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九、すべてはお狐さまの手のひらの上(完)
幽世の入り口。
あやかしたちに迎えられ、一縷と結姫は祝福を受ける。
花婿と花嫁を歓迎するように桜の花弁が降り注ぎ続けた。永遠に散ることのない永久の桜。古い橋の欄干の上で、天狐は二人を見届けて、扇で笑みを隠した。
「ああよかった。やっと一縷が現世の未練をなくしてくれた。亡霊が見える視界に耐え切れず、すぐにこちらに来てくれるものと思ったのに、まったく恐ろしいものだね。恋、というものは」
妖狐の姿になった一縷を見て、ご機嫌に尻尾を揺らす。
「けれど、これでようやく正真正銘の我の子。姫君までは想定してなかったけれど、皇子様にお姫様は憑き物だ。喜んで歓迎するとも」
一度神隠しに合った人間は、年を経て、もう一度姿を暗ますことがあるという。あちらの世界に魅入られた、気に入られた人間は──そう簡単には戻ってこられない。
一縷も。一縷と赤い糸で結ばれた姫君も同じ運命。
「さあ、幽世の果てで、皆で楽しく暮らそうぞ。我の可愛い吾子たちよ」
にんまりと、妖しく狐は笑った。
(完)