第五十二話 訓練結果の確認 その1
8月15日 脱字の修正をしました。
新装備の披露を行った翌日、マオは四人を引き連れギルド内にある『訓練場』に来ました。周りを見回しても誰一人いません。
それは当然、ある理由があります。この訓練場は、『HP・MPが0にならない』という特殊フィールド扱いだからです。もっとも『スキル経験値が入らない』というスキル制ゲームにとっての大欠点があり、現在の利用者はいません。
「わぁ~おぅ。貸し切りだね~」
ミイはガランとした訓練場を見回し、少し驚いています。
「──此処までに来る前に話した通り、利用者は『0』です。さらに理由の一つとして、『教官』などがいないこともあります。
一番の理由が、リアルワールドは各武器・魔法はシステム補正により、かなり簡単に使えます。その補正があるから、誰でも似たような動きになります。」
「──それでは、私たちの行った『特訓』は……」
ハルの言葉を聞いて、マオはニヤリと笑いました。
「ハルの予想通り、四人に課した特訓は『画一的な動作』からの"脱却"が目的だったのです!
特訓の後半は、対人戦闘を主軸におき、より『画一的な動作』から離れるように仕向けました」
彼女たちは、なぜ模擬戦をするようにマオが指示したのかを知りました。竜域攻略も視野に入っていますが、特訓を行ったメインの目的は、リアル時間で二日後のイベントにありました。
まだ内容の告知はされてませんが、どんなイベントでも対応出来るように、戦闘方法を体で理解させる方法を選んでいました。
「──俺たちは、強い?」
キキはその辺が気になるようです。マオはその辺をハッキリ言うか、悩んでいるように感じられます。
「──ある一定ラインまでなら、余程のことがない限り、負けないと思います。そうですね、良くても二戦級(トッププレイヤーの直ぐ下のプレイヤー)に勝てたら儲けものでしょう」
マオがそう言ったのには、きちんとした理由があります。
一つ目が、実践経験の少なさ……戦ったモンスターの種類が少ないことです。現状ミイたちが出合い、戦ったモンスターは多く見ても『50種類』くらいだと、以前マオは確認しています。マオも多くて60種といったところです。
二つ目が、対人戦闘が少ないことです。回数は組手のお陰でそこそこありますが、対戦人数が圧倒的に少ないからです。
「トッププレイヤーに勝てないのは分かるが、その下のプレイヤーに勝てないってのは、どうしてなんだい?」
「一戦級、二戦級とわざと分けていますが、実際のところ……それといった差は無いんですよ。正確に言って、『プレイヤーレベルが高い方』が"トッププレイヤー"と言えます。
皆さんに慣れていただいた、『システム補正』が小さい状態で戦えるからこそ────ハル、どうしましたか?」
マオの話しの最中に、ハルは意見があるのか手を上げました。
「お姉様の話しだと、ユウ兄はどうなるのですか?」
「ユウキたちは、間違いなく"トッププレイヤー"です!
ボクが手合わせした感じでは、システム補正が『小』の状態とボクは判断しました。
動きはとても滑らかで、動作と攻撃の切り替えが、現実並みにキレイです。サキやリオも同様に、動きに違和感が無かったです」
ユウキたちに対するマオの、過剰なベタ誉め。面白くないのは当然でしょう。そんな彼女たちの心情を、あえて無視するかのようにマオは、「もし、違うというなら──かかってきなさい!」と言うように掌を天に向け、クイっと挑発しました。
一番早く、攻撃に移ったのはキキでした。たった三歩で最高速度に達したキキは、右手を手刀の形にしてマオの喉を狙ってきます。いわゆる『地獄突き』でしょう。
「──遅い! 縮地を行うなら、一歩で最高速度にもってきなさい!!」
ポーンっと音がしそうなくらい軽く、キキの体は空を飛びます。満足な受け身も取れず、背中から地面に叩き付けられます。キキの口から「カハッ」と空気が漏れます。
「セイヤ!!」
ブーメランの形になった斧が、マオの胴体目掛けて飛来します。一歩下がることでやり過ごそうとしたマオの目の前では、走ってきたシアが近付いてきます。戻ってきた斧を一瞬で分解し、両手に携えて飛びかかってきます。
「疾っ!!」
左右から襲いかかってくる斧をスウェーでやり過ごしたり、ダッキングで回避して攻撃の軌跡を空中に描きます。
流れる攻撃の合間にシアの腕を掴みます。そこを基点に体を回転させながら、中腰になります。シアの体にピッタリと背中をくっつけ離れないようにします。掴んでいた腕は、肩の上に置き胸の前まで持ってきて締め上げました。
曲げていた膝を伸ばす勢いを利用し、腰にシアの体を感じたら空中に向かって打ち上げます。
ビタン!!
シアの体は半回転した後、大地に叩き付けられます。受け身を取れなかったシアは、地面とぶつかったお尻が痛そうです。
「──なるほど、動きは以前と比べ、段違いに良くなっていますね! 二人はこのままシステム補正が弱い状態で慣れ、いずれは『弱』でもその動きが出来るようにしましょう」
マオの口許は歓喜で緩んでいます。そして、その口から出た言葉により、シアとキキは更なる特訓が行われることになりました。
マオの視線は、動かなかったミイとハルに向かいます。
「──次は、二人の番です。ミイは昨日渡した弓を、ハルはこれを使ってください」
マオは昨夜渡さなかったハルの武器を、手渡します。受け取ったモノの説明文を読み、マオに顔を向けます。
その間にマオは二人と距離をとり、地面の上に石を出しています。その間合いは10mくらいです。




