第六十八話 混ぜるな危険! レイン爺の無双!!
今回は複数回の視点移動があります。
9月25日 鍛治で使う釜の説明を加えました。
マオとキルステの2人が、部屋の中で作業をしていたとき、"鍛冶士連盟"のギルドマスターであるレインと、彼に連れ去られたコカ君はどうなったのでしょう?
─Side:コカ───────────────
自分は今、親方に引っ張られ──もとい、拉致されたようなものっスよ!
目の前にいる親方の体からは、目に見えない"何か"が溢れ出しているようっスよ!
「──親方、何を抱かえているんっスか?」
自分は親方の腕の中にある、白い物体を指差したっスよ!
「ガァハハハハハ!! 魔坊から、実験にと譲り受けた『竜骨』じゃ!」
楽しそうに笑っているのはいいんっスけど──自分が悪人面だと理解しているんっスかね?
「わかったっス。準備をするっス」
そう言って自分は、作業に必要なものを並べ、準備万端にするっスよ! もし、"足りない"となったら『楽しみにしている親方に』どんなお仕置きがされるのか──
予想つかないっスよ!!
入念に準備物の確認をし、自分が使うことになる道具のチェックも時間をかけ行うっス!
30分ほどで全ての準備を終わったので、親方を呼びにいくっス!
「──親方、準備が整ったっス!」
呼びにいったときの親方は、『心の此処に在らず』といった感じで、件の竜骨を眺めているっスよ!
それを見た自分の背中に大量の冷や汗が、全身に悪寒が走ったっス!!
──それが、真実として自分に襲いかかってくるのは、ほんの少し後ってだけだったっす!
──────────────────
直弟子であるコカに準備を指示し終わった鍛冶士連盟のギルドマスターであるレインは、マオから渡された"竜骨"を見て闘志を燃やしていた。
「(ガァハハハハハ──このワシが、これほど昂らされる素材をポンっと出すとは、流石──魔坊ということか)」
その太い指で竜骨の表面を撫で、現実と変わらないであろう感覚に酔っています。しかし、初見で彼の表情を見た人がいたら、楽しみで笑っているのではなく、『捕食者の顔』に怯え、逃げ去ることでしょう。
──現実のレインの顔は、アバターに負けないくらい、厳つく恐いからです。
「(それにしても──竜骨をどう調理するかじゃなぁ)」
無言で「ペロリ」と唇を舐める様は、完全な捕食者の顔に他なりません。不幸中の幸いは、こんなレインを見た人がいなかったことでしょう。
過去にコカが目撃して、恐怖の余り気を失ったことから見ても、その恐怖のほどは分かると思います。
「(ふむぅ~どんな味がするんじゃ?)」
カプっと口の中に竜骨を入れます。軽く歯を立て、舌で舐めます。
「んふぉ!!(なんとアッサリ! チキン味じゃ!!)」
実際にアイテムとは言え、"骨"を食べる人はいません。それなのに、そんなアイテムに味の設定をしたのは誰なのでしょうか?
「くちコリ、くちコリ(それだけではないぞぃ? そう、昔に食べた『クロコダイル』を思い出すのぅ)」
そんなこんなで、あっという間に1本目の竜骨を味わい尽くします。コカが、準備を終わらせたときには、20本あった竜骨は半分になっていました。
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その頃のマオとキルステの2人は、マオの織り上げた【竜絶布】について論議していました。
「これって、このままマントやローブとして使った方がいいんじゃない?」
キルステの言葉に、マオは静かに顔を振ります。その頭の動きに引っ張られ、狐ミミも左右に揺れ動きます。
「実は今回、ハル専用の武器には『今までにない機能』を与えたいのです! その始まりとして、────」
マオの構想が語られるにつれ、キルステの顔は牝豹のように鋭くなっていきます。
レインと似たような表情なのは、血筋故でしょうか? そうだとしても、その表情には"女の色気"というものが窺えます。
「成る程! だったら────」
キルステはマオの構想に対し、自身の経験からにのアドバイスを行います。それは、現時点のマオでは届かない頂きです。
………
……
…
2人の話し合いがある程度纏まったときに、キルステはあることをマオに切り出しました。
「魔王様は、ウチのお爺ちゃ──レイン爺の癖を知っているのかい?」
机の上に体を預け、マオの方を向くキルステの胸は『ぐにゅうぅぅぅ』っと潰れ、その質感を強調させています。マオは頬を赤く染め、視線を明後日の方向に向けて答えます。
「ええ──ボーン系の素材を"食べてしまう"と──」
その言葉を聞いたキルステは、マオの渡した竜骨の量が妙に多いことに気付きました。
「ああ、それで素材を多めに渡したわけかい」
納得したと言わんばかりに頷くのでした。
そのあとも2人は、和気あいあいと楽しそうに会話を続けました。その内容のほとんどが、装備品に関することなのは、ご愛嬌でしょう。
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─Side:レイン
ワシは今、魂から燃え上がるような昂りを感じておる。このゲームに誘ってくれた、たった1人の愛孫に感謝の念しかないわぃ!
数十年と鎚を振るってきたワシの肉体じゃが、寄る年波には勝てんかった!
──齢80になるまで、鎚を振るえただけ儲けもんじゃろう。
「コリャァ!! コ坊! もっと気合いをいれんかい!!」
このゲームの世界で、ワシの弟子となった者は多い。今や"鍛治四聖"と呼ばれるに至ったものや、目の前にいるコ坊のようなヤツが筆頭じゃが──。
「親方! 文句言わないで欲しいっス!」
全身汗だくになりながらも、全力で動き続けるコ坊じゃが、この程度の炎じゃ温い!! 温すぎる!!!!
そんな温度じゃ、【燃えよ! ワシのタマスィ!!】が満足せん!! ワシの相棒は全長10mに及ぶ火釜の部分から筒が延び、走車部に繋がっておる。
形は──そう、孫が昔飼っておったハムスター? とやらの小屋に入れていた『コロコロするもの』を大きくしたのがついておる。
魔坊が言うには「走車部に人が入り、走ることにより空気を釜の中に送り込みます!」という説明だったと思う。
コ坊は全力だろうが、まだまだ足りん! これでは、熱するだけで限界じゃろう……。
「──仕方ないのぅ。コレを使うか……」
気が進まんが、大・変・遺憾じゃが──鍛治のために『鬼』となろう!! ワシの顔が壮絶な笑みを浮かべているのは、知らんふりじゃ!!
ワシの指は、魔坊謹製のいや、禁製の『脱兎くん2号』のスイッチを押した。
ガコン!
ウィィィィンという金属音を響かせ、3本のトゲが壁から現れた。そのトゲは尻・背骨・首の辺りに当たるように、魔坊により調整されておる。
「ちっ──ちょっと、親方! それは無しっすよ!!」
逃げるように速度を上げる姿を見て頷く。少し、火力が上がったようじゃ。
コ坊の叫びを無視して、炉の中に入れた"竜骨"の状態を確認する。先程よりも高温になった為、竜骨が赤くなってきておるが、まだまだ火が弱い!!
──ワシは心を鬼にして、更なるスイッチを押した。
当然、顔にはより深い笑みが浮かんでおる。
ワシが押したのは、魔坊禁製の補助装置『走れ! メ○ス君!!』のスイッチじゃ!
この装置は、コ坊の上半身を完全に固定し、顔を特殊なマスクで覆い、腰の部分には『絶倫・絶走くん』という持久走向けの薬を射つらしい。
ガショイ~ン! ガシ! ブス!
「──いや~~ぁっス!!」
まだまだ行けそうな、元気ある声(絶叫です)を上げるコ坊に対し、さらに早く走るように指示をする。
薬の効果はすぐ現れ回転速度が上がり、火が大きく吹き上がる。
「ガァハハハハハ!!!! これじゃ!! この反応じゃ!!!!」
炉ないの竜骨が真紅に染まってきた! さらに昂る魂の叫び!!
ワシは、半身たる鉄槌【荒ぶる、ワシのタマスィ!】を手に持つ。さらに熱く、魂が燃え上がる!!
「これからが!! パーリィーじゃ!!!!」
歓喜に奮えるワシの肉体は、「鎚を振るえ!! 魂の赴くままに!!!!」と叫び続けておる!!
無論じゃ!! ここで萎えては、ワシの存在意義はない!!!!
ワシは、オリジナルスキルである〈燃え荒ぶる肉体〉を発動させ、【荒ぶる、ワシのタマスィ!】を天高く掲げ、全身の力をもって振り下ろす!!
カ~ン カ~ン カ~ン
鍛治場の中に響き渡る、鎚の音! 堪らん!!
「ガァハハハハハ!!!! これじゃ!! これじゃ!!!!
これこそが、ワシの求めたモノじゃ!!!!」
ワシの身体中に若き日の、今もワシを支えてくれておる愛妻と出逢ったとき、あのときの若き血潮がこの身を焦がす!!!!
──今は、心の底からこの充実した一時に浸ろうぞ!!!!
「親方~~!! 自分を忘れないでくださいっスよ!!」
なんか聞こえた気がするが、そんな事よりもコッチが先じゃ!
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コカの心の叫びが届いたのでしょうか? マオは、レインの出ていった扉を見ます。
「どうしたんだい? 魔王様」
「──いえ、一瞬なのですが、コカ君の叫び声が聞こえた気がしまして──」
その繊細な指で、銀髪をクリクリと弄るマオに、ちょっと興奮させられながらもキルステは聞き返します。
「何か、思い当たる節があるのかい?」
マオはキリッとした表情でキルステの顔を見ます。
「ボクがレインさんに頼まれて、『脱兎くん2号』と『走れ!メ○ス君!!』を作ったのですよ」
とてつもない不安に襲われたキルステは、詳しい話を聞いて、深いため息をつきました。
「──コカ──生きて帰ってくるんだよ?」
ゲームである以上、本当に死んだりはしませんが、それでもコカの無事を祈るキルステでした。
………
……
…
「ガァハハハハハ!!!! 待たせたのぅ!!!!」
レインが2人目の前に帰ってきたのは、それから2時間後でした。コカに至っては、半生半死の状態だったと言っておきます。




