第七十八話 セットボーナスの効果について
さて、新しい装備(服)について、いくつか確認しておきましょう。セットボーナスの効果確認です!
ハルの装備に付いているボーナス【美姫乱艶】は"対モンスター専用"と言える『行動阻害系』と推測しているのですが先日まで行っていた、狩り(と言う名の虐殺・蹂躙)では効果の確認は出来ません。
理由は簡単、『敵発見➡即殺➡素材ゲット』的な流れになっていたようなので、確認出来ていなかったからです。
まあ、毎日(ゲーム内)朝と夜にハルからメールが着ていましたが、セットボーナスに関しての報告はなかったですから──。
ボクとミイ専用のボーナス【幼姫爛漫】は"対モンスター専用"と言える『服従系』の1種と推測しています。
送られてきた素材の量からしても、2000は下らない感じだったので少し期待しています。1度くらいは発動して欲しいです。
「そういえば、ミイのセットボーナスの効果はどうでしたか?」
ボクはハルがしがみついた状態で、ミイに確認を取りました。ミイは何と言えばいいのかを、考えているようです。
ただ、身長差があるからでしょうか──抱き付かれると、ハルの胸が顔に当って結構苦しいです。
「う~ん、『効果がなかった』としか言えないかな?」
ミイの言葉に少し考えます。"効果がなかった"とは少々おかしい話です。発動率は極低(0.1%)ですが、1度も発動しないのは変です。
これは、更なる確認が必要そうな感じです。【幼姫爛漫】──これの発動条件は、ハルのボーナス以上に難しそうですね。
今回のイベントで役立つと思ったのですが……。あてが外れてしまいました。
「──もしかしたら、条件が違うのではないでしょうか?」
首に抱き付いたまま話してくるハルの言葉に、ピン! とくる何かがありました。
もしかすると──。
「第1の街で確認したいのですが、時間が……」
確認しようにも、(制限が近くて)時間がたりません!! ボクは、どうにかならないのかを考えます。
「何を言っとんじゃ? 魔坊よ、転移ゲートゥがあるじゃろぅ?」
「!!??」
棚ぼたというか、忘れていました!! 1週間も、工房に泊まり込んでいたので、完全に記憶から消えていました!!
「おじ……レイン爺もよく覚えていたね!」
キルステさんに褒められるレインさんですが、何か様子がおかしい感じです? 頭を捻っています。
「のぅ、キルステや。転移ゲートゥとは、何じゃったかのぅ?」
呆気にとられるキルステさん。その顔は「どうしてこうなるのかな!?」と言いたそうです。
実際、名前だけでも良く覚えていたと、手放しで褒めても良いのですけど、どこか釈然としません!! ただ「言いたかっただけ」という落ちでしょうか?
しかし、一筋の巧妙が見えてきた以上、"座して待つ"というのはボクの気性からして不可能です。
「イベントの開始時刻は、現実の明日の9時から……
今日の残り時間は、5時間ほど──」
イベントの告知ページを開け、時間の確認をボクは行います。時間はまだあるようですね……。
「ミイはこれからボクと、第1の街に飛んでもらいます。その間に、シア、ハル、キキの3名は武具の点検・修理をしてもらってください!」
「えぇ!? お、お姉様!!??」
矢継ぎ早に指示を出し、唖然とするハルを横目に、ボクはミイと共に第1の街に転移ゲートで翔びました。
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転移ゲートを抜けた先は、街から離れる前となに変わらない、街並みでした。唯一の違いは、プレイヤーの数でしょうか?
イベント告知前は、減少傾向にあった第1の街なのですが、告知後の現在は増加してきています。
「ねぇ、ほとんどのプレイヤーがこの街に来ているのかな?」
人混みを少し離れた場所から眺めたミイは、ボクに呟きかけます。確かに、視界内に入る人はプレイヤーが大半を占めています。
武具に関しては鉄製だけではなく、魔鉱製の魔剣、モンスター素材の防具などたくさんあります。
鑑定をせずに見ているだけでも、装備の規準が高くなっているのを感じられます。それにしても、防具のバリエーションがかなり増えているようで、視界一杯がカラフルです。
「この中に、『ドラゴン素材』を使用している武具ってあるのかな?」
ミイの言葉に、街中を行き交うプレイヤーの装備を、じっくり観察します。リザード系の防具は多そうな感じですが、下級竜種系の防具を着ているのは見た限り、全体の1割くらいでしょうか?
武器に関しては、原形が見えなくなっているので、はっきりと確認は出来ません。鑑定をせずに解った分は、だいたい1%くらいですかね。
「パーティ単位でフル装備をしていそうなのは、トップクラスのギルドか、ソロのプレイヤーくらいじゃないでしょうか?」
素材の入手量は、"貢献度"的な隠しパラメータで決まっているようです。(ユウキ談)
ユウキたちでも、全員の装備を悪戦苦闘して揃えたくらいです。(魔王軍は論外です)
「──って言うことは、【暴君竜帝装備】を着ている人は、トッププレイヤーってこと!?」
ミイが驚きと共に、確認してきます。ミイのような後衛職に『トカゲさん』と呼ばれる、荒野の暴君ですら一般的には、現時点最強のエリアボスになります。
可哀想な話でしょうが、ミイを含めたメンバーには『ちょっと強いモブボス』的な扱いを受けています。
──恐らくこうして、魔王軍は常識から遠退いていくのでしょう。
ボクは1人そう思い、夕焼けに染まる空を見上げるのでした。
予想通り──と言うべきなのでしょうか?
足元では、夕陽により縦に長く延びた影が2つ並んでいます。仲良く手を繋いでいるので、『M』のような形ですね。
今日は流石に遅いので宿に泊まり、明日の朝イチから森に出掛けましょう!
現実の時間で5時間、ゲーム内では約10日……これくらいの時間があれば、1度くらいは発動してくれますよね?
──まあ、目を閉じれば、一瞬で朝になりますが!!
朝が来て、朝食を食べたボクたちは、街から近い森にやって来ました! 「殺り」に来たが正しいかもしれませんが……。
「ねぇ、マオ~。なんか、ウサギさんを狩っていたときを思い出すね!」
確かにその通りです! 数百匹のウサギ狩りを、この森で行いましたからね───。プレイを始めた3日目でしたかね?
「そうですね。懐かしさを感じてしまいますね──」
荒野のモンスターは結構狡猾で、ズル賢いレベルになっているので、ここにいるモンスターは『お尻を隠さないアヒルさん』状態です。
ボクの耳でも察知できますが、ミイのエルフ耳からは逃れられないです! 先ほどから、ピクピクと反応しています。
「それでは、ボーナスの検証のために『ウサギ狩り』をしましょうか!」
ボクは【根性竜入棒】を手にし、ミイには【魔導弓・戒】を装備していただきました。
「矢は使わずに、〈魔法矢〉を使ってください。少しでも、スキルレベルを上げましょう!」
「うん! 分かったよ!」
元気良く答えてくれたミイと、森深くを目指して歩いていきました。




