第四十五話 マオの10日間・前編
夏休みが始まりました。学生のときは楽しかった記憶がありますが、成人して働く以上とてもキツイ季節になりました。
この夏休み中は、2~3日毎の更新+出来次第という流れになりそうです。
皆様も熱中症・脱水症状にはお気をつけ下さい。
7月20日 誤字の修正をしました。
翌日、朝日が登り皆に計画を話したマオは皆と別れ、リュオと共に西の森に来ました。この森の奥には、あの時に戦ったベアの生息地帯があります。
マオにとっては久しぶりの一人行動になります。
「~~ん~ふふん ふ~~ふん~ん~ふ~ん」
音程のズレたメロディーが聞こえてきます。頭の上に寝ているのでしょうか?リュオは大人しくしています。
【称号〈音痴な歌い手〉を入手しました】
メロディーを歌い始めて、10分くらい経ったころマオの脳内に聞こえてきました。
「──へぇ! こんな称号もあったのですね!」
怒るどころか感心しています。音痴なのを理解しているのでしょうか?
藪の方からガサガサ!!と音が聞こえてきます。
『ガァァァァァ!!』
飛び出してきたのはウルフでした。マオを襲おうと、藪の中から飛び出したのでした。
『キュルア!!』
リュオが種族スキルで、10cmくらいの小さな石柱を生み出し、ウルフの頭に向けて打ち出しました。
打ち出した石柱は『キュイン!』と音を立てて、ウルフの頭を撃ち抜きました。
「リュオ、ナイスです!」
マオはリュオの倒したウルフを、ポーチの中にしまいます。細かい作業は後で行うのでしょう。
ウルフをポーチにしまうとマオは、すぐに行動を開始しました。
「ふん~ふ~~」
また歌い出し、ゆっくりと歩きます。近くに生えていた、丁度よい太さの枝をペキっと折り、指揮棒のように振り回しています。
振り回された枝は『ヒュン! ヒュン!』と、鋭く風を切っています。
マオは枝を振りながら歩きます。その動作を繰り返している内に、某騎士のラ○トセ○バーが思い浮かんできました。
「枝を魔力で覆うと、どうなるのでしょうか?」
『キュルア?』
リュオは恐らく『何を考えてるの?』とでも、聞いたのでしょうか?
そんなリュオを一撫でしたマオは、早速試してみます。
パキッ
乾いた音を立て、枝は粉々になってしまいました。
「──もしかして……強度の問題でしょうか?
もしくは、素材の問題なのか──」
マオはリュオに周囲の警戒を頼み、身近にある素材を集めます。森の中の探索で意外にも、このリアルワールド内に『竹』が有りました。
「へ~……これは使えますよね?」
マオは目につく竹を刈っていきます。数が十分に揃ったら竹の枝を切り落とし、幹の部分を軸とします。
「──たしか、魔導具の『制御装置』があったと思うのですが……」
ポーチの中をガサガサと探し、目的のモノを見つけました。細々したモノも取り出し、準備が出来ると作業を開始します。
①竹同士を〈合成〉で掛け合わせ強度を、〈錬金術〉で純度を上げます。こうすることで、竹の性質がより際立ちます。
②純度を上げた竹の両端に、石突きするために接鉱石を純化錬成し、接練石にします。
【接鉱石】 生き物以外に対して、高い吸着性を持つ。
↓
【接練石】 接鉱石を純化錬成により、吸着性をより高めた。加工次第では、様々な利用方法がありそうだ。
③竹の節の仕切りを、棒で打ち抜きます。そこに魔鋼糸を網目状に広げます。竹筒の片方を接練石で塞ぎます。
④竹の空洞を埋めるのに、街で購入した普通の魔石をアーツ『粉砕』で粉々に砕き、錬成水に混ぜ筒内に流し込みます。
⑤もう片方も接練石で塞ぎます。中身が混ざるように、よく振ります。
⑥制御装置を竹の中央部分に当て、錬成で制御装置の埋め込みと、中身の固定化を行います。
⑦魔力がキチンと流れるか確認して完成です。
【しな竹】 名前と裏腹に優れた柔剛性を持ち、普通に棍としても使える。特筆すべきは、その柔性を用いた『バネ』としての利用方法にある。
接練石を両端に仕込むことにより、魔力を流せば簡単に吸着する。穂先があれば、槍や薙刀のような利用も出来る。 ランクC レア ★★★★ ※所有者の意思で、1m~3mまで伸縮する。
「久しぶりに予想していない装備が出来ましたね……」
そう言い、マオはしな竹を振り回します。マオの振る速度が速いのか、柔性が恐ろしく高いからか──弧を描くように、本体がしなります。
「魔力は込められるでしょうか?」
ゆっくりと魔力を注ぎ込みます。魔力を拒絶することもなく、竹の内部に張り巡らした魔鋼糸網が、魔力をしな竹全体に行き渡らせます。
『キュルオ!!』
魔力を込めるのに集中していたマオは、リュオの鳴き声でモンスターの接近に気付きます。
「!!?」
マオは気配のあった方向に、しな竹を振りかぶります。
ガコオン!!
『グアァァァ!!』
たまたましな竹の先で、モンスターの頭を弾きます。重い音を響かせ、モンスターは5mほど吹き飛びます。
吹き飛んだのは『グレウルブ』というモンスターで、地球に生息するハイエナがピッタリな表現になります。
吹き飛ばされ、木の幹にぶつかったグレウルブはヨロヨロと立ち上がります。先ほどの一撃が頭部に当たり、軽い脳震盪を起こしているようです。
「リュ──『キュルア!!』」
マオが指示を出す前に、リュオは小さな石柱を撃ち出しました。その石柱は、キレイにグレウルブの頭部を撃ち抜きます。
ハイエナっぽい外見だからこそ、マオは即座に周囲を警戒します。基本的にグレウルブは群れで行動するからです。
「──どうやら単独だったようですね。今のところ、似通った気配は……感じません…………」
険しい瞳で森の中を見回し、何の変化もなかったので、頭の上にいるリュオを撫でました。マオに撫でられるリュオの目は気持ち良さそうに、細められています。
マオはさらに奥地を目指し、歩いて行きます。




