第三十九話 マオの戦闘
無双にはちょっと遠いかも……
7月25日 誤字の修正をしました。
ロックゴーレムの片腕を破壊することで、その大きな手に捕らわれたプレイヤー救出をしたマオとリュオですが、相手はロックゴーレムです。
この岩山というフィールドでは、ロックゴーレムに優位性があります。
「そう簡単に倒せるわけが──ないですよね」
マオの視線の先では、ロックゴーレムの周囲の岩が「カタカタ……」と動き、空中に浮かび上がり欠けた腕を修復してしまいました。
それを見たマオの表情には、呆れが浮かぶものの、焦りは窺えません。
「リュオ、振り落とされないで下さいね!」
マオは今まで以上の速度で、ロックゴーレムに駆け寄ります。
すり抜け様に、リュオの生み出した岩石をぶつけています。
ガン!!
「もう一発、いきますよ!」
マオは背後からの一撃を喰らわせ、時に回避しながら攻撃を加え続けています。一撃離脱の高速戦闘で戦っています。
「アーツ『粉砕』!!」
ガガン!! ビシィィ!!
ポケットからハンマーを取り出し、アーツと共に振りかぶります。ロックゴーレムの腕に無数の細かい罅が入りました。
『──────』
堪えた様子もなく、マオを叩き潰そうと、拳を握り殴りかかってきます。マオはヒョイヒョイと回避し、ピョンピョンとステップを踏んでいます。
「『粉砕』!!」
岩の拳を回避しながら、時々叫び声があがり「ビシィィ!!」と音が聞こえてきます。
シアたちはこの光景を見ているだけで、戦闘に加わっていません。より正確に言うなら『加われない』でしょうが……。
「──ねぇ、マオのあの動き、シアは出来る?」
マオの戦闘風景を見ていたミイが、シアに尋ねます。
マオの移動速度は、シアの戦闘時の速度と比べても、劣っていない……いえ速いくらいなのでしょう。
「ムリだ……。意地を張っても、出来るとは言えん!」
シアの手は、きつく握り締められています。あまりにもぎゅっと握り過ぎているのでしょう。手は白くなっています。
「ですが、お姉様はあの動きをしています。お忘れでないですか? お姉様は〈補助系スキル〉を持っていません」
ハルの言葉は真実で、マオの所持スキルは〈魔法才能〉を除き、全てが〈生産系スキル〉になります。
マオの動きの素早さは、『プレイヤースキル任せの見切り』と〈魔法才能〉のスキルによる魔力運用です。
「お姉様のお話の中に『システムサポート』についてで、細かい動きの阻害がある……そのようなニュアンスがありました。
もしかすると──スキルの自由度を、サポートが奪っている可能性はないでしょうか?」
ハルは、マオの講義より仮説を導き出しました。その仮説が正しいかは、マオのみが知っているのでしょう。
三人が話をしている間も、マオとロックゴーレムの闘いは続いています。戦闘自体はマオの優位ですが、相手には自動修復があります。
それをクリアしないことには、マオに勝機はありません。
「──流石に、堅いですね。惚れ惚れするくらい堅牢です。
こうなったら『アレ』を試してみましょうか……」
そう言うや、マオは手にしていたハンマーをしまいます。
ポケットから取り出したのは、五寸(15cm)程の鉄杭と片手用の金槌でした。
左手に鉄杭を持ち、右手には金槌──左を前の半身体勢になります。ペロッと唇を舐めています。
「郊外で隠れ家を作る為に取った、新スキル〈石切士〉がどこまで戦闘に使えるか、試してみましょうか……」
そう言うとマオは先程、アーツ『粉砕』で罅を入れた部分に鉄杭の先を当て、金槌を振り下ろします。
「アーツ『天音断ち』!!」
カアァァァァァァン!!
罅に当てた鉄杭を金槌で叩くと、澄んだ金属音が響き渡り、鉄杭は罅を大きく広げます。
ズゥゥゥン! っと大地に重い音が響き、鈍い振動を伝えます。
「問題なく、使えるようですね。なら、コレでちょっとずつでも削ってやります!!」
マオはロックゴーレムの腕・足・体と、近い部分から鉄杭を穿ち、その岩の体に罅を増やしていきます。
鉄杭で穿つ傍ら、リュオに大岩を生み出してもらい、それをぶつける──そんな行動を幾度と繰り返し、全体に満遍なく罅を入れます。
『───────』
ずうぅん!!
ロックゴーレムが両手を振り上げ、正面に向かって振り下ろします。
その振動は、飛び上がっていたマオには無効でしたが、膝立で様子を窺っていた三人(+一人)はバランスを崩し、倒れ込みました。
マオが着地して、止めを刺そうと見上げたとき、ある異変が目の前で起きました!
「──冗談ですよね? この状況で、何体もの増援はキツいですけど……」
マオの表情は引きつっています。ロックゴーレムとの闘いの終演が見えてきたと思ったら、援軍の登場です。
ササッと両者を見つめると、行動に明らかな『差』が見てとれました。
「ロックゴーレムとゴーレムでは、ゴーレムの方が行動パターンが『単調かつ遅い』ですね──。
なら先に、ロックゴーレムを片付けましょう」
そう判断したマオは、ロックゴーレムに駆け寄ります。
それに気付き、拳でマオを殴りに来ます。拳はマオをすり抜け、地面を凹ませただけでした。
三人は目を瞑っています。余程のゲーマーでない限りは、同様の行動を取ってしまうでしょう。
「──そんな大振りの攻撃が、当たるはずがないでしょう……」
マオのその声は、ロックゴーレムの頭から聞こえてきました。
マオはスッと鉄杭を頭に当て、金槌を振りかぶりました。
「コレで……終わりです。 アーツ『凶砕震』!!」
カアァァァァァァン!!
澄んだ音が響き渡ると共に、ロックゴーレムの体に入っていた罅は、鉄杭から生まれた振動により全身に伝播し、崩壊を促します。
マオの脳裏に聞き慣れた声が、響き渡ります。
【ロックゴーレムを撃破しました。マオは500CPを入手しました】
全てを聞くまでもなく、マオはポケットからピッケルを取り出し、先程使っていたアーツ『凶砕震』を両手持ちで繰り出しています。
ロックゴーレムと戦闘開始から40分、15分かからずゴーレム10体を倒しました。
マオは入手したドロップの確認を後回しにして、三人の下に歩いて行きます。




