第三十話 ハルはどこかズレている
6月24日 誤字の修正をしました。
7月24日 誤字の修正をしました。
妹のハルの武器はコレでいいでしょう。
先ほど出来上がった包丁を見て、頷きます。
【万能包丁】 ATK+40 ランクB レア ★★★★
モーギューのドロップの牛皮を使い、鞘を作り完成です。取り敢えずの装備で申し訳ないですが……ハルなら許してくれるでしょう。
ボクが鍛冶スペースから出ると、3人は何かを食べていました。
「──お待たせしました。仮の武器で申し訳ないのですが、コレをハルに渡します」
【ハルに『万能包丁』をプレゼントしますか? Y/N】
『Y』を押すと、ハルの手の上に万能包丁が現れました。
「──まあ! 包丁ですか? これは料理人として、『頑張りなさい』と言う訳ですね?」
実際のところは違いますが、兄として胸を張って頷きます。
「ハルには申し訳ないですが、防具の方はもう少し待ってください」
「心配には及びません! モンスターの攻撃など、避けてしまえば問題ありません!!」
ハルは張り切ってますが──実際にやりそうに感じるのは、兄妹故なのでしょうか?
「今日の計画を考えましょうか? 何かを狩りたいとかはないですか?」
「ギルドのクエストを受けないか?」
「そうだね。登録しただけで、全く受けてないよね♪」
ハルの登録もあるので、丁度いいですね。
「では、ハルの登録とクエストを探しに、ギルドに向かいましょうか」
3人が頷いて着いてきます。
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ギルドに入ると、ハルに向かう視線を感じました。
ボクが睨み返すと、つぃ……っと視線を逸らせます。
空いていた受付は──何時かの受付嬢でした。
「本日はどのような御用ですか?」
「彼女の登録をお願いします」
「──あら? お姉さまでしょうか?」
「彼女は妹です──」
「「「「──────────────」」」」」
ギルド内から音が消えました。
パン!
「問答はなしで──登録を進めてください」
ボクはそう言うと、クエストボードに向かいました。
「何かいいクエストはありましたか?」
ボクはミイたちに近づきます。ミイは頭のうさミミを揺らしながら、振り返ります。
「あ、マオ。えっと……こんなのはどうかな?」
ミイが渡してきたのは、採取・討伐系クエストになります。対象のモンスターは、オークです。ファンタジーでよくある王道のモンスターです。
「私はこれをしてみたい」
シアが見ていて、差し出したのはラウンドトータスの討伐クエストでした。
頭に乗っているリュオが、何かを訴えるように『キュルル……』と鳴き声を上げ、見上げる先にあるのは──竜域のある街の北門を出たすぐにある草原のクエストでした。
「シア、すみませんがあの紙を、取って貰えませんか?」
ボクはギリギリ届かない位置にある、クエストシートを呼び指します。
「──任せろ」
シアはヒョイとその紙を取り、ボクに渡してくれました。
「リザードの討伐ですか──」
このリザードは『大きなトカゲ』で、以前出会ったロックリザードの原種になります。全長は大変長く平均10mはあります。
「リュオはこれの肉が食べたいのですか?」
リュオは元気よく頷きます。ミイは頷き、シアは顎に手を置き考えてます。
「──お待たせしました。何をお話しされてるのですか?」
「今回受けるクエストについて、話し合っているのです」
「もしかして──わたくしが足を?」
顔を俯かせ、手を握っているハルの頭を撫でます。
「───たく……そんなわけないでしょう?」
「私達だって、まだまださ」
「そうだよ。だからハルお姉ちゃんも落ち込まないで!」
ミイとシアが励まし、ハルはミイを抱き締めています。
「(こう見ていると、姉妹に見えますね──)」
シアがボクのことを、見ていたのを知りませんでした。
「オークとラウンドトータスは『西の森』ですので、今日はコレを狩りに行きましょう」
今のハルの装備では、流石に不味いと思うので今日のところは、『豚と亀』を狩りに行きます!
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サクッと西の森です。ここ西の森は樹木が長く、高く伸びています。樹は先にいくほどに広がりを見せ、薄暗くジメジメした感じを受けます。
木漏れ日が地面を照らす、清閑な雰囲気の中『カーン! カーン!』と音が響いています。
「アーツ『樹円斬』!!」
カァコーン!!
ボクは先程から、木材の伐採に精を出しています。ここの樹木は『真っ直ぐ、長く、太い』と三拍子が揃っています。
そんな素材を見逃せるハズがありません。当然回収です。
「ネタアーツかと思ったが、その『樹円斬』は木工特化スキルとしては、優秀だな」
「そうですね。〈木工〉LV15のアーツとしては優秀な部類でしょう!」
このアーツの性質は、『樹木を一刀両断にする』と言うものです。言葉にすると単純ですが、実際に使ってみると解ります。
アーツを使うと『真っ直ぐ』伐ってくれるのです!!
しかもこの技には意外な利用法もありました。
「お姉様!! お逃げ下さい!!」
ハルが叫びますが、『樹木に属するモンスター』は現在のボクには、雑魚同然です。
ボクは木の幹を蹴り、三角跳びでウッドゴーレムの上を取ります。
「アーツ『樹円斬』!!」
カァコーン!!
ウッドゴーレムは左右対称に割れました。声なき声を上げウッドゴーレムは消え去ります。
ボクは斧を振り回した反動で、空中をクルクル回っています。フードのウサミミが揺れ、しっぽもボクを追いかけてきます。
「ここは樹属性のモンスターが多くて楽ですね!」
スタっと地面に着地したボクは、ユウキが聞いたら怒りそうなことを言いっています。ボク自身は今回、意外にも戦闘で使えるアーツに感心しています。
「流石──お姉様です……が、何なのですか!? あの戦い方は!!
お姉様の御御足を、凡夫に見せるなど!!」
また始まってしまった、ハルの小言に苦笑するしかありません。
「ハルの方が危険ですよ! 単身オークに突っ込んで行って……殲滅するなんて──」
「わたくしの装備では、肌をほとんど見せておりません!!」
平行線な話ですが、ボクの心は『ケガをしてほしくない』その一点だけなんですが……。ハルの考えだけがナナメにズレています。
「ハルお姉ちゃんはマオを、独り占めしたいのかな?」
「さあな……あの姉妹に関してはわからないな──」
ボクたちが話している間、ミイたちがそのような会話をしていたのは、ボクの知らない話です。




