表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/4

■1-1 かくしてモンスターハンターになる・前編




 かつて此処の平坦な荒野には、

 天上から突き刺さったのか或いは地の底から生え出したのか

 天を擦るほどの巨大な結晶の塔が()()()


 その高さ、およそ760メートル。


 近年の技術進歩でようやく人は800メートルに達する建築物を生み出せるようになったわけだが、そんな中身空間だらけの構造物とは違って全体が純粋な結晶塔の塔はそれ相応の超重量をする。


 超重量の摩天楼を支えるには遥か数百メートル地下にも見えない部分があるとされ、結局その全容が如何様なものかは誰も知らない。


 結晶塔を支えるのに杭状であれば何メートルの深さが必要か、

 或いは木の根の様だとすればどの程度の範囲にまで伸びるのか。


 学者たちは様々な推測を立てるのだが、現地調査を困難にする事情があって真相を解き明かせないでいる。


 それを妨げる存在、魔物(モンスター)が結晶塔の周辺に湧くせいだ。


 魔物を打ち倒す存在として魔物狩り(モンスターハンター)なる人々が居り、彼らの支援と管理をする組織としてハンターズギルドが存在する。


 「お兄ちゃん!」


 スチールの引き戸を勢いよく枠に叩きつけ、岩内モナカは喜び勇んで呼びかけた。


 飛び込んだ先はギルドの事務(オフィス)カウンターのあるルームだ。

 機材と書類棚で見るからに窮屈そうな事務所と、無駄にただっぴろい待合所がカウンターで分断されている。

 一般人でも好きと言う人はまず居ない窓口での待機を武装した連中にさせる空間だから、余計なトラブルが起きないように待合所は持て余すほどのゆとりを確保していた。

 もちろん緊急時はここが非戦闘員の避難所になる。


 飲み物の自動販売機の前に、中世出身のような鈍い光を放つ鎧姿の剣士。

 時代錯誤が起こりそうな光景だ。


 これぞ多様性と言わんばかりに厳めしい面構えの爺が機関銃を背負い、うら若い女が袴姿で刀を持ち歩く。

 

 そんな猛者たちを皆々一瞬にして戦慄させたのは、僅か6歳の子供だった。

 背中まである長い黒髪を首の後ろのあたりでキュッと絞った、まん丸い目の少女である。


 刀剣類はまだ鞘に収まっている場合が多いが、抜き身で運ばれがちな槍や斧に当たったら怪我では済まないし、銃火器など変な所を触ればどうなる事やらと一気に肝を冷やさせた。


 尤も、9年前の私はどうして彼らがぎょっとして目を剥くのかなど気にもかけなかったが。


 唯一の身内でありギルドのオフィス職員として働く兄の岩内タルトに会いに、その日少女はハンターズギルドに来ていた。


 結晶塔(スポナー)の付近に拠点を構えてそれを監視する要塞を、ギルド本拠点と呼んだ。

 目と鼻の先では魔物が闊歩し、武装をした輩と業務上密に関わり合うわけだから、オフィス職員といえどもかなり危険な職場環境である。


 要塞内に抱えられた施設はオフィスだけではなく、飲食・宿泊・医療・研究・武具生産販売・魔紋付与(エンチャント)など幅広く、人手は幾らも欲しいのにその危険度から求人がまずない。


 列島島国(ジパング)広しと言えどもハンターズギルドは此処だけ。

 方々から出稼ぎが押し寄せそうなものだが、恐ろしく高い死亡事故発生件数や殉職率をハンターズギルドは包み隠さず公表しているため歯止めがかかっている。


 未だ学生身分の兄が働ける中で、ギルド関係は各段に収入が良かった。


 幼い妹のために頑張って稼がねばという兄の心意気を受け取った私は、幼心に誇らしく思った。


 異形の怪物をも恐れないでギルドにお勤めをする事は生半可な勇気じゃできない事だ。

 更にそれらに直接対決を挑む者たちが居るという事実は、もはや御伽噺のようでさえあった。


 とはいえ彼らも人の身。


 岩を砕く剛腕、敵の頭上を飛び越える豪脚、弾幕を躱す敏捷。

 などという常軌を逸した能力は、基本的に無い。


 人としての限られた能力ででも、

 怪物と渡り合えるまでに助けを成す"魔法"があるからこそ挑めるのだ。


 魔紋付与(エンチャント)と呼ばれる魔法を扱うのに、特別な知識は要らない。


 施紋魔晶台(エンチャントテーブル)という設備に魔紋付与(エンチャント)したい道具(アイテム)を乗せ、幾つか現れる効果を選択(セレクト)し、後は長時間耐久で手を翳し続けるだけだ。


 こうも魔法は簡単だから、6歳のモナカにも出来た。


 否、出来てしまった。

 ギルド内で道に迷っていたら、普段は半年先まで予約で埋まっていて全く空きがないというエンチャントルームに入り込めてしまった。予約をしていた利用者が直前で使用するのを止め、かつ管理者にも連絡を怠ったという背景からだった。


 微かに青みがかる透明な結晶を切り出したエンチャントテーブルには見慣れない文字のような紋様がびっしりと掘り込まれて極荒目の鑢の如く触ると痛そうな表面をしていた。


 少女が何の気なしに手を伸ばすと、不意に幾つかの紋様が活性した。

 ドクンと脈打つ様な"波動"を感じた。


 風も無いのに花びらの一枚がめくれ上がるかの様に黒紫(こくし)の紋様がぺりぺりと剥がれ、眼前の空中に浮かぶ。

 宙をふわふわ漂った紋様はやがて二行になって横に整列した。


 上の段が"ノックバック Lv.Ⅱ"、個人の固定枠というやつでこれは生涯変わらないので間違えようがない。

 下の段はランダム枠というもので、何かに付与したり、使う台を変えたり、月日が経ち過ぎたりすると内容が変わってしまう。9年前の内容なんてはっきり覚えてない。おそらく"拡散 Lv.Ⅰ"とかだったと朧気に記憶している。


 まだ"何曜日の()"も読めない歳の子が、その紋様は全く見慣れないというのに不思議と読む事が出来てしまった。もちろんknockbackという言葉の意味すらも通じていなかったが、それがどういう効果なのかは何となくでも理解できるのだった。


 『赤くなった鉄塊を金槌で叩けばそれが鍛冶』という風に、

 『台に置いた道具に手を翳せばそれが魔法』という印象はテレビかネットかどこかしらのメディアで植え付けられていた。


 季節は春先で丁度ムートン手袋をしていたのでそれを外して台に乗せ、素手になった指先で宙に浮かぶ文字列の上段の方をなぞった。


 エンチャントは時間のかかる作業だからエンチャントルームは人の出入りが少なく、そうでなかったとしても迷子の少女がその一室を利用しているとは誰も思うまい。

 忙しい兄は宿泊所に預けたはずの妹の事を気に掛ける余裕もなかった。


 兄に会いにギルドへ赴くという事は普段ない。

 ただその日は家の鍵を忘れて帰宅ができなかったので仕方なく学校からギルドオフィスへ連絡してもらい、通常はハンターしか利用できない宿泊所の一室を特別に借りて待たされていたのだ。


 幾つもの偶然が折り重なって、少女は魔法を行使した。

 強者たちの界隈で懸命に働く兄に何か自分の力で手助けができたら嬉しい、などと思いを馳せながら。


 「モモ、モナカ!? 駄目じゃないか此処(オフィス)に来ちゃ! すぐに部屋に帰るんだ!」


 突如オフィスに飛び込んで来た少女が誰なのかいち早く気付き、ギルド職員の証である金林檎の帽章をしたキャップを被る白シャツ黒パンツの無味な装いをした青年が叫んだ。


 武装したハンター達の間を縫って慌てて駆け寄って来る青年に、こちらも両手を前に出して駆け寄った。


 自分は魔法が使えたのだと兄に自慢がしたくて、まっしぐらに走った。


 それを知らしめる方法や手段などは一切考えてなかったので、

 こちらへ屈み込んで来た兄の胸を軽く、

 叩くようにして突いた。


 またしても感じた、ドクンと脈打つ波動。


 その瞬間、暖かなクリーム色のムートン手袋から黒紫の霧が立ち上った。


 霧は瞬く間に晴れ、空中に漂う文字を残す。

 まるで見えない壁がそこにあるかのように、掌を円状に取り巻いて。


 『突き退けた対象をより遠くへ』という、言霊(ことだま)の魔力が発動する。


 それが如何なる程の効力なのか、6歳の少女が知る由もない。

 だがすぐに実感する事になる。


 7~8メートルも後ろのカウンターに叩きつけられ、

 頭から血を流してぐったり動かなくなった兄を目撃した周囲の悲鳴が、

 まだあどけない少女に事態の深刻さを教えてくれた。




 ‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥




 結晶塔(スポナー)の存在は、世界で13ヵ所が確認されている。


 真冬に葉や小枝の落ちた樹木、その幹部をクリスタルに置き換えたかの様というが残念ながら列島島国(ジパング)でだけはその様子が見られない。


 代わりに向こう岸まで70メートル程の溜め池があって、水底に剣山のような結晶群がびっしりという此処だけの光景が在る。

 

 プリズム効果で虹色を拡散し、常夏の浅瀬に広がる珊瑚礁かと見紛うほどに色彩豊かで大変綺麗なのだが、もはや結晶塔とは呼べなくても魔物を生み出す性質は健在なので悠長に見惚れる事を許してはくれない。


 かつては此処にも雲に届くほどの結晶塔があったというが、百年ほど前の戦乱の時代に()()で壊れてしまった。


 ミサイルでもナパームでも、例え核であってもこうはならないと思われる。

 

 おそらく人の手ではなく自然災害の影響で、おおかた隕石が直撃したのではないかと言われている。


 原因はなんにせよ壊れているからか、此処の魔物は他所より弱いのだ。


 弱いが故に、魔物たちの"テリトリー"の()()に砦を設けようという企画が、9年前のあの頃からもう既に始まっていた。


 スポナーからの距離ごとに魔物が見せる行動が異なる事から、

 スポナーの周囲は三つの層で区別される。


  ・半径1200~1500メートル、発生範囲(スポーンエリア)

 魔物が発生する。基本は1200メートル以内だが、稀にそれより遠くで湧くため幅がある。

  ・半径2500メートル、防衛範囲(テリトリー)

 此処に入ると魔物から敵視される。また、此処より外側に魔物は通常出ない。

  ・半径3000メートル、追跡範囲(トラッキングエリア)

 魔物に敵視されてもこれ以上外に出れば追うのを諦める。


 ギルドの本拠点は半径2500メートルのギリギリ外、つまりはトラッキングエリア内にある。

 また要塞の端からもう片方の端までを繋いだテリトリー圏全周をフェンスで囲んでいる。出入り口は数え切れないほどあるが警護上の都合から監視哨のある要所以外は封鎖されてる。


 魔物は地中から這い出るようにして生まれて来る。

 スポーンエリア内は頻繁に掘り起こされるため草木も生えず、何かを設置する事は出来ない。


 当企画の砦はスポナーから1600メートル離れた場所に建てられた。


 作業員に腕利きの護衛を付けて建設は慎重に安全第一に、およそ10年がかりの目途で行われた。

 そもそもが此処は魔物の分布密度が過疎気味だったため作業は順調に進み、砦の完成は1年も早まってしまった。


 他より魔物が弱いと聞きつけて世界中から駆け出しのハンターが殺到するのだ。

 発生した傍から狩られる有様であるため、砦の建設は概ね順風満帆だったという。


 そうして新たに出来た砦の方にこの度兄が手配されたと聞かされ、モナカは9年前のトラウマにも勝りかねないほどの強いショックを受けた。


 「因みに左遷じゃないからな? 別に心配は要らない。建設中にも何度も行ってるんだ」


 モナカとタルトは夕食の食卓で向かい合って座っていた。

 パスタをフォークに絡めるのに手古摺った兄は一旦フォークを置いてグラスの冷水を飲んだ。


 「リザードマンや小鬼(コボルト)なんか装甲車でしょっちゅう撥ねてるよ。クロスボウの取り扱い訓練も履修してる。何よりギラついた新米ハンターが魔物を発見次第に狩ってしまって、何時間歩いてもエンカウントなんてありゃしないと窓口で苦情を聞かされるぐらいなんだ」


 「だとしても無理だよ、安心なんて出来ない。つい2か月前にだって同僚が死んだって言ってた…」


 フェンス脇の監視哨に配置されていたというその同僚は、一名のハンターと共に震死体として発見されたという。傍には槍頭の燃えカスが見つかった事から、オークなどの鬼系統の魔物がエンチャント付きの槍をハンターに向けて放ったものと推察されている。


 魔物は武器を手にする。

 ハンターの落とし物を拾うのは勿論、地面を這い出たその時から既に所持している場合がある。

 有史以前から今日まで数多のハンターが命を散らした場所だから、地中には何千何万もの武器防具が埋まっているのはさも当然。


 その日は朝からも黒雲が立ち込める大雨の日で、とあるエンチャントの発動の条件は揃っていた。

 "召雷"という、雷雨の日に落雷を引き寄せる言霊の魔力を持つエンチャントだ。


 ハンターを襲った落雷の一端は鉄のフェンスに伝わり、フェンスの近くに居たその同僚が感電してしまったのではないかという話だった。


 例え雑魚しか湧かなくても、魔物の数が少なくても、

 まだ最近だと言える時期に死者は出ている。


 過去に一度、己の過失によって失いかけた兄だから、心配せずには居られない。


 「人がバタバタ死ぬのはずっと前からそうだろ… もちろん危険度の高い部署という事で昇給が約束されてるし、それだけじゃなく更に昇進するチャンスなんだよ。実は俺、指揮役に憧れてるんだ」


 兄はそう言って困ったように右の側頭部をガシガシ掻いた。


 頭髪でわからないが、あの日の傷跡が残るその箇所を兄は無意識で掻く癖がある。


 流石に見慣れているが、場の空気感によっては胸にちくりと刺さるものがある。

 二ヶ月前同僚が死んだ話を聞かされたときもモナカは同じ痛みを覚えた。


 「指揮()って何? 指揮官じゃないの?」


 「普段は過っ疎過疎(か そかそ)なウチのとこのスポナーも、特別な夜になると魔物がひっきりなしに湧くんだ。連絡役に回れや監視役はどうしたっつって俺らギルド職員は大忙しになる。その中に"指揮役"なんて役は本来無いんだが、どうしようもないような有事に突然に生まれるんだ。そこに居合わせた連携も仲間意識も何もないハンター達を上手に扇動して行き詰っていた問題事を片付けてしまうのさ」


 「いやいや… だって、テリトリーにさえ入らなければ魔物の敵視を買う事は無いんだよ? 本当にその役要る?」


 「だから、テリトリー内に残された人員の救助とか、そういう()()なんだよ。一刻を争う事態のときに、お偉いさんの判断を待っては居られない。とはいえ人命に関わる選択を無責任に実行もできない。それが許されるのは、行動の結果が実を結んだ実績を持っている奴だけだ。にわかに信じられない話だけど実際そういう人が居るんだよ」


 「そんなものに憧れちゃったの? 下手に真似をして失敗したらどうなるかわかってる? それまでの雇い主だったギルドからも、被害者遺族からも厳しく責められるんだよ?」


 「わかってはいるさ。だけど憧れるのは別に良いじゃないか。何も俺自身がそれになれなくたって、ギルド職員として今より手堅く地位を築くだけでも良いんだ。いつか憧れの指揮役の力になれる事があるかもしれない!」


 最後は熱弁していた兄だった。

 勢いを持て余してパスタを皿から掻き込み、そして苦しそうに噎せっていた。


 「それはわかったけど、部署異動の件はやっぱり嫌だよ。出来ればギルドだってそろそろ辞めて新しい勤め先を見つけて欲しいんだから。お金はもう不自由ないくらいには溜まってるんでしょう?」


 言いながら兄のグラスに冷水を継ぎ足す。

 すかさず一気に飲みして落ち着いた兄は、嗚呼と声漏らした。


 「昔は、ギルドのお仕事頑張ってねって言ってくれたのにな…」


 「……………」


 無言になって空いたグラスにもう一杯水を注いだ。


 あの日兄はすぐに救護班の処置を受けて助かったが、

 代わって死んだ者が居る。


 9年前の無邪気で天真爛漫だった私が死に、

 臆病で何かと否定的な私が生まれた。


 正直あまり、好きではない。




 ‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥・‥




 テリトリー内に立ち入らなければ魔物の敵視を受けないというのに、

 わざわざ好んでそこに入りたい事情がある連中というのは、大まかに4種類居る。


 一つ目は、魔物と戦って武術の腕を磨きたい魔物狩り(モンスターハンター)

 二つ目は、冒険心や好奇心に駆られて入り込んでしまうただの愚か者。

 三つ目は、スポナーや魔物という未知の存在を解き明かしたい学者。

 四つ目は、結晶塔(スポナー)を崇めて祈祷に通う"聖晶団(ジ・アークス)"の教団員。


 "聖晶団(ジ・アークス)"に関しては、ハンターズギルドはあまり干渉しない。

 祈祷師を守るための聖晶騎士(クリスタルナイツ)なる屈強な護衛も居て、彼らの活動はさほど危なげなくもない。もちろんスポナーはギルドの所有物ではないし、何故かハンター達の安全祈願までもしてくれるというのでギルドとしては有難い存在になっている。共存共栄の道を探りたい相手だ。


 エンチャンター兼新米モンスターハンター、舞雛(まひな)アラレとしては、それらとはまた別に個人的な理由が存在していた。

 

 「アラレ君。今日の放課後、狩りに行こうよ」


 校舎の階段を下りていたら栗毛の髪に乗せた薄紅色のハンチング帽を背後から誰かに奪われ、目を見開いて振り返る。


 振り返るとすぐ目の前にあった帽子を取り返し、声を掛けて来た友人をじろっと睨んだ。


 「ステラ… 君は陸上部じゃなかったっけ?」


 前髪をセンター分けにした快活げな少年、久力(くりき)ステラは、帽子を被り直すアラレを見ながらへらへらと薄ら笑いを浮かべていた。


 「魔物を振り切るスプリンターの逃げ足あってこそのハンター活動だ」


 「ん? その言い分だと、より一層部活動に専念すべきなのでは…」


 一応諫めはしたものの、この友人が狩りをしたいと言い出したなら部活など平然とサボってそうするだろう。


 アラレ少年らは今現在15歳。

 まだ中学生の身分だが、ハンターにはなれる。


 当然の如く学校は断固として反対し懲戒処分を抑止力として振り翳すが、バレなければ何の問題もない。


 幸い、ハンターという稼業は武装をするから何かで顔を隠してしまえば、よっぽど体格が小さくない限り子供だとわからない。


 何より"其れ"は、

 誰にも望まれないとしても、例え一人だったとしても戦いの場へと赴いてしまう者の名だ。


 冒険心なり好奇心なりの些細なきっかけでスポナーに近づき、

 飽くなき戦いの世界に魅入られた者をこそ、魔物狩り(モンスターハンター)と呼ぶのだ。

 ハンターとなる事に老若男女の垣根などは何処にもない。


 ハンターズギルドはそれを止めるでも援助するでもなく、ただ把握したいだけの組織。

 元々はスポナーに人を寄せ付けないようにする組織だったというが幾ら追い払っても奴らは諦める事を知らないのだと悟り、せめて人の出入りを管理する事だけは抜かりないようにと望んだ。


 誰も預り知らぬうちにテリトリー内に侵入して魔物に集られ、無残な変死体になって身元がわからなくなるぐらいなら『死にに来た』とその一声が欲しい。

 故に子供でもハンター名簿に登録が出来るし、登録してしまえばIDカードをスキャンするだけでいつでもテリトリー内へのパスが通る。


 そんな事のためだけにギルドはわざわざ危険な場所に拠点を構え、管理事務所を置いている。

 声を掛けられておいてそれきりというのも後味が悪いので彼らが英気を養えるような設備を設けるし、誰かの窮地に気が付く事があれば見過ごして後悔はしたくないので懸命に救助活動もする。


 やってる事はちぐはぐなように思えるが、まあ人間らしくはあろうか。


 「あなたたち、ハンターやってるの?」


 バレなければ良いのだと思った矢先、同級生にバレた。

 アラレ少年の位置より下のところから階段を駆け登って来た女の子が居たのだった。


 「その、ごめん。移動教室に持っていく教科書のナンバー間違えちゃって急いで取りに戻ろうとしたら、話聞こえちゃった。先生に言い付けたりはしないから安心して?」


 普段は引っ込み勝ちで地味な子だと思っていたが、階段を駆けあがって息を荒くしたせいか今に限っては普通に喋れるように見えた。


 「岩内よォ… マジ頼むぜ? 部活はサボりまくる俺でもPTA介入沙汰みたいのは避けたいんだわ。もしバラしたりしたら俺の愛弓で夜道を歩くお前をレッツ・ハンティンッ…」


 「こっわ!!! い、言わないってば… 本当の、本当に!」


 「ステラ、今の発言は僕もドン引きなんだが。岩内さんちょっと泣きそうだよ謝った方が良い」


 ステラも岩内さんもお互いに動顛しっぱなしのようで、ここは自分が冷静に収めるべく割って入った。


 スマンスマンなどと軽口に謝罪するステラは続けて「アラレ君、俺めちゃくちゃ良い事思いついたわ!」と言い指をパチンと弾いた。


 「こうなったら岩内の奴も共犯者にしちまおうぜ? ってなわけで今日からお前も魔物狩り(モンスターハンター)な? エモノは何が良い? 剣槍斧弓(けんやりおのゆみ)()あたりなら俺のツテで用意してやる」


 「ええええっ!!」


 ステラの提案を受け、二人は声を揃えて驚嘆を発した。





 大阪の通天閣を中心にシュミレーションアプリを用いましたらですね…

 スポーンエリアにJR難波や花園町、

 テリトリーに天王寺駅や京セラドーム、

 トラッキングエリアに船場や岸里玉手が入りました。


 直径6㎞めちゃくちゃデカいわ………

 まあまあ良か良か。

 なんせ今作は"ファンタジー"なのですから!

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ