第五十一話 新装備披露 その2
8月11日 誤字の修正をしました。
新しい武器をもらったミイを見て、視線で甘えてきたハルに苦笑するマオは、ポーチの中から武器を出すか少し悩みました。
ただ、ココで出して嬉しさの余り、暴発させてしまっては大変なので心を鬼にして口を開きます。
「ハルの武器もありますが、もしもを考えて明日渡そうと思います」
一瞬パッと輝いたハルの顔は、闇に包まれた夜空のように暗くなりました。もしかするとハルは、「実力不足のハルには、心配で渡せません」と受け取った可能性があるかもしれないです。
「ハル専用の武器とは言え、ボクが目指す目標性能には、現時点ではほど遠いです」
一瞬冗談かと思った面々ですが、真顔のマオを見て本気だと感じたようです。実際問題、これから向かう予定地の『竜域』には、現時点では到底入手出来ない"素材・アイテム"が、ゴロゴロしているでしょう。
マオの心は楽しみで堪らないようです。この10日で四人以上の戦闘経験を積んでいます。むしろ生産職でありながら、『一対多』の戦いを戦闘職以上に行っています。
「マオが作っている装備は、『対竜域装備』であり威力が高い分、扱いが難しい──というわけだ?」
「その通りです! 現在は竜域の存在を知っているのは、ボクたちを始めユウキたちを含めたトップギルド数組です。
情報源はもちろんボクですが、遭遇イベントの発生方法が分からず、立ち往生の状態らしいです」
マオの言葉に驚いたのは、当時一緒に岩山を登ったミイです。
「ウソだよね!? まさか……岩山が登れないってことじゃないよね?」
「情報の漏洩移行、なるべく対象者と接触しないようにしているので、ハッキリとしたことが分からないのですよ────」
マオは呆気なく、ユウキたちを「囮にした」と言いました。
「でも……ユウ兄はそんなこと、気にしないのじゃないでしょうか?」
ハルはユウキたちとも面識があり、リオとサキの二人とよく出掛けるので、色々と聞いているようです。
「ん?……ユウキは『情報源がボク』であることを、知っていますよ(笑)
装備を作るための素材集めにも協力してもらったので、チョロっと流しました」
少し唇を舌で舐め、ハルに笑いかけます。頭の上のミミがピコピコ動いています。
「まあ、今は竜域内のことは置いておきましょう」
手を右から左に動かし、マオは話しを切り替えます。
「(もしかすると──ボクたちが『竜域』に入らないことには、他の人は向かえなくなるのでしょうか?)」
ふと一つの仮説が、脳裏に浮かびます。それが正しいかは、誰も分かりませんが……。
「今回の装備は『仮想竜域戦』を考えて作製しましたが、まだ誰も竜域に行っていないので、どれ程効果があるのか分からないです。
──ですから明日は、朝早くからギルド内の訓練場で、皆さんの仕上がりを確認したいと思います」
マオはそう言い、さらにポーチから防具を取り出します。それは出来たばかりの、シア・キキの防具『マーダーベア・コートセット』でした。
「これまた、ワイルドな外見だな!」
「──毛、サラサラ。気持ちいいね」
シアは装備を着た外見を、キキは肌触りの感想を言います。マオが告げるマーダーセットの効果に、二人が驚いたのは当然の事でしょう。
「さて──その『マーダーベア・コートセット』に関しても、セットボーナスが発生します。それも二人にとって、とても利益のある効果です!
それは、〈物理耐性・微〉〈打撃耐性・微〉の耐性系スキルです!!」
「「!!??」」
「ふふっ……驚いたようですね! ボク自身もこんなスゴいスキルが付くとは、思わなかったです!!」
マオのこの言葉の通り、上位耐性と下位耐性が同時に付く装備は、数が少なく上位耐性である〈物理耐性・微〉が発生したモノは十に満たないです。これを多いと取るか、少ないとみるかは個人で別れるでしょう。
「下位耐性である〈打撃耐性・微〉は発生しやすいので、出ても不思議じゃなかったですが、上位耐性の〈物理耐性・微〉が付いてくるとは棚ぼたです」
マオの言葉に、ミイは手を上げます。
「耐性の『上位』『下位』ってなに?」
「掲示板情報ですが、〈打撃耐性〉のように何か一つに特化したものを『下位』、〈物理耐性〉は一つの指定ではなく斬・突・壊と平均的にあります」
「──じゃあ、どっちの方が役に立つんだ?」
シアは着替えたマーダーベア・コートセットの胸を、指先で軽く叩き尋ねました。
「検証ギルドの調べでは、『下位耐性』で15~45%くらいで、『上位耐性』だと10~40%らしいです。
上位耐性が優遇される理由は、下位耐性と合算される点です。同種の下位耐性は付くことがなく、数が増えるほど発生率は極端に下がりますから……」
シアの目は「どのくらいなのか?」と、マオに問いかけています。
「マーダーベア・コートセットは斬・突撃は10%、打撃が25%の減少になります」
ハルの視線が、シアとキキの防具に向かいます。
「お姉様──そうなると、このセット防具はいくらするのですか?」
マオは顎を指で叩き、考えています。
「──詳しくは分かりませんが、『2M』くらいでしょうか?」
その言葉を聞いて、ミイ以外のメンバーは沈黙します。
「え~っと……200万Gと、お姉様は言っているのです」
首を傾げるミイに、ハルが説明すると驚きます。
「す~~っごく高いんだね……」
そっと不安そうに、自身が手にしている魔導弓を見ています。




