第八十二話・トライピースのユウキ 前編
お初の、親友のユウキ編です!
12月25日 誤字の修正をしました。
12月27日 吊るすツリーを『吊るしますツリー』に変更しました。更新日とイベント的にも良いかと。誤字の修正をしました。
今回は、ボクがユウキたちから聞いた、イベントに向けての話を語りたいと思います。
ユウキたちが、イベント為に【第2の街】にある最近解放された場所に向かったそうです。
【大侵攻イベント】の開示と共に解放された場所は、『トルンティウス大森林』と呼ばれる"猛獣と植物の楽園"だそうです。
ここから先は、ユウキ視点の話です。
俺たち幼馴染み3人は、イベント開始前に解放された『トルンティウス大森林』に来ている。この森の中では、運営の意地悪さが滲み出したような、数々の制約がある。
「サキ! 向こうから、"吊るしますツリー"が来るぞ!!」
俺は、視界の角に映り込んだ樹木型のモンスターの名前を叫ぶ。このモンスターの厄介なところは、『相手を吊るす』ことである! しかも、逆さまに吊るすのだから厄介である。
メンバー内で最初で最後の犠牲者は、サキだった。この大森林のルールを、まざまざと見せつけられたわけだ。
簡単に内容だけを言うと、「背後から来た蔦に、足を絡み取られ宙吊りになった」というだけのことではあるが、マオの作製したローブが"ワンピースタイプ"だったのが悪く働いた。
その様はハングドマンならぬ、ハングドレディーと言った感じだ。アンダーパンツとでも言うのか、色々と丸見えになった。
「こんのぉぉぉぉぉ! 変態ツリーがー!!」
サキが放ったのは、『ファイヤーボール』であった。
「──っちょ!? 何考えているんだよ! バカかお前は!?」
【森のルール、その1】
火は簡単に燃え移り、周囲を炎上させる。
このルールを知った原因は、『たまたますれ違ったパーティが使用した結果』をこの目で見たことが大きい。
文字通り「火に囲まれて、焼け死んだ』からだ。実際に火の粉が燃え移って周囲を囲むまでの時間は、長く見積もってもく"10秒"と言ったところだろう。
──正しく、『逃げる場もない』と言えるだろう。
ただ、キレているように見えてもサキは魔法使い系。燃え移りやすいことも、きちんと理解している。その辺は安心か?
サキの放ったファイヤーボールは、爆散し火花を散らすことはなく、的確に吊るしますツリーのみを焼いていた。もちろん、敵対者を吊るす蔦は『御』が付くくらい丁寧に焼かれている。
燃えやすい木属性の吊るしますツリーは、単なる燃えカスとなって、風にその灰を拐われた。消え去った跡には何も残っていない。
「──サキ」
「後悔はしていないわ!」
どうやら……怒りが治まるのは、まだ先のようだ。俺は見えぬ大空を見上げ、サキにバレないように溜め息をついた。この大森林を作製した担当の運営者は、相当な嫌われ体質ではないのだろうか? と、どうでもいいことを考えてしまう。
そんなことを考えながらも、俺の手は適格に動きモンスターを殺している。
「毎回、大群が襲いかかってくると、時間がかかるわね」
リオの言うことは、正鵠を射ている。スキルのレベルアップとして見れば、現在の状況は大変ありがたいが、如何せん探索をメインとして考えるとマイナスである。
この森が厄介のな理由は、まだまだ残っている。
「時間だ。周囲の変化に気を付けろ!」
俺は2人に注意を促す。これが厄介な理由②だ。
【森のルール その②】
並みではない『強制エンカウント』と『モンスターの大群化』だ。
これも文字通り、戦闘終了後から数分毎のモンスターの襲来を意味する。本来のエンカウントが『ランダム』であるのに対して、この森は『強制』であることが"鬼畜仕様"とプレイヤーに言われている。
『モンスターの大群化』と示した通り、1回の襲撃は10匹以上の集団で来る。
「いい加減に、してくれよ!!」
俺は再び、マオ謹製の両手剣を握り締め、モンスターとの戦いを始める。その後、数度の襲撃が続いて起こった。
内心、「マジでキレるぞ!」と思いかけ──いや、思ったときに、待ち望んでいた"大休止"の時間が訪れた。
「──うん! 予想通り、〈片手剣〉のレベルがカンストしたわ! これで、〈細剣術〉が取れるわね!!」
ステータスを確認して、喜んでいるのはリオだ。同じように、サキも確認している。俺も見ておこう!
確認したら、〈両手剣〉と〈STR上昇〉がカンストしていた!
初期に取った〈槍術〉の進化系〈大槍術〉と、今回カンストした〈両手剣〉の2つを融合することで、【特殊スキル 〈グレイブス〉】に系統外進化出来る!!
【〈両手剣〉と〈大槍術〉の2つを融合しますか? 融合すると、これ以上の進化は出来なくなります】
システムが確認してくるが、俺は迷わず【YES】を押した。
ちなみにこの〈グレイブス〉だが、グレイブという日本での『薙刀』の西洋版に当たる武器の使用許可スキルといえる。
斬って良し、突いて良しの優良武器の1つであり、βで俺が最後までお世話になった武器でもある。
今まではアイテムボックスの肥やしになっていた、β時最強の相棒【グレイブ・試】を取り出す。現時点での強さは、マオの作った武器より1段下がるが、それでもこの森ではメイン武器として活躍ができる。
「それがユウキの"β特典"なの??」
「正確には、『その2』だな」
特典と言っても、その効果を得るためには、結構面倒な規準をクリアしないといけない。俺の場合は、スキル〈グレイブス〉の習得だった。そういえば、サキは何を選んだんだ?
「ねえねえ、サキの"特典"って何??」
俺も聞きたかったことだ。リオ、グッジョブ!
「──そんなに凄くないわよ! 〈聖魔法〉の初期習得だから……」
サキの言葉に唖然とする。〈聖魔法〉はβでも最強の1つとして数えられた、魔法スキルである。俺が今特殊進化させた〈グレイブス〉と同じ、特殊スキルの1種である。
難易度で言うなら、俺の〈グレイブス〉の方が遥かに簡単だ。
聖属性は、第1条件としては基本4属『火・水・風・土』を中級までカンストさせなくてはいけないのだ!
さらに基本4属から派生する〈光魔法〉〈影魔法〉があり、その内の〈光魔法〉を上級までカンストさせないと習得できない、気違いなくらい長い手順を踏まなくてはならない魔法スキルである。
「で? 使用条件は?」
俺はサキのスキルに関して、突っ込んだ質問をした。
「今回は簡単よ。『基本4属の内1つを上級にすること』と、特殊派生する〈光魔法〉を『中級までカンストすること』の2つだけね!」
サキの言葉から、内容を吟味する。中級4つか、上級1つなら後者の方が1.5倍~2倍くらい楽にクリアできる。
だいたい中級3つと、上級1つのカンストに必要な経験値は『同じ』か『若干少ない』くらいだからだ。プレイスタイルで変わるから、一概には言えないけど……。
そんなことを考えていたら、周囲に違和感が顕れた! おっと、そろそろモンスター襲来の時間だ!
グレイブを数回素振りして、モンスターとの戦闘に備えた。




