第六十六話 混ぜるな危険! 魔王様と鍛冶士 その1
9月24日 ~ボクのミミ~に付随する文を変更しました。
現在ボクは、鍛冶士連盟のギルドマスターが召集した、男たちに担ぎ上げられています。いつもの見慣れた景色ではない高さに、戸惑ってしまいます。
「──そのまま作業場まで、突撃じゃ!!」
「「「「へい!! サー!!」」」」
テレインのギルマスである、レインさんの声に続き、ボクを担いだ男たちは建物の中に突撃します。
受付らしいテーブルを通りすぎるとき、座っていた女性と視線が合いました。その視線は、「いつものことです。諦めてください」と言っているように感じました。
──そして、ある部屋に着いたらボクは下ろして貰えました。
「「「「魔王様! お疲れ様でヤス!!」」」」
男たちはボクを下ろした後、サッと部屋を出ていく様は慣れていました。
「──さて、魔坊よ。どのような武器の構造にする?」
黒板らしきボードの前に座ったレインさんは、ボクにそう話を切り出します。そんな彼に対しボクは、初めての経験による"悪酔い"を起こしかけ、正常な対応は無理な状態でした。
「まったく、レイン爺は手加減を知らないのかい?」
そんなレインさんに声をかけたのは、20才くらいの女性でした。その顔には呆れが見えています。
「なんでぃ! ワシはこれでも『優しく』連れてきたわぃ!!」
その女性に対して、睨み付けるように反論します。
「魔王様の顔色が悪いでしょ? 『荒々しく、運んできた』が正しいのではなくて?」
その女性は、胸を挟むように腕を組みますが、その仕草は"自身の大きな胸を押し上げる"効果しかありません。
ちなみにそのときのボクは、アイテムボックスから状態異常回復薬を取り出し飲んでいます。スッとした爽やかさの後、体を包んでいた倦怠感は霧散しました。
心持ち落ち着いたボクは、近くにあったイスに腰かけます。それにいち早く気付いたのは、女性の方でした。
「おや? もう回復したようだね?」
こう言ってはなんですが、レインさんと何処か似た雰囲気を持っています。
「はい。お手製の薬を飲みましたから──。
すみませんが、貴女は?」
ボクの意識が、自分に向かったのを感じたのでしょう。組んでいた手を片方だけ解放して、胸に手を当てます。
「私は"裁縫師"のキルステ。魔王様を連れてきた、レイン爺に呼ばれたんだよ」
そう彼女、キルステさんが紹介しました。ボクの背後にいたコカ君が、「キルステさんは、親方の実の孫っスよ!」とボクに耳打ちしました。
「"裁縫師"──聞いたことがあります。最近、最高級に当たるローブを作製しましたよね?」
「おっ! 魔王様に覚えて貰ってるなんて嬉しいな!」
キルステさんは、レインさんを彷彿させるような、『ニカっと』した笑顔を浮かべます。本当に4分の1も同じ血が流れているのは不思議なくらい、顔付きが違います。(雰囲気自体は似ていますが)
「こんなナヨナヨした姿だが、キルステはトップクラスの布製防具の作り手じゃ」
僅かばかりレインさんの纏う空気が、柔らかくなります。もっとも、その悪人面が完全に打ち消していますが──。
「武器から作るんだろ? 武器の柄に巻く布はどうするんだ?」
キルステさんは早速、作業の確認に入ります。
「その前に、『竜骨』が使えるのかを確認してからですね」
ボクはテーブルを中央に寄せていただき、その上に各種素材を1つずつ並べました。
内容は────
暴君竜帝の牙
暴君竜帝の爪
暴君竜帝の竜鱗
暴君竜帝の表皮
暴君竜帝の竜骨(各サイズ)
暴君竜帝の頭蓋骨
以上が大まかな、ドロップアイテムになります。
初めての素材を目にした2人は、大きく息をつきました。ボクはその中で一番数の多い、『竜骨(小)』をレインさんに差し出しながら、あるお願いします。
「レインさんは、この竜骨がどのような性質を持っているのか、調べて貰えますか? 結果次第では武器の変更を視野にいれないといけませんので──」
ボクはレインさんに『竜骨』の調査をお願いしました。それは、ギルド"テレイン"の中で唯一、骨を使用した『ボーンシリーズ』の作製をしているからです。
このボーン系の素材は、加工手順を1つ間違えるだけで、くずアイテムになってしまうからです。
「──そうじゃのぅ、コイツは結構じゃじゃ馬らしいのぅ」
テーブルを竜骨でコンコンと鳴らし、 その太い指で表面を触っています。一番小さい骨と言っても、大きさは20cmくらいはあります。
隣ではキルステさんも、その繊細な指で竜骨を触っています。その仕草に"色っぽさ"を感じるのは何故でしょう?
「レイン爺でも文字通り『骨が折れる』んじゃないの?」
キルステさんの言葉に、立派なアゴヒゲを撫でながらも、素材から目を離しません。
「たしかにのぅ。今まで使っていた『骨』は、スケルトンがメインだからのぅ──。
──魔坊、いくつか貰えんかのぅ?」
瞑っていた片目を開け、ボクを見つめます。元々、一定数の量を渡す予定だったので、問題なく頷きます。
「数は『20本』でいいですか? 数があると言っても、素材には限界がありますので──」
「ガァハハハハハ!! 問題ないわぃ!!」
太い腕を組み、大声で笑うレインさんですが、顔が恐いのに変わりありません。むしろ、拍車がかかっているように感じるのは何故でしょう?
隣に座っているキルステさんも、心持ち離れているように思います。
「──自分の悪人面を理解しているのかな──」
ボソッとキルステさんは呟いたようですが、獣人種でありボクの頭の上に鎮座するキツネミミには届いています。肯定も、否定も出来ないボクは、曖昧に笑っているだけでした。
「作業に行ってくるぞ!!」
バタン! と大きな音をたて、扉が閉まるのですが……。
「──ちっ、ちょっと! どうしたんっスか!?
親方! 襟を引っ張らないで欲しいっスよ!」
扉の前で話の終わりを待っていたコカ君は、暴走したレインさんに連行されて行ったようです。
扉の向こうから、「ガァハハハハハ!! パーリィーじゃ!!!!」とメチャクチャたぎったレインさんの声が聞こえてきます。
「(原因の言う台詞ではないですが、武運を祈ります──)」
そんなコカ君の事を「仕方がないヤツね……」という表情で聞いていた、キルステさんの様子にボクは気付かないままでした。
「──それでキルステさんには、コレを巻き布に使えないか……調べていただきたいのです」
ボクはある物を取り出しました。




