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第八十四話 トライピースのユウキ 後編

 お久しぶりです。前回の更新以降、6ヶ月ほど期間の空いてしまった、四宮です。


 多少、文章が変わっているかもしれませんが、よろしくお願いいたします。


 7月20日 魔法の威力減衰について、説明を追加しました。

      大まかな、あらすじを、前書きに追加しました。


 8月1日 魔法の威力減衰についての説明に変更を加えました。



 あらすじ

 【大侵攻イベント】の開示と共に解放された新エリア『トルンティウス大森林』と呼ばれる"猛獣と植物の楽園"に来たユウキたち"トライピース"の面々。このエリア特有のルールが、彼らを苦しめた。


 【森のルール、その1】火は簡単に燃え移り、周囲を炎上させる。

 【森のルール その2】並みではない『強制エンカウント』と『モンスターの大群化』。


 そんな悪条件の中でも、彼らは探索を続けていたが、空間の破れ目から現れた"緑獣(仮)"により、さらに苦しめられた。真っ赤な顔に、新緑色の体毛。厄介なのは体毛の方であり、魔法を含めたほとんどの攻撃が無効化されていた。

 俺たちの攻撃を簡単に無効化してくる、緑獣(仮)の体を覆っている体毛が曲者である。斬撃・刺突・魔法……何1つとして、有効打とならない!


「逃げようにも、此処まで狙われたら……不可能よねぇ?」


 サキの言葉は、正にその通りだ。俺たちは既に、目の前のヤツに攻撃を仕掛けている。それにあの目を見る限り、簡単には退いてくれると思えない。


「こういった時、マオだったら『面白いですね。だったら、これはどうですかね?』って、トンデモないモノを出す気がするわ」

「……同感だ!」


 リオの言葉に頷くと同時に、振るわれた前足の攻撃を避ける。

 ネコのような手の先からは、細く鋭い爪が伸びていた。爪と鎧が擦れる度に『キュィーン!』と、金属同士が擦れるような音が鳴っている。


「『彼の者を癒せ 〈ヒール〉』」


 サキの回復魔法が、ユウキのHPを回復する。魔法は3章節以上の言葉から成り立っているが、1章節で発動できた理由は、サキの所有するスキル〈詠唱短縮〉によるショートカットによるものである。


 現在、探索しているジャングルエリアでは、〈詠唱短縮〉を使った魔法は使用していない。このスキルは、魔法を早く発動できる反面、威力が減少する仕様だからだ。


 この減少は、魔法の"基礎威力"の部分が減る。例えば、『基礎威力100』だとしたら、攻撃魔法はダメージが3割減って『70』、回復魔法は回復量が2割減って『80』、補助魔法は上昇値が4割減り『60%』くらいの効果しか得られないと、非効率の代名詞であるスキルの1つだ。

 しかも、そこから更に『モンスターの耐性』により、増減するから使い難いスキルである。

 そんなスキルをサキが育てている訳は、このスキルが『進化するスキル』であるからだ。


進化する(この手の)』スキルは、入手方法も特殊であり、成長速度は非常に遅い。その代わり、レベルの限界は軒並み低いくて、平均LV5くらいである。


「それにしても、厄介な相手よねぇ……」

「マオと連絡が取れたら楽なんだけど……」


 サキとリオが緑獣(仮)に文句を言っている。

 このエリアの鬼畜仕様が、探索するプレイヤーを苦しめているのは譲れない事実である。このエリアを担当したであろう、マオの母さんは良い笑顔で、苦しめてくれるもんだよ!!


「本当にマオママは、"飴と鞭"の使い方が上手すぎるわね!!」


 リオが剣を振るタイミングに合わせ、俺も剣を振るが簡単に避けられる。もっとも、攻撃を当てる前に、あの毛をどうにかしないといけないよな。

 憎くったらしいタイミングで、緑獣(仮)に振り回されている俺たちにかかっていた、支援魔法が切れてしまった。普通ならすぐに飛んでくる魔法が飛んでこない。


「ゴメン!! Mポが切れちゃった!!」


 サキの口から、信じられない言葉が飛び出した。初心者のように不慣れなプレイヤーならあり得ることだが、俺たちのような"廃人プレイヤー"は起こらないように注意している。

 サキも戦いが長引きそうに感じた時点で、MPをムダに消費しないように、微調整はしてきたのだろう。その上で『切れる』ということは、緑獣(仮)(コイツ)が強敵であり、その一撃が致命傷になるということだ。


 俺たちに油断はなかったと思いたい。「走馬灯乙! ですね♪」とマオの笑顔うかんだ。そこから、餞別に貰ったアイテムがあったことを思い出した。

 ただ、餞別というよりは、押し付けられたと表現した方が正しいかもしれないが……。


「サキ! マオの餞別だ!!」


 俺の言葉に反応したサキは、すぐに行動に移った。この辺の躊躇いがないのは、たぶんマオが原因だろう。色々とトラブルを呼び込むからな。


 サキが調べている間は、支援がないものだと思わないと!


 警戒していたが、幸いにも緑獣(仮)から攻撃を仕掛けられることはなかった。ほとんどが睨みあって、牽制している状態だ。


「……あった。でも……これ……」


 取り出したアイテムを見て、顔をしかめているようだ。


「サキ! 悩む前に、リオを回復だ!!」

「え!?」


 リオのHPの残りは半分まで減っていた。サキがアイテムを探し始めたときに、避けきれず攻撃がかすったのだ。防具の上を引っ掻いただけなのだが、そのダメージは攻略組が先行しているエリアのボスくらいに高い。


「リオ! いくわよ!!」


 サキの手を離れ、リオに向け飛んでいく薬ビン。着ている鎧にビンが当たると"カシャン"と甲高い音を響かせた。回復薬系のアイテムは『飲む』『かける』で効果が発動する。

 ポーションがかかり、HPが回復したリオが声を上げた。


「なに!? このポーションは!?」


 リオのHPゲージを見ると、完全回復していた。俺やリオのHPは、スキルやレベルの関係上かなり高く、攻略組が愛用している『ハイポーション』でもだいたいが20%くらいしか回復しない。

 それ以上の回復するポーションとしては、他のゲームでいう『エクスポーション』というレベルの回復アイテムになる。

 回復量に驚くが、驚きはそれだけではなかった。


「リオ……"バフ"がかかっていないかな?」

「え? ……そういえば、何かかかっているかも!?」

「なに!?」


 サキの言葉に反応したリオは、自分のステータスにバフがかかっているのを確認した。現状で、バフのかかるポーションの情報はない。ただ、リオの反応から"どんな"効果なのかは分からないようだ。

 俺たちの意識が反れた一瞬を読んだ緑獣(仮)は、リオをターゲットに変更した。その身代わりの早さに、俺たちは反応できなかった。


「リオ!?」


 俺の伸ばした手が、虚しく宙をさ迷う。振りかざされた前肢は、無防備なリオの顔をめがけて振り下ろされた!!


 ──パアァァァァァァン!!


 乾いた音と共に、緑獣(仮)の吠える音が聞こえた。


「え"??」


 その声は誰が発したのだろうか? 驚きしかない。当然というのか、緑獣(仮)も驚き、身体が硬直して動けないようだ。

 音源の方を向くと、両手を突き出した状態で止まっているリオがいた。手がピッタリと揃っていることから、リオの行った動作は『猫だまし』だったと思う。


『パンパカパ~ン♪ マオ特製【猫ダマシンZ】の発動を確認しました! 効果は1度っきりなので、ご注意してください』


 森の中で俺たちは3人揃って、ポカンとアホ面を晒してしまった。マオならではのイタズラ……と言ってもいいのか判断に困るが、今回も助かったので文句は言わないでやろう。でも、無条件で武器から手を離すのは危険なので、そこだけは文句をつけよう。矛盾しているようだが、問題ない!


「ユウキ! 回復薬よ!!」


 俺が決意を固めていると、リオから薬ビンが投げられた。ビンが視界に入った瞬間、とてつもない"イヤな予感"に襲われた。

 投げられたビンを割らないように、優しく手でキャッチして、緑獣(仮)目掛けて投げた!!


 頭の中に、「キャッチ&リリースですね!?」とマオの声が響いた気がした。


 薬ビンの当たった緑獣(仮)は、ビクンと体が跳ねた。様子を見ていると、赤かった顔が赤→黄→青と交互に変わっていく。突っ込んだらいけないと、鉄の自制心を発揮して堪えようとしていると、カシャンとビンの割れる音が耳元で聞こえた。

 突然、身体の自由を奪われた。


「信号機かYO!」


 何故か変なツッコミを行った。俺の左手は、キレイな弧を描いて3色変化をしている顔に、上から落ちる滝の水のように吸い込まれていった。この間、俺の身体は自動で動いていた。


 スッパァァァン!!


 これまでの戦闘で溜まっていた、イライラを発散できる、気持ちのいいツッコミだった。頬に平手打ちを受けた緑獣(仮)は、今までと段違いに吹き飛んだ。

 その様は、フィギュアスケートのトリプルアクセルのようで、片方の後ろ足を地面に向け、クルクルっと回転していった。


「わあおぅ。キレイなスピンね!」


 サキの言う通り、キレイなスピンであるが、現状に何の変化もないのが残念だ。


「ねえ、何かが空中で光ってない??」


 リオの言葉に空中を見つめると、キラキラ光る"イト"が目に付いた。それと共に、緑獣(仮)の体を覆っていた緑色の毛が抜け落ちてきていた。


「脱けた毛?」


 俺の口から出たのは、そんな言葉だった。戦闘中に脱力感を受けるなんて普通はない。マオのアイテムだからこそか?


「えっとねぇ……緑獣(仮)にかかったのは『ピカーるZ』で、ユウキにかかったのは『ツッコまいしんZ』というらしいの」

「なるほどね。そのピカーるは、『脱毛』の効果があると判断していいわけね?」

「う~ん。そんな感じかな?」

「説明には、なんて書いてある!?」


 サキの読み上げたアイテム名。その名前自体が、"マオが遊びで作ったアイテム"であることを告げていた。回復アイテムに追加効果を加えたのか、状態異常薬に回復効果が偶然(・ ・)付いたのか、判断に困る。

 どちらにしても、回復力が"ハイポーション"以上なのがイヤらしい。その大きな回復力が魅力的だからだ。


「え~っと、読むわね。『ピカーるZは、プレイヤー・モンスターを問わず『毛という毛』を排除します。たぶん、キャンプファイアーをして楽しんでいると思うので、そのときの一発芸として"ユウキ"に使用してください。副作用はありません。

 効果は、モンスターで10分、プレイヤーで現実時間3日ほどの計算です』って、書いてあるわ!」

「現実時間で『3日も』スキンヘッドって、極悪な副作用だろ!!」

「──『なお、そんな酷いことをいう悪い子には、アイテム作製に協力してくれた薬師、顔が恐いけど子供好きの"ハゲちゃびんさん"と、どこか仲良くしにくい"おほほのほさん"との熱愛デートを特別プレゼントします!』──って、書かれているわよ?」

「ちょっと待てよ!! どんな知り合いだよ!? そいつら!!」


 そこからサキに、いくら質問しても答えてくれず、曖昧な笑みを浮かべるだけだった。当然、街に戻ってマオに会ったときに聞いたが、答えてはくれなかったと追記する。


「ねぇ、ユウキ! これって、チャンスなんじゃない!?」


 リオの視線が捉えているのは、丸裸になった緑獣(仮)だったモノである。毛の抜けた肌は、気味が悪いくらい白かった。女性の肌が白いなら『ビスクドールのようだ(若干、違うかもしれない)』といえるだろうが、コイツの場合は生易しくない。


『気味が悪い!! その一言に尽きる!!』


 ただ、毛のなくなった緑獣(仮)だったものは、より身軽になったらしく、かなりの速度で森を駆け巡っている。


「リオ! 最後の1本よ!!」


 サキは、ビンを投げると共に地面に伏せた。それを攻撃のチャンスと勘違いした緑獣(仮)は、サキを襲うために飛び掛かった。

 その動きは今までで最速だったが、素手の状態でありターゲットが分かっていたリオは、簡単に影を捉えた。振り向き様に、乾いた音が森の中に響く。

 正面から猫だましを受けた緑獣(仮)は、空中で体を硬直させた。


「ハアァァァァァァァ!!!!」


 俺はその隙を見逃さずに、両手で構えたグレイブを上から下に振り回し、頭と胴体を切り離した! 今までと違い、スッと豆腐を切るように刃が通った。

 断末魔を上げることも出来ず、徐々に消え去る緑獣(仮)の姿を続けた俺たちは、その姿が完全に消えると地面に座り込んでしまった。2人の息も荒い。


「なんとか……勝てたな……」

「うん。でも……もう1度、コイツと戦えと言われても、逃げたいわね」

「そうよねぇ。アイテムも無ければ、MPも残り少ないし……」

「とりあえず……少し休憩してから、森の入り口に戻ろうか。これで"死に戻り"をしたら、泣くに泣けないからな」

「同感。呼吸を落ち着けたら、帰ろうよ」


 こうして、俺たちの冒険は終わった。


 マオに詳しい話をしたら、「楽しそうですね♪」と笑っていたのが印象的で記憶に残った。後日、偶然に森の中でマオのパーティーと出会ったが、全員の装備が"毛皮の服"だったことに驚くべきなのか、緑獣(仮)に"チョークスリーパー"を極めていたことを驚くべきなのか悩んだ。

 マオのスペックが規格外なのは知っていたが、その他の女の子たちは普通だと思っていた俺は、彼女たちもズレていることに気付かされた。

 それでも、マオの作った装備が原因だと思いたい、そんなちょっと苦めの2回目の冒険だった。

 閑話・ユウキ編、これにて終了です。


 廃人でも、規格外の(常識の)破壊神には敵わないという流れでした。ちょっと「あれ?」っと思っても、流していただけると嬉しいです。


 次回更新から、本編の再開です。よろしくお願いします!!

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