第五十五話 竜域を目指そう
この話で今章は終了になります。閑話を挟み、新章に入ります。
8月26日 誤字の修正をしました。
ミイが魔導弓で放った火の矢は、的にしていた丸太を黒こげにしました。この結果は先程、丸太が縦回転した時点で分かっていたことです。
「問題ないようですね。属性による副次効果で、火は火傷・水……正確には氷は凍結・風は貫通力強化・土は行動阻害──が加わる可能性があります。
属性付加の矢に関しては、ギルド"弓弓志"の掲示板から流用しました」
このリアルワールドにおいて、全ての生産スキル持ちは『生産総合掲示板』に登録しています。裏を返せば、「未登録=生産職プレイヤーでない」と考えられており、圧倒的に情報面で遅れをとります。
登録すれば、数千に及ぶと言われる情報を無償で得られます。ただ相応の対価として、自身も確立した技術の一部を公開しなくてはいけません!
マオも、基礎技術の掲示を何度も行っています。もっともマオ自身が、トッププレイヤーになろうとかの思惑はないので、他のプレイヤーより情報・技術量が圧倒的に多いのは言うまでもありません。
それ故に、マオはこう呼ばれています。
『魔王様は生産者』
──それは、確立した技術が多いのに加え、非常識装備を産み出したことが背景にあります。
今回の『魔導弓・魔導銃』に関しても、ある程度は開示しています。
「──この『ATK+200』って、高い方なの?」
今回はたくさんのギルドの成果から、武器を作製したことを話したからでしょう。
「ボクが知っている範囲では、最高が……350だった気がします。名前も姿もそのまま『破城鎚』と言います」
「そんなの持てないんじゃないのかい?」
ミイと会話の最中にシアが、会話に加わってきました。
「その通りです! これは携帯武器ではなく、攻城兵器ですから──」
その画像を見たときに、『その名に偽りなし』そう心の底から思ったマオです。
「個人で使える武器では、『大戦斧』で230くらい……『破鎚』という名の大鎚が260と、掲示板に載っていました」
それを聞いたシアは「この弓って弱いのか?」と不思議に思いました。確かに攻撃力だけを見れば、低く感じて当然でしょう。
「弓の威力は、どのくらいなの?」
「そうですね──ボクの知っている範囲では、100~120だったと思います。掲示板に載っていた限りなので、実際はもう少し高いでしょうが……」
ミイの質問に答えたマオの数値を聞いたシアは、自身の抱いた感想が間違いだと思いました。どうしても未だにコスト面では、割高になってしまう弓はまだまだ、避けられてしまいます。
マオが、突出した性能の弓を創るので、弓の開発環境が整い、徐々に弓の使用者が増加してきていますが、全体の1%──初期生産ロットの100万人の内、サブを含めて1万人がいいところです。
「この魔導弓は、弓の中で"最強"ってこと?」
「一概には言えませんが、ボクの知る限りでは最高の攻撃力を持っています」
ミイは弓を軽く上げ、マオに聞きます。マオも150越えの「弓が完成した!」という話しは、今の時点では聞いていません。
「────いいな」
本人はボソッと呟いたつもりでしょうが、マオやミイたち亜人系の種族を選んだ者たちには聞こえました。マオは声のした方を向き、キキにナックル装備を渡しました。
【マーダーベア・ハンド】 ATK+100 セットボーナス ????
「攻撃力だけを見ると弓より低いですが、未発動の『セットボーナス』があるので、効果次第では強いハズです。装備してみてください」
キキがマオから渡された「マーダーベア・ハンド」を装備すると、未発動だったセットボーナスが発動しました。
セットボーナス クマっ娘:マーダーベアの装備で全身を包んだ少女におにゃの子に与えられる称号。『ビーストモード』でリアルクマに、『アニマルモード』でゆるいクマになる。
効果:『ビーストモード』では、VIT・DEFが大幅アップ↑↑ 理性大幅ダウン↓↓
『アニマルモード』では、STR・AGLが大幅アップ↑↑ 理性大幅ダウン↓↓
キキから話しを聞いた限りでは、かなりピーキーな能力であると分かりました。どちらになっても、理性は低くなるようです。
自分で作った装備の歪さに、少し考えたマオでした。
「──これは、タンクかアタッカーによって、変身モードを選べば……『活躍間違いなし!』と言うわけですね」
マオは顎に手を置き、何故か納得しています。
ちなみに変身結果は、ビーストモードでマーダーベアそのモノに、アニマルモードで何処かで見たことがある、ゆる~いクマになりました。──タレそうです。
「これが……攻撃力が高いって納得いかない」
キキはそう言います。変身する当人にとって、ゆるクマなのは思うところがあるようです。実際に可愛い姿だったので……。
「──これで、装備は皆さんに行き渡りましたね? 慣れるために、竜域手前まで行きましょうか!」
突拍子のないマオの行動に、少し戸惑いつつもすぐに動く準備をするのはやはり、慣れなのでしょう……。
一時間後、出発の準備が終わったマオたちは、北門の前まで来ていました。竜域に行くには、北門を出た先にある『無の砂漠』を越える必要があります。
「これから北の荒原を抜けます。抜けた先に"無の砂漠"と言われる、砂漠があります。
その砂漠の中央付近に、『ピラミッド』のような建造物があるそうです。第一の目標地点はそこにしようと思います」
マオは、これからに予定を説明します。
「中継地点はあるのでしょうか?」
「ユウキから聞いた情報では、そのピラミッドにあるそうです」
マオはハルからの問いかけに答えます。ピラミッドに着くまでが、大変なのは言うまでもないでしょう。もちろん荒野・砂漠用の外套は装備した上で出発します。




