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第七十九話 セットボーナス検証中の出来事

 久々にやって来た第1の街に近い森の中を、ミイと共に【セットボーナス検証】という事でウサギ狩りを行っています。

 昔は入らないくらいの奥地を、2人でサクサク狩りながら進んでいきます。モンスターが一定時間でポップするのがゲームの醍醐味の1つであり、今回の目的に関しては非常に助かります。


「────100!」


 ヒュン! っと音を立てて、〈魔法矢(マジックアロー)〉がラビットを撃ち抜きます。朝イチから始めた"ウサギ狩り"ですが、今のところボーナスの発動した形跡は感じません。

 ただ、延々と狩りを続けている状態になります。先程ミイが射ちとったラビットで、お互い100匹になりました。


 それでも、まだ(・ ・)100匹でしかありません。


 ゆっくりと歩き、周囲に潜伏しているラビットを狩りながら、ボクたちは更に奥地を目指します。

 そのとき不意に、敵対的ではない気配をミイが感じ取りました。


「ねぇ……マオ、アッチの方に何か違う感覚があるよ……」


 狐人族(フォクサ)は、獣人族(ビースト)の中でも非力な部類(・ ・ ・ ・ ・)なのですが、その対価に耳がとても良かったりしています。

 そんなボクですが、流石に"森人"と呼ばれるエルフには敵いません。


「それでは、ミイの感じた方向に進んでみましょうか」


 ボクはそう言い、周囲をより一層警戒しながら奥地に進んでいきました。その道中は、「大変」の一言しかありませんでした。

 道なき道、獣道とも思えない荒れ果てた道。木の枝も、高さを忘れたかのように、幹の半分から伸びてきていたり、頭上から垂れ下がってきたりして、行く手を遮ります。

 1時間くらいでしょうか? ミイの先導で歩き続けます。


「近くなってきたみたい──」


 ミイが小さな声で呟きました。その言葉に同調するかのようにボクの狐耳でも、とても小さい「ハーハー」という呼吸音が聞こえてきました。かなりか細い感じです。

 ミイの速度が少し上がりかけています。


「──ここで焦っては、ことを仕損じます。少し深呼吸をして、落ち着きましょう」


 ボクはそう言って、先導していたミイの肩を掴みました。掴んだ瞬間に驚いたのでしょう、ピクン! と跳ね上がりました。

 その細長い耳を「へたっ」と垂れ下げて、ミイは小さな声で「その──ごめん」と言ってきたので、軽く頭を撫でました。「にへぇ」っと顔を緩めるミイに少し癒されると共に、ボク自身も緊張していたのか肩の力が抜けたのを感じました。


 ──やはり、撫でるという効果は、バカにできませんね……。


 ボクは1人そう納得して撫で続けます。ミイの状態が落ち着きを取り戻した頃、ボクは「──それでは、奥に進みましょうか」と奥地への進行を言います。

 頷いたミイを確認し、再び先導をして貰います。


 最後の藪を抜けた先は、運動場くらいの広さのある空き地でした。そこの中央付近には、黒い影が1つ。


 ──この状況、何かがありそうですね!


 本能的な直感がそう告げます。まあ、"ゲーマーの勘"というものは、ボクにはありません。本能を信じるだけです!


「ミイ、先ずはボクたちの体勢を整えましょう!」


 ミイの横に立ち、肩に手を置き話しかけます。


「────うん。そうだね……」


 ちょっと気になる『間』がありましたが、何かを感じ取ったようで安心します。ミイにダブルベリーポーションを渡し、ボクも回復薬を飲みHPとMPの回復を行います。

 武器の状態も確認し、万全の状態を整えると、どちらからともなく顔を見合わせ、頷きます。


「──行きます!(行くよ!)」


 掛け声を同じくして、広場に足を踏み込みます。途端に周囲の雰囲気が切り替わったので、別のエリア扱いのようです。

 過去にユウキから聞いた『突然のエリア変更は、イベントの始まり』という言葉を思い出しました。今までにも"数度(・ ・)"味わった感覚でもあります。


 マーダーベア然り、暴君竜帝(ティルグルス)然りです。


 本来は『エリア切り替え』は、視覚的情報が少ない部類に入ります。(リアルワールドは特に)

 βテスト期間中に(βテスターを落ちた)リオが散々愚痴っていた中に『ほとんどのゲームって、通常エリアとボスエリアは別々なんだよ。まあ、そうじゃないと"レベル上げ"が難しくなっちゃうんだけどね』とボクには延々と、3時間ほど語ってくれました。

 その際、機嫌が悪いとそのままボクの部屋に居着き、晩御飯を食べ、ボクを抱き枕替わりに抱き締め寝ます。そして翌朝、何食わぬ顔で朝食を食べていきます。

『自由奔放』とは、リオにこそ相応しいのでは? と思わなくもないです。


 ────────────────────


 開けた空間にいたのは、黒い狼でした。サイズは牛より大きく、大体全長3mくらいでしょうか? その黒い毛並みは、太陽の光で光の波を打ち出し、まるでオーロラのように見えます。

 しかし──彼の狼は、その存在感に不釣り合いなほど"弱々しい"です。


 ゆっくりと、ボクを先頭に狼へ近付きます。


『グルルルルルルルルル……!!』


「ひゃぅ!!」


 狼の鳴き声にミイは驚きます。先程の声には、大量の魔力が含まれていました。普通に吠えるより──いえ、吼えるよりと言う方が近いかもしれません!

 その鳴き声は小さくても、大絶叫に何ら劣らぬ恐怖を植え付けてきます。そんな状況なのに、顔に笑みを浮かべて、狼に近付くボクはどこか変かもしれません。


「──落ち着いてください。ボクたちは、敵ではありません」


 ボクはそう言いながら、ゆっくりと近付きます。

 狼は唸り続けるも、ボクたちを攻撃する意思は今のところ無いようで、ホッとしました。


『キュルアァ?』


 今まで寝ていた為、存在を忘れかけていたリュオが、目を覚ましたようです。


『グルル』

『キュアア!』

『グル……グルル?』

『キュア! キュア!!』


 そうやって鳴きあう2匹────端から見ると、『見つめ合う、トカゲと犬』です。貴方たち、別の種族でしょう? 何で、会話出来るのですか?


 リアルワールド──"摩訶不思議世界"と言うところでしょうか?


 本当にどうでもいいことを考えてしまいます。しばらく2匹の会話? を眺めていると狼は、今まで起こしていた上体をペタッと地面に着けました。

 唸り声が聞こえないので、警戒はしていないようです。ただ、じっとこちら、正確に言うなら『ボク』を見つめています。


『キュル~~ァァ』


 その鳴き声からは、何を言っているか理解できませんが、ボクの腰に下げてあるポーチに視線がいっています。その仕草から察するに、『お薬で、治して上げて』と言っているのでしょう。

 頭の中には、イベントを進めるための方法が浮かびました。


 ①目の前の狼を倒して素材ウマーの場合


 ②時間経過で、自動的に進行する場合


 ③全快ではないが、体力を回復させた場合


 ここまでが、ユウキたち幼馴染みの『効率のよい考え方(廃神思考)』でしょう。フツー極まりない考え方で、面白くないです!


 ボクはコレでも『魔王様』と呼ばれるプレイヤーです。ここで選ぶべき選択肢は、『④全回復させ、最強状態のイベントボスを倒し、レア素材ゲット!』ですね!


 ポーチから取り出すは、現在の最高傑作の【完全回復薬・滅】です。何が"滅"なのかと言うと、この薬を飲んだレインさん(・ ・ ・ ・ ・)泡を吹いた(・ ・ ・ ・ ・)ことに由来します。

 コカ君に至っては、飲んでから苦しんで、死に戻りをしたくらいで、効果に関しては『飲まない限り』最高峰に当たります。


 HP・MPを完全回復、満腹度も満タンに、全状態異常を治し、呪いなどのバッドステータスを解呪します。


 ──本当に、味がまともなら良いのですが……。


 そう思いながらも、ポーションを狼の体に振りかけます。ポーションの滴が触れた面から、光が波紋状に広がっていきます。瓶の中身を全てふり終わったときには、狼の全身を光の波紋が覆いました。

 光が収まったとき、その中から現れたのは、白い狼(・ ・ ・)でした。

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