第五十話 新装備披露 その1
装備が難産でした。装備の詳しい形状は少しあとで、書きたいと思います。
ミイの武器を作ったので、次はハルの武器を考えます。前回作ったのは『包丁』で、今はナイフ(食事で使うタイプ)を使い、投擲の訓練をしてもらっています。
「そろそろ、称号の獲得は出来たでしょうか?」
マオは何かを紙に書き出しています。まだ文章だけのモノですが、補足文などを見る限りは『銃器』のようです。ミイに渡した試作品は、単発式の中折れ銃ですが、現在描き出している図からはデザートイーグルなどの『オートマチック銃』のようにも思もえます。
「ベース構造はどうしましょう? 魔導銃(仮)のように『属性変更』は必要でしょうか?」
マオは悩んでいるようです。ハルに武器を使わせても、単騎で戦わせる気はないので、どの程度の護衛力を持たせるかが問題です。
最低でも自分くらいは守れないと、ミイの援護は不可能となってしまいます。でも、武器が強力すぎても同様のことが起きそうな気がします。
「威力を可変式にして、通常タイプを『ゴブリンを一撃で倒す』くらいが安全でしょうか?
それとも──」
マオは設計図を「ああでもない」、「こうでもない」と何度も書き換えています。形状・出力・連射性能──幾つもの項目を書き出し、削除・訂正を重ねます。
設計図が完成したのは、日が傾きかけ、そろそろ四時になる頃です。
「(──意外と時間がかかってしまいましたね……)」
くすっと苦笑いします。時間的な問題で、防具の方は後回しになります。服の形状も、仕様も決めていません。
取り合えず、ハルの武器だけは完成させましょう。
「──属性は無しにして、純粋な『魔力属性』にしましょう。発射形状は弾丸タイプと、閃光タイプにして──」
マオは次々仕様を決めていき、銃の形状も出来上がっていきます。形のベースは『すらりとした長方形』の銃身になりました。
銃口近くには、大きく丸い水晶が輝いています。現在の水晶は『青色』に淡く光っています。マオは何かを念じる様子をすると、水晶は『赤色』に切り替わりました。
「──ふぅ。 切り替えは問題ないようです。
設定した術式がきちんと作動するか……ここでは試すことが出来ないですよね」
マオは窓の外を見ます。空は黒色に染まっていて、街を呑み込んでいます。時間を確認すると『八時』を回っていました。これ以上の作業は不可能と判断したマオは、完成した銃をポーチにしまい込みます。
作業場を出たマオは、宿に向かい街中を歩きます。人々が活動する『眠らない街』──街灯(公式では魔法の光)が建物を照らし、闇の中に浮かび上がっています。
プレイヤーは、夜時間に活動するモンスターを狙い外に出掛けたり、成人した人は酒場でお酒を飲んで、騒いでいます。そんな街の中を宿に向かい歩きます。
部屋のなかでは四人がのんびりとしていました。ミイとキキはベッドに転がり、ハルとシアは腰掛けて談笑しています。
「あ! おかえり~マオ!」
「お帰りなさい、お姉様」
最初に気付いたのは、ドアに一番近かったミイで、その次はハルでした。シアは斧の整備をしているようで、近くの机の上には砥石や油が置いてあります。手入れ中のようです。
他のゲームでは耐久度の減少はありますが、切れ味が鈍ることはありません。しかし、リアルワールドは現実に則しているので、刃が欠けたり、切れ味が鈍くなったりします。その為、今シアのしている手入れが必要になります。
「遅くなりました……シア、斧の調子はどうですか?」
左右対になっている斧から顔を上げ、マオを見上げます。
「マオ──前よりしっかりと手に馴染むぞ! この双斧に付いている特殊能力もあって、今まで以上の動きが出来るようになってきた」
うんうん頷くシアの顔は、新しいおもちゃを手にした子供のように、無垢な笑顔をしています。シアの武器も変わっています。
【斬撃斧 マオ印】 ATK+55 シア専用 Bー レア ★★★★
↓
【鬼斬斧・双旋 マオ印】 マオにより、たった一人のために産み出された斧。強度的に他のプレイヤーが諦めた、特殊機構が付いている。モードは三種。通常の『双斧』、柄を組み合わせた『双斧戟』、「く」の字に組み合わせる遠距離の『飛双旋』に別れる。 ATK+80 シア専用 スキル〈筋力強化〉〈器用さ強化〉 ランクB+ レア ★★★★★
※鬼種族に特効あり。与ダメージ 一・五倍
両手に装備する以上、スキル〈筋力強化〉〈器用さ強化〉の二つが二重でかかります。さらに、軸芯の長さ・持ち手の形を厳密にシアの手形と会わせているので、扱いやすさは斬撃斧の二倍(当社比)の計算になります。
この双斧の面白いところは、近・中・遠とどのポジションでも似たような活躍が出来ることです。見た目は、片刃での「斬撃」、軸部分から伸びた反ったナイフによる「刺突」、斧の峰部分には固く・重く・変形しにくいと言う金属を使った「打撃」を使えたりと、かなり万能仕様です。
まあ、峰の部分で殴って『峰打ちだ!(ドヤッ)』とかしようモノなら、確実にワンパンキルになることでしょう。
「何て言うか……え~っと『何してもよし!』って感じが良いっていうか?──どういえば、いいんだろう??」
頭を掻きながらも、鬼斬斧を軽く持ち上げています。
「(その斧を作製したボク自身が持てない──と知ったら、どんな顔をするのでしょう?)」
そんなことをマオが思っているとは知らないシアは、頭を捻り考えています。実際に武器の作製や、修繕は出来ます。しかし、使用している金属が特殊であり、重鉄鉱を混ぜてあるので大変重いのです。
【剛力鉱】 鉱石自体に特殊な力がかかっている、稀少性の高い鉱石。入手率は低い部類に当たる。 ランクB レア ★★★★
※スキル〈筋力強化〉が作製した装備に、現れやすくなる。
その為、マオの生産特化のスキル構成では、持つことが出来てもも戦えません。そんなシアを放置したマオは、ポーチの中からミイ専用の弓を取り出しました。
コトン
「これがミイに協力していただいた、魔導銃(仮)の完成品になります。使い方は簡単に言うと、『矢を使う』『魔力を使う』の二種類になります。
──ああ、間違っても宿屋では引かないでくださいね」
「ありがとう! なんかスラッとした形だね!?」
二人の楽しそうなやり取りを、三人は眺めています。弓の性能を確認したミイが驚き、声を上げます。
「──!!? マオ!?コレなんかスッゴい性能なんだけど?
ATKが200もある……」
ちょっと困った顔が可愛く思えたマオですが、そんなことを表に出さないように気を付けています。
「ちょっとだけ『竜域』についての情報を入手したので、それ用に作製しました! 先制攻撃で『どれくらいダメージを与えられる』かが重要だと、わかりました。
おそらく──それくらいの性能がないと、戦闘が厳しくなると思うのですよね」
ミイが今まで使っていた『ラビットボウ・改』は、ATK+50で『魔導弓一式』の四分の一の威力になります。
実のところこの魔導弓一式は、魔法具的要素が威力の大半を占めています。
「──というわけで、その『魔導弓一式』はミイが〈精霊魔法〉を……詳しく話すなら、〈魔法才能〉を鍛えていくことを前提とした武器になります」
ミイは再度説明文を読んでいます。視線は何度も左右に動き、弓を持つ手が白くなり、力が入っていることを伺えます。全て読み終わったミイは目を瞑ります。
マオはテーブルの反対側で、ミイの行動を見ています。いえ、「見守っている」が正しいのでしょうか?
「(口を動かしているのを、気付いているのでしょうか?)」
マオはミイの行動を、ほっこりしながら見つめています。そんなとき、マオは自分の中の右隣から、睨み付けるような視線を感じました。
その視線の主は、ハルです。余程ミイの武器が羨ましいのでしょう。そんな彼女を見たマオは、「久しぶりの『甘えん坊モード』ですね」と内心笑っています。




