会話
コツコツと、靴の音が廊下に響く。
バスの時間の関係で、少し、いやかなり早く来てしまった。
高校1年生の階は3階で、高校生の校舎では最上階だ。
(高校2.3年生の階は人が少し居たんだけどな)
多分、1年生の階では一番乗りだろうなと思いつつ、クラス表を確認する。
すると、まさかの一番良いクラスに名前があった。
(わ、ついていけるかな)
きっとクラスは入塾テストの結果で決まったのだろう。点数は分からないがそれなりに出来ていたということだろうか。
少し嬉しさと不安感が生まれる。
鞄を少し強めに握って、クラスのドアを開ける。
(まだまだ時間があるから、時間まで勉強しよっかな)
(あれ?電気ついてる?)
変に思い、教室の周りを見渡す。
「あっ」
まさかの先客がいた。
しかも、居たのはあの無表情の青年だった。
夜美の声に気づいたのか、青年は振り向く。
(声出しちゃった)
少しの沈黙がおきる。
だけどずっと突っ立っているわけにもいかないなと思い、座席表を確認する。
(あ、あの人の横だ)
青年の机は後ろの端っこで、夜美の机はその隣だった。
机の方を見ると、青年と目があう。
(よく見れば見るほど整ってるな)
夜美の兄の涼と陸もかなりのイケメンで、
イケメンには慣れている夜美でも唸るほどの
美貌だ。
(しかもこのクラスにいるんだから相当頭いいんだろうな)
そりゃ女子が放っておかないわけだ。
見ていると、青年が何か言いたげな視線を送っているのに気づく。
「?」
なんだろうと席につくと、青年が手を差し出してきた。
その手には、落としたはずのシャーペンが
握られている。
「昨日、落としてた」
驚いている夜美に向かって、ただ簡単に言い放つ。
「あ、ありがとう。ええっと、、」
(あ、まずい。名前知らない)
ちらりと視線を送るが、黙ったまま。
(こいつ、名前分からないの気づいてる)
綺麗な顔とは裏腹に、性格が悪い。
必死に名前を絞り出そうとするが、分からないものはどうやっても分からない。
(よし、急行突破だ)
「うん。本当にありがとう。」
さっさと切り上げて、シャーペンをとる。
きっと気づいただろうが、分からないものは仕方ない。
(怒ってないかな?)
少し怖くなってちらりと見ると、ほんの少し微笑んでいた。
思わず、魅入ってしまう。
それに気づいた青年はまた無表情に戻ったがゆっくりと、
「京、葉秋 京」
〜〜〜〜
この日、初めて京と会話したのだった。
葉秋京と呼びます。