第八十七話 魔王力の暴走? はじめての"ありふれた"モノと、当然のように"ありえない"モノ
あけまして、おめでとうございます!
1日遅れの更新とご挨拶ですが、今年もよろしくお願い致します!
更新が遅い状況が続くかもしれませんが、最後までよろしくお願いします。
1月2日 誤字脱字の修正をしました。
イベントの開始まで、残り数時間というところまで来ました。
メールの内容を見た瞬間から、『イベントに向けた強化週間(現実で数日)』を行ってきました。ミイ、シア、ハル、キキの装備を一新。
当社比、100%アップの安心をお約束です!!
「──ミイ、服を着た感じに違和感はありませんか?」
「うん! 問題ないよ!」
ミイが身体を動かす度に、腰から広がっている羽根がユラユラと動きます。透明感のある薄い水色で、向こう側の景色を透かして見ることが出来ます。羽根の形は"蝶"をイメージしていますが、少しだけ細長くてシャープです。
今まで作製した服装はアニマル系が多かったので、今回のコンセプトは『妖精』です。エルフ族も"一種の妖精"と聞いたので、今回の服のイメージにピッタリ合いとても満足です。
「──しかしマオよ、これって著作権に引っ掛からないか?」
「パッと見……ってだとそう思うけど、よく見ると根本から"違う"ところがあるから、大丈夫じゃない?」
「でもよ──マ◯カに近くねぇ?」
「大丈夫よ。ベースの半分は『巫女服』で、そう感じる部分はヒラヒラの"リボン"じゃない?」
評論家のように色々と言っているのはユウキとサキで、リオの方はミイに様々なポーズでスクショを撮っています。ミイの方も満更ではない様子で弓を構えたり、羽根とリボンで隠されたナイフを抜き出したりと楽しんでいます。
喜んでいる光景を見るのは、生産職として励みになります。さらなる努力を誓いたくなります。
ユラユラと揺れている袖の膨らみが、腕の動きを邪魔している様子はないようです。ミイの服は巫女服をベースにした"純白の上衣"には銀色の糸で刺繍を施しています。
下衣は"薄いピンク色"の巫女袴ですが、木の上に登ったときに邪魔にならないように膝下までの丈しかありません。素足がケガをしないように、膝上までのハイソックスを履いています。
色を『白』と『黒』のどちらにするか悩んだのですが、また"天恵"が降りてきたというのでしょうか、最終的にはボーダーになりました。……何故でしょうか?
ユウキに聞いても「それに関しては、何も言えん!!」と断言されてしまいました。
妖精をイメージすると、大半の方は『薄い緑or深緑系のワンピース姿』の服装が多くなると思うのですが、トータルで考えると『低い性能』になってしまういます。
イベントの告知メールが届いた当日の深夜、みんな(廃人以外)が寝静まった頃に大型のアップデートがありました。そのときに新システム【半壊】が加わりました。他にもありますが、それは次の機会ですかね?
その【半壊】がワンピースを諦めた大きな理由で、スカートの裾が破れたら"防具としての性能が大きく下がる"ことです。
例えば"50"と"50"で"100"の上下装備をしていて破れ(防具の場合は"壊れ"ですが)てしまった場合、片方が"25"に半減してトータルが"75"となりますが、上下一体型だと"100"が”50”まで下がることになります。
この状態は防具の修復が不可能になる手前と言われています。
まあ、キチンと整備をしている限りは起こらないですけど……
以前は耐久値が『0』になったときに"ロスト"して、装備の上昇分が"なくなる"形でした。その事実が装備品のメンテナンスをギリギリまで抑えるプレイヤーを増やすことに繋がっていました。
そうなると生産職の活動のメインが『生産活動』であること、新規で始めたプレイヤーをメイン顧客として取り合う状態が発生しプレイヤー間で争いが発生しました。
チームメンバーの装備は最初からボクの管轄だったので問題ありませんが、生産職──特に"同種職業"の方々の空気はかなりギクシャクするところまで来ていました。
──ああ、鍛冶士連盟に関しては、まったく関係ないレベルの集団なので気にしたら負けです。大所帯ですし……
レインさんの濃すぎる個性や、悲惨な目に遭うコカ君、そのコカ君に淡い思いを寄せる姉御肌なキルステさん。そして、常にブーメランなマッチョたち……
何度思い返しても、テレインは濃い場所ですね。今にもコカ君の悲鳴が聞こえてきそうです。
「ガァッハハハハハハ!!!!」
回想に浸っていると、聞き覚えのある笑い声が……
「素材集めの、パァ~リ~じゃぁぁぁぁぁぁ!!!!」
──うん。"テレイン"のギルマス・レインさんの登場です。装備は……タンクトップと作業袴……のみ? 何を考えているのでしょう??
まあ、その作業袴自体、ボクとキルステさんの共同作なので性能は折り紙付きですが……
「──久しぶりじゃのぅ!」
「レインさんもお元気そうで……」
「そういうお主こそ、色々とやらかした様じゃな?」
「そうですかね?」
首を傾げながらそう返すのですが、如何せん心当たりが……
「心当たりが"多すぎる"って言いたいのかい?」
「キルステさん!?」
心の声を代弁されて、ボクは動揺を隠せませんでした。
「私が聞いただけでも、『ゴチャゴチャの森』『ジャンル』『ゴブリン騒動』他に聞いた噂を合わせると、両手の指では足りないくらいだよ?」
「…………」
言い返したい気持ちはありますが、それに関わった事実は消えません。精々できるのが、目を反らせることくらいです。
キルステさんと話している最中、1人欠けていることに気付きました。
「──あの、コカ君は?」
「あそこにいるよ……」
「!!??」
ボクの言葉にキルステさんは、指で答えました。その指された先には、気を失っているコカ君の姿が!! 両腕をだらりと伸ばし、両足を縛られて吊り下げられていました。
その様は、タロットカードにある『吊るされた男』そのものでした。
気を失っていると判断した理由ですが、"騒がない+動かない"のコンボだったからです。いつも騒がしいコカ君が、グッタリとして動かない様子を見て、生きているのか心配になりました。
「…………生きてはいるよ」
軽い口調のように感じますが、こう言ってはなんですが『乙女』っぽさを感じました。女性に対する言葉ではありませんね。
ボクはポケットから試験管を取り出すとキルステさんが気付き、その口からは「気付け薬?」と漏れていました。
「珍しいね。魔王様が、NPCの店で薬を買ってくるなんて」
「──いえ、自作の品ですよ?」
「え??」
ボクの言葉に思考がフリーズしたのか、キルステさんの動きが止まりました。ボクの作った薬ですが、意外なことに名前は普通です。ただ、製作者側が見ている情報と、消費者側が見ている情報には違いがあります。
【気付け薬】誰でも簡単に入手できる薬。眠気覚ましとしても使える。
キルステさんが見ている情報は、こう映っていることでしょう。でも実際はこう表示されています。
【"ありふれた"気付け薬】誰でも簡単に入手できる薬の代名詞だが、この薬は通常の"嗅ぐ"では効果を発揮せず、入っている液体を"飲む"ことで効果を発揮する。(※入手は非常に困難であるが、筆舌出来ない効果はが眠気を醒ますどころか"死者"でも甦らせる……かもしれない)
説明文を気にしたら負けです。試すのは初めてですが、【蘇生薬】みたいな効果はないはずです!
レインさんにコカ君を降ろしていただき、口の中に気付け薬を突っ込みます!
「○☆▲◇◎▼♪□●♯§&@◎‡¶◯♭@*※#%●□▲」
今まで以上に、言葉にならない叫びを上げています。
ゴロゴロと地面を転がり、雄叫びを上げるコカ君は何故か口ではなく、首に手を当てています。こうなる可能性を理解していたボクは兎も角、キルステさんやレインさんも遠巻きで眺めています。
もしかすると、ボクが作ったことを言わなければ……バレなかったのかもしれませんね。
──いえ、無理ですね!
「「「「……うわぁ~」」」」
薬効(正確には副作用ですが)の強さを身体で知っているキキと、ボクのことをよく知っている幼馴染みの3人は腰が引けています。
「レインさん、コカ君抑えていただけますか?」
「──周囲に迷惑をかけるとは、コ坊もまだまだじゃのぅ」
ワッシャワッシャと髭を撫でながら、レインさんはコカ君の上に乗りました。ドッコイセっと座り込む姿はお爺さん臭いのですが、その肉体はドワーフというより"トロール"と言うべき大きさです。
いえ、引き締まった肉体なので"オーガ"と表現した方がより近いでしょう。
当然、筋肉量が多くなれば重くなり……「ぎゅぺっ!?」このように無様な鳴き声を上げることになります。
このリアルワールドでは『アバターの大きさ=実際の体格』なので、本当に「老人ですか?」と聞きたくなるくらいガタイが良いです。……腰も曲がっておらず、真っ直ぐです。
「ち……ちょっと! アラームが鳴っているんだけど!?」
キルステさんの言葉を聞いて取り出したのは、みんながお世話になる"ポーション"です。
ええ。ご想像通りに"ありふれた"ポーションです。
「──それ、貰うよ!」
説明をする前に、キルステさんに持っていかれました。特に変な効果は付いていないので、大丈夫──だといいのですが……
名前には"ありふれた"とありますが、ボク自信が歩んできた道は平坦なものとは言えない事実が心配です。(効果は折り紙付きなのですが……)
「◆▲●※%□@━・#〉*〈&%]》─《!!」
「コッ──コカァァァァァァァ!!」
「…………」
「────騒々しいのぃ」
コカ君は予想通り地面の上で暴れようとするのですが、上にレインさんが座っているので動くことができない状態です。唯一できるのが、両手で口を押さえることだけ──という、絶望的状況と言えそうですね。
キルステさんがコカ君に飲ませたポーションの説明ですが、それを読んだ瞬間、思わず吹き出してしまいました。その内容は以下の通りです。
【"ありふれた"ポーション】
ポーション自体はありふれたモノであり、初心者から前線を行くトッププレイヤーまで幅広く使用……いや、愛用されているといっても過言ではない回復薬。
調合を行う者にとっては1番最初に調合する薬であるのは当然だが、熟練者であっても切っても切り離せない存在である。
商品名にあるように、『ありふれた』と表示されてはいるが、このポーションに関しての評価として妥当かは怪しい。その"ありふれた"という単語をどう解釈するかによって、180度意味合いが変わってくるからだ。
回復量としてはポーションの規格を越える『30%』であり、理論上の限界値である『15%』の倍に当たる。ただ、回復量の対価というのか、1番なくてはいけない特性が無くなっている。
本来のポーションには"2つ"の使用法がある。
即ち、『飲む』と『かける』だ。
プレイヤーはポーションに関して、『飲んで100%』『かけて80%』の常識が意識の根底にある。ほとんどのポーションの味は"青汁"味で、飲むのを我慢できないレベルではないので、飲用する方を選ぶプレイヤーが多い。
このポーションから無くなっている特性が、2つ目の『かける』という方法だ。
間違って"かけた"場合、癒すはずの回復液の効果が反転し、『最大HPの30%のダメージを与える』様になってしまう。
──「だったら、飲めばいいだろ!」という意見もあるだろうが、それを勧めることはしない。自己責任で。
ポーションの栓を開けたプレイヤーに襲い掛かるのは、『シュールトレミング+硫黄+アンモニア+α』の臭いである。この鬼畜仕様の臭いは『開けたプレイヤー』ではなく、『使用した・されたプレイヤー』に襲いかかる点が、正しく"鬼畜"である。
味に関しては世界一不味いと言われる『サル◯アッキ+パン◯リ+パック◯ス』(すべて"お菓子"である。詳しくは、『世界一不味いお菓子』で検索を!)を混ぜた、形容しがたい味である。というか、『味』という概念が存在するのか、怪しいレベルである。
このポーションを飲んだ者には、世界から【ポーションマスター(笑)】の称号が与えられる。詳しい内容に関しては、お察しいただきたい。
────という内容で、この説明を読んだ瞬間、『ポーションの前に付いている"ありふれた"って、何を指しているのでしょうか……』と悩んだのは、遠い過去の記憶です。
このポーションは、何処に向かおうとしているのでしょう?
作ったのはボクですが、まったく想像できません。
「◆▲●※%□@━・#〉*〈&%]》─《!!??」
思い出に浸っていたいのですが、コカ君がさっきから唸り声を出していて、大変五月蝿いです。
いい加減の落ち着いて欲しいです。(他人事)
ほら、レインさんも「そろそろ、落ち着かんかぃ」と言っています。
そんなボクの思いが天に届いたのでしょうか?
────ピンポーン
『大変お待たせいたしました。只今より、リアルワールドの公開を記念する、【第1回 大型イベント】を開催致します』
イベント開始のアナウンスが流れました。
「いよいよだな」
手を打ち付けるユウキの声からは、興奮が混じっているように感じました。
幼馴染みたちは放置で問題ありませんが、ウチのメンバーの様子が気になり、確認しましたが、ミイをはじめとする彼女たちの様子は、普段と変わりないように見えます。
神経が図太くなっているようで、けっk「マオレベルの図太い神経を持っている人は、いないぞ?」ぉ……ユウキから酷いツッコミを受けました。
『泣くレベルのアイテムでも、プレゼントしましょうか?』
そう、言い返しそうになりました。
恐らく、過去最凶のポーションですね。
説明文も、1番長いかもしれません。




