第四十話 介抱と解放……言葉は似ているが意味が違う
7月9日 誤字の修正をしました。
7月25日誤字の修正をしました。
ロックゴーレムとゴーレムの集団を、掃討したマオは服に付いた砂埃を払いながら、ゆっくりと三人に近寄っていきます。
一時間に満たない時間ですが、その戦闘に見入っていた三人は、日が沈みかけていることに気付いてないようです。
マオは夕日を眺めると、一つ溜め息をつき周辺にある『セーフティーエリア』について、考えています。
「もうすぐ暗くなります。近くにある『セーフティーエリア』で夜を明かしましょうか」
マオはそう言い、茜色に染まる太陽を背に歩き出しました。
そのマオに少し遅れるも、彼女たちは追いかけます。助けられたプレイヤーは、何故か引きずられています。
鬱蒼と生い茂る森の中も、夕日により紅く染め上げられています。
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「さて……この方はどうしましょうか?」
セーフティーエリアで拠点作りを終えたマオは、助けたプレイヤーを見ながら、どうするかを考えます。
そのプレイヤーは、ある状態異常にかかっています。
『気絶』
リアルワールドで起きる症状で、最もキツイ状態異常になります。
「気絶状態は治せないの?」
ミイは不思議に思い、マオに確認します。
「ユウキから聞いた話では、『気絶』は八割以上の体力から六割以上を一気に失うことにより、発生するそうです。
対処方法は、『体力の回復』になります。──ですので、コレの出番です!」
マオがポケットから取り出したのは、ポーション・改Ⅱです。
依然、ガンツに使用したモノよりグレートアップしているようです。
【ポーション・改Ⅱ】 ポーション・改をさらに濃縮し効能が数倍になった一品。味は筆舌に尽くし難い。 HP90%回復 気絶回復(飲んだ時のみ) ランクC レア ★★★★
アイテムにはこんな説明が付いています。『味は筆舌に尽くし難い』これはどう見ても──しかも、飲めば気絶回復すると言うことは……。
「ル~~~ル~~」
マオは上機嫌に、ポーションの蓋を開けて、飲ませます。
「△*%+$*¥◎◇○■▽」
暴れだしそうなプレイヤーを、シアに押さえていただき、最後の一滴まで飲ませています。しかし、体格のよいプレイヤーの『胸の上』に乗っているのはどうなのでしょうか?
ポーション・改Ⅱを飲まされたプレイヤーは、ビクン!ビクン!と身体を跳ねさせると、静かになりました。
「う~ん、量がたりなかったのでしょうか?」
そんなことを言うマオは、可愛らしく首を傾げています。
第三者から見ると、ちょっときわ……エロく映りそうです。
そんな状態で、ポケットから新たなポーションを取り出します。そして、取り出したポーションを見たミイは苦い顔をしています。
「飲もう~お薬を飲もう~~♪ 楽し~く飲もう~♪」
心の底から楽しそうなマオを、ハルは止めることを出来ないようです。手が出たり、引っ込んだりしています。
ゆっくりと唇に近付いていくポーションの口から、ハルの視線は離れないようです。
「グビッとな!」
音程のズレた歌が終わると同時に、ズボっと音がしそうなほど勢いよく、ポーションを突っ込みます。
先程より激しい跳ね上がりに、マオの小柄な身体は浮き上がり、ポン♪と鳴りそうな落ち方をしています。プレイヤーの身体は跳ね上がる度に、マオの身体も浮き上がります。
プレイヤーが落ち着いた(堕ちた?)のを確認したマオは、一つ頷きその場を離れます。
「あんなにポンポン跳ね上げられては、敵いませんね。ちょっと……お尻が痛いです」
「その割に楽しそうだよね──?」
半眼でミイが見つめてきます。
実際に、ポンポン跳ね上がるのは楽しかったので、鼻の頭を掻くだけで反論をしていません。
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介抱?実験?したプレイヤーが目覚めたのは、マオが二本目のポーションを飲ませてから、一時間後のことでした。
「────ここは?」
いち早く気付いたのは、見張っていたシアでした。
「おっ──気付いたか? お前は、岩山に来ていたのを覚えているか?」
シアの言葉に、軽く頭を振り額に手を置いて、焦点の定まらない瞳でシアを見つめました。
そっと冷たい水の入ったコップを差し出すシアに、不器用ながらも礼を言うと、一気に飲みます。
「オレは──岩山に来て……!! そう言えば……ロックゴーレムがいなかったか!? オレはアイツと闘っていたんだ!!」
シアはこの時、目の前の人物が『オレ』と言っていたので、男性プレイヤーだと勘違いしてしまいました。
この間違いに気付くのは、マオが装備を見て突っ込むまで、勘違いしたままでした。
「ロックゴーレムに関しては、私たちのリーダーが倒した。安心してくれ」
そう言い、無理やり起きるのを押し止めました。
マオが倒したのは事実ですが、その姿を見て信じてくれるかは、シアには分かりませんでした。
「そうだったのか……悪い、迷惑をかけただろう──」
「謝ったりや、感謝の言葉は本人にしてやってくれ。私たちはリーダーが行った救出劇には、係わってないのだから……」
本当のことでシアを含めた三人は、目の前の人物を巻き込まれないように逃げるのが精一杯でした。
「シア!もしかして、目覚めましたか?」
背後から聞こえて来た声は、マオの声でした。
「私たちのリーダーで、君の命の恩人だ」
「ボクは、マオです。お気付きになってよかったです」
この時、そのプレイヤーは何故か『逆らってはいけない』そう直感したのか、身体は強張りました。




