告白
夜美の名字は文殊で、文殊夜美が本名です。
一ヶ月後、ゴールデンウィークの前日。
「なぁ、これ分かるか?」
誰もまだ来ていない教室で京が夜美に問いかける。
あの落としたシャーペンを見つけて返してくれた日から京とは少しだけど話すようになっていた。
だけど、あの日のような笑みを見せることは無く、二言三言話す日と何も話さない日がほとんどだ。
「はぁ? 葉秋さんが分からない問題を私が解けると思ってるの?」
この前知ったことだが、葉秋京という人物は
塾内でも高校でも不動の1位らしい。
ちなみに、夜美は塾内では2位だ。
(こいつ、私を煽っているのか?)
ジトッとした目で顔を見るがそこには何を考えているか分からない、無表情な顔しかなかった。
(いや、その問題を解けたら私すごくないか?)
そんな考えが頭によぎる。
根っからの負けず嫌いな夜美である。
解けたときの妄想をひろげていく。
数秒後、
「……いいよ」
「ほんとか?」
「うん。宿題全然終わってるし」
そう言うと、京は無表情のままノートを差し出す。
そこには、変な図形と角度が書き込まれた
絵がある。
一瞬簡単に見えたが、よく考えるとかなり難しい。
「ねぇ、家で解きたいから写していい?」
「いいぞ」
「ありがと」
そこで話は終わり、次の日。
〜〜〜〜
「葉秋さん!昨日の問題解けたよ!」
かなり手こずったが、一つ分かれば簡単なので2時間ほどで解けた。
京はそう言われても動じない。
ただ、手を差し出す。
夜美はその手にノートを置き、見てもらう。
「うん。」
京はそれだけ発するが、夜美にはそれが正解だという言葉と認識する。
「この問題面白かった。なんの参考書?」
夜美は一番気になっていたことを聞く。
すると、淡々とした声で京が言葉を紡ぐ。
「これは、俺が作った問題だ」
「えっ、嘘」
「どうして嘘つく必要がある」
「いや、葉秋さんが解けない問題かと」
「俺に解けない問題はない」
なんという俺様だろう。性格が悪いと思っていたが俺様だったのかもしれない。
(そんなことはどうでもいいが、他の問題も
あるのだろうか。)
やったのは図形の問題たったが、他の種類の問題もきっと面白いだろう。
夜美が聞いてみようと口を開きかけた時、
「あのっ、文殊 夜美さん!」
いきなり叫びに近い声で、夜美の名前を呼ばれ、夜美の肩がビクリと揺れる。
いつも落ち着いている京でも一瞬手が止まった。
心臓がバクバク言いながら振り向く。
「はっ、はい。なんですか?」
居たのは栗色の髪でパーマがかかった上背の少年だった。
(なんか見たことあるな)
多分、グループ発表のときに一緒だった人だ。
まだ早いのになんだろうと、じっと見つめる。
そんな夜美を見て栗色の青年は何故か赤くなって狼狽えている。
(要件あるならさっさと言えばいいのに)
京との話を中断されて、少し苛つく。
その気持が顔にもでていたのだろうか。栗色の青年は決心したような顔で、今度は落ち着いた声で話す。
「文殊さんのことが好きです。。僕と付き合って下さい。」