威圧感の凄さは、周囲で気絶しているプレイヤーの身体が条件反射……いえ、"生存本能"に直接訴えかけているようで、彼らの身体はビクンビクンっと跳び跳ねるように動いています。

 たぶん、プレイヤー(彼ら)の倒れる音は、レインさんの雄叫びに消されていたのでしょう。それよりも問題は、目の前の女性です。


「…………キルステさん?」


 今までに見たこともない彼女の顔に、ボクは思わず引いてしまいました。荒野で戦った【暴君帝竜(ティルグルス)】でも、気後れしたことがないのですが……

 現状を説明するのは恥ずかしいですが、肩を掴まれて動けないので、腰だけが引いた状態です。これこそ"逃げ腰"と言うべきでしょうか?


 ミシィ……


 掴まれているボクの肩から、そんな音が聞こえてきた気がしました。

 キルステさんから放たれている威圧感(プレッシャー)は、初めてレインさんと会ったときと同じ──いえ、それを越えているかもしれません。

 現状のレインさんからは想像できないでしょうが、出会った当時のレインさんは"至高と云われる鍛冶師"としての威厳に満ち溢れていましたから……

 一皮剥いた……まあ、ニュアンスとしては"化けの皮が剥がれた"が近いかもしれませんが、その姿が現在の(・ ・ ・)レインさん(・ ・ ・ ・)です。

 好きなことを好きなだけ楽しむスタイルが、レインさん本来の生き方だとキルステさんは笑ながら教えてくれました。


 現実逃避している間も、ボクの肩を掴む力は強くなっており、わずかながらダメージが入ってきています。オカシイ!?

 現在の装備は、コカ君が献身的な行動で(イケニエとして)手伝ってくれたので、ハクガの"本気の肉球パンチ"でもダメージが入らない特別(規格外)仕様なのですが、本気になったキルステさんの攻撃(握力)には敵わないようです!!

 もしかすると、"握力"は『攻撃』には入らないのかもしれません!!


 肩が壊れる(ブレイク)する前に、キルステさんに"例の耳栓"を渡したボクは、その場からの離脱を試みるのでした。

 ある程度離れた場所まで離れたとき、背後から『ドゴン!!』と重たい音が体の芯まで響いてきました。

 あのレインさん(・ ・ ・ ・ ・)の雄叫び(・ ・ ・ ・)を無効化した耳栓の効力を越える打撃音が生んだ結果には、見て見ないフリです。

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