第七十三話 混ぜるな危険! 混ぜた結果!?
更新が遅くなり、申し訳ございません。
実は飼っていたペットが、亡くなりました。
家に来てからも数年は経ち、歳だったのですが……。
システムに認められた【刻印・魔導紋】それの完成それは、黒竜との戦いの準備が進んだという証であり、新たな"生産技術"の誕生でもあります。
しかし、この魔導紋を刻み、効力を確認した時点で『ある問題点』が発覚しました。
「──結構、やんちゃですね」
この言葉はある事実を突いています。ですが、正しい言葉でもありません。
「やんちゃ、じゃじゃ馬、利かん坊──色々と、例えられそうだね~」
キルステさんの言葉が、全てを表しているようなものです。その理由は至って簡単です。
「この〈魔導紋〉を刻むだけでも、〈生産系上位スキル〉が"3つ"も必要だったのが──痛いですね」
ボクの隣では一緒に作業していたキルステさんが、腕を組んで頷いています。その際に、自身の胸が強調されていることに気付いた様子はなく、その顔には「厄介だね、コイツ」と書かれています。
その理由は簡単です。
「ああ、"裁縫師"と呼ばれる私ですら、〈服職人〉〈彫金師〉〈宝飾師〉の3つが上位スキルになってなかったら、使えなかったところだよ!」
そう、キルステさんは『上位スキルを3つ、偶々所持していた』ことで、使用できたのです。
この【刻印・魔導紋】の最大の欠点は、〈生産系上位スキル〉3つ、という使用可能レベルの難易度です。普通、生産職を目指す人は『主体の生産スキル』と『補助的な生産スキル』しか取らず、そうなると必然的に補助スキルの方は低レベルであり、3つ目のスキルは取らないことが多いのです。
唯一の例外が、レインさんのような『特化鍛冶職人』と、ボクの行っている『多角的職人』です。
前提条件以上に輪をかけて、こちらの方が厄介でしょう。
『1つ間違えると、武具を失う』
この事実は生産職にとっては、最も忌避するべきことです。試しに数が多かった『鉄のナイフ』(弟子作)で実験したので助かりました。ちなみに失った数は、30本を超えます。
──この失敗品は、消滅してしまう運命です。
そのようなイレギュラーがありましたが、今回の生産作業は"成功・成功!・大成功!!"と言える仕上がりになりました。
まあ、途中で素材が足りなくなって、ユウキに暴君竜帝の戦闘情報をリークをした対価に素材を集めさせたり、ミイたち4人が暴走して暴君竜帝を"トカゲ狩り"と称して乱獲いることを、他の生産職仲間に聞いて驚いたりと、予想外のことが度々起こりました。
「やっと──完成しましたね!」
ボクはこの1週間を振り返り、感慨深く思いました。本来の予定は2~3日くらいでした。今回は、『予定は、未定』という言葉について考えることになりました。
そんなことになった、主な原因は──
──レインさんが、竜骨を食べたがったり
──レインさんが、こっそり竜骨を食べていたり
──レインさんが、いつのまにか竜鱗をかじってしまっていたり
──レインさんが、竜の肉で『焼き肉パーリィーじゃ!』と言い出したり
──レインさんが、竜骨と竜牙を混ぜ、新しい竜鍛金棒を開発したり
と、レインさんが色々と行った結果、倍以上の日数がかかりました! 当然ながら、そんなことばかりしているレインさんには、キルステさんの"怒り狂う般若"がお見舞いされました!!
──いや、他人事ながら怖かったですね!!
現在、作製した武具は彼女たちに渡しています。双斧、包丁、ガントレットを新作し、魔導弓にも手を加え大幅な性能アップ実現! それにともない、防具の方も色々と新調・強化されることになりました。
その新装備を着たボクは現在、レインさんの工房の1室で"優雅な一時"を過ごしています。このソファーは『エルメド』という、羊型のモンスターのドロップアイテムで作られた、現存数がまだ少ない高級家具の1つだそうです。
当のエルメドはとても脚の短い、ダックスフンドがモコモコした感じ──と言えば、幾分伝わり易いでしょう。
高級ソファーで"ぐで~"っとしていると、偶然通りかかったキルステさんは言いました。
「魔王様、くつろぎすぎ……じゃない?」
今のボクの姿を客観的に見ると、うつ伏せに寝転び、腕を頭の方に力一杯伸ばした状態です。ちなみにしっぽは、股の──脚の間で"だらりん"と垂れています
「そうは言いますが、ちょっと前に防具の作製が終わったところなんですよ……」
ボクは頬を緩ませ、疲れた筋肉を休ませます。頬に当たるエルメドの羊毛から作製したカバーは、絹以上になめらかで、触り心地抜群です!
──素材を持ってきてくれた、ユウキに感謝ですね!
「──まあ、そのソファーの依存性は私だって、重々承知しているけど……」
そういい「チラリ」とソファーを盗み見します。ボクは無言でレバーを『ガコッ』と動かし背もたれを倒します。
「ご一緒します?」
自分の転がっている隣を指差します。それは"魔の誘い"。
フラフラ……っと、キルステさんは近寄ってきます。そっと手を触れたら、もう大変! 体をす~っと横たえます。
「あ~~、もうダメ! 動きたい気が、全くしないね!」
"だら~ん"と垂れた2人。全く知らない者が見れば、恐らく"姉妹"に思うでしょう。でもここは鍛冶士連盟で、ボクのことをよく知るものたちの巣窟です。
そのまま小1時間ほど、2人で寝転んでいます。肌に当たる"心地好さ"が眠気を誘い、いつのまにかうたた寝をしていました。
「魔王様、ここにいたッスか!」
大急ぎで来たのでしょうか。部屋の入り口から中を覗き込んだコカ君は、激しくブレた後ボクの視界から消え去りました。しかし、ボクもそうですが、キルステさんも一緒に寝ていたので半寝惚け状態でした。
「……何──ですか……?」
ボクは目を擦りながら、周囲を確認します。突然背中に『ふにょん』という柔い感触がしました。その感触の持ち主はキルステさんで、どうやら寝覚め寝覚めが悪いらしく、さらに抱き付きグセがあるようです。
「キルステさん、ボクは抱き枕ではないですよ?」
「……魔王様? 温かくて、柔らかい──お休み」
ボクの髪に顔を埋めて、クンクンと臭いを嗅ぎます。あ、そういえば──【桜の薫りフレグランス】とやらを、キルステさんに昨夜吹き掛けられたのでした。
──匂いに慣れてしまって、気にしてなかったです。
そのまま倒れ込むキルステさんに引っ張られ、再びソファーに横たわります。そのときボクたちに向いている視線を感じました。




