第七十一話 混ぜるな危険! 炉の魔改造と竜骨インゴット
活動報告では書かせていただきましたが、アルファポリス様で9月に行われた、Web大賞のファンタジー部門において、皆様のお陰で30日、23時の時点で"9位"という好成績を修めることが出来ました。
応援していただいた皆様に、心より感謝いたします!!
作品上での報告・感謝が遅れてしまい申し訳ございませんでした。
とある町の、誰も知らない・知られていない秘密の場所。
その場所で、完成した工房内を笑顔で見回すのは、ボクとレインさんの2人です。ボクたちの顔には、『ヤりきった!!』という文字が浮かんでいそうなほどの、達成感に浸っています。
──実際のところは、『ヤりすぎた』が正しいのでしょう。
「さてぃ、魔坊よ! やるかのぅ?」
いつもの悪人面に強面要素が、プラスされてしまったレインさん。これは、予想以上に怖いです!
この場に彼を、全く知らない人がいたら、勘違い必死ですね!
そんな感想を押し殺して、ボクは目の前で稼働している、魔改造した新型炉を見つめています。
「そうですね。"新型の感応型魔導炉"の稼働は問題なさそうですからね!」
周囲には、ゴウンゴウンという音に混じって、"カラカラ──"という音が響いています。その音の主は、半生半死の状態で走っています。
止まったら"死んでしまう"と言うように、全力で走っています。
その走っている主は、何を隠そう──
「コカく~ん! もう少し頑張って下さいよ♪」
ボクは明るく声をかけ応援します。自分から進んで、走者になったコカ君はエールを気にする間もなく、走り続けます。
手を抜いて──いえ、"足を抜いて"でしょうか? そんなことをすれば、彼は大変なことになるとその身を持って体感しています。故に彼は全力です。
「ふむ。炉の温度もなかなか高くなってきたのぅ」
炉の周囲の温度はかなり高く、レインさんは汗だくです。そんな中で片腕を組み、アゴヒゲをワシャワシャ弄ってるのですから、見ているこちらの方が暑いです!
現在のボクの姿は、『フード付きのローブのみ』という、かなり薄着になっています。今回、リアルワールドだからこその経験をしました。
まだ、この世界では『砂漠地帯・亜熱帯地帯』が発見されていないせいか、初めて『装備の中で、熱気が溜まり蒸れる』という事態に遭遇しました!
そんな状況で、フル装備は厳しいので、今は最低限の装備のみです。回避主体のボクの装備は、ミイと比べてもかなり性能は低いです。(ミイの服は、必要に応じてカスタムしていたので)
今は防具を考えている最中ですが、暴君竜帝で作る装備──主には体装備になりますが、通気性を保湿・保温性をよく吟味して作製しようと考えています。
「もう少し、高温がいいかのぅ……」
如何にも悩んでいます、と言うように呟いているレインさんですが、その指は既にスイッチを『ポチ』っと押しています。
コカ君の背後からは新機能、【脱兎くんMK2】が起動する音が響いています。カコカコと小さな音が響き、壁の部分が開きそこからマジックハンドが出てきました。
今回の新型の【叫べ! ワシのタマスィ!】は、前回使用していたドラム型の『走れ! メ○ス君!』から、部品交換がしやすいように仕様変更を行いました!
新しい動力機構『駆け抜けろ! メ○ス君!』へとグレードアップしています。もちろん型もドラム型からルームランナー型に変わっています!
性能はなんと! 当社比200%以上!! という破格の変換効率になっています!
原因が、ボクとレインさんの腕が上がったことに加え、正直に言うなら『悪乗りした結果』というあまり誇れない真実がありますが、これはボクたちの心の中で封印しています!
「マジックハンドの位置は、もう少し下でしょうか?」
マジックハンドが掴んでいるのは、コカ君のお腹、正確には『横っ腹』です。
「アハハハハハ! やめるっスよ!」
笑いながら走るコカ君は少し不気味です。そんなコカ君を横目に、炉のシステムウィンドウを開き、マジックハンドの位置の調整を行います。
タッチウィンドウを触り、ついーっとマジックハンドの位置を移動させます。その間、ハンド部分はコカ君の横っ腹をフェザータッチで、腰に向かっています。
「いっ、イヤァァァァァっスよ!!」
どうやらコカ君は、横っ腹を触るかどうかで撫でられるのが嫌なようです。実際、走る速度が上がっているので……。
「おいぃ、魔坊よ!」
「そうですね♪」
お互いが言葉少なく、アイコンタクトを行うことで、意思疏通を行います。
ボクはマジックハンドの位置を、ベルト部分の後ろ3分の1より手前ぐらいで固定します。これにより、少しでも遅くなれば、横っ腹にマジックハンドが触れそうになります。
「どっちにしても、イヤァァァァァっスよ!!」
必死になって逃げるコカ君。早く走るほどに、炉の温度は上昇します!
「結構、炉の温度が上がりましたから、これでどうでしょうか?」
周囲は、陽炎が出来そうなほど暑く、むしろ熱いくらいです!
ボクはポーチから取り出した、扇子をパタパタ動かし、少しでも涼を取ろうとしますが、風が温すぎます!!
「のぅ──コ坊のヤツは、さっきから全力疾走してないかぃ?」
ヒゲをワシャワシャしながら、汗1つかかずボクに尋ねます。何故なのでしょうか?
「ルームランナーには、ボク特製の"魔石回路"を仕込んであるからです。回路名はそうですね……レインさんが分かりやすく、【自動回復路】 でどうでしょう?」
ボクの言葉に暫し沈黙し、考えるレインさんですが基本的に難しいことは覚えない方なので、あっさりと同意します。
「うむ! それで良い! 簡単でいいぞぃ!!」
少しは考えて欲しい気もしますが、下手に考えると斜めにズレそうなので、考えない方が良さそうです。
キルステさんの話では、『ゲームの起動方法を覚えるだけで、知恵熱を出した』と聞いています。普通なら信じませんが、レインさんである以上、ありえないわけではないでしょう。
「それでは竜骨・中を、炉の中に入れますね!」
アイテムボックスから出した、2mに近い竜骨を炉の中に放り込みます。時間が経つにつれ、投入した竜骨・中は赤くなってきます。
どのくらいの時間が経つったかは分かりませんが、赤くなってきた竜骨は徐々に、紅く変色してきました! その変色が綺麗なこと! ルビーと思いそうです。
「魔坊よ、温度が低すぎる!」
「では、2つ目のスイッチを押しましょう!」
ポチッとな!
ガキョンガキョン……意味深な音をたて、出てきたのは『ザ・薬』です。これは以前使用していた、薬の上位互換に当たります。
まあ、名前はレインさんがつけたので、相当酷いものになっています。
ブスっ!
コカ君のお尻に注射針が刺さります。
「あっ! 狙いがズレてしまいました!!」
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁッス!!」
内心「ヤってしまいましたね」と思いながらも、注射器内の薬液が体内に注入されるまで、じ~ぃっと見つめます。
緑色の液体が全て注入されると、『スッポン!』と小気味良い音を鳴らし針が抜けます。
シャァァァ────ガララララララ──
今まで以上に、高速でコカ君の足元のベルトが回転します。
コカ君に打った薬は強壮剤ならぬ"狂走剤"で、レインさんの命名『ただ、走り続けろぃ!』という効果そのものが名前になりました。
「これ以上は許して欲しいッス!!」
「なんのことを言っているのですか?」
そう言って教育的指導を続けます。そんなボクとコカ君のやり取りを、全く気にしていない御仁が1人頷きます。
「うむぅ! こんなもんじゃろう!」
コカ君が早く走ることにより、炉の中へのエネルギー供給が満足に行われ、炉から発せられる熱は今まで以上に高くなります!
ボクの額からは、汗が止まることなく溢れてきます。ポーチからハンカチを出し汗を拭いますが、すぐに汗が流れてきて"焼け石に水"状態です。
「これは本格的に、冷却系の魔導具を作製しなくてはいけませんね……」
扇子で風を起こしても全然涼しくないです!!
──そのとき、ボクの脳裏に1つの魔導具の姿が浮かびました。
レインさんの様子を伺いながら、ボクは脳内でどのような形状で作製するか、アイテムの効果・性能を思い浮かべます。
幸いにも、ティルグルスの素材があるので、その素材で骨子を構成するのもいいかも知れません。その過程でより高性能の装備を作るための、アイディアが生まれるかもしれないですし──。
「魔坊よ! この状態なら頑丈さと、切れ味が両立するはずじゃ!!」
レインさんの振るう鎚で竜骨は、金属のようなインゴットの形状に変わっていました。赤い──いえ、深紅のインゴットです。このインゴットに至るまでに、『最も硬く黒い状態』と『軽く透明な状態』があります。
さらに、ボク専用となった【根性竜入棒】のような、『剛性と柔性』に加え、『伸縮性』を持つ状態があるそうです。
竜骨が如何に、ファンタジーな素材であるかを示しています。
「それでは試しに〈錬金術〉を使って、さらなる製錬を行ってみますね!」
レインさんの作り出した深紅のインゴットは、ボクの製錬により"真紅のインゴット"に変わりました!
「ほぅ、さらに凝縮された感じじゃのぅ!」
ジョリジョリとアゴを撫で、ボクの製錬したインゴットを見ます。一通り確認をすると、「暑いなら、隣で作業せぃ」と言って槌を担ぎ、炉に向かいました。
ボクの魔改造した【相槌打つくん】と鎚を合わせ、「ガハハハハハハ!! たぎるぞぃ! 昂るぞぃ!!」と豪快に笑い続けるレインさんを横目に、隣室にある作業場に避難するのでした。




