第四十二話 マオの教育論?
予定より少しズレました。
7月13日 誤字の修正をしました。
7月25日 誤字の修正をしました。
辺りはすっかり闇に呑み込まれました。三人を照らすのは、焚き火と魔道具の灯りだけです。
その光の中、一人だけ泣きそうな人物がいます。
それはキキです。とてつもなく酸っぱい『解マヒポーション』を飲まされたキキは現在、うるうる涙目になっています。そんな事を気にせず、隣にいるマオは大きめの石に座って話を続けます。
「さて、マヒと言うものの恐怖を味わっていただきました。ですが、状態異常はそれだけではないのです」
ポケットの中から木の机を取り出し、その上にポーションを取り出します。ビンの中身の色、大きさ色々あります。
その中に紛れ、禍々しいモノが混ざっています。
「──あの……どうして、オレは縛られているの?」
現在キキは、地面に打ち立てられた木の杭に、後ろ手で縛られています。
「一つは『逃げない』ように、もう一つは『暴れない』ようにする為です」
理由を聞いたキキは、『聞かない方が良かったかも……』そう心の中で後悔しています。マオの方はニコニコ平常運転です。
「何故スキルが必要かは、言葉で表すより体験した方が確実に実感出来ます」
そう言うとマオは、一つのビンを持ち上げます。そのビンの中には、薄い赤色の液体が入っていました。
「これは状態異常『出血』を与えるポーションです。出血といっても本当に血が出るわけではなく、出血死にはならないので安心してください」
「それのどこが安心出来るんだ!」キキの瞳はそう訴えかけています。
「ちなみに先程のマヒポーションですが、実際飲むと柑橘系の味がします」
キキにとってはどうでもよい情報でありますが、何故そのようなことを言うのでしょうか?
キキは、マオの瞳を覗き込みます。そこには怯えている自分の姿が映っているだけでした。
「今から飲んでいただくポーションは、ストロベリーの味がします。美味しいですが『毒薬』なので、間違っても中毒にならないでくださいね」
しれっと危険なことを言いました。キキは「何故……そんなことを知っているの?」と顔に書いてあります。
「マオの考えで、私たち皆は体験している」
シアの言葉で注意すべきは『体験した』でしょう。
「──本当に?」
どうやら釣れたようです。彼女の未来に幸あらんことを祈りましょう。
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「──うぷっ──」
乙女と言えない呻きを上げ、キキは乙女の危機を乗り越えました。リバースは危険です。
「よく、全部飲めたよね~」
ミイは頻りに誉めます。実際のところ、三人の誰もが不可能と思っていたからです。
「?」
キキには彼女たちが誉める理由が分かりません。
「さて、状態異常について体験を通して、理解を深めていただいたと思います。耐性スキルがあると、状態異常や攻撃に対する抵抗力が上がるのです」
キキはマオの言葉を真剣に聞いています。キチンと聞いて理解しないと、マオのスパルタ式体験講座を強制的に受講させられることを理解したからでしょう。
「キキは完全物理特化の構成を、目指しているのですか?」
キキの『物理で殴る』からマオは、耐性系でスキル構成を固めた方がいいと思った様です。
「──ん。 オレは、難しいのは苦手。 シンプルが一番」
マオからしたら、スキルが奥深いから楽しく、複雑な絡み合いが一番なのでしょう。
「では──キキが選ぶスキルは、耐性系スキルを基盤にして構成した方が良いでしょう」
マオはポケットから、手帳を取り出しました。今着ている服と同じ、白い色のカバーがかかっています。
ペラペラと手帳を開き、あるページで止まりました。細かく、キレイで丸みを帯びた文字がびっしりと並び、隣のページには樹系図のような模様が描いてあります。
「重要度の高いモノから、〈マヒ耐性〉〈毒耐性〉〈出血耐性〉〈気絶耐性〉〈眠り耐性〉を初期の五つに選んではいかがでしょう?」
マオは手帳を見ながら、キキには習得スキルの提案をします。
「後は攻撃の補助的に〈闘氣術〉〈身体強化〉〈威圧〉で、戦闘に関する問題は消えると思います」
キキはマオの言葉に一つ一つ頷き、自身のスキルリストから選び出します。その中でキキは、一つのスキルに目を奪われました。
〈状態異常耐性・微〉
恐らくは、マオの『ポーションフルコース体験』が原因なのでしょう。恐ろしく便利なものを、悲しいくらい悲惨な流れで彼女は修得しました。修行僧もビックリです!
マオにそのスキルのことを話すと、構成の変更を始めました。
手帳と睨めっこして、悩んでいます。五分くらい悩んだら、マオは構成を再度提案しました。
「でしたら、〈状態異常耐性・微〉〈闘氣術〉〈身体強化〉〈刹那の魔眼〉〈威圧〉を主軸に、〈拳〉〈蹴り〉〈投げ〉を……。
これでほとんど、肉体的な慣れで問題なく使えるはずです」
そう提案しながらも、『多分キキには不可能なんじゃないでしょうか──』そんな失礼なことを思っていたりします。
それは近いうち──いえ、すぐに発覚してしまう未来なのかもしれません。




