第四十一話 彼女はおバカさん?
7月13日 誤字の修正をしました。
7月25日 誤字の修正をしました。
マオが挨拶をしたのですが、助けたプレイヤーは固まっています。まあそれも当然のことでしょう……二度も生死の境を、行き来したのですから。
そんな事を『関係ないよ!』的に、スキップで近寄られたら、発狂モノでしょう。
「──ひいぃぃぃぃぃ!!!!」
意識は覚醒しても、身体の自由は利かないようです。
『逃げたい』表情がそう言っています。そこはマオクオリティー、ニコニコと笑いながら近付いていきます。
「元気になってよかったですよ。
しかし、キチンとした装備じゃないのは、いけませんが……」
真横まで近付くと、マオは近くにあった石の上に腰を下ろします。ちょこん──そんな音が聞こえそうなほど、可愛らしい座り方でした。
「──? 何を震えているのですか?」
マオは首を捻り、助けたプレイヤーの顔を覗きます。
覗き込んだその瞳には、マオの顔が映っています。その視線は、瞳から体に徐々に流れていきます。
「──同じタイプですか────」
マオの呟きは、目の前の人物にしか届きませんでした。その言葉を聞いて、目を大きく見開いています。
そんな状態になったプレイヤーを放置して、マオはミイとハルを呼びます。
「──さて、彼女は僕と同じタイプのプレイヤーです。あ!スキル構成とかではなく、"性別補正"におけるおなじですが……」
マオの言葉に、三人とも驚きます。パッと見『女顔の男性』に見えるからです。
──最も、ある部分が淋しいからですが……。
「どうやって、女性だと判断したんだ?」
シアが一番の核心を聞きました。
「色々ありますが……一つの要因は、薬を飲ませた時です。
ボク自身が、ポンポン跳ね上げられたのを覚えていますか?」
三人とも頷きます。一番離れていたハルの目にも、跳ね上げられていたのが分かったからです。
「それがなに?」三人の瞳がそう語りかけているようです。
「考えてください。男性の方なら、基本的に物理偏重か、魔法偏重とか──意外と偏りやすいのです。
見る限り『物理で殴るタイプ』のスキル構成です。男性ならもっとパワー寄りになりそうですから」
マオの説明に一番唖然としていたのは、当のプレイヤーです。
「──スキルって何?」
その言葉に一番ダメージを受けたのはマオでした。
彼女──マオが聞いたら、『キキ』と名乗りました。
「──えーっと、『ステータス』と言ってください」
何のことか分からないなりにも、マオの指示通り動きました。
開いた自身のステータスに驚きながらも、のんびりと動きます。マオに対する警戒心は、少し薄れたようです。
「は──い?」
キキのステータスを見たマオは、唖然としました。理由は簡単。
『スキルを何一つ持ってない』
のです。これは予定外、それとも予想外?どちらでも良さそうです。
「貴女は……チュートリアルをしなかったのですか?」
「何それ?」
無表情で淡々とした話し方。きっと目覚めたすぐは、現状確認の為警戒していて、口調が荒くなってしまったのでしょう。
しかし、スキルがないという問題に、何も感じていないのでしょうか?
マオはキキに対して、『放っといたら危険!』そんな言葉が浮かびました。
「初めてじゃない?スキルを持っていない人──」
「初期の五つどころか、ミッションを二つクリアしているぞ?」
「ギルドの登録によく通ったものです」
ミイ、シア、ハル三人は思い思いのことを言っています。マオからすれば、シアも出会った当初は同じだと言いたいでしょう。
「──取り合えずスキルに関して、説明します。分からないことは、聞いてくださいね?」
マオはそう言い、三人にしたスキル講座をキキ一人に対して行います。三人が何時の間にか、加わっていたのは知らんぷりです。
─────────一時間後────────
「──と言う訳です。何か質問はありますか?」
キキは何かを考え、一つ頷くとこう言いました。
「──面倒は嫌。物理で殴れば良い」
全く聞いていないようです。マオは一つ溜め息をつくと、無言でポケットからポーションを取り出します。
それを見たキキは警戒心を顕にし、マオから距離を取ろうとしました。しかし、マオがそのようなことは許しません。
カシャン
キキの体に当たったポーションのビンは、澄んだ音を立て割れます。するとキキの体の自由が利かなくなりました。
「──さて、このポーションは『マヒポーション』です。
名前からして想像がつくと思いますが、身体が痺れます。現に体験していただいてますね?」
さらにポケットの中から、ビンを取り出します。ビンの中身は澄んだオレンジ色で、オレンジジュースを連想させます。
そうは逝かないことを三人は、今までマオの行動から、感じ取っています。
「────」
キキはマオに許しを求めます。口は動かないので、目で語りかけます。
そんなキキの懇願を無視して、マオはゆっくりと歩み寄り、手に持ったビンの蓋を開けます。『キュポン!』と良い音を鳴らし、キキの目の前でチャプチャプ揺らし、水音を立てます。
「これは『解マヒポーション』です。今回キキがマヒになった理由は簡単です。
単純に『状態異常耐性』が無いからです」
マオは口にせず「欲しいですか?」と問いかけているようです。
キキの顔に変化はないですが、ちょっと青くなっているようです。
「──身体が動かないって……怖いですよね~?」
キキは青ざめていきます。実はあのマヒポーションも『マオ印』 の、非常識ポーションなので──効果も異常で然るべきモノなのです。
カポン!
キキの口にビンの口が入ります。中身を口に含んだキキは、きつく瞼を閉じました。
『苦味』ではなく、感じるのは『酸味』──とてつもなく酸っぱいのです。レモンが生易しいくらいです。
「「「…………うわぁ…………」」」
三人の心は一つのようですね。




