3話<邂逅と回想②>
園児達や他の教員を園外へと避難させ警察に引き渡す。
「ご苦労様です。」
先程の初老の警官が会釈する。
「問題ありませんよ。異能力者絡みの事件は我々の仕事ですから。」
ヴァイスは相変わらず余裕綽々と言った感じだ。その妙にキザったらしいところがサングラスは気に入らなかった。
「そろそろリーダーも園内に人が残っていないか確認したら戻ってくると思いますので。」
ヴァイスは園内に目をむけながら答える。サングラスとしては活躍なしで終わったと言うのは少々不満だったが死人が出ていないことに関しては文句を言うつもりはない。
「そうですか。後、犯人に関してはそちらにお願いしてもよろしいのですね。」
「はい、アビリティハンドカフスがありますが異能力者には変わりないので我々が本部に送り届けます。異能力者は異能力者が対処せよというのが基本ですから。」
ヴァイスが言ったアビリティハンドカフスとは本部で使用されているジャマーの技術を手錠に用いたものだ。これをつけられると能力が使えなくなると言う便利な代物である。ちなみにこの手錠は相手に悪用されないためにIDを手錠に入力しなければただの手錠と変わらない。そしてこれらは警察側にも貸与されている。だが警察ではそもそも異能力者に太刀打ちできないので使う機械は既に撃破された対象がほとんどだ。まとめるとアビリティハンドカフスはあくまでも捕縛後に用いるものなので、戦闘になった際は本人の技量が求められるのが常であった。一方手持ち無沙汰に指をならしていたサングラスはとっとと事務所に戻って休憩したい気分だった。早くシュバルツが戻ってこないかと園内に目をむけていたところで何やら向こう側で騒ぎ声が聞こえてきた。そこには一人の園児と黙らせるのにてこずっている教員がいた。
「唯愛ちゃんがいないんだ!まだ中に取り残されてる!」
「光輝くん落ち着いて!今能力者の方が連れてきてくれるから!」
それを聞いていたヴァイスは俺に話しかけてくる。
「リーダーの帰りが遅いのともしかしたら関係があるかもしれません。」
「女児が一人帰ってこないってことか?単に子供の扱いになれてなくて泣き止ませてるとかじゃねぇんですか?」
「見てきます。」
サングラスの話を無視してヴァイスは一人園内に向かってしまう。
「おい。」
さすがに一人取り残されるのは癪なのでサングラスもついていくことにした。ヴァイスは規約通りサングラスを待機させようとしたがもしもの時に背に腹は変えられないということでついていかせることとした。ヴァイスは歩きながらコートのポケットに腕を突っ込み
「何か起きてなければいいですがね…」
とこの件が杞憂に終わることを祈った。教室に向かって一直線に走る。
「そこまで急ぐ必要あるのか?」
「物事は悪い方向に考えろと言うのが私のモットーでしてね」
「当たらないことを祈るぜその教訓がよ!」
手持ち無沙汰で退屈していたサングラスも前述した通り犠牲者が出ることは望んではいない。教室の扉を勢いよく開け二人して教室に飛び込む。そこにはシュバルツおらず一人の少女が座り込んでいた。少女はおもちゃが散乱した教室の真ん中で体育座りで顔を下にむけている。
「気をつけて下さい。ここまでの道のりは一本道にも関わらずリーダーとすれ違っていません。」
手で制止しながら耳打ちするヴァイス。
「要はあいつが黒ってことか?」
「はい、幼い少女が黒とは考えたくありませんがね。」
ヴァイスは手で俺を制止し続けながら一定の距離を取った所でまずは極力優しく少女に話しかける。
「聞きたいのですが長身の白いコートを着た人物を見かけませんでしたか?」
ヴァイスの質問に対し少女はうつむいたままで返答がない。
「私って子供受けしないのでしょうか。」
真顔でこちらに聞いてくる。でもどこか悲しげだった。
「確かにガキ相手にも敬語ってのはさすがに堅苦しいと思うな。話し方を変えてみたらどうだ?もう少し寄り添う形で。」
「分かりました。」
一度ヴァイスは咳払いをしてから最トライする。
「だ…大丈夫かな?気分が悪かったりするのかな?」
やはり堅苦しい感じは抜けないが幾分ましになったか。しかしまだ少女はうつむいたままだった。「…」本格的にヴァイスの精神がやられそうなので俺が変わることにした。
「おい、うんとかすんとか言ってみろよ?なんのための口だ?」
「…」口悪くしか接することの出来ない自分にため息をつきサングラスは口以外の手段を探すことにした。子供の相手は苦手だ。俺は適当に散らかっているおもちゃを拾い上げほらこれでどうだ?とドレスをきた人形を見せびらかすしかしまだ反応がないのでいい加減無理やり引っ張っていこうとするが後ろからヴァイスに羽交い締めにされて止められる。
「なんだよ。」
俺が振り替えると
「相手は幼い少女です。手を上げてはいけません。それに」
そしてヴァイスは俺に
「触れると能力が発動するかもしれません」
と耳打ちした。「…くそ」ヴァイスの話におとなしくしたがい俺は他に何かないかとおもちゃ箱を漁り始めた。
「もしかしたら人形が趣味じゃねぇのかもな。俺も昔は特撮なんかよりもドラマの方が好きだったしよ。」
それを聞いてヴァイスが一歩引いた。
「俺がドラマ見てて何か以外かよ!」
「すいませんあなたの知能指数で理解できるのかと少々疑問に思いまして」
「ッ!」一瞬そこら辺のおもちゃを投げつけかけたがなんとか堪える。そして俺は取り敢えず候補を見つけておこうと片っ端からおもちゃ箱から探す。そして最後の一箱に触れようとしたところで背後から泣き声が聞こえてきた。俺はおもちゃを漁るのをやめ少女の元へ向かう。少女は顔を上げこう告げる。
「お兄さん達…私恐かったよ…」
目には涙が浮かんでいてサングラスはこの時変に胸が締め付けられた。脳裏にあいつが浮かんでくる。駄目だ。意識するな忘れろ。それはここでは必要ないことだ。
「ようやく話を聞いてくれましたね。先程もお聞きしたと思いますが改めて聞きます。コートを羽織った長身の男を見ませんでしたか?」
改めて質問するヴァイスに対して少女は腕で目を擦りながら
「見てないよ。」
と純朴な眼差しをこちらにむけてくる。
「そうですか。でもそれはおかしいですね」
「???」
少女は首を傾げる。
「私は他者の位置情報を遠隔から確認できるんです。そしてこの園内には最後まで残っていたのは貴方と私のリーダーです。そして反応が急に消失した。しかもこの教室でね。だからあなたが知らない訳はないんですよ。」
ヴァイスはいつもよりトーンを低くして告げる。お前が黒なのだと。すると少女は突如として立ち上がり
「ちぇ」
と舌打ちした。
「な?!」
サングラスもさすがにこんな幼い少女が今まで演技していたという事実に動揺を隠せない。
「やはりでしたか。」
ヴァイスは少女を睨み付ける。明確な敵として。
「君たちなんで警戒して距離とっちゃうかなぁ?普通はこんな可愛い女の子がいたら寄り添うと思うんだけどなぁ。」
「御託はよろしい。リーダーはどこです?」
「教えると思う?」
少女はニコッと笑うとこちらに向かって突撃してくる。「!!」二人ともすんでの所で避けることに成功する。
「距離を多少とっておいて正解でした気をつけてください。やはり相手の能力は触れられると発動するものです。」
「こっからは手加減なしでいいんだな!」
サングラスはホルスターから拳銃を取り出すと少女に向かって発砲する。そして弾は少女の腕にクリーンヒットした。その瞬間
「あぁぁぁぁぁぁ!!」
という絶叫が響いた。
「痛い!痛いよぉ!」
「今さらそんな下らない真似事が通用するとでも?」
あくまでもヴァイスは冷徹に言うがサングラスは違った。
「っ…」
サングラスの胸がまたしても締め付けられる。そして今度こそ思い出してしまう。封じ込めておいた存在を。
「玲香!」
「危ない!」
その瞬間横から体当たりされた。サングラスが地面に激突する。
「ばーか。」
少女はニヤニヤと笑みを浮かべてサングラスとスイッチしたヴァイスにポンと手を置いた。その瞬間ヴァイスが小さな人形と化して床に落ちる。
「あぁ…」
「何戦闘中に罪悪感とか抱いちゃってるわけ?バカじゃないの?」
サングラスは自分の覚悟の薄っぺらさを呪った。自分のせいでヴァイスが人形にされてしまった。あれだけシュバルツに不満を抱いてた癖してこの様だ。しかしだからこそだ。後悔するのは後だ。俺がやらなきゃシュバルツ達の意思を踏みにじることになる。そして首に駆けているロケットペンダントを握りしめ決意する。
「許さねぇぞてめぇぇぇぇ!!」
「何きれてんの?」
サングラスの咆哮を笑いながら触れてこようとする少女の攻撃を躱し再度発砲する。少女の足に命中した。しかし少女は何故か怯まずにこちらに向かってくる。
「ばかな?!確かに当てただろ!」
サングラスは体を思い切り捻りかわすと教室から飛び出し距離をとる。触られなければ人形にされることもない。ここでは狭いと判断したサングラスは外に向かって走り出す。
「逃がさないよ。」
少女も教室から飛び出しサングラスを追う。そして少女は校庭へと逃走するサングラスを捉えた。しかし追い付くまで体格差があるため校庭に向かうのに時間がかかってしまい隙を作ってしまった。しかし辺りを見回すと以外にもサングラスは水呑場の裏側から顔を出し姿を隠すことなく銃を構えていた。
「なに?逃げないんだ。確かに私を野放しにするのは貴方の信条に反するもんね。ならここで終わりにしてあげる。私の可愛いコレクションと一緒に飾ってあげるから!」
黙ったままサングラスはこちらを狙っているのに対して少女は頭を守るように手をクロスさせながら突撃を開始する。サングラスは連続で発砲、少女の体の至るところに命中するが一切怯まずにこちらへと距離を詰める。そして
「じゃあね。」
と少女がサングラスに触れる所で突如として少女の体にサングラスがバケツに入っていた液体をぶちまける。その瞬間少女は前屈みに倒れてしまう
「なんでぇ!」
少女は必死に起き上がろうとするが起き上がれない。体が石のように重いのだ。
「どうすれば立てるか教えてやろうか。」
水呑場の裏から出てきたサングラスは少女を見下ろしながら言う。
「元に戻せよほら。」
「…」
一瞬少女は何を言ってるか分からなかったがその後悟った。
自分の負けだと。
「リーダー今助けますので!」
一方教室に取り残されたヴァイスは人形の体で精一杯リーダーの救助を試みていた。あの時サングラスがこのおもちゃ箱に触れようとしたとき露骨に反応していた。要はこの中に人形化されていたリーダーが閉じ込められていたのだ。おもちゃ箱の中には目一杯おもちゃが敷き詰められていてリーダーが助けを呼べないようになっていた。おもちゃ箱を漁り続けようやくリーダーを発見する。「リーダー!」しかしシュバルツは手足をもがれており人形とはいえ見るに耐えない状態だった。ヴァイスの呼び掛けにリーダーは普通にしゃべれるようで
「お前がやったのか?」
と聞き返してきた。ヴァイスはとりあえず安堵し首を横にふると
「私は無様にも人形にされただけです。今はサングラスさんが戦ってくれています。」
「…そうか」
リーダーはそれに対して一言だけ了解の旨を告げる。
「取り敢えず引っ張り上げますね。」
ヴァイスはリーダーをおもちゃ箱から引っ張り出す。幸いだったのは人形といってもある程度の筋力が残されていたのと指がしっかり人間と同等に作られているタイプの人形だった事か。よくある手足の部分が丸くなっているタイプの人形ならば苦戦は必至だったろう。その時台として使っていた積み木が崩れ二人とも床に投げ出される。
「申し訳ありませんリーダー大丈夫ですか。」
ヴァイスが動けないシュバルツを壁に立て掛けてやる。
「さて、人形化が解けていないということはまだやりあっているのだろう?」
「はい。しかし現状の我々では助力するのは厳しいかと。今はリーダーの手足を見つけることが先決です。元に戻ったとき手足が離れていた場合どうなるか考えたく有りませんからね。」
ヴァイスの応答に頷いたシュバルツは
「すまない。」
と謝罪した。おそらく手足を探すにも何もできない自分を不甲斐なく思ってるのだろう。
「大丈夫ですよ任せてください。」
と積み木を重ねながらヴァイスは答える。
「このままでは決着がついてしまうな。」
そしてシュバルツがぼやいた瞬間彼らの人形化が解かれ元の大きさに戻る。
「戻りましたね。」
「…」
ヴァイスは恐る恐るリーダーの方を見やる。しかし手足は元通りになっていたので安堵の息を吐く。
「戻ったということはサングラスさんが勝ったということでしょうか。」
「…今回は俺の落ち度だ。」
教室の外に向かおうとしていたヴァイスを見つめながらシュバルツは立ち止まり呟く。
「敵が二人いる可能性を考慮していなかった。だからお前らを危険な目に…」
「リーダー。」
ヴァイスはシュバルツの肩をつかむ。そして目を合わせ言った。
「今回は特殊なケースでした。基本的に相対する異能力者はある程度成長したもの。でも確かにリーダーの一人でやろうとする癖は直した方がいいと思います。私たちは仲間じゃないですか、いつでも頼ってくださっていいんですよ。」
「ヴァイス…」
「でも今は休んでくださいお疲れさまでした。」
シュバルツは一度後ろをむいてから数秒してこちらに向き直ると
「あぁ。」
といつものリーダーに戻る。
「では行きましょうかサングラスさんを迎えに。」
二人は先程とは違って遠くない道のりを進んでいった。
「クソガキが。」
サングラスは少女に一応持たされていたアビリティハンドカフスを取り付ける。これでもう能力は使えない。
「やるじゃない。いつ思い付いたの?」
少女の質問に対してサングラスは
「お前を発砲したとき明らかに命中していたにも関わらずダメージがなかった。これはおそらくお前の人形にする能力が関わってるんだろうと推測した。さらには教室から逃げてお前が追いかけてきた時若干走るのにラグがあった。あれは人形化による体への弊害だと悟った。だから俺は校庭に逃げてアレを探したんだ。」
「水呑場って訳ね。」
「あぁ。水汲みには時間がかかっちまうからどうするかを考えていたら運良くバケツに水が汲まれていたからよ。そして俺はそれを裏手に隠しておいたのさ。そしてお前が俺には銃以外の手段がないと思わせておいて水をぶちまけてやった。そしたらビンゴだったって訳さ。やっぱり回りが見えてないところを見るとまだまだ子供だな。」
「完敗ね…素直に負けを認めるわ。」
「悔しくなさそうだな。」
「さっきもいったと思うけど私は裏道君に協力しただけで浦道くんの復讐とかはどうでもよかったの。それにね久しぶりにこんなことができて楽しかったし。」
「…」
「何?もしかして可哀想とか思ってるわけ?」
少女は鼻をならすと
「バカみたい。勝手にあんたの価値観押し付けてるんじゃないわよ私は今の生活が気に入ってるの。」
と腰に手を当てて告げる。その答えにサングラスはほっとしたような気がした。
「そうか…」
「でもね、これとは別件でさ」
「???」
サングラスは何事かと思っていたが答えは言葉ではなく足蹴りとして返ってくる。
「いぃぃ!!」
「よくも私に水なんかかけてくれたわね!すんごく寒いんだけど!」
そしてまたしても蹴りが打ち込まれる。そしてその無様な姿を迎えにきた2人に見られたのは言うまでもない。
上条さとりです。回想シーン終了となりますので次回からは本編の研究所の調査に戻ります。この調査にてヒカリ達は今後の運命を左右する少女と出会うことになります。その少女とは一帯どんな人物なのか…
ということで今回はペンを置かせて頂いてまた次回お逢い出来ることを願っております。