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第三章 店じまい



――――――――

 

――1週間前――

 昼頃、寝室には一人の男がいた。彼は興奮した様子で電話の向こうの相手に喋りかけて、しばらくするとこの部屋から出て行った。

 夜になり、その男はどこかに行って来て疲れたのか寝室に入るなり、スーツ姿のままベットで横になった。

 

――6日前――

 朝、男は何やら呟きながらホワイトボードに資料をまとめていた。ホワイトボードの資料には東京の地図に大きな円が描かれており、その横には彩良の写真が貼ってあった。

 苛立っていたのか男は爪を噛み、髪を掻き、イライラを爆発させながら、手当たり次第に近くのものに当たっていた。

 そして、1日中とにかく酒を飲みそのまま酔い潰れ、床で寝た。


――5日前――

 二日酔いのせいか昼頃まで男は寝ていたが、電話の音で起きた。そして、男は興奮気味に電話に向かって何やら叫んでいた。

 男は電話を切り、満足げにワインを飲み始めた。そして、地図のある一点に印をつけその点と彩良の写真を結びつけた。

 その日は気持ちよさそうにベットで寝た。


――4日前――

 朝起きてから、出て行った。

 しかし、夕方になると男が命からがらという雰囲気で寝室に飛び込んできた。そしてその後、男を追うようにして黒服の男が寝室に入ってきた。

 例の男は部屋の角に追い詰められ、何やら命乞いをしているようだった。しかし、その甲斐なく黒服は手に持っていた銃を撃ち、例の男を殺した。そして、ホワイトボードにある資料を見つけそれを回収し、出て行った。

 

――3日前――

 警官が2人入ってきて男の死体を見つけた。

 しばらくすると昨日の黒服と同じような格好の奴らがきて警官たちは追い出されていった。何やら揉めていたようだが。


――2日前――

 誰の出入りもなかった。

 

――1日前―― 

 誰の出入りもなかった。

 

――――――――

 ここで俺は現実に戻ってきた。明らかにおかしいことがあった。

 まずここで自殺が発見されたのは依頼人からの情報だと3週間前ということだが、実際は4日前だった。

 それに、ここの春翔はなんで彩良を写真を持ってたんだ?あいつが地図に刺したところは俺の事務所の場所だったのでは?と、いくつかの疑問が出てきたがまず一番の問題はあの黒服の奴らだ。あいつらは秘密警察だ。あいつらが出てくるのは魔法に関することだけのはずだが……まさか、彩良か? 春翔は彩良となんらかの関係があった?……いや、そうじゃなさそうだな、探しているの方がしっくりくるな。それで俺の事務所にいることがわかったから印をつけたということか?

 じゃあその後彩良を追っているから殺されたのか……それなら秘密警察どもは彩良が魔法を使えることをすでに把握しているということか?……いや、両親が通報しているならあり得るな。彩良の両親は彩良の話を聞く限り、魔法を嫌悪しているようだったしな。その上さっきの資料を手に入れたわけだ。それが4日前の話だろ。昨日までに俺の事務所に突入してきてもおかしくなかったはずだが……ああ、そうか依頼人がぐるだったか。それで彩良が魔法を使えるか見定めようってか?いや、というよりは、匿っている俺が怪しいから見極めたかったのか……これで。

 つまり俺はまんまと罠にハマった上、自分から魔法が使えますよと言ってしまった訳か、クソが。

 

 その時上の階で窓が割れる音と彩良の悲鳴が聞こえてきた。

 俺は一目散に彩良の下へと駆け急いだ。

 ……くそくそくそ……なんで考えが至らなかったんだ。反社会勢力が魔法にも関連しているかもしれないと言う可能性に。

 そうして俺は勢いよく階段の先のドアを蹴り開け、中に入った。


 「彩良!」


 彩良は黒服に銃口を向けられていた。そして、入ってきた俺に気付いたのか涙を堪えながら俺の方に振り返った。彩良は俺に何かを伝えようとしたのか口を開いたが、その声が俺に届くことはなかった。次の瞬間、部屋中に銃声が響いた。俺にはその瞬間、まるで他の全ての時間が止まったなか、右胸に穴の空いた彩良だけは時間が止まっておらず、無造作に倒れていくように錯覚した。

 俺は彩良を守れなかった。彩良には危険な目に合わせないと決めたはずなのに。

 その瞬間腹の奥が熱く感じた。俺は憎かった。魔法が使えるからと、これぐらいの依頼ならなんとかなると思ってしまった自分自身の浅ましさ。そして、彩良を傷つけた黒服にだ。

 俺の頭は憤怒で埋め尽くされ、冷静さを失ってしまった。

 彩良を撃った黒服が俺に銃口を向ける前に、俺はその黒服の持っている銃を自分の手元に瞬間移動させ、その体に計5発の鉛玉を撃ち込んだ。

  しかし、ここで、初めての人を殺めた感覚に浸る時間をくれるほど秘密警察は優しくなかった。残りの2人の警官が俺に向かって容赦無く発砲してきた。俺は咄嗟に横に飛んで避けてからテレポートを使い、ソファーの裏へと隠れた。

  状況を一旦確認しようと息を整えると、右肩が痛んだ……どうやら、避けきれず、右肩を打たれたようだ。

 俺は意識をどうにか痛みから外して、状況を整理しようとした。

 どうする、どうする、俺。

 相手は2人で両方銃を持っている。一方俺は、銃を持っているが残弾は1発……先ほどのオーバーキルのせいだが。

 普通に考えると絶体絶命の状況だが、俺にはテレポートがある。相手が反応できないうちなら、まだ勝機はある。

 そこまで考えた後、俺は作戦を開始した。

 まず分身を出し、1体はこのソファーから身を出して銃を撃つ仕草をさせた。すると警官は俺の分身が体を出して来たや否や正確にその頭を撃ち抜いた。その瞬間分身はボォンという音と煙を出して消えた。その現象に驚いている隙に俺はテレポートを警官の後ろに向けて発動した。警官らは優秀なのだろう、1人がもう1人の死角をカバーし合うよう背中合わせのようになっており、予想外の分身に驚きながらも一度見た俺のテレポートにも警戒を向けていた。その為、テレポートで送り込んだもう1人の分身もあっけなく処理されてしまった。

 しかし、俺は一瞬の分身を処理したことで緩んだ隙を見逃すことなく、2人の警官の間にテレポートで飛んだ。

 2人とも背後に気配を感じたのか、勢いよく振り帰ろうとしたが、時すでに遅し。俺は前を向いていた警官の頭に銃を打ち、すぐにまた飛んだ。俺は撃った警官の前に飛ぶことで、残った警官の振り向きざまの1発を防いだ……肉の盾で。そして死体から拳銃を奪い、もう1人にもとどめをさした。

 俺は警官2人が絶命しているのを念入りに確認し、警戒を解いた。そこで俺は急に立てなくなってしまった。生死を争う戦いなど生まれてこの方経験などしたことないのだ。終わった後に、恐怖が襲って来た。しかし、俺にはまだやらなければならないことがあった。

 俺は勝利の余韻に浸ることなく彩良の元に駆け寄った。


「彩良!死ぬな!」


 俺は急いで彩良にまだ生きがあるかを確かめた。


「よかった、まだ生きてる」


 どうやら、1発で即絶命まではいかなかったようだが、出血量は多い。猶予はあまりない。

 俺は彩良が生きていることを確認した後にこの場所に止まっているのは危険と思い、近くの隠れ家に飛んだ。ここは、いつ秘密警察との追いかけっこが起きてもいいようにと用意していたものだ。やはり、何事にも念には念をだな。

 しかし、悠長にしている場合ではない。このままではすぐにでも彩良は死んでしまうため、早急な治療が必要なのだ。ここで俺が医療にも精通しており、手術ができるというのならよかったが、俺はそんなことはできない。俺ができるのは、せいぜい自分の命を削って彩良の傷を元通りにしてやることだ。

 前にも話したが、俺はイメージの世界で物の座標をいじるのは簡単だがそれを現実に適応させるのには大量の魔力を使うのから、使えないと。だが、例外的に使うことのできるやり方がある。それは、俺の命……生命力なるものをそのまま魔力に変えて、それを用いて発動させるという方法だ。これは、使うと同時に俺の生命力が底をつき俺は死んでしまうため、これまで封印して来た物だが……彩良の命には変えられない。

 俺はこれまで数え切れないほど犯罪を犯して生き延びてきた。そんな俺に対し、彩良はただの少女だったがある日魔法を使えるようになってしまい、そのことでこれまで築いてきたもの全てに裏切られ、失ってしまった……家族さえも。そんな境遇だったにも関わらず、彼女は俺に拾われた後も他人を信じるという、俺がこれまで一度もしたことのない、人の可能性というものを信じ続けたのだ。彩良は俺には眩し過ぎるくらい優しい子なのだ、俺の希望なのだ。その命のためなら喜んで自分の命を捧げよう。

 俺は彩良に向かって手を向け、正真正銘、命を燃やして、最後の魔法を発動させた。



 **



 隣でバタッと何かが倒れるような音で目を覚ました。

 天井に見覚えはなく、ここがどこだか全く見当がつかない。

 私は今日何があったかを思い出そうとした。今日は依頼を受けて、春翔さんの家に行って、証拠を探そうとしてたら……知らない黒の服の人が急に窓から入ってきて……そうだ、私、撃たれたはずじゃ。

 私は急いで自分の身体に傷が無いかを確認しようと起き上がった。その時、隣に倒れている人に気がついた……有坂さんだ。自分に怪我がないことを確かめ、私は彼を起こそうとした。

 どうせ、彼が私を助けてくれたのだろう。お礼と何があったか聞かなきゃ。そう思い彼を揺さぶってみたが、なんの反応も返ってこなかった……彼は朝どんなに眠くても揺さぶれば返事くらいは返してくれるのに。よほど疲れが溜まっているのだろうか、そう思い彼の頭を撫でて「お疲れ様」と言おうとした時だった。明らかな違和感を感じた。

 どんなに深く寝むりについていても人は呼吸をしており、そうでなくては生きていけないのだ。しかし、今私は有坂さんから呼吸の息を全く感じられない……無呼吸症候群というわけではない。いつもは息が手首に当たって少しくすぐったいのだから。

 私は身体が冷えてくるのを感じながら、急いで脈がないかを確かめ、凍りついた。脈がないのだ、息してないのだ。このことが何を意味しているかが分からないほど私は幼くもないし馬鹿でもない……彼、有坂和佳人は死んでしまっているということだ。


「起きて……起きてよ」


 私は激しく彼の体を揺さぶったが、なんの効果もなかった。


「……嘘、だよね……いつもの冗談……だよね……」


 私は信じられなかった。いや、信じたくなかったのだ。彼が死んでしまったことを。私の中で有坂さんの存在は大きかった。彼がいなければ私は今日まで生きれていないし、立ち直れていない。彼から私は多くのものをもらってきた。しかし、私が彼にして来たことなどほとんどないのだ。それなのに、また有原さんの足を引っ張って、守ってもらって、こんなことになってしまって……自分が憎い。


「ごめんなさい……有坂さん、ごめんなさい……私のせいで、私のせいで」


 私は怒りと悲しみに暮れ、声を上げて泣いた。



 **


 

 気づけばカーテンの隙間からは日が入って来ており、朝になっていた。

 どうやら一晩中泣いていたようだ。私は腕の中の彼に目を向けた。思い残すことなく安らかに眠っているようだった。

 私は彼の頬に手を添えた。私はただずっと泣いていたわけではない。自分の気持ちを整理していたのだ。

 初めは確かに、私なんかが生き残るんじゃなくて、彼が生き残るべきだったと思い、生きる事をやめたいとも思っていた。でも、彼が再びくれたこの命を無駄にすることを私は許せないし、有原さんも許さないだろう。そう思い、彼の分も生きると誓った。けどそこで私は彼が自分の側に今後居てくれないということを酷く寂しく感じた。そして、その寂しさは他のどんな人が隣にいても消えないように思えた。

 そこで気がついた……いや、気づいてはいたが見ないようにしていただけだった。私は有坂さん……有坂和佳人を1人の男性として好きであると。これまでは、彼に恩返しをと、これ以上彼に甘えるわけにはいかないと思っていたから、彼を好きという気持ちを認めてしまうと、もっと彼に甘えてしまいそうで認められなかった。でも、彼がいなくなってしまい、私は認めざるをえなくなってしまったのだ。

 そうだ、私は彼が好きだ。大好きだ……ほとんど一目惚れだ。いや、仕方ないでしょ、出会いが出会いなんだから、優しくしてくれて、助けてくれて……もう、私の目には世界一かっことよく写っていた。

 しかし、現実というものは残酷だ。彼はもうこの世にはいないのだから。本当に大切なものは失ってやっと、その大切さに初めて気づくとはよく言ったものだ。彼とはここでもう別れをしなければいない。

 私は彼の顔に自分の顔を近づけていった。

 これでお別れだから……私はそう心の中で言い訳をして口付けをした。


 その時変化があった。

 ……私の経験回数が0から1に変化したとかそういうことではないぞ。彼の体が淡く光だしたのだ。私は何が起きたか分からず、呆然としてしまった。そして、数秒経って光が消えたその時、彼の目が開いたのだった。

 彼と目があった。しかし、私はあまりの出来事に動けなくなってしまった……顔を近づけた状態で。

 体感で数時間にも感じられたその一瞬の後、彼は口を開いて私に向かっていった。

 

「……彩良?……お、おはよう?」


 彼も何が何やらと言った様子だったが、私はそれどころではなかった。

 驚愕も大きいが、それ以上に私は感極まり、彼に抱きついた。


「心配したんだから、ばかーー」


 彼は私を優しく受け入れてくれながら


 「……ごめん、心配かけたな」


 その言葉に、優しさに、私は彼を思う気持ちを抑え切れなくなり、再び彼に口付けをした。

 彼は私の行動に戸惑いながらも、拒むことなく受け入れてくれた。

 そうして、唇を離した時まだしていたいと惜しく思いながら、私は冷静さを取り戻した。

 自分のした恥ずかしい行動に私は急いで彼から離れ、焦りながら言い訳のようなことを言い出した。


「ふん、し、心配なんてしてないわよ!ちょっと気持ちよく寝てそうだったから、観察してただけよ!元気になったのなら早く自分で起きなさいよ、全くもう……もう」


 私は自分でも意味わからないことを言っているなと自覚しながらも、恥ずかしく、何か言わないと耐えられなかった。

 一方彼は私のキスで呆然としており反応がなかった。

 

「黙られると……こっちも恥ずかしくなるじゃない、ばか。……忘れなさいよ……」


 最後の一言で彼は再び倒れてしまった。


 お互い冷静になるまでしばし時間を要し、昨日何があったのかを私は彼から聞いた。ここで、さっき彼が再び倒れたことでトラウマが再発して私が泣き出してしまったことは割愛しておく。


「ところで、有坂さんは……死んでたよね。どうして生き返れたの?」


 私は先ほどの彼の超常現象について聞いてみた。しかし、彼も分からないようで、

 

「いや、俺もわからない。てっきり彩良の方が何かしたんだと思ってたけど……」


 私は顔が熱くなった。まさか……キス⁉︎私がキスしたから⁉︎

 その反応に彼は

 

「何か心当たりがあるのか?……まさか新たな魔法か?」


 と、聞いてきた。しかし、答えられるわけがなかろう。私は首を左右に激しく振って「知らないわよ、知らないったら知らないの」と早口に答えることしかできなかった。私は熱くなる顔を手でを扇ぎながら話題を変えるべく話を今後の方針について話し出した。


「……私たちはこれからは秘密警察に追われる立場となったわけだけど、どう生活してくの?」

「これからは、そうだな、まさか生きていれるとは思わなかったから考えてなかったけど……そうだな、まずはもっと地方の方か、隣の国にでも渡ろうかな。まだ、魔法が主流の国もあるし、そこでならひっそり暮らせると思うし……」


 そこで彼は言葉を止めて、何か覚悟を決めた様子で私の名前を読んだ。


「聞いてくれ、彩良」

「はっ、はい」


 やけに真剣な面持ちなため、私も緊張して来てしまい、声が上擦ってしまった。


「秘密警察の連中は彩良のことはもう殺したと思っているだろうから、連中は俺を狙って追いかけてくる。だから、彩良が俺についてくる理由はなくて、何なら着いてくると余計危険に巻き込まれると思う。……ただ、それを踏まえて、彩良……俺と一緒に来てくれないか……いや、彩良俺と一緒に来てほしい。俺は、彩良と一緒にいたい」


 一緒にいたい……一緒に来てほしい……えへへ。私は有坂さんからの予想外の告白に驚きながらも嬉しさでいっぱいで、どうにか頬が緩んでしまうのを顔に出ないようにするのに必死だった。しかし、私の反応がないため彼は不安になり謝り始めてしまった。だから私も彼に自分の本心を打ち明ける事にした。


「私も、ずっと有坂さんといたい、ずっと側にいたい。だから、その……不束者ですが……よろしくお願いします」


 と、笑顔で答えたのだった。

 


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