SS 「生きてるんだ」
生きてるんだ
「背骨は生きているんだ」
俺は弟子にそう一喝した。
整体で飯を食ってきてはや30年。一応、ベテランを自負していたがー
「でも、どうしてもお客に文句言われるんですよ~」
弟子一人満足に育てられていない状況では自慢できやしない。
まったくこいつはいつまでたっても芽が出ない。
俺の名前は滝。たきのぼる。
そして、こいつが、三津地。みずちって読むのだが、名前だけは立派だ。
まったく、なんだその頼りない目は。俺の「技」をこいつに伝えなけりゃな
らないなんて悲しくなってくる。
「先生、僕、どうすればいいんでしょう……」
まあ、やる気だけは認める。いまだに破門にしてないのはやる気だけは一人前
だからなのだ。
「しょうがねえ、身をもって教えてやる。寝な」
一昔前のブームのころにゃ、ちょっとはTVで名前の知れた俺だ。
「背骨の声を聞ける男」と言われた技を見せてやる。
「ほ、ほんとですか!?」
三津地は喜んでベッドにうつぶせた。うきうきと。
「なに喜んでるんだよ」
「だって先生に診てもらうのはじめてですから」
そうだっけ? まあ、いい。
背中をまずさすり、背骨の位置をたどる。
両手の親指を背骨の脇にそってこねて行く。
背骨の状態から、こいつの体の全てが伝わってくる。
背骨が語ってくる。年月が俺にさずけた技だ。
「ほれ、背骨が語り出したぞ」
「きもちいいですよ先生~、さすがです」
「そんな事言ってる場合か、語ってるのは不満だらけだぞ」
曲がっている、かたよっている、ととのっていない。
背骨が不満をベラベラ語り出す。ベラベラ百連発だ。
その不満の一言がはっきりと聞こえた。
「わたしは、もうたえられません」
「ああ、こんな奴の背骨やってないで飛んで逃げちまえよ」
その時、ばっくりと背中が左右に開いた。
バリバリと肋骨の戒めをふりほどいて空中に踊り出た背骨は首から上もくっ
つけたまま、
「まったく、おっしゃられるとおりです。さすが先生」
と、首から上で「礼」をし、窓から夕日色の空へ飛んでいってしまった。
「……背骨って生きてるんだ」
俺は背中にむずかゆさを感じながら、龍のように空をゆく彼を眺めた。
超昔書いたSSです。
リハビリと精神修行で晒します。
うひゃー