第五十四話 新兵器・魔導弓
新兵器『魔導銃』による、一斉解放の予想外の威力を見て一番驚いたマオですが、ミイに与えた『魔導弓』の説明がまだなのを思い出したので、何とか取り繕って説明を始めました。
「──さて、魔導銃が想定外の威力でしたが、ミイに与えた『魔導弓』の方も相応の自信作になります」
コホン!と軽く咳払いし、マオはミイの魔導弓に話しの先を向けます。
「(ねぇ、今のマオの行動って──)」
「(はい。間違いありません)」
ミイとハルは視線で会話しています。
「「(話しを、すり替えようとしているよね・しています)」」
マオの行動の裏を的確に読んだ実妹と、リアルワールドでずっと行動を共にしてきたミイには通じていませんでした。もっとも、シアとキキの二人はあの一撃の跡を見て「おお!スゴい!!」と、ちょっとズレたの感想を持っていました。
「ハルの魔導銃には『バースト』を、ミイの魔導弓には『チャージ』が組み込まれています。どちらが使いやすいかは、本人次第になりますが、相応の威力があります」
マオの言葉に、ミイはその手に持っている魔導弓を見ます。何度説明を見ても、そんな記載はありません。
「何度確認しても分からないと思いますよ? 性能ではなく機能に当たるので──。
チャージの使い方は簡単で、弦を引いたまま『矢』に魔力を込めるだけです。時間はだいたい五秒くらいです」
そういうとマオは、大岩を同じ場所に設置しました。
「MP消費量は3%で威力は3倍固定です。ただし、攻撃属性と防御属性により、ダメージが増減します。
属性効果について、ミイはしっかり理解していますか?」
マオはミイに、確認の意味を込めて問いかけます。
「うん。火・水・風・土の四属性と、光・闇の二極だよね?」
「その通りです。属性による強弱に関しては、覚えていますか?」
マオはさらに詳しい説明を、ミイに求めます。
「え~っと、『火は水に弱く、風に強い』、『水は土に弱く、火に強い』、『風は土に強く、火に弱い』、『土は水に強く、風に弱い』で間違いないよね?」
ミイの答えに、頷き返します。
「最後は、二極だよね。『四大属性に干渉せず、互いに打ち消し合う』──これで、問題ないかな?」
「ええ、パーフェクトです。さらに最近は攻略組の一つ、"魔導師連盟"により、三つの属性が発表されました。
それは、『煉獄』『絶零』『天轟』になります」
マオは、ミイの回答に満点を与え、拍手します。
「お姉様、それは〈精霊魔法〉で使えるもの──なのでしょうか?」
ハルが気付いたところは、魔法を使う人にとっては、大変重要な問題になります。
「──結論だけを言うなら、『使えます』が……現時点では、どうやったら使えるかは分かっていません」
マオは何やら、含みがある言い方をしています。何か抜け道があるのでしょうか?
「それでは、魔導弓の試射をしてみましょうか。第一射は、この丸太を狙ってください」
マオの言葉を聞いたミイは、弓に矢をかけます。キリキリっと張りつめた音が、マオの耳まで聞こえてきそうです。
「せい!」
シュコンと軽い音を鳴らし、丸太が回転しました。
「「「「────はい?」」」」
その場にいた四人の声が、綺麗に重なりました。マオ自身予想外の威力に驚いています。流石、ATK+200は伊達ではないようです。
ドゴン! と音を立て、地面に激突する丸太にマオは、吹き飛ばされて転がるモンスターを見た気がしました。幻視であることを祈ります。
「──予想以上ですね! 他に誰もいなくて良かったです!」
慌てて取り繕うマオでした。実際に貸切状態だったことが、不幸中の幸いですが、このままで終わらせる訳にはいかないので、試射を継続します。
「──次は、魔法の矢を試してみましょう!
使い方は簡単、思考操作を使い属性を決めます。後は弦を引けば、矢の形状に自動でなるはずです」
サラッと、気になることを耳にしたミイは、マオに確認します。「大丈夫なの? 暴走しないよね?」とその目は訴えかけています。
「それは、無いハズです! 弓の形にする前の実験では、問題なく作動しましたから」
マオはサクッと、否定します。今までの作品で、失敗作と言えるモノはなかったのが、断言した理由となります。
試射自体はしていないものの、メイン回路が完成するまで何度も、起動実験を繰り返しているのです。
「ちなみにコレが、組み込む前の基礎回路のスクショになります」
マオがポップしたのは、一枚の画像でした。大きさは3cmほどで、色つきの水晶が並んでいます。よく見ると色は、赤・青・黄・緑と各属性を模しているようです。
「この色の並びって、属性の強弱?」
画像を見たミイは、色の並びから答えを導きました。
「そうです。この基礎回路を持ち手の境目に融合し、弓の内部に作った『高純度魔力鋼』のラインで、各属性の魔力をスムーズに流せるようにしています」
ミイが魔導弓を見ると、持ち手の近くが少し膨れています。おそらくココに融合してあるのでしょう。
「まあ、詳しい説明は面倒なので、試射を行いましょう」
マオがそう告げると、ミイは弓を構えます。弓に魔力を込めて、弦をゆっくり引きます。
掴んだ弦を中心に、基礎回路から紅いラインが三角形に延びてきます。限界まで引くと、そのラインは一本の矢と成りました。
「せい!」
ヒュボッ!!
放たれた紅い矢は、丸太に命中すると燃え上がり、生木を炭に変えました。それを見たマオは、喜んでいます。




