期待
「「………」」
なんとも気まずい沈黙が流れる。
(どうやって断ろう)
きっと、緊張してたんだろう。
それも、隣にいる京が見えなくなる程に。
(可哀想に)
栗毛の青年は告白したあとに、京を見て赤い顔を目を見張りながらさらに真っ赤になっていた。
京の席は入口からかなり見えにくい。
きっと周りをよく見ずに2人きりだと思い込んだのだろう。
ちなみに京は何も気にしてないのか、黙々と英語の長文問題を解いている。
だけど、なんだか解くスピードがいつもより遅いのは気のせいだろうか。
こんな時間を過ごさしてしまってさすがの夜美でも申し訳ない。
「んんっと、ありが…」
ありがとう、だけど付き合う気にはなれない。
その言葉の途中で、足音が聞こえてきた。
誰か来たと気づいた栗毛の青年は慌てながら夜美に言い放つ。
「ごめん、返事は来週聞いてもいい?」
「え…別に明日で…」
「明日から来週まで休むことになってるから、ごめん!」
夜美の言葉を遮るようにそれだけいうと、風のように走り去っていった。
(期待させちゃったかな、ヤバイな)
走る栗毛の青年の顔が少しニヤけていたのは見間違いだろうか。
夜美はさっきの言葉の切れ方は不味いなと
思う。
(見間違いであってほしい)
切実にそう願う。
そのことで悶々としながら、夜美はその日の授業を終えた。