第一話 リアルワールドへようこそ
6月2日 御指摘いただいた部分の修正と、本文の改稿を行いました。
6月15日 ご指摘いただいた部分の修正をいたしました。
6月16日 ご指摘いただいた部分の修正をいたしました。
最初の歌詞を削除しました。
6月18日 レアカウント→レアモンスター に変更しました。
6月29日 本文の大幅な改稿をしました。
7月20日 誤字の修正をしました。
7月27日 47話に合わせ、本文を変更しました。
H28 12月4日 本文の改稿を行いました。
H30 4月19日 誤字の修正と改行を行いました。
森の中を少女が歩いています。頭に動くのは獣耳、お尻には太く筆先のような一房の尻尾。
「ふ~んふふふん、ふ~んふ、ふふ~」
少女は鼻歌を歌いながら、森の中を散歩するように歩いていた。その頭の上には、トカゲと思われる爬虫類が乗っているのだが、サイズ的に考えると少々大きい。
トカゲを頭に乗せ、楽しそうに歌う少女だがその音程はズレており、下手と判断する人が多いだろう。
その歌声に引き寄せられているようで、周囲の草むらからガサガサと音が聞こえてくる。
その原因は──
【称号】 <音痴な歌い手>
歌を歌うと不思議な力が働き、周囲100mにいるモンスターを引き寄せる。※周囲の人は迷惑しています!! 気付きなさい!!
上機嫌に歌っている少女の手元には、ノートサイズの黒い影が浮かんでいた。それはディスプレイの様で、表示されている内容は依頼のようで、討伐対象には『ベア系』と表示されている。
ガサガサ!!!
少女の歌声に引き寄せられ、草むらから聞こえる音が大きくなってきた。
「グガァァァ!!」
クマさん登場!! 少女が視界に映る名前を確認すると、『マーダーベア』……殺人熊と表示されていた。そのクマは身長は少女の三倍以上はあり、体毛は黒に近い灰色であった。
それを見た少女の頭に鎮座する獣耳の片方がピクリ! と動く様子にほっこりとしそうだ。
「これって、やっぱり……レアモンスターでしょうか?」
少女の記憶──事前に集めた情報では、ここで出現するクマさんの種類は『ベア』『レッドベア』のハズであった。
今日の探索で2体目のマーダーベアが出現したのは、どういうことなのか少女は考えるが、わからなかった。
「仕方ありませんね……。逃がすのもあれなので、殺させて頂きます!」
少女はアイテムポーチから竹の棒を取り出すと駆け出し、それを地面に突き立てた。その姿は『棒高跳び』そのものである。
「それぇ!!」
竹のしなりを最大限利用したジャンプで、マーダーベアの頭上にある木の枝に着地した。頭上から「キュァア!?」っと聞こえた気がするのだが、大丈夫だったのだろうか?
「コレでも喰らいなさい!!」
そう言う少女はアイテムポーチから『大岩』を取り出し、マーダーベアの頭に向けて投げ落とした。
ガゴン!!
それは外れることなく、マーダーベアの脳天にヒットした。戦闘が始まり、少女の意識から消えたログには【クリティカルヒット! マーダーベアに100のダメージ】と出ていた。どうやら先程の大岩は、上手く急所に当たりクリティカルヒットになったようで、一気に10%ほどのHPが削り取れたようだ。
「そぉれ! 次々いきますよ!!」
それに気付かない少女は、マーダーベアの頭に次々と大岩が落としていく。
静閑な森の中に響く大きな音は、「ガン! ゴン! ベキ!」とかなり生々しい。
【50のダメージ 40のダメージ 60のダメージ………】
少女の手から放たれる大岩は次々と当たり、ログはスゴい速さで流れていき、少女が延々と大岩で攻撃を続けて……10分。
光となって消えていくマーダーベアの巨体。
途中で回避されたり、その太い腕で防御されることもあった。
それがなければ『もっと早く、簡単に倒せましたよね?』と考えている少女がいたが、それは間違いである。
普通に戦って『10分』で倒せるプレイヤーは少ない。
しかも現状では"ソロ"で倒せるプレイヤーなど、片手で数えられるくらいだ。
【200CPをゲットしました。 クマの手 クマの肝 クマの毛皮(大)を入手しました】
「やっぱり……レアモンスターでしたか……」
少女の予想通り、レアモンスターの証拠である大量のCP。
確認口調である少女だが、お尻から生えている尻尾は揺れ動いていた。
【以下のスキルがUPしました。 <罠士>1UP <とび職>2UP <道具士>3UP】
流れたアナウンスを聞いた少女は喜び、笑顔になる。
格上であるレアモンスターは、非常に美味しい相手だったようで「また、マーダーベアと戦いたいですね」と、少女の口からはそんな呟きが漏れた。
この日からしばらくの間、森の中で『四腕グマと戦う少女』がいたと、プレイヤー間で噂されることになるが、当の本人は気付かないままであった。
街に帰った少女がこのことを親友に話したら「ありえないぞ!!」と理不尽にもキレられたらしいが、当の少女は「できるものは"できる"でいいじゃありませんか」と返して、絶句させることになる。
できた論よりも親友に「いい加減<武器スキル>を取れよ!」と注意された。
親友の助言に対し少女は「そう言えば……初プレイ以降、困った事態がないので<武器スキル>は取ってないのですよね~」と暢気なことを言い、再び黙らせることをした。
「それと、ボクは『生産職』なんですがね~」
少女のその言葉からは、信じられない言葉が漏れた。ベアとの戦いを見て、生産職と思う人はいないだろう。
少女は遠くを見るような目で、このゲームを始めた時を思い出していた。
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高校に上がった1年の夏休み前日、ボクは親友のお家に拉致……連れて行かれました。有無も言わせずの強行策で……
目に映るのは、ゲーム機やマンガ本の散乱する部屋の中で、ボクは親友のベッドの上で座り込んでいます。
お母様の理由不明な教育が原因で"横座り"の状態です。
「何の用です? 言葉より行動が先に来るのは、いつものことなので逆に安心しますけどね……
本当に、昔っからまったく変わらないですね……」
ボクは恨みがましく親友を睨みつけました。
当の親友は笑って、ピシャンっと脚を叩きました。
「そんな顔するなって! 真緒は『リアルワールド』ってゲームを知っているか?」
「最近よくニュースで流れている”アレ”ですか?」
ボクはゲームをしない方なので、CMで流れている範囲でしか知りません。ただ、最近のお母様の様子に違和感を感じていますけど……
「そうだ! 俺が”βテスター”だったことは話したよな?」
確か……半年くらい前にそんなことを話していた記憶があります。
あの時の、はしゃぎ様といったら完全に子供のようでした。
──"身体は大人、頭脳は子供"では、社会不適合者です。
「確か去年の12月頃に……聞いた気がします」
高校入試の準備すら行わず、平日は学校から帰ったら、土日祝は朝から寝るまでゲーム三昧だった記憶です。
それで入試前日にすがり付いて来たので、特製のイスに縛り付けて上げました。
そのときに使用した『眠気覚まし』の効果がとても強かったことが印象に残っています。学期末の試験が近付いたら、使用して勉強をしようかな? っと思います。
一瞬、大きく身震いした親友の雄輝は、腕を組み鷹揚に頷きました。頬を伝う光は、見なかったことにしてあげます。
「その通りだ。4月までそのテスターをやっていたんだ!
そのプレイしていた『リアルワールド』が、明日から正式にスタートするんだ!」
「?」
話の流れが読めず、ボクが不思議そうにしていると、雄輝は理由を話しました。
「俺はβテスターの中で優秀な成績を修めたプレイヤーだったから、追加で正式版のROMを貰ったんだ! 明日から丁度夏休みだし、一緒にどうだ?」
雄輝からの誘いに、しばし考えます。
確かに夏休み中の計画はまだ、決まっていません。
お父様の気分次第で、ジャングルでキャンプしたり、エベレストで夏の間を過ごしたりします。
「ボクはゲーム自体が得意ではないですよ? 理緒にでも渡した方が良くないですか?」
ボクはコントローラーの操作が苦手……いえ、相性が最悪のなので、ゲーム自体をほとんどしないです。
その事実は、被害者である雄輝がよく知っているはずです。
「理緒の方は、沙綺が今日ROMを渡している予定だ」
理緒もかなりのハードゲーマーです。
先ほど話にあった”βテスター募集”にも三人で応募しましたが、理緒だけがハズレたので泣きつかれてしまいました。
その憂さ晴らしの先として"ケーキバイキング"に連れていかれたのですが、胸焼けしそうな量のケーキを食べていた理緒に呆れたのを覚えています。
体重計を目の前に差し出そうかと、真剣に悩みました。
まあ、自分の身を守らないといけないので、実行はしませんが……
「そう言えば、沙綺もβテスターでしたね」
「どうだ? 共通のゲームで4人一緒に遊ばないか?
"リアルワールド"って名前に負けないくらい、超リアルな世界を体感しないのは勿体ないぜ?」
ボクは何故かコントローラーを握りつぶしてしま……? 雄輝の言葉に引っ掛かりを覚えたので少し考えます。
「体感と言いましたか?」
「ああ……CMだと分からないかな?
"リアルワールド"は、最新鋭の"VRMMORPG"だ!」
1年前、世界を騒がせた『医療機器であるVR治療機器』を何処よりも早く、ゲーム業界が導入しました。
試行錯誤の上、第1弾として大手ゲーム会社が共同で作成したゲームが"リアルワールド"だそうです。
「VR技術は、確か『脳波感知式』を取っているのでしたか?」
「そうだ。だから、コントローラーは必要ない。コントローラーの代わりに……この『VRヘッドギア』を装着するんだ」
自身の脚の上にVRヘッドギアを置き、ポン!と叩きます。
「被ったら、ギアのここにあるスイッチを押すと、スタートする。『催眠誘導』が開始するから、キチンとベッドで寝て押せよ?」
雄輝は笑いながら、ボクに『リアルワールド・スタートセット』とプリントされた箱をを渡してきました。
50cmくらいの高さがある、長方形の箱です。
「はぁ、あまり期待しないでくださいね……」
そう雄輝に返事を返したボクは、急いで家に帰ります。
設定に時間がかかるそうで、帰ったら準備をしないと間に合わないかもしれません。
雄輝に返した返事は気のないものでしたが、準備を続けているボクは『ドキドキ』していることに気付きました。
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『リアルワールド』オープン当日、昨夜の内にVRヘッドギアの設定を終え、雄輝・理緒・沙綺のVRギアのIDナンバーを本体に登録しました。
雄輝の話では本体に登録すると、最初からフレンド登録をされている状態になるそうです。VRヘッドギアを装着したボクはベッドに転び、ゲームを起動しました。
【リアルワールドへ、ようこそ。最初はアバター作成になります】
外見は全身写真から読み込むので、変更することが出来ない仕様らしいです。
下手に変更してしまうと動作に支障が出たり、表情に違和感(ポリゴン風?)が発生するようで、選べるのは【種族】【ヘア・アイカラー】のみです。
最初に選ぶのは【種族】です。
「へえ~『ハーフ』も選べるようですね」
結構悩みましたが、〖獣人族〗と〖森人族〗のハーフにしました。
ビーストタイプは身体能力よりも特殊能力が強い〖狐人族〗と、魔力と親和性の高いエルフのハーフに決めました。
外見はフォクサ寄りで、キツネ耳と尻尾が特徴です。
種族によるステータスに差はないそうで、違いはスキルの『向き・不向き』らしいです。
ボクの場合は完全な"後衛:魔法使いタイプ"というヤツでしょうか?
このゲームでは、雄輝から聞いたように”プレイヤーレベル”というモノは無く、スキルの合計値でステータスが決まるそうです。(数値などはないそうです)
【以上で問題ございませんか?】
Y/N と出たので、Yを押しました。
【それでは、『リアルワールド』をお楽しみください】
視界は白い光に包まれました。これからボクのドキドキ、ワクワクの大冒険が始まるのですね────