第七十話 混ぜるな危険! 魔王様は進化する?
9月29日 誤字の修正をしました。
文章の追加をしました。
10月1日 誤字の修正をしました。
根性竜入棒を振りかざし、レインさんを壁まで吹き飛ばしたキルステさん。その手の中で鈍く輝く、ドラゴタック。
「(裁縫師として有名ですが、普通に戦闘職としてもやっていけそうですね)」
ゲームの世界だというのに、ボクは額から汗が流れ落ちるのを感じました。そんな彼女から好意を寄せられている(であろう)コカ君。
本来なら『リア充爆発しろ!!』とか、『リア充、許すマジ!!』と言った怨み辛みをかけられるでしょうが、彼女の戦闘力を知ったらどうなることでしょう?
「(ボクはどちらにしても、『武運を祈ります』としか言えません!)」
キルステさんという女性と(ゲーム内で)交際する──ボクには、"死なないで!"としか言えません。
もし、キルステさんが"ヤンデレ系"の素質を持っていたら……「御愁傷様です」と笑顔で言うことしか出来ないでしょう。
そんな風にキルステさんを眺めながらも、コカ君の介抱しています。ポーチの中から取り出したのは、『特製気付け薬』と『特殊ニオイ消し』です。
まあ、ニオイ消し自体はブ○スケアの液体版というだけですが。意識のない状態では、固形だと飲めないでしょうし。
「(味覚にダメージがあるのは申し訳ないですが、自分だけが感じるニオイよりはましでしょう)」
飲ませたコカ君の口からは、爽やかなミントのニオイが漂ってきます。次に飲ませるのは"気付くんです!"になります。
例により、酷い味に関しては改善しきれていませんが、味覚不全のコカ君には問題ないでしょう。
ごきゅ、ごきゅ……
小瓶の中身をすべて飲み干したコカ君。もう少ししたら薬の効果が出て、目を覚ますはずです。
………
……
…
5分後、無事にコカ君は目を覚まし、時を同じくして、キルステさんの攻撃からレインさんは復活しました。
ふと、ボクは
『暴君竜帝の攻撃では死なないかも──』
と無体なことを思いました。
「ガァハハハハハ!! 中々の一撃じゃった! 武器の性能とキルステの成長を見れたこと、頑張ったかいがいるわぃ!」
ピンピンとしている目の前の御老体が、2・30匹程度のモンスターに倒されるようには思えません。
──まあ、スキル構成的にはボクよりも、圧倒的に前衛向きまなのですが……
「レイン爺、もう少し他人にかかる迷惑ってものを、考えてはくれないかい?」
大人しく注意しているように見えて、対面に座っているキルステさんの背後には、"怒り狂う、般若般若"の包丁を幻視しているのはボクではないようです。
コカ君にも見えているようで先程から、ガタガタ震えています。
「ガァハハハハハ! 無理じゃな!!」
反省の色無し。毎度のことながら、コカ君の"巻き込まれ体質"には驚くばかりです。
「頑張って下さい(元凶の片割れのセリフではありませんが)」
「だったら、親方を止めてくださいっスよ!!」
涙目になるコカ君と、そんなコカ君を見て溜め息をつくキルステさん。ボクの脳裏には『キルステさんへの"恋心"を捨てられたらはやいのですが──』と、彼の恋を応援できません。
「それじゃあ、魔坊専用に作ったドラゴタックについてじゃが、6本分の精錬が最高本数じゃろう」
「それは、〈鍛治〉において──と言うわけでしょうか?
それとも"精錬"という行程に関してでしょうか?」
「分からんがのぅ、恐らくは『竜骨という素材』にかかっている制限ではないのかのぅ?」
アゴヒゲをワシャワシャ撫でながら、自身の推測を話します。確かに、現時点での"竜系種素材"の流通の無さからすると不思議ではありません。
ボクの視線は、机の上に置かれているドラゴタックに向かいました。
「それにのぅ、ドラゴタックにはもう1つの隠し性能がある!」
ニヤリとキメ顔で笑うレインさん。ここにいるメンバー以外が見たら、裸足で逃げ出しそうです。
「なんと!! 伸縮自在なんじゃ!!」
ドンドン! パフパフ!
何処からともなく聞こえてくる音を無視して、レインさん以外の視線がドラゴタックに集まります。
「1m~4mまで自在に長さを変えられる! これでおそらく、近・中距離での戦闘において、多大な効果を発揮するじゃろう!」
嬉しいことには間違いないのですが、1つ問題があります。
「──レインさん、ボクが生産職なのを忘れてませんか?」
「魔王様、あんたとチームメンバーの活躍からして、その言葉は通らないよ」
呆れたようにボクに突っ込むキルステさん。
「そうっスよ! むしろ魔王様は"生産職の皮を被った凄惨職"ってところっスよ!!」
そんなことを言うコカ君には、再教育が必要なようです!
ニイっと唇が吊り上がるのを感じます。
「──そういえば、ドラゴタックを作るときに、【合鎚打つ君】を使用したんじゃないですか? 問題点があるなら、今のうちに改善・工夫しようと思うのですが?」
ボクの言葉を聞いたレインさんは、片方の唇を吊り上げました。その笑みは『我が意を得たり』ではなく、『待ってました!!』と言ったところでしょうか?
「そうかぃ!! なら、発電効率と充填効率を上げることはできるかのぅ?」
明るく答えるレインさんに対して、ボクの顔は黒くなっていることでしょう。しかし、これも"至高を目指す上での通過儀礼"なので仕方がないですよね♪
「分かりました。今ある素材と、新鉱石があったらいただけますか? 1~2時間くらいで改造します」
笑顔で答えるボクと、驚愕の表情のコカ君、呆れ顔のキルステさん。一番喜んでいるのはもちろん、レインさんなのは言うまでもないでしょう。
「そうじゃのぅ、最近ワシが開発した『魂魄感応鉱石』なんかどうじゃろう?
──無論、製法は秘密じゃぞぃ?」
ゴトっと机の上に置かれた"ソルリットストーン"を触り、様々な情報を入手します。その時に『こっ、これは!!』という閃きが、降りてきました!!
「以前話に出ていた、『感炎応石』はまだありますか? あと、感応熔鉱炉で使用した魂応石の在庫はどうですか?」
ボクの言葉に首を傾げたレインさんですが、すぐに在庫を思い出してくれました。
「一杯あるぞぃ! 利用先が意外と多いのでな!!」
その言葉に、ボクの脳内は高速演算を行い、より進化したシステムを考え出しました!!
確認することを終わったら、レインさんと一緒に工房に向かいます。コカ君の逃走防止に、ボクを担いできた男たちにレインさんが監視を指示します。
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とある施設の奥に、予想も出来ない設備がありました。それを知るのは、作製者たる"魔王様"と協力者である"レイン"そして──動力源の"コカ君"3人だけです。
その施設が魔改造されている様子は『異様』と言った方がいいでしょう。中学生より背が低く、顔も幼く幼女に見える少女と、厳つく、怖い顔の老人。
孫と祖父くらい離れた2人は、「こうして、あれを……」とか「なるほどのぅ」と言った言葉が、室内に響いています。
「レインさん、これを10cm円に伸ばしてもらえますか?」
「任せろぃ!」
トンテン! カンテン!
工房内に響く鎚の音。2人は笑っていますが、その印象は正反対でしょう。
──老人からは、恐怖を。
──少女からは、不気味な無邪気さを感じられることでしょう。
1時間……2時間と時が過ぎるにしたがい、心臓が圧迫されるような苦しさと、諦めきれない「……どうして?」という気持ち、胃に関してもキリキリと悲鳴を上げて苦しいようです。
「どうなるんっスか? 自分は──」
そんな想い人たる男性を見つめる女性。
「まったく。コカのやつは、『口は災いの元』って言葉を知っているんだろうね?」
愚痴とも、心配ともとれる言葉を呟いています。
時間というモノの長所は『必ず、進むこと』であり、短所は『決して、停まらないこと』・『訪れること』・『戻らないこと』です。
死刑執行まで、あと少しです。
ガチャ────
罪人のいる部屋の扉が開かれました。
「お待たせしました、コカ君♪ すべての準備が整ったので、工房に向かいましょうか?」
笑顔で話しかける"魔王様"ことマオ、その傍らには"狂震の神鎚"と呼ばれ、青年の師匠たるレインの獰猛な笑顔があります。
「──ああ────」
青年は成す術もなく、連行されていきます。その様に、「ドナドナが聞こえてきそうだった」と後に語られたのは、必然だったのでしょう。
──その悲鳴は、誰の耳にも入りませんでした。




