1.火天う
十七年前のある日、空が燃ゆる。
黒い斑点が空を穢し、血赤色に近い赤に染まる。
これは世界の終わりではないかと、人々は恐れた。
しかし空が赤いだけで、何かがあったわけではない。
次の日、昨日のことが嘘のような青空。
この空が赤い日、十二月三十一日は終焉の日と呼ばれ始める。その次の日の一月一日は、無事に年を越せた記念として、祝宴の日と名付けられた。
私は終焉の日に産まれ落ちる。
終焉の日から二年後の二千五十年、世界各地に謎の迷宮が出現し、そこから多種多様の黒の軍勢が押し寄せる。
その黒の軍団を、我々は悪魔と呼んだ。
世界各国が最新鋭の兵器を用いて、悪魔と対峙した。しかし最新鋭の兵器では、悪魔にはあまり効果がなく、このままでは人類が滅ぶかと思われた。
しかしある青年が呪文という力を用い、悪魔を地上から排除したのだ。
その青年を筆頭に迷宮を攻略するものを、迷宮冒険者と呼ぶようになった。
冒険者には階級があり、最上位のSランクから駆け出しのGランクとなっている。
もちろん私は駆け出しなので、Gランクだよ。
「主人、今日初めて迷宮に入るのだから、少しの準備も怠るなよ」
猫魔女のリィーランは、私に忠告した。
この白い毛並みの猫はリィーランの使い魔であり、実際の姿は十六歳で栗色髪の可愛い女の子。
私の住む堺市には、十七個ほど迷宮がある。
今日私は、迷宮の一つである場所へ訪れていた。
迷宮の入り口付近は、ギルド職員が管理する商会のテントが並んでいる。
その中心にある時計台前のベンチに腰掛けると、猫リィーランがふてぶてしく、私の膝の上に乗っかってきた。
ふわふわとした毛並みにほっこりしてしまう。
だからつい撫でたくなるのだ。
「主、撫でるなー」
言葉とは裏腹に、気持ち良さそうな猫リィーラン。
「この変態め」
変態とは失礼な。
使い魔とリィーラン本人とは、感覚がリンクしているようなのだが、嫌ならリンクを解除すればいいのに。
そんなことを考えながら、時計を確認すると約束の時間を少し過ぎてしまっている。
「千彰君、待ったー?」
「今来たとこだよ」
白をベースにした上着と、黒いスカートを身に付けた金髪ヒーラーの天雨。
「リィーランもごめんね。初迷宮だから、ちょっと支度に時間かかっちゃって」
「なに、気にすることはない。主人も、天雨を見習ってもう少し準備した方がいいのではないか?」
「今日は地下一階の薬草採取だけだよ?それにリィーランが飯を食いまくるからさ、準備できるほどのお金がないし」
猫リィーランはギクリとした表情で、そんなことより早く迷宮に入ろうと誤魔化した。
まったくしょうがないやつだ、でも今日は特別な日だから、リィーランの好物のお肉を買って帰るか。