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8話<来訪者は語らない①>

「結局待機命令が出てから連絡ないわね。」


明日香は指輪の宝石を爪でつつきながら手持ち無沙汰に言う。


「妙だな。ヴァイスによれば、相手はXではなさそうとのことだが。そもそもこんなところにまでわざわざくるもんなのか?どうにも怪しいと俺は感じる。」


サングラスは今一度掲示板について考えることとした。今ある情報から相手を分析できるかも知れないと思ったからだ。まずあの掲示板についてだが自分の目で見ていない以上確かなものかは定かでない。さらにネットの書き込み等は情報が滅茶苦茶で誰かが故意に情報を伏せているような感じがした。しかし異能力者狩りと接点があったのも事実。そもそもとして、この掲示板以外にまともな手がかりがないので否が応でもこれに賭けるしかなかった。そして掲示板には対象の名前を書くだけで同姓同名でも間違いなく殺してくれると謳ってあった。殺害場所については一言

「あなたが一人になった時神が罰しに来る。」とだけ書かれていた。そのためにわざわざこの立ち入り禁止区域の雑木林エリアを選んだのだったが。


「でもヴァイスさんが待機命令を出してるってことはヒカリは現状大丈夫って事でしょ?なんでも相手は複数人の学生らしいし。私は奴らがXであるとは考えずらい。」


明日香のいうとおり相手は学生、そして結局今ある情報はあまりにも少なすぎて分析などできない。やはり現状Xは現れていないことになるのか。


「というかさ何で、直接見に行かないわけ?」


コイツにしてはよく黙ってた方だが痺れを切らしたスク水白衣がサングラスの肩を叩く。スク水白衣と呼称してはいるがそのままでは流石に可哀想だったので明日香が持っていた古着を着せている。だが白衣のみは気に入ったのか古着の上から着用している。


「聞いてなかったのか?待機命令があるんだよ。」


「何で待機しなきゃいけないんだよ?」


コイツには専属の躾メイドか何かが必要だ。さもないとこっちが過労死してしまう。


「Xは一人の時でないと現れないらしいの。あんな胡散臭いサイト信じたくはないけど、もしかしたら異能力者狩りに通じてるかもしれないの。」


「え?1人…だったら何でお前らがいるんだよ。」


その質問に明日香とサングラスは言い淀んだ。この少女の言う通りサイトに従うのであれば隠れていると言っても近くにいれば規定に違反する可能性がある。だから本来はヒカリを完璧に1人にするのが正しい。しかし、いくら胡散臭いサイトだとはいえ仲間の名前を差し出した以上は見守らない訳にはいかないと言うのが彼らの結論だった。


「もしかして心配なの?」


図星をつかれて「ぐっ…」としか言えないサングラスに少女は「可愛いところあるじゃん。」とニヤニヤしながら言ってくる。それを見かねた明日香が少女に視線を会わせると指をたてながら「異能力者狩りの事件を解決すれば上層部からたんまり報酬が出るの。だからもしここで黙ってくれたら好きなもの買ってあげるわよ?」


その言葉に少女はまんまと


「イエッサー」


と敬礼するとおとなしく黙ってしまった。


「お前扱いうますぎだろ。」


「これでも元は子供の面倒を見てたりしてたから。物で釣るのは鉄則。」


サングラスの驚愕に少し自慢げになる明日香。しかし子供という発言を聞いたサングラスはその乖離に


「冗談だろ?」


といいそうになったが寸でのところで押さえ込んだ。そんなこんなでメッセージが送られてくる。そこには


「ヒカリさんと共にそちらに行きます。」


というこちらは完全にお役御免という旨のメッセージが記載されていたのだった。





「今回はXについては分からずじまいってことか?」


事務所に戻った後私たちは今回のまとめに入っていた。サングラスは訳も分からぬまま撤退ということになったので少し早口でこちらの返答を待つ。


「そうですね。あのサイトの文言を信じるなら学生達が現れた事によってヒカリさんが一人ではなくなったからというのがあげられますが。」


ヴァイスはあくまでもいつもの調子で顎に手を当てながらこたえる。


「他には、私たちが張り込んでいたからというのもありそう。学生達が来るまで多少は空白の時間があったでしょ?」


「隠れていたにも関わらず空白の時間に来なかったってことは、やっぱり俺達全体を監視できる能力でも持ってるってことなのかね?」


皆が一様に意見を延べるが真相は分からない。


「今回は分からないことが多すぎるから少しずつ手がかりを集めて行くしかないよ。」


ヒカリはそう返しながらネットというのは情報の取捨選択が難しいとはどこかで習った話だが実際に直面するとここまで死活問題になるなんて思わなかったと痛感する。しかし今日私たちは何の手がかりも得られなかった訳じゃない。それを証拠にサングラスと明日香の視線はずっとソファーに寝かされている一人の少女に向けられていたからだ。


「そろそろ、説明するといたしましょうか。」


ヴァイスは立ち上がると今までの出来事を二人に伝える。


「…」


「…そんなことがねぇ」


サングラスは腕を組ながら聞いていて表情は何やら少し暗かった。明日香は手をあげながら早速意見を述べる。


「このサイトの神が罰しに来るっていう文言とさっきの話の中の宗教じみた話、彼女の態度と何か関連があると思わない?」


確かに明日香の話しは的を得ている。私もずっと感じていた違和感。城ヶ島という女子生徒は他の生徒に比べて明らかに何か異様な雰囲気を放っていた。それは、お社の上にいた私でもひしひしと感じていたのだった。


「でも当人はお昼寝中だろ?てことは今は城ヶ島って奴が起きるまでは待ちの時間ってことか?」


サングラスは立ち上がって城ヶ島の顔を覗き込む。デリカシーのない行動に明日香がグイット革ジャンを引っ張りながらサングラスの叫びを無視してヴァイスに視線を向ける。


「でも、彼女だいぶ気が動転してたんでしょ素直に話してくれるかしら」


「それはもっともな意見です。」


明日香の質問に頷くヴァイス。しかし、こうなることを見越していたかのように表情は余裕そうであった。


「そんなこともあろうかと私の親友に特別に来ていただくことになりました。しかし少し気難しい方なので少し配慮して頂けると幸いです。」


その言葉に皆は一様に息をのむのだった。


「て…さっきから何やってんの?」


明日香の視線は机に頭を擦りつけているヒカリに向いていた。するとヒカリは首だけ横に動かしながら


「仕事とはいえ…こんなの誘拐紛いじゃん…もっと他にあったでしょ…」


明らかに自分の行動について後悔しているようだった。


「何時までも惨めったらしくするんじゃない。誘拐行為といえば聞こえは悪いが我々は政府に認可されている組織だ。無論どうとでもなる。」


一方首謀者であるルナはパソコンとにらめっこしながら淡々とヒカリの言葉を受け流す。


「ちょっと言い過ぎですよ。」


ルナを注意してから明日香はヒカリの元に近づくと


「終わったら一緒に謝りに行きましょ。」


と優しく言葉をかけてくれる。


「明日香ぁ!」


それにヒカリはサングラスとは大違いだと立ち上がり表情を緩ませる。


その瞬間サングラスが何故かくしゃみをしてヒカリは内心笑うのだった。





場の空気は誰が最初に突っ込むかという先程までの雰囲気とは全く異なる展開になっていた。ヴァイスは城ヶ島が目覚めるまでに出きることと称して少し外出をした。そしてヴァイスさんによればこの知り合いが状況を変えてくれるとのことだった。しかし問題が起きた。普通はヴァイスさんの知り合いなのだから同様に生真面目なオーラをまとっているものかと思っていた。しかしそれは勝手な勘違いで。視線を横に向けると椅子に上品に腰かけているスク水白衣の少女がいた。こんな時に限って黙っているのはいったい全体どういう風の吹きまわしか。私たちは互いに誰かコンタクトをとってくれという視線を向け合い膠着状態と化していた。一方ヴァイスさんはと言うと


「申し訳ありません。しかし私も知り合いは差程多くないものなのでどうかご了承ください。」


といつもの調子を崩さずに私たちに頭を下げる。誰を前にしてもポーカーフェイスを貫く辺りもはや中世のドラゴンが出てきても態度を変えないのかもしれない。そして私はヴァイスの言っていたお嬢様というのはまさか手に嵌められている人形の事ではあるまいな。そんなことを思っていた矢先だった。ヴァイスさんは動く気配の無さそうなお嬢様人形に触れようとする。


「失礼しますね」


すると突然この場の沈黙が破られお嬢様の人形は


「淑女に許可なく触れようとするとはとんだ無礼者ですわね。」


と甲高い声でしかりつけてきた。予想外の所からの大声にサングラスがビクッと体を跳ねさせた。


「びっくりさせんなよ!」


サングラスがとうとう黒子の格好をしながら右手にお嬢様の人形と左手に金髪リーゼントの時代錯誤としか思えない人形をつけている変人にくってかかった。


「俺は腹話術を見にきた訳じゃねぇの。会場間違えちまったにしては方向音痴もいいとこだろ。」


それに対し今度はリーゼント人形が喚き散らす。


「あぁん?テメェ何文句言ってんだ?こっちはヴァイスに頼まれてきてやったってのによ!」


まるで人形二体に意志があるかのように、まるで声は違っていた。もしかして黒子は人間じゃなくって本体の人形を連れ歩くためのロボットなのではないかとすら思えてきた。一目見たときから思っていたがこの相手と対話するのは相当骨が折れるようだ。


「申し訳ありませんいつもの事なので。」


すると、ヴァイスさんは黒子のポケットに勝手に手を突っ込むと中から茶色い物体を取り出した。それはヴァイスさんの手に収まる程のサイズでその茶色い物体を手のひらにのせながらリーゼントの方に見せた。その瞬間リーゼントの視線は一気に茶色い物体に吸い込まれる。そしてリーゼントは茶色い物体を胸元に抱き寄せた。目元には何故か涙も浮かんでいる。


「ミケぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!どこいってたんだよぉぉぉぉぉぉ!」


リーゼントは手の力をいっそう強めながら泣きじゃくった。


「これ、古くさいドラマとかで見たことある奴ね」


ベタすぎる展開にジト目になる明日香。私もいい加減本題に入ってほしいのだがリーゼントは声を上げ続けている。そして泣きつかれたのかリーゼントは赤ん坊のように猫の人形を抱えながら眠ってしまった。


「どんな構造…」


今まで黙っていた私もさすがに突っ込んでしまった。リーゼントがシャットダウンしたことによって残るはお嬢様の方だが相変わらずTHEお嬢様という態度でふんぞり返っている。サングラスはリーゼントにキレられたことに腹を立て


「ついてけねぇぜ…ヒカリ頼むわ。」


と完全に他人任せの様子だ。確かに人間?が目の前にいるにも関わらずわざわざ人形に喋らせているのはどう考えても初対面の相手に対して失礼だ。しかもものすごい濃いキャラ設定付きで。一方明日香は傲岸不遜なお嬢様に何か因縁でもあるのかリーゼントの時よりも露骨に表情が不愉快そうだった。ヴァイスさんを見ても何故かリーゼントの時と違い助け船を出してくれない。なので残った私が意を決して話しかけて見ることにした。


「あの、まず何とお呼びしたらよろしいでしょうか?」


取り敢えずお嬢様ということで下手に話しかけてみる。相手はショルダースカートの肩の部分の紐を調整している最中だった。


「先程の凡夫よりはマシになったと褒めて遣わします。ですけど、名前はまだ親密な関係になってませんのでお教えすることはできませんね。」


一応お褒めの言葉をいただくことができた。私はこれならいけると話をそもそもの問題に持っていこうとする。


「ありがとうございます。では、私の名前だけでも。私の名前はヒカリともうします。ふつつか者ですがどうかよろしくお願いいたします。それでですね突然申し訳ありませんがお伺いしたいことがあるのですが宜しいでしょうか?」


それを聞いた途端お嬢様人形の機嫌があからさまに悪くなった。さっきの発言で何か地雷を踏んでしまったか。訂正しようとしても直す箇所が思い浮かばないので訂正のしようがない。お嬢様人形は私を睨み付ける。


「貴方。ヒカリといったかしら?ヒカリに質問です。人に頼みごとをするときに必要なものは何かご存じですの?」


突然言われて私は何をいったらいいか分からなくなる。だから咄嗟に


「お金…?」


なんて低俗な事をいってしまった。しかし、それを聞いたお嬢様人形は


「悪くないわ」


と私が思っていたよりも良い反応を見せた。てっきり


「そのような下賤な答えしか出てこないとはやはり愚民ですわね。」


などと帰ってくるものかと身構えていたのだが。お嬢様は安心していた私に


「しかし、正解ではありません」


と満足するなとということを伝える。


「では、答えを教えていただけないでしょうか。」


私はこれを知ることが現状の打破に繋がるのではないかと確信していた。お嬢様は


「いいでしょう。素直に回答した褒美とします。ありがたく拝聴するように」


と足を組ながら伝えてきた。


「人に頼みごとをするに当たって必要なこと、それは…」


私だけではなくこの場の皆が息を飲む。ヴァイスさんは相変わらずだったが。そしてとうとう彼女の口から答えが紡がれた。


「美味しいお茶を作るための類いまれなる知識と才能よ!」


お嬢様人形は歌舞伎の見栄のような、似つかわしくないポーズをとりながらいい放ったのだった。例えるならそうだ。屈強な男とリングで一対一にされ、絶体絶命かと思われたとき男が突然おままごとを始めるかのような感覚。てっきり無理難題を押し付けられるものかと思っていたのに相手が提示したのはお茶の入れ方であった。しかしだ、逆に好機とも言える状況。もしこのお嬢様人形を満足させる事ができれば晴れて協力してもらえるということだ。私は早速お嬢様人形に詳細を求めた。


「それさえ、クリアすればお願いを聞いていただけるのですか」


「そうね。私を満足させられればの話だけど。」


相手は少し黙った後


「貴方達庶民では私の満足いくものを作れるとは思ってません。なので、ここは一つハンデを設けて差し上げます。」


お嬢様人形は手に持っていた扇子を口許に当てながら


「一人でも私の合格基準の最低ラインにでも到達すれば良しとしましょう。」


と譲歩してみせた。これは思っても見ない相手からの特大の譲歩。逃す手はない。というわけで早速私たちはお茶作りに取りかかることとなったのだった。サングラスと明日香も根本の問題のためならばと渋々受け入れてくれることとなった。ヴァイスさんやさっきまでずっとパソコンをいじっていたルナも手伝ってくれるということなので合計五人でこの挑戦に挑むこととなった。未だに口を開かないスク水白衣はもとより戦力に数えていないので放置しておく。

こうして料理まともにできない組が二人(ヴァイスさんは未知数)いて不安しかないお料理タイムが始まったのだった。

どうも上条さとりです。城ヶ島が目覚めるまでにヴァイスの旧友の力を借りることにした一同。しかし要求してきたのはお茶の入れ方で…


そんなところで今回はペンを置かせて頂いてまた次回お逢い出来ることを願っております。

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