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第七十四話 (戦闘方面の)ガールズトーク

 さて、マオたちの話は一旦置いて、ミイたちがこの間に何をしていたのかを話します。

 マオが拉致された後のミイたちは、これからの予定について話し合いました。


「ねえ、これからどうしよう?」


 チラリとマオが拐われた方向に視線を向け、そのあと3人を見て問いかけます。ミイとしても先ほどの暴君竜帝(ティルグルス)との戦いは、『満足のいく働きを出来なかった』と幼いながらも思い、反省しています。

 実質、ミイが受け取った【魔導弓】は、メンバー内でも1番攻撃力が高いからです。


「そうだな……私は、ティルグルス(大蜥蜴)くらいは私たち4人でも倒せるようにならないと、竜域では力になれないんじゃないか……と思う」


 シアはマオの目指す『竜域』を視野にいれた"レベルアップ"を提案します。それにいち早く賛成したのは、全くと言ってもいいくらい『戦闘に参加出来なかった』ハルでした。


「私はシアさんの提案に賛成いたします。先ほどの戦いは、ただ見ている(・ ・ ・ ・)だけ(・ ・)でしたから……」


 片手を上げて賛成をするが、その顔はすぐに沈んでしまいます。彼女のスタンスから言うなら、何ら不思議ではないのでしょうが──。


「トカゲ──強い。倒す、私たち強くなる!」


 両手を胸の前できつく結び、『フンス!』と気合いをいれる姿は、勇ましさよりも可愛さの方が目に付くでしょう。実際にその姿を見ていたハルの瞳は輝いています。


「たぶんマオの事だから、もうしばらくすると『周辺の素材を集めてください!』ってメールが来るんじゃないかな?」


 ミイの言葉に、3人の心には『あ、来そうだ(ですね)』と理解を示します。4人はマオから、正確に言うならユウキからですが、『素材の転送方法』を教わりました。


「じゃあ、新しい武器が出来るまでは、周辺での『スキルレベルのアップ』と『素材集め』を行う形でどうだろう?」


 シアの示した方針に皆が頷きます。そうと決まれば、次に行うのはマオに対する『ポーションのおねだり』になります。

 マオが初期に開発したベリーポーションは元より、MP回復薬もマオ特製の『ストロベリーポーション』でストロベリー味、HP&MP回復薬は『ダブルベリーポーション』というストロベリー味とブルーベリー味の合成ポーションになります。

 彼女たちの舌は、もうマオのポーションから離れられません!


「お姉様から、ポーション関係が届きました!」


 先ほどから、ディスプレイを見つめていたハルが声を上げます。実は予定が決まった時点で、ハルはマオにポーションを頼んでいたからです。


 ──この時のマオは、レインの弟子たちに担ぎ上げられて、移動している最中になります。


 ハルは受け取ったポーション関係を、皆に配ります。HPポーションはシアとキキに多めに配り、MPポーションはミイに多く渡しました。

 戦闘に関してはマオからの薦めで、攻撃は正面から防御けず、受け流す又は、回避することを重点的に行うと特殊系スキルを習得出来るとの話です。

 そういったスキルは、防具の損耗を抑えると共に、ポーションを飲んだ際に起こる『ポーション中毒』と言われる"回復効果の減衰"を抑えることに役立ちます。


「たしかマオの話では、『受け流す』『回避する』の2つが〈白刃流し〉〈足捌き〉になるんだっけ?」


「正確に言うと、〈白刃流し〉は剣刀系のスキルに当たるようです。シアなら〈鎧斧(ガイフ)〉に、キキは〈パリィ〉となるようです」


 ハルは攻略サイトを開き、内容の確認をしています。


「ねぇ、私はどうなるのかな?」


 ハルの服はツンツンと引っ張られます。振り向いた先にいたのはミイです。その目には、『キラキラ』と言っていいようなくらい輝いています。


「そうですね……ミイの武器スキルは『弓』なので〈流転〉〈(またた)き〉になると思います」


 ハルの顔は平静を装っていますが、ミイの無邪気さに当てられ、『ぎゅっ』としたいのを我慢しています。その辺はマオの妹と言えます。


「それで……〈流転〉は回避系の1種で、〈瞬き〉は〈ステップ系〉の派生系に当たります。効果は『一瞬で1m移動する』と言うものです」


 その説明に驚いたのはシアとキキでした。


(まばた)きする瞬間に消える……脅威!」


「そうだな! その効果範囲を使えば、相手の裏に回り込める──」


 どうやら、シアとキキは〈瞬き〉の効果だけに(・ ・ ・ ・ ・)目がいっているようです。2人の言葉を聞いたハルは、こう言いました。


『クールタイムが"30秒"あるのですよ? そう思うほどには使えないと思います』


 その言葉の通り、〈瞬き〉のクールタイムは30秒で、LV10毎に1秒(推測)しか時間が縮まりません。このスキルの限界レベルは100ですが、最大まで上げても"10秒"しか短縮されません。

 他にも色々ありますが、この場では割愛します。


「緊急処置としては、使えるんじゃないかな?」


「む、難しい言葉を知っているじゃないか……」


 ミイの言葉に引きつった顔で答えたのはシアでした。彼女はゲーム内に置いてはミイに次ぐ古参ですが、今までの中でミイが使ったことがない言葉を言ったことに驚いているようです。

 もっとも、難しい言葉だからといって、『意味を知っているかは別』になります。本当のところ、ミイは『緊急処置』の意味は詳しく知りません。

 キキは「難しそうなことを言っている」と思っているので、"我、関せず"で通しています。


「(ああ──お姉様が、原因でしょう……)」


 そう確信していたのはハルです。流石、血の繋がった兄弟……いえ、リアルワールド内で言うなら『姉妹』でしょうか。

 詳しいことを分かっていないと、この時点で察してもいます。


「ミイ、いいですか? 〈瞬き〉を覚えようとしたら、『敵の攻撃』に晒されることになります。いくらゲームとはいえ、痛みは(・ ・ ・)なくても(・ ・ ・ ・)攻撃を受ければ、衝撃は(・ ・ ・)あります(・ ・ ・ ・)


 ハルは真剣な表情で、ミイに話しかけます。


「マオと出会ってから、たくさん"鬼ごっこ"をやっているから、大丈夫じゃないかな?」


「えっ?」


 その言葉に固まったのはハルだけで、シアとキキは「ああ、そんな遊びもあったよね~」と言わんばかりの顔をしています。

 ここでマオのしていた『鬼ごっこ』は、普通のものとは全く違います。鬼が追うのではなく、鬼が『逃げる人を攻撃する』タイプのものです。

 ハルも中学に入学した後に、マオから受けています。そして、現在進行形でもあります。現実では軽く丸めた新聞紙を使っています。マオの指導の賜物か、ハルは現在までに両手の指では足りないほどの、暴漢・痴漢を退治しています。


「ミ……ミイ、お姉様は何と言っていましたか?」


「え~っと、『鬼ごっこ3級クリアです!』ってちょっと前に言われたよ?」


 ミイは首を傾げ、ハルに答えます。この3級は、柔道などに置き換えると『初段』に相当します。ただ、マオが関わっている以上、なんの格闘経験のない男性ではミイに(・ ・ ・)勝てません(・ ・ ・ ・ ・)


「ミイは、強い──ってこと?」


 今まで背景のモブと化していたキキが、話の中に加わってきました。突然の乱入にハルは少し驚きましたが、キキは鼻息を荒くして興奮していました。


「そうですね……"回避"それだけに専念したら、キキとシアの攻撃は当たらないでしょう。──条件次第ですが」


 ティルグルス戦でハルが何も出来なかったのは、自身との体格の"差"が原因です。そうやって話に花を咲かせながら準備を進めます。

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