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第二章 探偵のお仕事?

「……タンタタッタンタンタンタタッタンタン」


 スマホから8時を知らせるアラームが鳴っている

 

「……うるせえなぁ……後、十分……だけだから……」

「はいはい……起きてください、もう朝ですよ、朝ごはんできてますから」

「……すぐ起きるから……後、5分だけ〜……」

「そう言って5分後に起きてきたことありましたか……はいはいもう起きてください」

 

 そういうと彩良は俺の寝ていた布団を取り上げ、強制的に起こしてきた……鬼畜め。

 

「はい、おはようございます有坂さん」

「……おはよう……彩良」

「今日は10時から1時までは大山さんのところで農作業の手伝いで、そのあとは長谷川さんちのお子さんに家庭教師の仕事がりますから、朝しっかり食べとかないと体力持ちませんよ」

 

 彩良はもう探偵の助手として板に付いてきたのか、助手というか秘書としてしっかり働いてくれている。ただ最近俺の扱いにも慣れてきたのか扱いが雑な気がしなくもないが。

 

「……みんな探偵の仕事勘違いしてんだろ……何でも屋じゃねえんだぞこっちは、はぁ」

 

 今日も今日とて忙しい"探偵"の一日が始まった。


 

**

 

 

 「おじさんも彩良お姉ちゃんもまたねー」

 

 長谷川家の長男、拓人が腕全体を使って、手を振って見送ってくれている。

 

「はい、拓人君もまたねー」

 

 こちらでは彩良も手を振っている、まあこちらは少し遠慮気味ではあるが。

 彩良が俺の助手(秘書)となってからもう1ヶ月が経とうとしているが、こっちの生活にも慣れてきており、人当たりの良い性格のおかげかすっかり地域の人達に受け入れられ、今では俺よりも周りと仲が良いのではと思うほどだ。

 ちなみに彩良は俺の従兄弟ということで周りの人には説明している。

 

「ほら、有坂さんも何か言ってあげたら」

 

 彩良に促され俺も何か返事をしようか考える。確かに地域とのつながりというのは大事だからな。

 

「おじさんじゃないぞー、お・に・い・さんだぞー」

 

 そう小僧に告げて俺たちは帰路についた。

 

「しっかし、最近ちゃんとした依頼がこねぇーなー」

 

 これは俺が常々思っていたことだ。全くないということはないが依頼のほとんどが地域の顔見知りからの依頼とも呼べるのか怪しい頼みだ。実際には平和なことが一番かもしれないが、こちらには生活がかかっているのだ。”お願い”はほとんどアルバイトのようなもので依頼料もそれ相応だ。そのため、ただでさえ稼がなくてはいけないのが2人に増えたのだから親からアルバイトだけでは足りない。1発、ガツンとここらで稼がなくては。

 

「ちゃんとした依頼?」

 

 彩良はまだ助手歴1ヶ月の若輩者のためピンと来ていないようだった。

 

「ああ、これまで見たいな顔見知りからの「〜手伝ってくれー」みたいなのじゃなくて、契約書を交わす依頼のこと。前は時々来てたけど最近は全く来てないからな」

「……どんな依頼があるの」

「今まで俺が受けたことあるのは、例えば、人探しとかかな、まあこれは依頼人もよく分からん怪しい奴だったから余計には首を突っ込まなかったけど。あとは、2年前には誘拐犯探しの依頼も来たな、その時は警察が全く犯人を特定できないから俺の方にも依頼が来たんだっけな」

「なんか、危険な仕事なんだね……探偵って」

「まあ、危険はあるがその分やりがいはある仕事だとは断言できるな」

 

 しかし、彩良は乗り気ではなかった。

 

「別に今のままでもいいじゃない、こういうのも楽しくない?」

 

 彩良は家族にある日突如として捨てられてしまったため、地域との交流を深めているとその寂しさを忘れられるという理由だからかもしれない。ただその心地よい関係も自分の正体がバレなければという条件の上だ、彩良の場合は今の所周りで誰かが怪我をするという事がなかったから上手くいってきたものの、もし彩良が怪我よ治れと願ってしまったらその場で力が発動してしまうため、とても危うい状況であるのだ。さらに俺自身にも言えるが彩良が使える魔法が治癒能力だけでない可能性もある、まだあるのだ。この力は生まれ持って持っている力な為自分がどんな力を使えるかは自分自身でさえ発動してからしかわからない。だから、彩良には一刻も早く自分の意のままに魔法が行使できるように訓練と、どんな魔法が自分は使えるかの確認(他にも使える魔法があるのかないのかもわからず、発動条件も手探りで探す必要があるため、めちゃくちゃ難しい)をして欲しいものだが、いかんせん前者も後者も時間がかかってしまうのだ。

 そうこう考えているうちに我らが拠点である事務所に戻ってきた。

 俺は今日の依頼は全て終わらせたから、後はご飯を食べて寝るだけだと思っていたが、彩良が何かに気づいたようだった。

 

「あれ、誰か来てない?」

 

 彩良が指す方に目を向けると一人の女性が事務所の窓から中を覗き込むようにしている背中が見えた。

 

 「もしかして……依頼……かな?」

 「……かもしれないな」

 

 少なくとも俺はあの女性をこの辺りでは見た事がないため、いつもと違うのは分かる……まだ彩良の親が今頃彩良のことを探しに来たとかという可能性も否めない。まあ、彩良に確認取るか。

 

「彩良はあの人知ってるか」

「ううん。知らない人。ここら辺の人でもないね」

 

 彩良にとっても知らない人であるらしいので彩良関連の事という線も薄いだろう。じゃあさっき話したシリアスな依頼の可能性が高いだろうなと考え、俺は久しぶりのため緊張の面持ちでその女性に声をかけた。

 

「どうしましたか?」

 

 女性は急に声をかけられて驚いたのか肩をビクッとさせ答えた。

 

「いえ、ここに用事があるんですけど……電気がついてないのでどうしたものかと……」

 

 やはり、依頼人か。

 どうやら、俺をたまたま通りかかった親切な人と勘違いしたのだろう。俺は自分が探偵であると告げた。

 

「私がこの事務所で探偵をやっている有坂和佳人と言います」

 

 俺の紹介に彩良が続く。

 

「私はその助手をしております、内田彩良と言います。……ご依頼でしたら中でお話になりませんか」

 

 彩良は笑顔も忘れない完璧な対応をする。俺の方が歴は長いはずなのに対人コミュニケーション能力は彩良には全く敵わない。

 女性もそれに頷きを返し、彩良の後について事務所の中に入って行った。


 

**

 

 

 「……ええ、っと……お名前は?」

 

 若干どもりながの質問に彩良が(こいつ大丈夫か)という目をしてくる。

 ……やめてください、久々で、こっちも緊張してるんです。元が陰キャだから仕方ないんです。

 しかし女性は俺の様子など気にしていない様子で。

 

「あ、はい。渡辺恵子と言います。今回は、捜査の依頼に来ました」

「どのようなものでしょうか?」

 

 俺はすかさず問い返した。

 

「えっと……私の息子なんですけど……名前は春翔というんですけど……3週間に自宅で……死んでいるのが見つかって……警察に相談したらただの自殺だの一点張りでまともに捜査してもらえなくって、でもあんないい子が自殺するはずないんです。……それで、息子の死の真相について依頼に来ました」

 

 自分の子供が亡くなってしまった悲しみとろくに捜査をしてくれない警察への怒りに言葉を振るわせる彼女の言葉を聴きながら俺は依頼人の息子の死の原因について考察を始めていた。

 現在の日本は治安がいいとはお世辞にも言えない。100年前の革命直後の時代は民衆の大多数が反魔法主義を掲げていたが、それは当時掲げられていた国民全てが平等に科学の発展の恩恵を受けられるというマニフェストがあったからだ。そのため、実際にその公約が実行されなければ当然民から不満は出てくるだろうし、現在のこの国は貧富の差が大きく裕福な者だけが技術の発達とともに生活の利便性も上がってはいるが、そうでない者にとっては100年前も現在も、生活が大きく変わっていないのだ。この結果、現在の政権に反対する人達も出てくるのも当然だ。そして、政府としてはその集団は目障りなゴミと感じるだろうし、排除しようとするだろう。その結果、不審な死を遂げる者や不可解な自殺者などが生まれることもあるだろう……国が揉み消そうとしているのだから。これはあくまで俺の想像に過ぎないが、この事件は国……とまではいかなくても少なくとも警察がらみではあるだろう。これは相当危険が伴う依頼だな。

 ここまで約2秒のことである。俺は今回の依頼は俺一人で慎重にこなさなくてはという結論を下した……断りたいが報酬がいいようだからな。

 しかし、そんなことを露も知らない彩良は

 

「……ご子息がなくなってしまった事、心からお悔やみ申し上げます。必ずや、私たちがご子息の死の真相を突き止めて見せます」

 

 と、やる気をみなぎらせていた。

 その後、形式的な書類での契約を交わし依頼主である渡辺恵子さんは帰って行った。

 依頼主のお見送りも終え、一度はお預けとなった夕飯の準備を始め、テキパキと晩御飯の支度をする彩良に俺は釘を刺すこととした

 

「一応言っておくが、この依頼は俺一人でやるから彩良は留守番だぞ」

 

 俺の言葉に、彩良は信じられないという顔で振り返り、

 

「……なんで……私じゃ、足手纏いですか……」

 

 その言葉に、チクリと胸が痛んだが、危険を避けるためだから仕方ないと自分自身に言い訳をした。

 

「……ああ、足手纏いだ……」

 

「……そっか、そうだよね……ごめんなさい」


 ここでは「嫌い!」と言いながらトイレに籠るみたいな反応をしてくれたらどれほど良かったか。彩良は賢い子だ、自分の立場をよく理解している……理解し、自分の中で欲求を押し殺している。大人なら、それも当然ではあるが、まだ子供の彩良にそれを強制させている自分に嫌気が差す。

 そこで俺は彩良を子供として扱ってしまっている自分に気がついた。彩良は助手で手伝いをすることで俺に恩を返したいのに、俺が助手としてでなく、子供としてしか見てくれない。これは、彩良があまりに不憫ではないか。恩を返す機会を俺が奪ってしまっているのだから。

 そう、遅まきながら気付いた俺は、今後は彩良を助手として……つまり対等な立場として見ると決意した。

 そうと決まれば、すぐにでも彩良に謝らなくては……そう思い台所で肩をしょんぼりと落としながら鍋をかき混ぜている彩良に声をかけた。

 

 「彩良!聞いてくれ……さっきは悪かった、謝る……すまん。彩良の意見も何も聞かないで勝手に俺の考えを押し付けて。だから、二人でちゃんと話し合って決めないか、今後のこととか。……俺にとって彩良は大切な存在なんだ……だから、危険なことさせたくないってさっきみたいなことを……でも、違うよな……大切だからこそきちんと話し合って2人で決めていかないといけないよな……俺これまで独り身だったからそういう事に気が回らなくて。これからはさっきみたいな事ないように努力するから……許してくれないか……」

 

 懺悔のような俺の自白を聞いて彩良は

 

「……ふ、ふん……あなたみたいな人は私がいないとだめだめなんだから……そこまで言うなら……許してあげなくも、ないわよ」

 

 と機嫌を直してくれたようだ……こちらには背を向けたままだが

 その後の夕食を食べながらの厳正な有坂探偵事務所定例会議により、依頼には二人で取り組む事となった。彩良の押しに最終的に俺が折れたと言うことだ。




 **



 次の日

 

「調査をするにあたって何をする必要があるだろうか……答えてみたまへ、ワ○ソン君」

 

 俺からの急な振りに彩良は首をかしげながら”こたえて”くれた。

 

「シャーロック……それは目撃情報の収集……でしょうか」


 少し恥ずかしかったのか、最後は素に戻ってしまった。

 

「まあ悪くない答えだ。50点をあげてもいいだろう。しかし、一番に大事となるのは事件の起こった現場を確かめることだ。これがなくては、実際に何が起きたのか理解したつもりでいても理解できないのだ」


 と言うことで、来てみました、現場、阿佐ヶ谷北方面の小学校の近くの一軒家に……渡辺春翔さんのお宅に。


「有坂さん、ここが春翔さんのお宅ですよね……でも、どうするんですか。思ったとおり、家は入れないようになってますけど。……というかそもそも、家主がもういない家だからって勝手に入っちゃだめなんですけど。」


 彩良が呆れたように俺を非難してくるが、俺には考えがあるのだ。

 

「ふっ、まだまだだな、彩良。この世にはこんなにも素晴らしい格言があるではないか「バレなきゃ犯罪じゃないんです」と。俺の能力があれば、いざって時の緊急脱出もできる。やらない訳がないだろう」


 俺の言葉に心底呆れたと言うようなため息を吐いて


「いや……まずどうやって入るのよ、鍵は開いてないわよ」


 と、呆れ切った様子で聞いてくる。

 

「舐めてもらっちゃ困るぜ、お嬢さん……俺にかかればこんなのちょちょいのちょいと、テレポートで入れまっせ……だから人の目がない今のうちにパッパと入っちゃおう。ほら、手」

 

 そこで彩良は何やら固まってしまった。

 俺が「どうした?」と聞いても何も答えてくれない。どうしたものやらと考えている、彩良は考えがまとまったのか指を2本だけを出して俺の手の上に乗せてきた。

 これは出してくれた指の本数によって、その人に心を許してるか暗示してるのか?……1ヶ月で5分の2とは、もしかしてこいつちょろいのでは。そんな失礼なことを考えていたからだろうか、彩良から横腹に肘打ちをされてしまった……痛い、暴力反対。あと、心を読むな。俺はすまんと一言言ったのちすぐに家の中にテレポートした。

 

 「思ったより綺麗なのね」


 中に入ると、もう住人はいないはずだがよく整理されており、廊下の角に埃などはなく綺麗だった。家主の生真面目がったのだろうか。

 

「死体が見つかったには寝室か……とにかくまずは探すか、寝室」


 するとすぐに返事が返ってきた。


「あっ、ここみたいだよ有坂さん……うへぇ〜、キングベットて私初めて見た。2階建てといい、これといいお金に困って自殺したって訳じゃなさそうね」


 彩良の推理の筋の良さに俺は弟子の成長を喜ぶ師匠のような気持ちになりながら補足だけはしておいた。

 

「まあ、そう決めつけるのは早計だな、まだ主人に散財癖があって借金地獄だった可能性もあるからな」

「そっか、他の可能性もあったね……決めつけは良くないね。じゃあ私は借用書でも探そうかな」

 

 いや大丈夫だ、と言いかけてやめた。彩良は大人びているもののそれは日常の生活の範囲での話で、その枠を超える事態が来ると対応ができるか怪しい。そのため、今みたいな非日常での経験から色々と学びを得て成長をしてほしい。実際はもし春翔氏が借金をしていたとしても借用書はもう警察が抑えているだろうから、ここにはもう残ってないだろうが、彩良ならそれぐらい自分で気づくだろう。彩良の気が済むまで推理と捜査をしてもらおう。そう考え、俺は自分がやるべきことだけをする事にした。

 俺はキングベットに腰を下ろして目を閉じ、自分の精神を研ぎ澄ませ始めた。

 単刀直入に言おう。俺はある程度の期間なら過去を遡って閲覧できる。なんだそりゃ、と思うだろう。ちなみに原理事態は得意技のテレポートと同じだ。大きな違いといえばそれを具現化させるかどうかだ。抽象的でわかりづらいだろうから補足しておくと、俺は実際に五感で感じている世界と構造は全く一緒だが俺が自由自在に操れるイメージの世界を脳内に持っている。俺は普段、物のの座標を変更する時はイメージの世界で物体の位置を変え、それを現実世界に適応させている――動画の出力みたいな感じだ。この時俺は2つの事に魔力というものを使っており、まず1つ目にはイメージ世界での物体の位置座標を弄って変える事に、もう1つはイメージの世界を現実の世界に適応するのにだ。ただし、これらには明確な魔力消費量の差があり、考えればわかるかもしれないが後者の魔力消費量は前者の比べものにもならない。そのため、具現化させなくれば、イメージの世界では割となんでもできるのだ。では次にどうして過去を覗けるのかの説明だが、俺が実質的な創造主であるイメージ世界で時間軸を動かせない道理はないということだ。ただし、イメージの世界はあくまでイメージ……つまり絵であるため、音までは再現することができずあくまで”見る”ことしかできない上、魔力消費も相応で1ヶ月も遡ったら、数日は魔法が使えなくなるが。

 俺は早速この部屋での春翔氏の最後の瞬間を覗き込む事とした。




 

 

 

 

 

 

 


 

 

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