第四十八話 ベア装備は危険な香り?
今回から数話、作製中心になる予定です。
マオは、ステータス画面に表示される、カレンダーを見ます。明日でちょうど十日が過ぎてしまうので、今日は防具の生産を行う予定です。
いつも利用している作業場の個室……「何故、毎度空いているの?」と思いますが、空いていること自体ありがたいことなので、そのまま利用します。
「──えっと、乱獲したマーダーベアの毛皮・クマの手・クマの肝が各50個……結構狩ってしまったようです」
アイテムボックスから大量の素材を出し、自分の戦価を確認します。
あまりもの量にマオは個室にある小窓から、雲一つない青空を見上げます。ただ、作業場を使える時間は限られています。すぐに気を取り直して、作業にかかります。
「結構大きめの毛皮もドロップしたので、そのまま使いたいですね。──そうなると……コートタイプが一番でしょう」
そう言うとマオは、肩から下げていたポーチに手を突っ込み、ガサガサと漁ります。少しして取り出したのは、一枚の紙でした。片面にはびっしりと、小さな文字が書かれています。
「ありました! キキの測定表。失わない内に手帳に書き込みましょう」
更に取り出した手帳にはこう書かれています。
『マオ禁制 極秘ブック』
その手帳の中には、その筋の男たちにとっては、喉から手が出る程の禁制に当たります。
内容の一つには『四人の少女のアバターデータ』が記載されています。それも一mmの誤差もなくです。
手帳に書き込み終わったら、半紙をデリートしました。個人情報の塊だからです。
「最初の準備は魔鉱糸ですが、鉱石からの編み込みのときに、魔力を通したらどうなるのでしょうか?」
マオは〈錬金術〉を発動しながら、指先から魔鉱に魔力を注ぎます。コネコネと鉱石を混ぜ、鉱石全体に染み込ませます。
それを細くなるように伸ばします。イメージ的には『ラーメンの麺作り』が近いでしょう。
マオの指の隙間から、幾本もの糸が伸びています。流れるように空中を漂う糸は、時と共に数を増やしていきます。
一kgの魔鉱の全てが、糸になるのにかかった時間は『五分』もかかりませんでした。
魔鉱糸を糸車にくるくると、巻き取っていきます。この道具は自作した『一種の魔道具』になります。取っ手を持ち、魔力を込めます。
糸車の滑車?部分の中央には、直径五cmくらいの六角形の宝石がついています。この宝石は『マナ・クオーツ』といい、リアルワールド独自の貴石になります。
「それにしても、この『マナ・クオーツ』を発見した"テイマーギルド"『ヴァレンツェ』には感謝です!」
このクオーツは彼らが見つけたモノになります。『ギルド:ヴァレンツェ』はマオも名前くらいは知っています。加入条件については知りませんが……。
【マナ・クオーツ】 様々な効果をその内に宿す、魔力が結晶化した宝石。名前は全て統一で、効果の数だけ種類がある。
※効果の強さは以下の通り
三角形……10%増しの効果。
四角形……50%増しの効果。
五角形……100%増しの効果。
六角形……200%増しの効果。
となります。入手率は三角形は50%、四角形は35%、五角形は10%、六角形は5%になります。しかもこれらは、『形状と効果は選べない』為、完全な運任せになります。
マオの作った魔道具についているクオーツも、望みのものが出るまでに結構な採掘を行っています。
「ふ~んふ~」
鼻歌を歌いながら、カラカラと回します。作った糸を巻き取ったら、自作した『全自動機織り君』で布にします。
【聖骸布】 過剰な魔力により、普通ではない性能を持つに至った。 スキル〈物理耐性・微〉〈魔法耐性・微〉ランクB レア ★★★★★
他のプレイヤーで、作製した話しを聞いたことがない、スキルを持つ素材の誕生です。これが世に出回った瞬間から、生産職持ちのプレイヤーが追い求める素材になるのでした。
当の本人は『──ああ~、またやっちゃったようですね』と暢気なことを、問い詰めたユウキに言ったそうです。
「聖骸布をマーダーベアの毛皮の裏に縫い付けて、肌触りアップを狙いましょう!」
マオはパーツ毎に作製した布を、切り出した毛皮に縫い付けていきます。『腕』『上半身』『下半身』『脚』と分けて仕上げます。
上半身の装備はコートを模し裾の長さは、シアの分は膝上くらいで、キキは股の部分……お尻が隠れるくらいの長さにします。袖の長さは五分(肘の部分)くらで整え、折り返しを付け見た目も確保します。
下半身部分は、股下10cmの長さにして肌にピッタリと引っ付くスパッツタイプになり、ブーツ部分が膝上までガードするようにしました。
「──そういえば……ベアの肉球って、しっとりしていますよね?」
マオは、取り出していた『クマの手』の、肉球を触りながら言います。その触り心地は、猫の肉球と比べ少ししっとりとしているように感じます。
「もしかすると……滑り止めに近い効果があるのでは──?」
クマの手──前肢か後肢かの違いはあっても、両方とも肉球なので問題ないのでは?とマオは考えているようです。
試しに肉球部分を切り出したら、アーツ『乾燥』を使ってみます。
「アーツ『乾燥』」
【乾燥肉球 byマーダーベア】 乾燥したことにより、しっとり感がなくなり、ちょっと固く弾力が出た。昔の冒険者が丈夫なため靴底として利用していた。滑りにくく、少しだが衝撃を吸収する。
「──!? これは……非常に使い勝手が良いのではないでしょうか」
マオは乾燥肉球を複数枚作り、〈合成〉と〈純化錬成〉を駆使し、より高い次元での効果を産み出すことに成功しました。スリッパの形に形成した魔鉱塊に、クマの毛皮を錬成で融合させます。
魔鉱塊を伸ばした鉄板は、靴の爪先・底・脛の前面をカバーし、ダメージから使用者を護ります。
次の作製は、ガントレットになります。
「肌に触れる部分は『聖骸布』を使って──中層には軽鉄塊を伸ばしたものを外側に使って、最後は全体的にクマの毛皮で保護する形にしましょう」
内側の面は通気性の確保が出来て、より長時間の戦闘でも問題ないと、マオは判断しました。
「ヘッド部分の装備は、そのまま『クマの頭』を使っちゃいましょうか──」
マオはマーダーベアのレアドロップである、クマの頭をそのままに近い形で利用することにしました。
色々とギミックを組み込み、装備一式が完成しました。
【マーダーベア・コート】 マーダーベアの毛皮を贅沢な使い方で仕上げた、猟師すら欲しがる一品。 DEF+80 MDEF+60 ランクB レア★★★★☆
追記:マーダーシリーズを装備で、セットスキル〈物理耐性・微〉〈打撃耐性・微〉が発動。
【マーダーベア・パンツ】 見た目は超短パンだが、性能は大変よい。通気性と動きやすさは正に逸品と言えるだろう。DEF+60 MDEF+20 ランクB レア★★★★
追記:マーダーシリーズを装備で、セットスキル〈物理耐性・微〉〈打撃耐性・微〉が発動。
【マーダーベア・ガントレット】 打撃に対する保護性は非常に高い。外面に軽鉄塊を使用しているため、斬撃に対しても強い。DEF+30 MDEF+15 ランクB レア★★★★
追記:マーダーシリーズを装備で、セットスキル〈物理耐性・微〉〈打撃耐性・微〉が発動。
【マーダーベア・ブーツ】 滑りにくく、少しだが衝撃を吸収する。爪先部分も軽鉄塊で固めているので、爪先を傷めたりしにくい。靴底にも軽鉄塊が仕込まれているので、踏み抜き・突き抜けがしにくくなる。 DEF+40 MDEF+18 ランクB レア ★★★★
追記:マーダーシリーズを装備で、セットスキル〈物理耐性・微〉〈打撃耐性・微〉が発動。
【マーダーベア・キャップ】 レアドロップのクマの頭に、色々なギミックを搭載した、マオ自慢の一品。 DEF+25 MDEF+10 ランクB レア ★★★★ ギミック〈????〉〈????〉
追記:マーダーシリーズを装備で、セットスキル〈物理耐性・微〉〈打撃耐性・微〉が発動。
「ふぅ……二人の装備が完成しました。キキの武器はどうしましょう?」
マオの本音は「簡単じゃないと、使えないかも──」と言うところでしょうか?
「簡単な、ぶん殴り系が良いかもしれないですね」
似たようなことを言いました。
マオは再びクマの手を取り出します。
軽鉄塊と魔鉱塊を同量で混ぜ、手の甲を覆うように形を作り保護するようにし、指の外側を護るように可変型のナックルガードを作ります。
他の作りは、ガントレットと同様の手順で作製しました。ナックルガードの攻撃面には、クマの爪を〈錬金術〉で融合させます。可動は思考型制御装置を用いて、簡単な操作にします。
「(どれだけ簡単にしても、すぐに使いこなすことは……出来ないでしょうね──)」
そう思いながらも、少しでも使いやすくなるように、考えていきます。
爪の方も制御装置で、出し入れ出来るように指先の方に付けます。殴るときは『引っ込み』、引っ掻くときは『伸びる』ように設定します。
これで『打撃』『斬撃(正確には、引っ掻き)』の二種類が、簡単に使える予定です。ちなみに、ナックルガードに付けた爪は毛皮に隠され、外からは分からないようになっています。
手の平には乾燥肉球を融合することにより、滑り止めとして利用します。
【マーダーベア・ハンド】 正しく『クマの手』と言えるフォルムである。全身をマーダーシリーズで固めると、危険な香りがする……。 ATK+100 ランクB+ レア ★★★★☆
追記:全身をマーダーシリーズにすると、????が任意発動出来るようになる。慣れるまで、使用を控えることを薦める。
「(キキに渡して、大丈夫でしょうか? 周囲に被害を出さないように、気を付けましょう!)」
マオは自身の行動を棚に上げ、キキに注意を促そうと決意します。装備は、まだ半分くらい。残りも頑張ろうと、マオは気合いを入れます。




