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第三話 接触

「事故…… ではなさそうだね。パトカー三台も止まっているよ。何だろ?」


空は赤い光の方を観察しながら言った。車はアパートのすぐ前まで来たものの、野次馬とパトカーに塞がれて中に入れそうにない。


「私ここで降ります。送っていただいてありがとうございました」


不安げな顔のまま蒼井は陸に礼をいうと血相をかいたように車を飛び出した。そんな蒼井の様子が気になって、空もたまらず車を降りる。


「陸兄。ちょっと適当な所で待ってて。中の様子を確認したら電話するからさ」


そう言って蒼井の後を追いアパートの敷地内に入っていく。野次馬をかき分けていくと途中にテープが張られ一般人は中に入れない様になっていた。先に車を飛び出した蒼井はそのテープの前で警察官に止められていた。空は蒼井に駆け寄る。


「蒼井さんどうしたの?」

「このお巡りさんがうちに入れてくれない……」

「えっ?」


空は蒼井をなだめながらライトに照らされたアパート前のスペースに目をやると、何人もの警察官や鑑識の人がうごいているのがわかった。建物の側にはビニールのシートが被せられた何かがある。その様子から大変な事が起きているとすぐに想像できた。空は静止しようとする警察官に取り乱しながら「入らせて」と懇願する蒼井をフォローする様に説明した。


「お巡りさん。彼女はここの住人です。とりあえず彼女をお母さんに会わせてください……」


空にそう言われ困った顔でいる警察官の元に、四十代半ばほどの私服警察官が現れた。


「君たちはこのアパートの住人かい?」


唐突にそう聞かれ言葉に詰まっている蒼井に代わり、空が答えた。


「いえ、私は違います。彼女がここの住人で……」


空の言葉が終わらないうちにその男は蒼井を目を向けて話しかける。


「私は捜査一課の桜塚(さくらづか)といいます。もしかしてあなたはニ〇三号室の蒼井さんですか」

「捜査一課……」


蒼井はその言葉に何かを察した様に一瞬身体をビクリとさせると、身体を硬直させながら「はい」と答える。空はその様子に蒼井が想像しているであろう最悪の場面が頭をよぎった。


「お巡りさん。ここで何があったんですか?」


空が男にそう問いかけると、桜塚は広場のにあるビニールの方に目を向けながら話だした。


「夕方…… と言っても四時頃なんだが、アパートの前で人が燃えているという通報があったんだ。それで駆けつけてみるとガソリンをかけて焼かれたと思われる死体があった。年齢は三十代から四十代と思われる女性」


その言葉に再び蒼井がビクッと跳ねる。


「自殺…… ですか?」


空は恐る恐る男に聞いてみる。


「詳しくは検死してみないとわからないが、ここで暴れた様子も無いし遺棄されてから火を点けられたのだろう。今までアパート住人の所在確認していたんだが、ニ○三の蒼井さんの所在だけ取れないでいるんだ。遺体は損傷が酷くて子供にこんな事させるのも酷だとは思うんだが確認してもらいたい」


そう言われて蒼井は無言でコクリと頷いた。蒼井は空に支えてもらいながらビニールテープをくぐりビニールシートの側までやってくる。桜塚は被されたビニールシートをめくると、蒼井達は立ったままその下の遺体に目を向ける。普通の子供なら目を覆いたくなる様な人間のカタチをした赤黒い塊。それを凝視して蒼井は何らかの特徴を探し出そうとしている。暫く経って蒼井はへたり込むように雨に濡れた地面に座り込んだ。放心したように喜怒哀楽の無い顔のままポツリと呟いた。


「…… 母です」


そういうと、蒼井は調書を取るため桜塚と数人の警察官と共に自宅であるニ○三号室へと足を運んだ。空は玄関ドアの前で警察官が出てくるのを待つ。空はアパートの壁にもたれかかりビニールシートが広げられていた広場をみていると、ちょうど遺体を運びあげて車へと運ぼうとしているところだった。なんとも言えないモヤモヤが空の胸にあり、時折ドアの向こうから聞こえる微かな声に耳を傾けるが内容までは聞き取ることはできない。そんな時ポケットの中の携帯の着信音が鳴り出した。画面を見ると『陸兄』と表示されている。


「もしもし、陸兄…… あのさ……」


空は蒼井が住む部屋の前から端のニ○五室前に移動し、外側の手すりにもたれながら車を降りてからの出来事を陸に説明した。


「——そういう事だからさ、俺は蜜柑さんが出てくるまで待ってるから陸兄は先に帰っててよ」


そういうと陸は電話を切ろうとしたが、空は思い出したかの様に呼び止めた。


「あっ、ごめん。一つ聞きたいんだけどさ、連正会って宗教知らない?」

「連正会? 知ってるぜ」


陸は当然のようにそう答えると、空はさっき家の前で聞いた蜜柑の母親の事を話し、この宗教の事を教えてもらう事にした。


「連正会ってのな、仏教のある宗派から派生した新派から更に派生した新興宗教…… いや新々興宗教団体だよ。一般的に仏教というのは釈迦を神として敬うんだろうけど、ここは最初の宗派の祖を信じるという変わった宗派なんだ。多くの新興宗教同様、他の宗教に対しては否定的で、分派元の宗派さえも邪教しているらしい」

「へぇ。釈迦を神としないならどんな教えを広めているんだ?」


空がそう聞くと間髪入れずに陸は答えた。


「どんな教えかは知らないけど、ここも終末思想ってのがあって、お祈りをしたりチラシを配布して勧誘をしたりしながら信者を増やしている。それで辞めようとすると最下層の阿鼻地獄に落ちるとか言われて、なかなか退会を受理されないらしい。来なくなると家まで押しかけられるとか……」

「ああ…… カルト宗教でよくあるパターンだな」

「そうだな。それにそこは強引な勧誘と監禁や暴行でよく問題を起こしている」


そこまで聞いて空の頭には疑問符がいくつか浮かんできた。


「でもさ、そんな宗教入って何か満たされるもんなのか? 恐怖感を煽って、しかも勧誘なんて仕事させられて、その上会費とかお布施とか取られるんだろ?」


空は蒼井が言っていた蜜柑の母の変化を思い出し陸に尋ねる。


「多分最初はその会のコミュニティそのものに安心感を得るんじゃないか。カルト宗教に改宗する人ってだいたいは現状に不満を持っているか、問題を抱えているやつだ。そういった人たちの中に入れば自分だけじゃないという安心感が得られる。悪く言ってしまえば傷を舐め合える場所に逃避できる」

「んー、まぁ…… わからなくは無いけど、それで現状が変わるわけ無いんだから単なる逃げだろ?」

「ああ、だから抜け出せなくなるんだよ。戻れば現実が待っている。逃げが悪いとは言わないけど、そんな夢の中に閉じこもるような事をしてればいずれ身を滅ぼす」


空は勧誘されてそんな末路を辿ってしまったであろう蜜柑の母を想像して、何とも言えない重苦しい気分になった。空はアパートの下を見下ろすと、さっきまで五、六人程いた警察官や検察官は徐々に撤退して、三台あったパトカーも一台だけとなっていた。この一台は蒼井の部屋にいる刑事が乗ってきたものなのだろう。空はベランダを背にしてニ○三の方に目を向けるが、その部屋のドアはまだ閉じたままだ。


「今回の件って十中八九 連正会が関わっていると思うんだけど……」

「そうだろうな」


空は「ふぅ」と息を洩らして言葉を続ける。


「だとしたら何でまたそんな目立つことしたんだ? 調べれば必ず連正会に行き着いて警察の手が入るだろ? こっそり敷地の床下とかにでも埋めてしまった方がよっぽどリスクは低いんじゃねぇのか?」

「うーむ…… じゃあ、連正会じゃないのかな?」

「切り替え早っ!! 弱っ!!」


空の一言で自分の意見をすぐに取り下げた陸に即座にツッコミを入れた。陸はそう言われて失笑しながら言う。


「つかそんな事、警察が調べるだろうからどうでもいいんじゃねぇの? それより蒼井さんはこれからどうするんだよ」

「んん…… そうだなぁ……」


陸の言うとおり、蜜柑の母の死因が連正会であれ別の理由であれ、亡くなった人が戻るわけではない。もし殺人で、蒼井が「自分の手で復讐したい」と望むなら調べる意味もあるだろう。しかしそうでないなら、その労力は生きている蒼井に向けるべきだ。

空がこれからの蒼井がどうなるのかを思い始めたとき、ニ○三のドアが開き、桜塚と制服姿の警官二人が出てきた。桜塚は手すりにもたれる空に目を向ける。空は慌てて陸との通話を切った。


「待たせて悪かったね。彼女、中にいるから元気づけてあげなさい」


そう言い残し、桜塚は階段へと歩き去った。教師や警官にあまり良い印象のない空は、思わずその背中を意外そうな顔で見送る。姿が消えると、空はハッと我に返り、ニ○三の前でドアをノックした。数秒後、古い鉄扉がギィと音を立てて開き、泣き腫らした目の蒼井が現れた。


「大丈夫?」


「大丈夫なはずがない」と分かっていても、他に掛けられる言葉が見つからない。


「うん…… ごめんね。こんなことになっちゃって……」


今にも泣き崩れそうな声。空は首を横に振る。


「蒼井さん、うちに来ない?」


蒼井を一人にするのが不安だった。しかし、その先の言葉が出てこない。


「ありがとう。でも大丈夫……。それに、近いうちここを出なきゃいけないだろうから、ちょっと荷物をまとめたいし……」


その言葉に、空の胸はきゅっと締め付けられた。


「これから行くあては? 親戚とか……」

「……」


蒼井は答えられず、唇を噛む。


「大丈夫。……大丈夫だから、心配しないで」


気丈に振る舞おうとするその様子が、かえって空の胸をさらに苦しめた。


「……わかった。じゃあ、何かあったらすぐ電話して。すぐ飛んでくるから」

「うん……ありがとう」


蒼井は空から受け取ったメモを力なく握り、扉を閉めた。廊下を数歩進んだところで、空は立ち止まり振り返る。すると、堰を切ったように泣き崩れる蒼井の声が聞こえてきた。空は後ろ髪を引かれながらも階段へ向かう。

今は“呪い”がどうとか言っている場合ではない。ほんの数時間前、目安箱の話で盛り上がっていた時間が、遠い昔のように思えた。それほど、二人を取り巻く状況は変わってしまった。

ぼんやり蒼井のことを考えながら階段を降り、外へ出る。さっきまでライトに照らされ、野次馬で溢れていた現場も、昨日と変わらない夜の風景に戻っていた。

アパートの敷地を出て家へ向かおうとした時、歩道脇に黒い大きな車が停まっているのが目に入る。空は駆け寄って窓をノックした。すぐにサイドガラスが下がり、運転席の陸がこちらを見た。


「蒼井さんは?」


開口一番の問い。


「うん。警察も帰って、一人で部屋にいるよ。うちに誘ってみたけど……荷物の整理もしたいって。しばらくそっとしておいた方がいいよね」


空はアパートの方へ目を向けながら弱々しく言う。陸も同じ方向を見遣りながら答えた。


「突然こんなことになったら、悲しみと絶望でいっぱいになるのは当然だよな」

「うん……」


陸は助手席に乗り込むと、携帯を握りしめたまま黙り込んだ。家に着くまで、二人とも沈黙したままだった。空は手に神経を集中させて、蒼井からの着信を待つ。しかし、その震えが訪れることはなかった。

駐車場に車を停め、家へ向かう途中、空は陸に問いかけた。


「陸兄…… 蒼井さん、家に置けないかな。さっき聞いた感じだと、身寄りがなさそうで……」

「うーん……俺は構わないし、海も反対しないと思う。いつも“妹欲しい”って言ってるしな。でも……世間的にはどうだろ。同級生が同じ家って」

「母さんも父さんも世間体とか気にするタイプじゃないだろ」


空は胸を張って言う。実の兄妹間に子どもが三人いる家で“世間体”を気にするとは到底思えなかった。


「いや……母さんたちは、むしろ賛成するかもな。お前の好きな子なら、なおさら」

「なっ……!?」


思わぬ指摘に空は言葉を詰まらせた。

確かに蒼井とは一年の時同じクラスだったが、ほとんど接点はなかった。昨日初めてまともに話したと言ってもいい。それがわずか二日で、あまりに多くのことを共有し、意識せず惹かれていた。

——しかし空自身はまだその感情に気づいていない。


「蒼井さん、ずっと言われなきことで苦しんできたんだろ。そんな子が、わざわざ世間に突かれるような真似をするかなって思ってさ」


陸が説明しても、空の耳には入らない。空の頭の中は、蒼井のことでいっぱいだった。

玄関を開けると、陸が「ただいま」と声をかける。しかし返事はない。訝しんでいると、浴室の方から海と理恵の話し声が聞こえた。


「なんだ、風呂か……」


陸はキッチンからビールを取り出し、リビングでプルタブを勢いよく開ける。一気に飲み干すと、ソファには携帯を握ったまま表情を強ばらせて座る空の姿があった。


「なぁ、陸兄。身寄りの無い子供ってどうなるんだ?」


唐突にそのような事を聞いてきた。


「普通は児童養護施設に入るんじゃなかったかな。十八才くらいまではそこで暮せるはずだ」


その言葉に少しホッとした様な顔になる。


「でもな、施設ってところによっては刑務所よりひどい場所もあるって聞くぞ。職員が子どもを虐待して、脱走する子もいるとか……」


その言葉に、空は一瞬で顔を強張らせた。手の中の携帯を見ると、画面には二十二時過ぎの数字。さすがにこの時間に蒼井の家へ押しかけるわけにはいかない。

空は、彼女の家電の番号を聞いておかなかったことを悔やんだ。しかしふと、夕方に自分の携帯を渡して蒼井に電話をかけさせたことを思い出す。発信履歴を開くと、見覚えのない番号があった。考えるより先に、指がその番号を押していた。十数回のコールのあと、蒼井の声が聞こえた。


「もしもし、蒼井です……」


その声だけで、張りつめていた空の表情がふっと緩む。


「あっ、空です。夜遅くにごめん。どうしても……蒼井さんの……その、声が聞きたくなって……」


言ってから、自分で「女子かよ」と突っ込みたくなる。勢いで電話をかけたせいで、その後の言葉が続かず、気まずい沈黙が流れた。


「な、何かあったら……いや、何もなくてもいいから。いつでも電話して」


空はそう言って、そっと通話を切った。

そのまましばらく携帯を見つめ続ける。画面は真っ暗なのに、目が離せない。陸はビール片手に、そんな空を気遣うように見ていた。すると突然リビングのドアが開き、パジャマ姿の海と里絵が入ってくる。


「あれ? お兄ちゃん、空。帰ってたんだ。遅かったね」


海が声をかけても、空は携帯を見つめたまま動かない。海は首を傾げる。


「お兄ちゃん、空どうしたの?」

「ん……まぁ、色々あってな」


陸が事情を説明すると、海は肩を落とし深いため息をもらした。


「きついね……。身内が亡くなるだけでも辛いのに、遺体がそんな状態じゃ……抱きしめて泣くこともできないじゃない」


思い返せば、ついさっき夕飯を一緒に食べて笑っていた蒼井。その姿が胸に重くのしかかった。


「まぁな……」


三人が沈んだ表情の空を見ていると、海がふっと息を吸い、急に空の前へ歩み寄った。


「ほら! 蒼井さんを支えなきゃいけない空が、そんな顔してどうするの。空が冷静でいないと、もしもの時に守れないよ」

「……もしもの時?」


空はようやく顔を上げ、海を見つめた。

陸が口を開く。


「確かにな……。お母さんの死因が分からないなら、蜜柑さんが狙われる可能性だって考えておかないと」


その言葉に、空の表情から一気に血の気が引いた。次の瞬間、勢いよく立ち上がり、部屋を飛び出す。向かうのは蒼井のアパート。どうするかなんて決めていない。ただ悪い予感だけが頭を支配し、空は必死に走った。

十分も経たずにアパートへ着き、息を切らしながら蒼井の部屋を見上げる。さっきと何も変わっていない。


「……ふぅ」

(狙われているとしても、今日の今日で襲うか……?)


息を整えながら、空は周囲を確認し始めた。

古いアパートとはいえ、ドアは鉄製、ベランダもない。窓から侵入できそうもない。

一周見て回り、少し安心した空は念のため蒼井の無事を確かめようと部屋の前まで行く。


(……これ、傍から見たら完全にストーカーだよな)


苦笑いしつつ、そっとドアに耳を寄せる。

しかし、中からは何の物音も聞こえてこなかった。


(もう寝ちゃったのかな?)


ドアスコープから中を覗くと部屋に灯がついているのが見える。もしかしたら泣きつかれてそのまま寝てしまったのかもしれない。そのような事を思いながら空はドアにもたれながら床に腰をおろした。


(何をやっているのだろう、俺)


このあてのない行動に大きなため息が漏れる。朝までここで見張った後はどうしようか? そう考え始めた時、蒼井の部屋で電話が鳴る音が聞こえてきた。やがて呼び鈴が止み、小さな声で何かを喋る声が聞こえた。


(こんな時間に電話?)


携帯の画面を見ると二十三時半をまわっている。空は携帯をポケットにしまい耳をすませて話を聞き取ろうとするが何も聞こえない。


(なんだ? 会話どころか相槌も無いなんて……)


するとガタリと何かが落ちる音が聞こえた。数秒後部屋の奥から人がドアに近寄ってくる気配を感じ、空はもたれていたドアから離れた。そして鉄扉のドア鍵を開ける音がするとドアが開き、さっき別れた時と同じ姿の蒼井が出てきた。


(蒼井…… さん? こんな時間に何処に……)


どことなく虚な目の蒼井はドア影の空に気づく事無くまっすぐ前を向いたまま歩みを進める。やがて外側の手すりに手をかけ身を乗り出すと転がるように脚が宙を舞った。


「あぶない!」


空はとっさに飛び出して外側に逆さまになっている蒼井にしがみつき、その身体を部屋の前の通路に引き戻した。引き戻された蒼井の視点は目の前の空に向く事なく宙に向けられていたが、空が揺さぶり声をかけるとその目は閉じ頭がガクリと落ちた。空は息を切らしながら通路に横たわる蒼井の顔に目を向ける。


(自殺…… って感じでもなかったよな。)


空は床に倒れていた蒼井を抱きかかえ、とりあえず彼女の部屋へ運ぶことにした。こんな状況とはいえ、無断で他人の家に上がり込むことに抵抗を覚えつつ、玄関のドアをそっと開ける。

二メートルほどの短い通路。その脇には半畳ほどの洗濯機スペースがあり、さらにその横にはトイレか風呂と思われる扉が一つ。通路を抜けた先には、蒼井が言っていた通り、空の部屋の半分ほどしかない小さな部屋が広がっていた。

本来なら、この狭さに二人分の生活用品を詰め込めば雑然としそうなものだ。だが、なぜか驚くほど物が少ない。小さな流しのあるワンルームの中に、タンス、丸いテーブル、そしてカラーボックスが一つずつ置かれているだけだった。


(……生活してる気配がしない)


空は蒼井を畳の上にそっと寝かせ、部屋を軽く見回す。そして布団があるだろうと考え、押し入れの襖に手をかけた。しかし、開けた瞬間、空の動きは完全に止まった。

押し入れの上段――そこにあったものに、視線が釘付けになる。


(……なんだ、これ)


見慣れた仏壇とも違う。もっと異質で、どこか儀式めいた“祭壇”と呼ぶべきものが、押し入れの中に収められていたのだ。

アパートの押し入れという日常空間にそぐわない異物。じわじわと背筋に不気味さが這い上がる。それでも空は下段から布団を取り出し、蒼井を寝かせ、急いで襖を閉じた。閉めた瞬間、ようやく呼吸が落ち着く。

玄関に戻って鍵をかけ、部屋の電気を消そうとしたとき—— カラーボックスの上で、落ちたままになっている受話器が目に入った。


(……さっき聞こえた音は、これか)


空は受話器を拾い、そっと本体に戻す。明かりの消えた部屋は薄暗く、壁に電話の影が細長く伸びている。その影を見つめながら、空はポケットから携帯を取り出し、さきほどの出来事を陸と海へラインで送った。すぐに既読が二つつき、ほぼ同時にメッセージが届く。どちらも朝になったら蒼井を連れてこいという内容だった。


(……にしても、さっきの電話は誰だったんだ? こんな時間に警察ってこともないだろうし)


空は携帯を握ったまま、暗い部屋に浮かぶ電話の影をぼんやりと見つめていた。しかし、夕方から張り詰めていた緊張と疲労が一気に押し寄せ、やがて深い眠りへと落ちていった。



 令和元年五月九日 木曜日

 空が寝てから五時間ほど経った朝方、突然鳴りだした部屋の電話で空は目を覚ました。辺りを見回し自分の置かれている状況確認すると、自分が壁に寄り掛かり座ったまま眠ってしまった事に気付いた。電話がうるさく鳴り響く中でも蒼井は寝息をたてている。その姿にホッとしながら電話のところに足を運んだ。


「まったく誰だよこんな朝早くに……」


朝五時という身内であっても憚られるであろう時間の電話に苛立ちを覚えながら静かに受話器を持ち上げ耳にあてがった。その途端、声ともノイズともいえない音が空の耳に飛び込んできた。


「うわっ!」


思わず声を上げる。それは耳に感じる不快さというよりか、何かが脳に入り込んでくるような感覚に思わず受話器を耳から遠ざけた。


(何だこれ!?)


そして受話器を置いて電話を切るとすぐに電話機からモジュラージャックを外した。


(あぶねえ…… 何だあの音は? 一瞬で意識が持っていかれるみたいな……)


空はそう感じ昨夜の蒼井の行動が頭を過ぎる。


(昨夜、電話がかかってきた後に蒼井さんは部屋から出てきた。もしかしてあの電話ってこれか?)


空はついさっきまで座っていた場所に戻ると、ポケットから携帯を取り出してブラウザを立ち上げた。検索エンジンのキーワード欄に『音 催眠術』と入力して検索ボタンをタップする。何万件ものヒットがある中、上位を占めているのはアプリや素材。


(こんな安直な検索ではダメか……)


空は暫く考えた後、『操る xxx』のキーワードを追加した。この検索で上位にヒットしたのはエロサイト。それをスクロールさせながら送っていくと、掲示板サイトの書き込みが目に止まった。


(連正会?)


空はそのワードに吸い寄せられるように指を伸ばし、タップした。表示されたのは数十件の書き込み。投稿日時の昇順に並び替え、空は一文ずつ丁寧に読み進めていく。


最初の投稿は、友人二人と旅行に行った際、一人が目の前で突然飛び降り自殺をしたという内容だった。前触れも理由も一切なく——ただ、突然。

数件先を読んだところで、「飛び降りる前、電話してなかった?」というレスが目に留まる。それに対して「他の友達と谷を見ているとき、後ろで誰かと話してた」という返答がついていた。そこからしばらく、自殺と電話の関連について議論が続く。しかし多くの書き込みは、


「電話で自殺に誘導なんてできるわけない」

「そんなことが可能なら、殺人なんて誰もしない」


そんな冷静で“正しい”意見ばかりだった。

昨日、あの異様な光景を見ていなければ、空も同じように鼻で笑っていただろう。だが今は、その正論が遠い世界の話にしか思えなかった。残りの書き込みを数件ほど残したところで、急に視界に飛び込んでくる言葉があった。


「連正会ヤバス」

(……なんでここで連正会?)


ここまで読み返しても『連正会』なんて単語は一度も出ていない。にもかかわらず、唐突に投げ込まれたその言葉に強烈な違和感を覚え、空は電話の話題が出た辺りからもう一度読み返していく。しかし、やはりどこにもその名前はなかった。


(最後の書き込み……去年か)


理由は掴めないままページを閉じようとした時、ふとスマホを操作する指が止まった。


(……番号が飛んでる)


レス番号をスクロールしながら確認すると、いくつかの番号がごっそり抜けている。中には十以上、連続で欠番になっている箇所もあった。


(こんな飛び方、自分で削除したんじゃないよな。……誰かに消されたのか?)


空は掲示板から一度ブラウザバックし、キャッシュ版を開いた。しかし、そこでも欠番部分は完全に消えたままだった。


(ここまで徹底して消す必要のある書き込みって……何だよ)


不安と好奇心が混じった焦りが生まれ、空は別の匿名掲示板にも範囲を広げて検索をかける。しかし――


「……くそっ、ダメか」


携帯を下ろした瞬間、視界の端で何かが動いた。

布団の上。

そこには、いつの間にか目を覚ました蒼井が、横たわったままじっと空を見つめていた。空は思わず身体を跳ねさせた。


「あっ、蒼井さん?!」


突然の事に空は言葉が見つからず、薄暗い部屋の中で暫く黙ったまま二人は見つめ合わせていた。


「具合はどう? 大丈夫?」

「うん、でも頭がボーっとしてる。それよりどうしてここに早見くんがいるの?」


空は、不思議そうにしている蒼井に、昨晩起きた出来事を簡潔に説明した。だが蒼井は、電話を受けたところから先の記憶をまったく失っているという。


「早見くん、さっきスマホで何調べてたの? 怖いくらい集中してたけど……」

「ごめん。昨日の、あの電話のことを調べてたんだ。受話器を取った瞬間、変な音が流れて…妙な感覚になっただろ? 催眠術みたいなものかと思って」


蒼井はふらつきながら上体を起こし、自分の服装が昨日のまま—— 制服のままだと気づいて立ち上がろうとした。


「なんか……まだ夢の中にいるみたい。頭がぼんやりする」

「無理に動かないほうがいいよ。まだ休んで——」


空がそう言いかけたとき、蒼井はふらふらと立ちかけながら、自分に問いかけるように呟いた。


「……昨日の、お母さんのこと。夢じゃないんだよね」


空は返す言葉が見つからず視線を落とす。蒼井はそれに気づき、あわてて話題を変えた。


「そ、そういえば早見くん、学校は?」

「うん。一度家に戻ってから行くよ。それよりさ……蒼井さん、しばらく俺の家にいたほうがいいと思う。昨日のこともあるし、今朝だって――」

「でも……」


躊躇う蒼井に、空はポケットからスマホを取り出し、陸と海からのメッセージを見せた。


「ほら、兄貴も姉貴も“来い”って言ってるし。俺も蒼井さんを…… 」


空は言いかけて首をぶるんと振る。


「み、蜜柑さんを一人にするのは嫌なんだ」


空が目を見つめながら言うと、蒼井の表情がやわらいだ。そっと、空のスマホを持つ手に触れる。


「……うん。ありがとう。それじゃあ、お世話になります」


冗談めかした口調で頭を下げる。その声に、空はようやくほっと笑った。


「じゃあ、家に電話してくるよ。み、蜜柑さんは持っていくもの、準備しておいて」


空は蒼井を名前で呼ぶことに慣れず、一瞬吃ってしまう。そして空が部屋の隅で電話をかけ始めると、蒼井はリュックに通帳や現金、着替えを詰め、紙袋には学校の教材を入れた。物が極端に少ない部屋だけに、荷物はすぐにまとまった。

準備を終え、蒼井はリュックと紙袋を持ったまま、電話中の空を静かに待つ。空が振り向いたとき、二人の視線が重なった。


「あれ、もう準備できたの?」


蒼井は照れたように微笑む。


「うん……物が少ないから。引っ越しでも一時間あれば済むと思うよ」


その表情がおかしくて、空は思わず笑った。


「兄貴、もうすぐ来るって。外で待とうか」


二人は玄関を開け、並んで外に出た。空は、この並び方がなんだかくすぐったくて、顔がゆるむのをこらえながら二階の風景に目を向ける。


「……なんか、同棲してるカップルみたいだね」


ぽつりと呟いた蒼井に、空は同じことを考えていたことを悟られまいと、照れ笑いしながら「うん」とだけ返した。

蒼井は、昨日落ちかけたという柵の下を覗き込む。


「こんな高さから頭から落ちたら……怪我じゃすまないよね」


ごくりと息を飲む音が聞こえた。


「……だよな。昨日のこと思い出すだけで、鳥肌立つよ」


しばらく二人で下を見ていたが、やがて階段を降り、アパートの前まで出る。


「蜜柑さん、とりあえずうちに着いたら学校と警察——えっと、桜塚さん? その人にも連絡してさ。あとはうちにいなよ。防犯設備はそこそこあるし、兄貴たちも今日は大学行かないみたいだから、昼飯のことは話しておく」

「……ありがとう。本当に何から何まで……」


蒼井が申し訳なさそうに言う。


「これも縁ってやつかな。それに、その……不謹慎かもだけど、俺は蜜柑さんといられて嬉しいんだ。迷惑なんて思ってない」

「……うん」


蒼井が小さく呟いたそのとき、黒い大きな車が二人の前に止まった。サイドウィンドウが下がり、陸が顔を出す。


「悪ぃ、待ったか?」


蒼井は慌てて頭を下げた。


「陸さん。昨日から本当にすみません……」

「全然いいよ。それより腹減っただろ。海が朝飯作って待ってるから、早く帰ろうぜ」


二人が車に乗り込むと、陸はエンジンをかけてそのまま走り出した。しかし、アパートから少し離れたところで車は速度を落とし、ゆっくりと U ターン。再びアパートの入り口近くに戻ってきた。


「……え?」


蒼井は理由がわからず陸の横顔を見つめる。だが空は、まるで予想していたかのように落ち着き払って座っていた。


「あの……?」


問いかけようとした瞬間、陸と空がほぼ同時に視線をサイドガラスの外へ向けた。

釣られて蒼井もそちらを見る。


アパートの玄関前——

昨夜、自分が倒れ込んだあの場所で、二人の男がドアノブをいじっていた。


「……っ!」


思わず蒼井は息を呑む。

空は助手席から静かにドアを開け、建物の影に身を滑らせながら男たちへと向かった。その姿を、蒼井と陸は車内から固唾をのんで見守る。


「陸さん……あの人たちは……?」


蒼井が震えた声で尋ねる。


「まだ断言はできないけど—— 君の母親を殺した連中の仲間。もしくは、当人だろうな」


蒼井の顔から血の気が引き、再びアパートに目を向ける。リアのスモークガラス越しに見える気配が、やけに遠く感じられた。


「あの中の一人、隣に引っ越してきた人です」

「つまり蒼井親子を監視するために潜り込んでたわけだ」


陸は低く呟き、外を見つめた。

空は階段の途中で足を止め、蒼井の部屋の扉が開くのをじっと待っている。


「空くん……大人二人相手に大丈夫なんでしょうか?」

「心配ないよ。あいつがやられることはまずない。ただ……手加減できるかどうかの方が心配だな」


陸の言葉の意味がわからず、目線を空に向ける。やがて部屋の鉄扉がゆっくりと開いた。周囲を警戒しながら男が一人出てくる。続いてもう一人も姿を見せ、隣の部屋へ戻ろうとドアを開けた。


その瞬間だった。


階段を駆け上がる気配。

空が弾丸のように飛び込み、男の背中へ鋭い前蹴りを叩き込む。男の身体がよろけた隙に、空も一緒に部屋へと押し入った。

蒼井は両手を握りしめ、呼吸を忘れたようにその一部始終を凝視した。


——五分後。


車内のドリンクホルダーに差していた陸のスマホが震えた。画面には「空」の文字。


「……終わったみたいだな」


陸は通話ボタンを押す。


『どうだ空。何か掴めたか?』

『ああ、やっぱり連正会だった。怪しい道具も色々出てきた。詳しい話は車でするけど……こいつら、どうする?』

『生きてんのか?』

『生きてるよ!! まぁ……二人とも伸びてるけどな』


陸は短く指示を出し、数分後、空は何事もなかったかのように車へ戻ってきた。

陸はすぐに車を発進させる。


「空くん、大丈夫だった……?」

「空くん?!」


名前で呼ばれ慣れていない空は、思わず聞き返してしまう。蒼井は恥ずかしそうに赤くなりながら説明した。


「みんな早見さんなのに、早見くんって呼ぶのも変かなって。だから……その、名前で呼ぶことにしたの」


空は照れたように頬を掻く。


「いきなり名前で呼ばれるとちょっと恥ずいね」


陸はそんな二人の空気を断ち切るように話しかけてきた。


「で? あいつら結局何者だ?」

「連正会の関係者。盗聴器の回収に入ってたみたいだな。

あの二人は洗脳やマインドコントロールの研究をしてるらしい。本部から蜜柑さんのお母さんの“始末”を命じられたってさ」


空の視線がルームミラー越しに蒼井の表情を気遣う。蒼井はスカートを握りしめ、今にも泣き出しそうだ。

陸は話を続ける。


「しかしよ……なんでガソリンを? あんなもん、人に見られたら終わりだろう」

「どうなんだろうな? 二階から落ちても死ななかった可能性を考えたのかな? 

もし生きてて、電話のことを警察に証言されたらトリックがバレる。バレたら、もうその手は使えないだろうし……」


陸は眉をひそめた。


「……にしても、よく口割らせたな。ああいう奴らって、追い詰められたら自害すんのがお約束だろ」


空は淡く笑いながら答えた。


「奴らの一人を目の前で目玉くり抜いてやったら聞かないことまでペラペラ話してくれたよ。結局あいつらは連正会を崇めているわけじゃないからな。洗脳やマインドコントロールの研究をしたいがために入信した奴らなんだよ。まぁそういう研究をしている企業や機関はあるんだろうけど、普通は人体実験なんてできないから。だから被験者がいくらでも手に入るこういう団体に入ったんだろうぜ」

「戦後間もない頃は CIA で MK ウルトラ計画なんていう洗脳実験を繰り返していたっていうけど、未だにそんな事しているなんていったら大ニュースになるよな。まぁ実際本当にしていないかは疑問だけど……」


そう言ってアクセルを踏む足に力が入り車は加速した。空はリアシートの蒼井に目を向けるが、目を伏せて惚けたようにシートにもたれこんでいる。


「……で? 何で蒼井さんのお母さんが狙われたんだ?」

「さぁ…… あいつらも知らされてないみたいだった。昨日の夜、蜜柑さんを落とそうとしたのは部屋に仕掛けた盗聴機の回収と電話の着信履歴を消す為らしいぜ。お母さんが亡くなって後追い自殺とでもみせようとしたのかもな」


空はポケットから盗聴器と思われる機械と、数本のUSBメモリを取り出して陸に見せた。陸はそれにチラリと目を向けると、USBメモリを指を指す。


「そのUSBは?」

「ああ、コレはあいつらの部屋にあったPCのデータコピーだよ」


空はメモリにつけられたストラップをもってぷらぷらと揺らして見せる。


「PCからコピーしようとした時、何個かWAVファイルあったし電話で流していた音声も入っているんじゃねぇか? 奴らの部屋のPCは俺がゼロフォーマットかけてきたからもうファイル復旧はできないだろうけど」

「んん…… でもそんなファイルがそのPCだけって事ないだろう? 教団の施設に行けばいくらでもあるんじゃねぇの?」

「そりゃそうだろう。でもあの部屋のPCが使えない以上一旦アジトに戻るだろ? そうすれば何かしらの動きは起こすと思うんだ」


陸は前見ながら窓枠に肘をつく。


「空、じゃあお前、奴らのアジトを探す為にそんなことしてきたのか?」

「いや、そこまでは考えてなかったけど……。でも、壊したPCのこともあるし黙ってても何かしら動きだすだろ。接触してくれれば、叩けるチャンスもできるし」


そんな会話をしているうちに、車は陸の自宅裏の車庫へ滑り込んだ。空が後部座席の蒼井を見ると、蒼井はまだ放心したようにシートにもたれかかっていた。


「蜜柑さん、うち着いたよ」


そう声をかけるとハッとしたように身体を跳ねらせて空の顔を覗き込む。


「あれ? 空くん……」

「俺、そろそろ学校行かなきゃいけないしうち入ろう」


二人は車を降りると門の玄関の方に回り込み、家の中へと入る。「ただいま」と声をかけると、キッチンから海と里絵が玄関まで出てきた。


「おかえり。 蒼井さん。あの…… その……」

「海さん。すみません、大丈夫です。あの、暫くご厄介になります」


心配そうに蒼井をみる二人は力なく微笑んで、朝食が並べられたキッチンへと招き入れる。テーブルの上にはハムエッグやトマトサラダ、食パンがのせてあり、コーヒーも温められていた。そんなキッチンに汚れた服のままやってきたことに蒼井は気付く。


「あの、ごめんなさい。昨日と同じ服のまま……」


恥ずかしそうに海をみる。


「ううん。大丈夫よ。ご飯食べたらお風呂どうぞ。……というか、空。あなた今から学校なんだからちゃんとお風呂入ってから行きなさいよ」

「わかってるよ」


その後五人で朝食を食べ始めるが、空は食パンの上にハムエッグとトマトをのせ、三口程で平らげると早々に食卓を離れシャワーを浴びに浴室に向かった。浴室を出た空は登校の準備を済ませて再びキッチンに姿を見せた。四人は未だ朝食の真っ最中である。


「じゃあ学校行ってくるよ。蜜柑さん、俺の部屋のパソコン自由に使っていいからね」


そう言う空に陸はニヤニヤしながら茶々を入れる。


「そんな事言って大丈夫かぁ? お前のDドライブ…… 蒼井さんに見られても……」

「だ、だ、だっ…… 大丈夫だよ!」


ドモリながら答えると、一旦部屋に戻りキッチンの前で「いってきまーす!」と叫んで家を飛び出した。


歩道を歩き学校に近づくにつれて東中の制服姿の生徒が増えてくる。昨晩からの非日常の感覚が残っている空だったが、この見慣れた光景にいやがおうにも日常に戻されるのを感じてしまう。学校に着き校門をくぐり昇降口から教室に向かっていると急に後ろから肩を叩かれた。


「空、おは!」

「あっ、シンくん…… はよん!」


二人は軽く挨拶を交わすと、忍は教室に向かって歩き続ける空に近寄り小声で話しかけた。


「なぁ、蒼井のお母さんの話聞いたか?」


そう聞いてくる忍。空は忍の耳の早さに呆れながら、その情報のソースが蒼井では無いことに自然とため息がでた。


「ああ、知ってる。今日から暫くは蜜柑さん休みだよ」

「蜜柑さん?」


忍は空の蒼井の呼び方の変化にピクリと反応し、ニヤリと顔を緩めた。


「あ、いや…… で?なんだって?」

「あ、うん。この前蒼井自身にあんな事があったってのに…… 蒼井家祟られてるんじゃないのかな?ってな」


その言葉に何となく今朝見たあの祭壇のことが頭に浮かんだ。


「まぁな……」


しみじみ呟く空をみて忍も少しウンザリしたように言った。


「それにしても最近やたらそういう事件が多いよな。櫻井先輩も未だ見つかっていないみたいだし……」

「ふぅーん……」


忍の言葉が空の耳を素通りしようとしたとき、急に教室に向かう空の足が止まった。


「ん? シンくん! 今、なんつった!?」

「いやだから、最近やたら事件が多いなって……」

「いや、そうじゃなくて……」


忍は斜め上を見るような仕草で少し考えると、空が聞きたかったことを察した。


「ああ、櫻井先輩の事?」


空は黙って何度も頷く。忍は空が知らなかった事を不思議がるように話し始めた。


「一昨日の保科の事があって、昨日も屋内プールの捜査や部員への聞き込みの為に警察がきてたのは知ってだろ?」

「いや。屋内プールにテープが貼られてるのは見たけど……」


忍はため息まじりに息を吐く。


「昨日蒼井が柴田先生に連れて行かれたろ? 恐らくそれだって警察からの聴取だぜ」


その件に関しては蒼井に話を聞いていたが、警察がいたという話が無かった。しかし構わず話を続ける忍に耳を傾けた。


「それで昼休みの時に櫻井先輩へ事情を聞こうとしていたらしいんだけど本人がつかまらなかったらしく、午後の授業に出てくるのを待ってたんだと。ところが授業が始まっても現れなくて放課後何度も呼び出しをされてたんだ」

「つーか、単に授業ふけて帰ったんじゃねぇの?」


少しがっかりしながらそう言う空に、忍は身を乗り出し得意げな顔を近寄らせる。


「ところが先輩の友達から携帯に電話してもらっても出なくて、それどころか夜中に櫻井先輩の家から帰宅してないと担任に電話があったそうなんだ」


空はそのやけに詳しい話の出処が気になったものの、運動部内の噂なのだろうとあたりをつけてスルーする。


「……で? 今日も学校きてないのか? 櫻井先輩……」

「来てないだろ。多分…… 昨日の様子からすると、来てれば騒ぎになってるはずだから」


確かに忍の言う通りここ数日突飛な事件が多すぎる。今のところ櫻井と保科の件は関連の有無はわからないが、少なくとも蒼井母の事との関連は無いだろう。空は忍と並んで歩きながらそれらの事件を思い返していたが、急に思い立ったかのように言った。


「なぁ、シンくんの…… 剣道部って三年生いるよな?」

「ん? ああ…… いるよ」


そう聞くと空はその先輩に櫻井の事を聞いてほしいと頼んだ。忍がいくら色んな情報網を持っているとはいえ所詮は噂話。何処まで信用できるかわからない。また学年の中での櫻井の立ち位置がわからないと状況が把握できないと考えたのだ。


「確か笹原先輩と太田先輩は櫻井先輩と同じクラスだと思ったけど…… うーん……」


忍は三年の教室が並ぶ階に行くのを渋る。空には行きたがらない理由がわからなかったが、自分が一緒にいくという事でなんとか承諾させた。空は教室にカバンを置くと、時計を確認しながら二人は小走りで三年教室に向う。そこはこの棟の三階にあり二年同様四つのクラスが並んでいる。この階にやってきた二人は多くの生徒が行き交う廊下を通り笹原と太田のいるという四組教室を目指した。たった一学年しか違わないというのに、周りの生徒の姿は同級生よりずっと大人びて落ち着いて見える。しかし中には大声を出してふざけているガラの悪い生徒もいるため忍はここに一人でくるのを嫌がったのだ。そんな不良も空の姿を見るなり騒ぐのをやめ、空が通り過ぎるのを見送った。


「うん、空を連れてきて正解だったな。俺一人だったら因縁つけられてたかもしれないよ」

「何だ、俺は虫除けかよ?」


二人がいくつかの教室前を通り過ぎ、三年四組の教室前にやってきた。忍は入り口付近に座っていた女子生徒に声をかけ笹原と太田を呼んでもらうと、二人の先輩は空達のところにやってきた。そして空の顔を見るなりギョッとする。忍は二人の先輩に空を紹介すると空は軽く会釈する。


「ども二年の早見空です。突然申し訳ないですけど、先輩方にお話し伺いたいのですがよろしいですか?」


空は心底丁寧に頼んでいるにもかかわらず、笹原と太田は空の雰囲気に呑まれて緊張している様子が伝わってくる。空は忍と二人の先輩を引き連れて人気のない理科室へとやってきた。


「先輩、手間取らせちゃってすみません。聞きたいのは櫻井先輩の事なんですけど、今日って櫻井先輩学校来てましたか?」


そう問いかけると笹原と太田は顔を見合わせる。


「いや、見てないよ。つーか、普段からあいつ、始業時間前にくる事なんてないからな」


太田はそう言いながら顔を顰める。


「そうだな。あいつが始業前に来ていることの方が珍しいんじゃないか?」


その話に空と忍は驚いた。


「櫻井先輩ってそういう人なんですか? 全中とか出るような人なのに?」


忍は声を裏返らせながら太田に聞いた。


「全中は関係ないだろ。櫻井は水泳がうまいってだけで人間的に優れている訳じゃないよ。授業は平気でサボるし、授業中でも平気で教室を出入りしてるんだ。それでいて先生には何も言われないんだから、さっき廊下で騒いでいた奴らよりよっぽどタチが悪いぜ」


笹原はイラつきながら太田の言葉に付け加えた。


「それじゃ今回みたいに突然いなくなるなんて事はあったって事ですか?」


空は二人に問いかける。


「ああ、普通にあったよ」


笹原は即答した。その反応に空は眉間にシワを寄せ納得いかない様子で聞き返す。


「だったら何で今回いなくなったことでそんなに騒いでるんですか? 普段がそうならそんなに騒ぐ事じゃないんじゃないですか?」


そういうと太田は小さくため息をついて続けた。


「そりゃアレだろ。一昨日プールで死んだ二年の水泳部の子…… 警察の事情聴取でその子の関わりがバレると思っての逃亡と思われたからだろ」


その話に空は目を大きく見開いて忍に目を向けると、両手を上げ「わからない」といったジェスチャーを見せた。


「そんな話あるんですか?」

「聞いた事ないか? 結構知られている噂だと思ったんだけど」


そう言って太田はテーブルに寄りかかり話を始める。


「櫻井ってさ、全中に出てたりあんな見た目だから、あいつのことよく知らない人には意外と人気あるんだよ。でも水泳部じゃ横柄な態度が目立って、ほとんどの部員に嫌われてたんだ。でも越谷と保科だけは櫻井のこと好きだったらしいんだよな。で、保科は前から櫻井にアプローチしてたんだけど……先月ついに櫻井が保科に手ぇ出しちゃったんだよ。」

「…… ん? 手を出した? 殴ったって事か?」


空は理解できない風に聞き返すと、忍はジトッとした目を向ける。


「いやいや、この場合ヤッちゃったって事だろ」


空の理解の無さに忍は直ぐに口を出した。太田は忍をみて頷きながら話を続けた。


「そうだな。…… で、これを境に保科はそれまでよりも櫻井に入れ込んで殆どストーカーの様になっていた。そんな保科を櫻井は鬱陶しがってたそうだ。…… で、ここからは単なる噂話なんだがな、越谷は櫻井に気に入られるチャンスとばかりに櫻井と結託して保科を潰そうとしていた」

「潰そうと?」

「ああ、いわゆるイジメだな」


空はその話に苛立ち鼻息が荒くなる。その様子に太田は気づきながら話を続ける。


「でもさ、保科ってストーカー気質みたいなところあったから、簡単には引き下がらなかったんだよ。ある時、ネット掲示板に水泳部の内情を暴露した上に、越谷をひどく中傷する書き込みがあってさ。しかも保科が櫻井と関係持ったことまで書かれて、運動部の間で一気に噂が広まったんだ。

内容があまりにひどすぎて、越谷は学校行けなくなったらしい。……で、その書き込み、全部保科がやったって言われてるんだよ」

「随分と面倒くさい話になってきたな……」


空はうんざりしながら呟く。


「でも話はここまでだよ。そこに保科の死と昨日からの櫻井の失踪に続くわけだ……」


太田はもたれていた体をテーブルから起こして両手を上げて伸びをする。


「でもそれなら不登校になっているとはいえ、越谷先輩も疑われそうなもんだけどな」


腑に落ちない感じで空が言うと、太田は時計を気にしながら答えた。


「まぁ、動機からすればそうかもしれないんだが、結局部活中に起きたわけだからな。越谷の姿を誰も見てない以上容疑者から外れて当然なんじゃないか?」


そこまで言うと太田たちは授業が始まるからとそそくさと部屋を後にした。それから間も無くして予鈴のチャイムが鳴り、空と忍は誰もいなくなった三年廊下を通って二年教室のある二階へと歩きだした。


「空、どうだったよ? 何か収穫あったか?」

「うーむ…… 状況はわかったけど全然繋がんねぇ……」


難しい顔をする空に忍は不思議そうに訊ねる。


「お前どれとどれが繋がると思ってたんだ?」

「どれって蜜柑さんのお母さんのこと以外全部だよ」


忍は目をキョロキョロさせながら状況を飲み込もうとする。


「蒼井と保科の事故と櫻井先輩の失踪か?」

「ん…… まぁ、そうかな。櫻井先輩は失踪と決まったわけじゃ無いけど」


二人は教室に戻ると、さっきまでの廊下の騒がしさを教室内に凝縮させたかのように騒がしさが増していた。「こんな五月蝿い中では忍と話もできない」と、自分の机に着いた空は頭を机に落として目を閉じた。別に寝ようと思ったわけではないのだが、寝不足だった事もあり目を閉じた瞬間意識が遠のいた。


寝落ちた事を自覚しない空の耳に誰かの話し声が入ってきた。


「お前さ…… 何でやられてやられっぱなしになんだよ。やりかえさねぇから相手も調子づくんだぜ」

「相手は五人だよ。勝てるわけないよ。それに相手に怪我でもさせたらお母さんに迷惑かかるし……」


夢と現――どちらともいえない中で、聞き耳を立てながらその声の主が誰なのかと考える。


(この声、何処かで聞いた事あるような……)


机に伏せながら思い出そうとするがなかなか思い出せない。


「だいたいな、一人相手に五人がかりで殴ってくる様な奴、何をしても許されるんだよ」

(その言葉…… どっかで聞いた事あるな。誰が言ってたんだっけ?)


そのようなことを考えているうちに耳に入る話し声はだんだん遠のき場面が切り替わる


「…… お前どうしたんだその怪我! 誰にやられた?」

「だ、大丈夫…… 大丈夫だから」


耳に入ってきたのはさっきと同じ二人の声。話の内容が繋がらないことから、空はこれが夢であることに気づいた。耳に入ってくる話はあまり心地の良いものではないだけに目を開けてしまおうかとも思ったが、この声の主が気になりもう少し様子をうかがうことにした。


「学校来るときに駅のところで…… その……」


どうやら校外でカツアゲされたとのことらしい。空はそうなる状況が理解できない。物心ついた頃から戦う術を身につけ、絡んできた奴は全て葬ってきた。そのため一人で街中を出歩くようになる頃には名が知れ渡りカツアゲはおろか絡んでこられる事さえもなくなっていた。この話し相手も空同様絡まれることに縁が無い男なのだろう。そんな事を感じながら話の続きに耳を傾ける。


「絡んできた奴の事は覚えているだろ? 今度金取り返してやるからよ」

「ほ、ホントに大丈夫だから……」


怯える様に大丈夫と繰り返し、巻き上げられた金を取り戻してもらうのを拒んでいる。空はその理由がわからず話の続きを待つ。するとさっきと同じように話し声が聞こえなくなりまた会話が始まった。


「はぁ…… 生きた心地しなかったよ。まさか警察につれていかれるなんて…… 家に電話されるかと思ってヒヤヒヤしちゃった」

「なぁ、別に何とも無かっただろ。あっちから絡んできたんだから、返り討ちにあっても文句言えねぇだろ。堂々としてればいいんだよ」

「でもお巡りさんから早見君、やり過ぎだって怒られたじゃない……」

(えっ!!)


伏していた机の上からガタリと飛び起き頭を上げた。その物音にクラスメイトの視線が空に集まる。


「どうしたんですか?」


空は辺りを見回すと教室は静まり、いつの間にかホームルームが始まっていた。そして黒板前に立つ担任の羽柴が声をかけてきた。


「い、いえ…… すみません」


そう謝ると動いてしまった机を戻して席につく。クラスメイトの視線は再び羽柴の方を向いた。空は夢の二人が陸とその友達 水城彰だったと直感した。


(そういえば水城先輩もまだ見つかっていないんだよな。)


陸の話を思い出しながらさっき見た夢の会話を思い返す。


(陸兄がここの生徒だったのは六年前。その頃からいる先生って誰だ?)


公立の小中学校では、教師は三、四年で異動するのが常だ。当時のことを知る人物を探そうと空は考えたが、そんな昔から残っている者などほとんどいないはずだ。仮にいたとしても、この学校の“体質”を思えば、黒歴史に触れるような話を簡単に口にするとは思えない。


(異動が少なそうなのは……用務員、養護教諭、司書。教師は可能性が低いな)


空は机の端に思いつく名前を書き込み、違うと思えばすぐに線で消す。その動作を何度も繰り返していた。

ふと顔を上げると、教室では羽柴が保科の告別式の日程を告げている。しかし空にはほとんど接点がないため、言葉はただ空気に溶けるだけだった。

シャープペンを指先で転がし、そのまま机に投げ出す。


(ダメだ、手がかりが見つからない。昼休みになったら……柴田先生に当たってみるか)


無意識に視線を上げた黒板上の時計は、八時五十分を示していた。昼休みまでの距離を思い、空はひそかに顔を曇らせる。


ホームルームが終わり、授業が始まっても頭の中には水城のこと、連続する不可解な事件だけが渦を巻いていた。授業の言葉も数字も耳をすり抜けていく。


ようやく昼休みのチャイムが鳴る。空は給食を“食べる”というより“飲み込む”勢いで片付けると、クラスメイトに「ちょっと具合悪い」と短く告げ、そのまま教室を飛び出した。

廊下には人影がない。昼休みの職員室前も静まり返っていた。扉越しに聞こえるのは、雑然とした食器の音と低い話し声だけ。空は息を殺して職員室のドアをそっと押し開けた。中の空気を探るように視線を走らせ、柴田の机をのぞき込む。

……だが、そこに彼女の姿はない。


「ちっ、いねぇーし……」


空がブツリと呟くと後ろからポンポンと肩を叩かれた。


「君は誰を探しているんだ?」


全く注意を払っていなかった背後からの接触に、ビクッと体を跳ねらせて振り向いた。その目前には白衣姿の柴田が立っていた。


「しっ、柴田先生!」


その反応に柴田は首を傾げる。


「先生、何処行ってたんですか?」

「お花摘みだが……?」


そういい終わるのを待たずに空は柴田の手を引いて職員室前から駆け出し、人通りの少ない廊下を抜けて一階廊下突き当たりにある音楽室に飛び込んだ。専門教室独特のこもった匂いが鼻につく。


「空、何なんだいったい。こんなところに私を連れ込んで…… まさか急に欲情して私でスッキリしようとでもいうのか?」


何の臆面もなくそう口走る柴田に、ジトッとした生温い目で返答する。


「先生…… 教師なら冗談でもそういう事言わないで欲しいんだけど……」

「ああ、そうだな…… すまん。

でも君がそういう常識的な感覚を持ってるとは意外だよ」


謝罪しながらもただでは引き下がらない柴田の言葉に呆れながら握っていた柴田の手を放す。しかし空はそんな教師らしくないところに親近感を覚え、柴田のところにやってきたのだ。


「それはともかく先生。ちょっと教えて欲しいんですけど、この学校で一番長くいる人って誰ですか?」

「ん? 一番長い人? 確か用務員さんが十年目とか言っていたな。あと私はここにきて六年目になるが、来た時には教頭先生と司書の先生はいたな。いつからいるかわからん」


その言葉を聞いて空は小さくガッツポーズをした。その様子に不思議そうな顔を向ける。空は小声で柴田の顔のそばで話しかける。


「昔、この学校であった事故というか、事件というか…… そんな感じのこと聞きたいんですけど」


その小さな声に内緒話でもしているかのように聞き耳を立てる。


「……ああ、わかった。でももうすぐ昼休み終わるぞ。私も午後一授業入っているからそろそろ行かなきゃならない」

「じゃあ、先生。放課後…… というか、先生の仕事終わってから時間いただけないですか?」

「別に構わんが…… 部室に行けばいいのか?」


そう言われて空は少し考える。


「学校の中はちょっと…… ファミレスとか喫茶店はどうです?」


そういうと柴田は少し顔をしかめる。


「それはちょっとどうだろう…… そんなところで生徒と二人きりというのは世間的に……」

「そうですか? 別にそう変な事無いと思いますけど」


空は手を顎にあてて再び考える仕草を見せると、柴田はオルガンにもたれながら小さくため息をついた。


「わかったよ。一応部活の打ち合わせという名目で学校には言っておく。仕事終わったら電話するよ」


空はコクリと頷いて了承してくれた事に礼をいった。ちょうどその時、五校時開始の予鈴がなり二人の顔は同時にスピーカーに向く。柴田はオルガンから身を起こすと入ってきたドアへと歩き出す。空はそんな柴田を追いながらポケットのスマホで時間を確認した。廊下に出ると正面に見える職員室から足早に飛び出す教頭や教師の姿が見えた。空は先回りするため一番近い階段を駆け上がると小走りで自分の教室に向かった。いつものように騒がしい教室に、何食わぬ顔で入った空の姿が忍の目に入る。空が席に着くとポケットの中の携帯が震える。空はポケットに手を突っ込みそっと半分だけ出して画面を見ると、忍からのラインだった。

『昼休み何処に行っていたんだ?』

そんな事が書かれていた。相変わらずの鼻の良さというか、噂話しを見つける洞察に感心しながらも、とりあえず「お花摘み」と一言だけ打ち込んで送信した。


(そういえば蜜柑さん大丈夫かな?)


陸からは何のメッセージも入っていない。何事も無く過ごしているのだろうが、蜜柑と連絡を取りようがないこの状況に連絡手段を確保しておけば良かったとの後悔が現れる。そしてスマホをポケットの中に戻し五校時の教科書をカバンの中から出していると授業開始のチャイムが鳴った。いつもなら本鈴前に入ってくる教科担当もまだこない事に違和感を覚えるのだろうが、今日は夕方からの柴田との約束に気が向いてそれを気にする様子も無い。再び空はポケットからスマホを取り出し引き出しの中に隠すようにしてブラウザを立ち上げた。検索キーワードに東中の学校名と死亡事故と入力して検索をかけると千件を超えるヒットがあった。最初の方は保科関連の記事が占めていたが、スクロールしていくと陸や海が話していた女子生徒の事故の記事が載っていた。それをタップして開くとそれは数年前の新聞社のニュース記事であり、下の方には読者コメントが数十件書かれていた。


(死に方が変わっていたからもう少し何かあるかと思ったけど……)


新聞の記事は、単に「階段からの転落事故」と報じているに過ぎなかった。あの現場の、地獄のような惨状を知っているのは、学校の関係者だけなのだろう。空はページを戻り、他のニュースサイトも巡ってみたが、どれも似たり寄ったりの無機質な内容ばかりだった。


(あ……そうだ、今朝のUSB)


空は、蜜柑のアパートから回収した、連正会工作員のUSBメモリのことを思い出した。後で調べようとカバンの中に雑に放り込んだきりだったのだ。手探りで中を探り、教科書やノートの間を数秒ほど彷徨って、ようやくその金属質な感触を掴み取った。

USB のAタイプからライトニングの変換アダプタにそれを差し込み、スマホへと繋げる。


(ちっちゃい画面だと見づらいな。部室からPCもってくればよかったか……)


そんな独り言をこぼしつつ、メモリ内のファイルを一つずつタップしていく。

メモリの中には今朝の「あの電話」に使われた音声データの他にも、洗脳やマインドコントロールといった、おどろおどろしい研究資料が並んでいた。


「……なんだこれ、よく分かんねぇな」


いくつか目を通してみるが、羅列された専門用語の壁に阻まれ、内容はさっぱり頭に入ってこない。

……と、そんなフォルダの海の中に、『水城ファイル』と銘打たれたPDFファイルが目に入った。


「水城? 水城彰先輩と同じ名字……か」


まぁ、よくある名字だ――。

そう自分に言い聞かせながら、そのファイルをタップした。


(……重い)


読み込みが始まってから十秒。スマホが熱を持ち始めた頃、ようやく資料の表紙が表示された。ページ数は三百。その膨大な量に一瞬うんざりしたが、ページ内の字面を目で拾い上げながらフリックを続ける。


(呪術に関する研究……資料?)


相手は新興宗教の皮を被った集団だ。そんな荒唐無稽な研究もしているのだろう……と無理やり自分を納得させながら視線を滑らせていく。


『学校内における「コトリバコ改」発動実験報告書』


その文字を目にした瞬間、空の心臓が嫌な跳ね方をした。


(コトリバコって……あの、ネット怪談とかの?)


島根県に伝わるとされる呪いの箱の物語。複雑なパズル状の木箱の中に、間引きされた子供の遺体の一部などを納めるという、女性や子供を標的に惨殺する呪具。


(どうして、そんなワードがこんなところに……?)


空の顔からは次第に血の気が引き、ページをめくる手は焦燥感に駆られて速まっていく。資料には信じがたい内容が記されていた。かつて東中学校の生徒であり、箱を作った『水城彰』は、コトリバコを伝えた僧の末裔であり、この箱の中に自らの血液を封じ込め、呪術の発動を試みた――と。

しかし、その時点での効果は穏やかであり、呪物としての完成度は不十分。その後、クラスメイトのイジメで死亡した水城彰の遺体を用い母 水城聖良の手により呪いは完成された。また彼女の手により箱は量産され合計5もの呪物が作り出された。

本来、コトリバコは子供と子を産める女性にしか発動しないのだが、名前を書いた紙を入れるというお手軽な方法で呪いを発動させるというのが、研究の成果というものらしい。

そして死亡した13名の被験者の名前が記されている。その中にはこれまで何度か目にした柿崎や昨日亡くなったばかりの保科恵の名前までもがあった。


(……ということは、目安箱の呪いは実在するってことなのか?)


レポートには呪いを受けてから死亡した状況まで事細かにかかれている。


(ここまで細かく調べているってことはこの東中にも連正会のやつが入り込んでるってことだよな)


報告書は冷徹な文体で、ある凄惨な「事故」の裏側を暴き出していた。そして呪いが発動しているにも関わらず、災を回避している者として蒼井蜜柑の名前が挙げられていた。


「まじかよ……」


空は頭をあげ「ふぅーっ」と大きく息を吐く。そして以前蜜柑に聞いた蜜柑の特殊な体質の話を思い出した。


(それにしたって連正会は呪物なんて作って何をしようとしているだ?)


顔を上げ黒板上の時計を見上げた。

気がつけばその時計は十三時半を指していた。


(それにしても、高橋先生遅すぎないか……)


時計はもう始業時間を二十分も過ぎている。辺りを見回せば教室内は休憩時間のように騒がしくなっていた。……とそんな時、教室の前のドアから教頭と羽柴が入ってきた。五校時の授業は社会で教科担当は高橋。思いもよらない人物の登場に教室内はざわめいた。


「静かに! 早く席に着きなさい!!」


教頭の苛立った声が教室に響くと、水を打った様に鎮まりクラスメイトは机を揃えながら急いで着席を始めた。羽柴は入ってきたドアの側で神妙な面持ちでそんな生徒に目を向けている。教頭は教壇の前で教室内が静まるのを待ちながら、威圧する様な眼差しで室内を見回す。


(この教頭…… どうも好きになれないな)


そんな事を考えながら空は教頭に顔を向ける。他の教室でも同じように学校の上役が来ているのか、教室の外からも生徒の声は全く聞こえてこない。つい先日もこんな感じで保科の死を告げられた。十中八九今日もいい話ではないだろう。教室内の全ての生徒がそう感じているのか緊張した面持ちで教頭の話を待っている。


「昨日に続いての事ですが、今日も校内で人が亡くなる事故が起こりました」


「!!!」


その瞬間教室内がドッとざわめく。空はとっさに忍の方に目を向けると、その視線に気付いて目があう。そして忍は顔を顰め首を傾げて見せた。噂話に聡い忍の耳にも入っていないらしい。


「静かにしなさい!!」


「まったく!」と言いたげな、更に苛立った風の教頭は怒鳴り声とも言える荒げた声で言い放つ。怒鳴られることに抗体のないクラスメイトは一瞬にして鎮まり怯えるように揃って前を向いた。中には涙を浮かべている女子生徒もいる。そんな事を気にもしない様子で室内が静まると教頭は息を整えて話を再開する。


「詳しい調査はこれからなので先生方も事故の状況はわかっていません。事故が続いてマスコミに何か訊かれることもあるかもしれませんが、無用な混乱を避けるためにも校外だけでなく生徒間でもこの話題はしないようにしてください。この事故の原因を突き止め安心して学校生活が送れる様に先生方が対応します。皆さんも事故には重々気を付けるように!」


そう言って教頭は教壇を離れてそのまま教室を後にした。教頭が教室から出た途端に何人かが話しを始めるが、羽柴が教壇の前に立ち話を始めるとそんな人たちも黙って前を向いた。


「まだ午後の授業が残っていますが、事故の調査がありますので皆さんはこれで下校になります。それと明日は臨時休校となりました。日曜日まで学校には一切入れませんので忘れ物をしないように帰ってください。もちろん部活動や委員会活動などは全て中止です。それと今日は十六時までは自宅学習となりますので、それまでは家から出ないようにしてください」


羽柴はいかにも紙に書かれた文書を読み上げるように要点だけを伝える。恐らくは教師たちも上役から余計なことを言わないようにと釘を刺されているのだろう。

空は真っ先に柴田との約束が頭に浮かんだ。


(これじゃ柴田先生との話は中止かな……)


そんな事を考えながら机の中の物をカバンにしまおうと、引き出しに手をつっこみ教科書やノートを机の上に出した。すると社会の教科書の間に五センチ四方の青色の付箋紙が挟んであるのが見えた。その覚えのない付箋のページをめくると下部に綺麗な字で十一桁の番号が書かれていた。


(携帯の番号? この字の感じからして女子か?)


空はその紙を折り畳みポケットに入れると教室内を見回した。


(誰だろう。うちのクラスで携帯持っている女子って…… つか、クラスメイトとは限らないのか。)


空は教科書を鞄に入れながらこのメモを挟んだ意図を模索する。この中学で携帯を持っているのは六割程だという。一応校内への携帯持ち込みは禁止されているが、空のように隠して学校に持ってきている生徒もいる。こんなメモを挟むくらいだから学校でも常に携帯している人なのだろう。そんな事を考えながらも「電話してみればわかる」という当たり前の結論に達し考えるのをやめた。みんなが帰りの準備を済ませると羽柴は手短に連絡事項を伝え皆んなはいつもより静かに教室を後にした。廊下の所々に立つ教師から無言の圧力を感じる。空も忍と並んで黙ってその通路を通り抜け校門から外に出た。


「ぷはぁーっ! 何だよアレ? 息詰まるかと思ったよ」


学校を出た途端に忍はそう漏らした。忍は首を左右に動かして腕をグルングルンと前後に回している。


「まぁな。それにしても教頭のやつ、事故事故って連呼していたけど、昨日の今日だし本当に事故か怪しいよな。やっぱり噂が広まる前に緘口令しいたのかな?」


空は数歩先の地面を眺めながら答えこたえた。


「だろうな。それにしたって何処で誰が死んだかも言わないって噂してくれと言っているようなもんじゃねぇか? やっぱ死んだのってやっぱり櫻井先輩なのかな?」

「話の流れからすればそうだろうな」


空はそう言いながら、頭の中に目安箱の影がちらついていた。

二人は校門前の道路を横切ったところで足を止めて話をしていたが、忍は道路の対岸から多くの生徒の視線に晒されている事に気づいてソワソワしはじめた。


「空。うち寄ってくか?」


忍はたまらずそう言った。


「いや、今日は帰るよ。ちょっとやんなきゃいけない事あるから」


忍はその言葉に「そっか」とだけ答え、その後の空の言葉が無いとわかると特に言及することもせずに二人は別れた。空は足早に自分の家の方へと歩き出す。担任に言われた「十六時まで自宅待機」を気にしての事ではない。自室に居るであろう蒼井の顔がチラついて忍の家に寄っていく気にもなれなかった。防犯対策が施された上に陸がいる早見家なら安全この上ないのだろうが、昨日の電話のように相手の手の内が見えない以上そう安心もできない。それに今日学校で聞いた情報を早く蒼井に話したかった。空の足の運びは無意識に速くなり自宅への道を急ぐ。そしてしばらく歩いたところで前方から赤い回転灯の光が近づいて来るのが見え、何秒か後にそれが空の脇をサイレンを鳴らした三台のパトカーが通り過ぎた。うねるようなサイレンの音が空の耳に残る。


「ドップラー効果……」


通り過ぎるサイレンを聞いて、習ったばかりの単語が口に出る。空は自分の脇を通りすぎた時、その一台のドア窓越しに見覚えのある男の横顔が目に映った。


「あれは桜塚とかいう……」


空は振り返ってパトカーの行方を目で追うと、それは東中の校門の中へと入っていくのが見えた。


(桜塚って捜査一課の刑事って言ってたよな。……ってことは、殺人事件として調べてるって事か?)


空は立ち止まって学校の方を眺めていると、サイレンの音に引き寄せられるかのように近隣の住人が家の中から出てきて校門の前に集まりだした。空はポケットの中の携帯を取り出すと、通話履歴の中から忍の名前を探して発信する。数回のコールの後に聴き慣れた忍の声が聞こえた。


「空。そろそろかけてくるかと思っていたよ」


空はニヤリとする忍の顔が浮かんで軽くイラりとする。


「なら何を聴きたいかわかるだろ。学校の方はどんな感じよ?」

「ああ、校門前にいっぱい人が集まってる」


肩透かしを喰らったように張ってた気が抜ける。


「いやいや、それは俺も見えてるよ。そうぢゃなくて……」


そういうと電話の向こうから忍の笑う声が聞こえ、そんな揶揄にさっきまでのイライラが蘇る。


「七、八人くらい警察官が出てきて教頭と話してるみたいだ。私服警察官もいる。

……あっ、プールの方に向かっていった」


忍の実況にその状況を想像する。


「つーと、事故が起きたのはまたプールってことか……」


空は電話をしながら自宅の方へ歩き出した。そして学校で聞いた忍や柴田、教頭の話を思い返した。


「なぁ、今日の遺体っていつ見つかったんだろうな?」

「いつって昼休みじゃねぇの? その前なら何かしらの話が聞こえてきそうなもんだろ?」

「いや、もっとスポット的に…… 昼休みのどのあたりでってことだよ。仮に昼休み始まってすぐなら教師たちに動きが出るだろ」


空は昼休みに会った柴田の様子を思い出しながら答えると、忍は電話の向こうは沈黙する。そんな忍の応答を電話口で待った。


「昼休みなら先生達は職員室だぜ。動きがあったとしてもわからなかっただろ」


そういう忍に空は給食を速攻で食べたあと職員室に行っていたことを伝える。


「その時はそんな慌ただしい感じもなかった。つーことは昼休みの終わり頃…… もしくは終わってから見つかったんじゃないのかな?」


そんな空の言葉にのんびりした口調で忍は答える。


「もしそうなら随分早々に生徒を帰宅させるって決めたんだな」

「この学校っていろんな事をひた隠しにしたがるもんな。でも先日の保科のことやその前の事もあるし、いい加減学習したんだろうよ」


学校に対する嫌味を含ませながら空は言うと、忍の乾いた笑いが電話から聞こえてきた。忍から学校の様子を一通り説明されて電話を切ろうとした時、「あっ!」という忍の叫び声に再び携帯を耳に戻した。


「どうした?」


空が呼びかけると、暫くしてから携帯を顔に戻したであろう音が聞こえる。


「あ、いや…… 悪い。学校の前に保科恵のお母さんが見えたもんだから」

「はぁ? 見間違いじゃね? 保科は死んだばかりだぞ。それに保科って他所の地区からこの学校きてるんじゃなかったか? ……てか、そもそも何でシンくんが保科の母親なんて知ってんだよ」


興奮しながら同時にいくつもの質問を浴びせられた忍は返答にまごついている。しかも保科母の姿を目で追うのに夢中で空の質問は上の空になっているようだ。忍が視線を向ける校門前は時間を追うごとに人が増えていったが、それをよそに保科の母親と思われる女性はその場から立ち去ろうとしていた。


「うーん……」


その様子を目にした忍は唸り声を上げる。


「どうかしたのか?」


忍が唸る状況が分からずたまらず問いかけた。


「いや、保科のお母さんがどっか行っちゃった。何処行ったんだろうな。駅と方向違うし……」

「てか、それホントに保科恵の母親なのか?」


忍が何故保科恵の母親を知っているかがわからない現状で、目にしている人物が保科の母であるということに空は半信半疑だった。


「いや、ホントだって! 保科のお母さん、何度か学校に乗り込んでる現場を見てるから間違いないよ」

「乗り込んで?」

「ああ、部活のレギュラー選出の事でな」


空は前に忍に聞いたことを思い出した。同じような実力でありながら蒼井はレギュラー、保科は補欠にもなれなかったという話。


「ああ、その事でか…… まぁ、他所の地区から通って頑張っているのに、そんな扱いされたら乗り込みたくなるかもな」


ようやく納得した様子に忍はホッとする。


「でもまぁ、学校に保科の私物だってあるだろうし、何かの手続きに来たのかもしれない。別にいたってそう不思議がることもないんじゃないの?」

「うーん……」


空の言った言葉に忍は唸り声をあげていたが、学校での動きもないことから話を終えて電話を切った。これまでの平和な日常に突然数年分とも言えるようなイベントを差し込まれた事態に、空は保科母の話は些細な事として片付けた。そして目の前に転がっていた空き缶が目に入ると何も考えないままに力一杯踏みつけた。


(あれ? もしかして俺、相当ストレス溜まってる?)


普段はしないであろう自分の行動にそんなことを思いつつ、感情任せの振る舞いが急に恥ずかしくなり辺りを見回す。そして誰にも見られていなかった事がわかると、ホッとしながらここ数日の間の出来事を整理しはじめた。

 そもそも今回の出来事は蒼井蜜柑が入部してきた事にはじまっている。そこで初めて呪いの目安箱の存在を知り調べ始めた矢先、保科恵の事故死、蜜柑の母親の殺害、蜜柑自身も危うく死にかけ、櫻井の失踪と続いてきた。そして今回の事故…… 死んだのは失踪したとされている櫻井とあたりを付けている。たった数日の間に身の回りで三人もの人間が死ぬなんてそうそうあることでは無い。そこでこれらの関係性を模索するが、蜜柑母は連正会関連とわかっている為、他二人の共通点を探す。


「保科と櫻井先輩の関連て部活しかないよな。そして二人を殺すとしたら…… 越谷先輩?」


頭の中の言葉がつい口から溢れ、それを自分で耳にして思わず失笑した。


(いやいや殺す理由は無くは無いけどどうやって? 越谷先輩は学校に来ていないと言っていた。そんな人間が学校にきて人を殺すなんてリスクが高すぎるだろ。それに動機から調べられたら保科を殺した本人として真っ先に疑われる。)

「うーん。……というと、やっぱり目安箱だろうけど、ランダムに現れる物をどうやって?」


唸り声を上げて足を止めると自宅前にいた。

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