第四十六話 マオの10日間・中編
マオは片手に先程作った『しな竹』を持ち、楽しそうに振り回しています。
竹竿がしなったり、真っ直ぐなまま振り下ろされたりと、様々な変化をつけています。時折出てきたモンスターには、魔力を込めたしな竹での一撃をお見舞いしています。
「何で……グレウルブしか出ないのでしょうか?」
マオが現在遭遇したのは、グレウルブのみになります。モンスター素材を集めたい以上、もっと奥地に行く必要性があるのでは?とマオは考え始めています。
薬草系の素材は、新発見も含め相応の数になっています。新しく見つけたのは『ハーブ系』で、半分は調合で使い残りはハルに渡し、料理に使ってもらうつもりのようです。
『キュルア~』
リュオが言葉を話したなら『あきた~』とか言っていそうです。鳴くリュオを撫で、マオはゆっくりと奥地に向かって歩き続けます。
一時間くらい歩いたのでしょうか? 何かの気配を感じたようです。マオとリュオは交互に左右を見回し、気配の元を探そうとします。
見つけたのは────
「オークでしょうか?」
豚と猪を足したような、醜悪極まりない顔と口から生える10cmくらいの牙。肌の色はピンクです。
樽っぱらとしか言えないお腹に、人の手に似た四本指の手──下は申し訳程度の、褌ならぬ黄ばんだ前掛け……体長は230はありそうです。端的に言って、
「──気持ち悪い、生物ですね」
そうなって当然でしょう。しかもよくあるパターンで、このオークたちは人間……主に女性を襲います。
そうなると当然、その習性を使った罠が一番効率的です。
そう『囮作戦(自分が囮)』です! 本人の心情的には「気が進みませんが、仕方ないですよね~」と諦め状態です。
「先に罠の準備をしましょう。
深さは10m・長さ10m・幅は2mで問題ないでしょう。底には木の杭を敷き詰めて──」
マオはウィンドウを開け、罠を仕掛けていきます。ピピッとタッチして、完成予想図とオークを見比べ──もう少し幅を広く変更します。
「3mもあれば越えることは出来ないでしょう」
一応、木の壁もトラップとして仕掛けているので大丈夫でしょう。──余程の事がない限り。
「リュオは魔法や弓を使うオークを、見つけ次第排除してください」
『キュア!』
リュオの返事を聞き、マオは配置につきます。
「キャァァァァァ!!」
大きな叫び声に、オークの群れはマオの存在に気付きます。マオは「ペタリ」と地面に座り込み、力無い仕草で後退します。ゆっくりとした移動は、背後に現れた樹で遮られます。
その光景に本能を支配されたオークは、何も考えずにマオの元に駆け寄り?ます。
マオは腕で頭を隠すように、体をぎゅっとします。不運にも、つい先程まで感じなかった、気配に気付かずマオはキーワードを言います。
「──このブタどもが!! 幼じ「トラップA発動!」──え?」
マオから50cm離れた場所から、地面が消失しました。
ガコン!!
無慈悲な音が、静かになった森の中に響き渡ります。マオも突然の乱入者に虚を突かれてしまい、残ったオークへの追撃を一瞬忘れてしまいました。
『「ふぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」』
人か豚か分からない悲鳴が森の中に響き渡り、休んでいた小鳥たちを驚かせます。バササッ!とあちこちから聞こえます。
「……………………どうしましょう?」
その問いに答える者はいません。
『キュルア!!』
静寂が支配する空間の中、リュオは、マオからの指示を忠実にこなしていました。
落とし穴に落ちなかったオークが全滅した頃に、マオが背を預けている樹木の奥から声が聞こえます。
「ハム殿~返事をしてくだされ~~!」
「ハム助!どこじゃ!!」
如何にも『オタク』というひょろひょろで、ゲームに相応しくない服装のプレイヤーと、髭の生えた小太りな『おっさん』が現れました。
どう声をかけたら良いのか、分からないマオはぽかんと二人を眺めています。
「おや? お嬢ちゃん、ロリコン・ハム助を見なかったかい?」
小太りなおじさんは、ハアハア呼吸を荒げ、マオに話しかけます。脂汗が流れているように見えます。
「そんなことより……姫、怪我はないでござるか?」
オタクっぽい、ひょろガリはメガネをクイっと直し、マオの前に膝を着けます。マオはその男の視線が何故か不快に感じ、ササっと体勢を整えます。
少し残念な顔をしたので、邪な視線だったのでしょう。気付かれないように、少しずつ距離を取っていきます。
「どうやら立てないようでござるな。どれ拙者が抱かえて、街まで送ろう!」
この時のマオの背中は鳥肌が立ち、いや~な冷や汗が流れいていました。マオの様子の変化に気付かず、オタク(仮)は近付いてきますが、一人?いえ一匹を見落としています。
『キュルオ!!』
ごいん!
リュオの生み出した石の塊は、オタク(仮)の頭にヒットして、彼を気絶させます。当たったときの衝撃を殺せず、そのまま穴に落ちていきます。
「オタ助!?」
とっさの行動なのでしょう。小太りのおじさんはオタク(仮)の腕をとっさに掴みます。万全じゃない体勢でそんなことをしたら……。
「ちょ!おぅ!!」
当然バランスを崩します。そこにカサカサっと軽い音を立て、リュオは体当たりをしました。
『キュア!』
ポイン!
リュオの体当たりでは、威力が低かったのでしょう。大きな影響を与えることは、出来なかったようです。
ですが、バランスを崩している上、更なる衝撃で小太りのおじさんは、落とし穴に落ちていきます。
宿に帰ってから、リュオを問い詰めたところ、『ゴブリンとオークを倒しただけ』らしいです。(ミイ談)
「──あ~これは、どうしましょう?」
マオは頭をポリポリかきながら、眉毛を『ハ』の字にしています。そんなマオにお構い無く、リュオはスルスルとマオの体を這って、定位置の頭の上に登ります。
マオがソッと穴の中を覗くと、三人はオークと○○○をしていました。
「──御愁傷様です」
多少なりとも、自身の従魔が引き起こした現実に、マオは何も言えず──ただ、黙祷を捧げました。
三人の心が無事であるように、心から祈るばかりです。
「気の毒ですが、オークだけ回収させていただきましょう。
リュオ、このポーチを持って回収をして貰えますか?」
『キュイ!』
頭の上で、頷く気配を感じました。スルスルと地面に降りてきたリュオに、特製のポーチを前肢から背中背負わせます。後肢にも同じように通し、両肢のお腹側にベルトを通し固定します。
「準備完了です!」
マオがそう言うと、リュオはカサカサっと地面を這って、落とし穴に向かいました。5分くらいで全てのオークを回収し、戻ってきました。
穴と覗くと、三人が杭の隙間に挟まった状態でした。あまり関わる気がないマオは、足音を立てずにその場を後にしました。
「さて──もう少し奥へ、探しに行きますか」
『キュオ』
リュオも賛成のようなので、更に奥地を目指し歩きます。




