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第一章 助手を拾う




 「"マクレガー"よりターゲット、ポイントAを通過」

「"レヴィー6"了解、ターゲットをポイントCにて仕留める」

「"レヴィー5"援護に入る、1人で突っ込みすぎるなよ"レヴィー6"」

「わかっている……ターゲットポイントCまで……3……2……1、今だ!!」

 

 その声と共に2人の男が一斉に路地裏の角から飛び出してくる

 2人は目標に向かって勢いよく手を伸ばし…………ガツン……ドボン

 思いっきり頭をぶつけたそして男の1人は煙となった

 

 「いった〜〜」

 

 まだ大人になりきれてもいないような男が1人路地裏で頭を抱えてうずくまっているその様子を呆れる様子で

 

 「にゃーーお」

 

 と首にリボンをつけた一匹の猫が見下ろしていた


 

 **


 

「ありがとうねぇ、うちのクロスケを見つけてくれて……はい、お礼だよ」

 

 そう言われ少量のお金を受け取り帰路につく

 しばらくして老婆が見えなくなると

 

 「はぁーー…………やっとこれで依頼達成だよ、猫探しは労力と報酬が釣り合ってねえよ」

 

 と不満をぶつぶつといい始めた

 しかしその不満に賛同やする声もあるはずなく

 男はただ1人夕暮れの道を歩いていた

 

 ここで自己紹介しておこうか……名は有坂和佳人(ありさかわかと)といって職業、探偵をしている

 歳は24で高校を卒業とともに探偵を始めた

 俺は少し特殊な経歴があり……中学の時に家出して1人で暮らしている。その時、名前も家も捨てて、新しく1人で生きることを決意した。

 それがなぜかだって?

 そんなの決まってんだろ俺が"リグレーター"だからだよ

 そう俺はリグレーターである、世間一般では先祖返りというそうだが……こっちの方がかっこいいだろ

 要は先祖返りしたから魔法が使える俺みたいな奴らのことだ

 この国は一世紀ほど前に革命が起き、それまでの魔法を使える貴族たちによる武力支配から魔法ではなく科学の恩

 恵を皆平等に受けれる社会へと変わった

 まあ、口で言うのは簡単だが実際はそれまでの魔法による一方的な支配で魔法の使えないものたちは奴隷にさせられていたため、その反動も大きく革命時はその時の貴族はもちろん子供に対してさえ容赦なく処刑を実行し、その刑に反対する者も全員処刑するほどであった

 そしてその風潮は今も残っており魔法を使えると知られた暁には秘密警察に捕まり、拷問にかけられてしまうのだ

 しかし「その革命時に貴族は皆死んだのだから魔法を使えるものがその後生まれてくるのはおかしくないか」と思う人もいるだろう……まあ、いくらかの貴族が逃げて生き残ったか、その頃の奴隷が貴族の子を孕んでいたかだろう

 現在も稀に先祖返りを起こして魔法を使える子が生まれるということがある

 それが世間に広まったのは30年ほど前に起こった5名のリグレーターによる大虐殺事件のせいではあるがここでは割愛する

 

 そんなわけで俺は運が良いのか悪いのかそんな血筋の子だったらしく先祖返りをして魔法が使えてしまうと言うわけだ

 親には俺が魔法を使えるのことを隠して生活していたが、俺は日々バレてしまうのではという恐怖に負け最終的には中学生の時に家出をした。

 そして実家から十分距離をとった田舎の空き家に住み込みで魔法で変装して高校には通っていた。食料などはテレポートがあれば盗みも簡単でバレる事もなかった。ただ、そんな生活をずっと続けるわけにもいかず、高校卒業後は探偵業を始めてお金を稼ぎ始めて今に至るということだ……つまりもう足は洗ったということだ、大体は。

 そんな俺だが現在は迷子の猫ちゃん探しやら人手が足りないなどのヘルプの依頼がもっぱらで事件性のある依頼は最近はほとんど来なくなった。

 どこぞの便利屋と勘違いされてないかと疑いたくなるほどである……まあ地域人たちに受け入れてもらえていると言う点ではいいかもしれないが

 ちなみに得意魔法は物体の座標変更――俺はカッコよくテレポートと読んでいるが――で変身魔法と分身――冒頭で俺が使っていたやつ――がお気に入りだ、よくある炎魔法のメラ○ーマやら爆裂魔法のエクス○ロージョンなどの攻撃魔法などは全く使えない。

 

 「もっと、楽に大量に稼げねぇかなー」

 

 そんな独り言を呟いた時だった

 道端に少女が座り込んでいるのにふと気がついた。

 下を向いており顔は見えないが水色の髪の少女がそこにはいた。

 長髪で、肩に掛かっている髪が月の光を反射し、妖精のような神秘的な様子を思わせる少女だった。

 制服姿から察するに中学生ぐらいか?だがなぜこんなところにいるんだ……もう夜の8時だぞ

 なんだ最近のJCには普通なのか……

 と考えながらその少女を見ていると彼女は俺の存在に気付き、顔を上げ、泣きそうな声で言った

 

「……お兄さん……泊めてください……」

「…………は……⁇?⁇」


 

**


 

 俺は今、有坂和佳人史上もっとも精神を集中させざるを得ない状況に陥っている。

 理由は簡単だ……謎の少女(おそらくJC)が俺の家の風呂に今入っているからだ。

 俺の部屋は一人で暮らす用の狭い部屋なためシャワーの音が部屋中に響いてしまっており、いやでも少女がシャワーを浴びているということに気がいってしまう。

 なんだよこの展開……ラノベ展開かよ…………いや確かに俺にも起きたら嬉しいなとは思っていたけどいざ現実になると……どーしたらいーんだよ〜〜。

 とにかくここで間違いを犯して警察に世話になる訳にはいかない……素数でも数えて煩悩をなくす事にしよう……うん、それが良い。

 俺は兎にも角にも少女の事以外の事を考えようと必死だった。

 

 「……2……3……5……7……11……13……17……19……21 ……素数ちゃうやんけ……23……27……またや……29……31……33、もうダメだおしまいだ」

 

 完全に動揺してる

 素数を数えるのに集中しようとしても脳が勝手にシャワーの音の方に行ってしまう

 俺は1人どうすることもできない状況に悶々としながら、なぜこんな状況に至ったかの原因である30分前の出来事について思いを馳せた。


 

**


 

 時刻は30分前ほどに遡る。

 俺は猫探しの依頼を終え家に帰ろうとしていた――家と言っても俺の探偵事務所の2階だが

 その途中でふと道端にうずくまっている少女を見つけたと思ったら声を掛けられ、泊めてくれと頼まれたわけだ

 俺はその瞬間頭が真っ白になった

 ⁇⁇⁇⁇どゆこと……いや、どゆことやねん……

 

 「……お願いします……1日だけで……良いので、泊めてください……」

 

 再び声を掛けられ、俺は1度深く深呼吸をし、数十秒考えてから

 

「どうしてだ」

 

 と、おそらくこの流れでの最適解であろう問いを選択した

 

「……帰る家が……ないんです……」

 

 正体不明の少女の瞳には涙が溜まっていた

 ……うわ……こういうの見ると俺が悪いみたいになるから嫌なんだよなー……

 だが話しかけられ、頼られた以上……ここで見捨てて後日死にましたとなるのは後味が悪い

 せめて解決の手助けぐらいはしなくてはと思いながら、少なくとも事情だけは聞いてやろうと決めた

 

「帰る家が無いってどう言うことだ……まさか言葉通りこれまで家があったところが気づいたら空き地に変わってたとかじゃ笑い話だけど」

 

 少女は涙を流すのを必死に堪え

 

「……親に……捨てられたんです……魔法が……使えるからって。これまでは……私も使えること……知らなくて……なのに2日前に……弟が骨折して治ってほしいと思ったら……弟のけが全部治ってて……そしたら、家族みんな私のこと気味が悪いって……みんな酷いこと言ってきて……最後なんか……お前は人じゃないって……言われて」

 

 そこまで言って少女は泣き出すのを我慢できなくなったのかついに泣き出してしまった

 

「……なんでぇ……ぐす……私……悪いこと何かした?……なんでよ……ひどいよ……」

 

 少女の言葉を聞きながら俺は少女に親近感を覚えた

 この少女は俺と同じく先祖返りしたのだろう、ただ俺と違うのはそのことに自分を含め家族が気づいたのが遅いか早いかだけで、俺の場合は生まれてすぐに親は俺が魔法が使える事に気付いていた。そして、極力俺とは触れ合わないようにベビーシッターを雇っていた。一方この少女は見るからに15、6歳ぐらいだがこれまでの人生ほとんど親の愛情を一身に受けて育ってきただろうに、親から人あらざるものとして扱われるようになってしまったことの変化が耐えられなかったのだろう……そう考えると俺は運がいいのかもしれないな

 ここでこの少女を見捨ててしまえばこの少女がどのような道を辿ることとなるかは容易に想像がつく……まだここで野垂れ死ぬのならいい良い方だが、俺と同じように他の人にも頼み込んだ暁にはすぐに秘密警察を呼ばれ捕まることとなるだろう

 仕方ないか

 

 「……わかった……しばらくは面倒見てやる……」

 

 それだけ言うと俺はすぐさま帰路についた

 後ろでは少女が何を言ったのかがわからなかったのか呆然としていた

 

「来るかこないかは自由だが、俺は短気だからすぐに気が変わるぞ」

 

 そう言うと少女は恐る恐るといったように立ち上がり、俺に置いてかれないようにと歩き出した

 その後はお互い無言で歩き、俺の家について中に入ったら彼女が突然シャワーを貸してくだいさいと言われ、何も考えずに二つ返事で了承してしまった。


 

**

 

 

 これが例の出来事の全容だった

 確かに俺が言い出したことだからこの状況になったのは俺の責任ではあるが、いや待ってほしいこの状況で急にシャワー貸してくださいとか想像の上どころか斜め上の方からの攻撃で何も考えずになんとなくいいよって言ってしまうのは、日本人皆経験したことがないだろうか、いやあるに決まっている。

 こんな訳で俺は例の少女が風呂から戻ってくるのを待っているのだが、いかんせんこちらも女性経験など皆無なためこの妙に落ち着かない状況に慣れておらずどうしたら良いかが全くわかっていないのだ。

 ああ……現実逃避していいなら今すぐテレポートでもしてここからいなくなりたいのに


 

 しばらくすると少女が戻って来た。

 もう瞳には涙は無くなっていたが、何かを決心したかのような目をしていた。

 俺は二人分の飲み物と依頼人が来た時に出すお菓子を机に用意して再び少女のことを見た。

 服はさっきまでと同じく制服だが風呂上がり特有の妙な色気に少しくらっとしてしまった

落ち着け……相手はただのガキだ……

 自分を落ち着かせながらこの少女により詳しい質問を問いかけようとした時だった

 

「お……お風呂、ありがとうございました……ただ……わ、私……初めてなので……や、優しく……して……くだ、さい」

 

 最後の方はほとんど聞き取れなかったが俺は状況を理解した。この少女は俺がからだを求めることの対価として泊めることを許可したのだと誤解しているようだ。一瞬でも少女に対してクラッとしてしまった俺が人の事言える立場ではないが、流石に二十歳越えが中学生に欲情なんかしたらヤバいだろ。リグレーターで人あらざる物とされている俺でも流石にそこまでは落ちぶれてはいない。

 俺は少女の誤解を解くべく言葉を尽くした

 

「……いや、違うよ……俺は君の体を別に求めたりなんかはしないよ」

 

 できるだけ彼女を怖がらせないように優しそうなアニメキャラの口調を真似をしてみたりした

 これで和めば嬉しいんだけどな

 

「……でも……お金も持ってないし……返せるもの……何もないし……ぐす……」

 

 再び泣き出しそうになった……この娘、涙脆いな

 

「違う、違う……俺は見返りなんて求めてないよ」

「……じゃあ……なんで優しく、してくれるんですか」

 

 この少女にとって俺は見返りを何も求めないで泊まることは許してくれる1周回って怪しさマックスな人に思われるのだろう、まあ俺の説明不足が原因ではあるが

 

「……それは、俺が君と同じ、リグレーターだからだよ」

「リグレーター?」


 彼女は首を傾げ、聞いてきた。

 

「世間一般では先祖返りした者……つまり君みたいに魔法を使える人達のことを指す言葉だ」

「……じゃあ……あなたも……」

 

 少女がはっと息を呑んだのがわかった、確かに俺もそんなこといきなり打ち明けられたらそんな反応をするだろう。

 まあ論より証拠だ、俺は少女の近くに置いてあった菓子の位置座標を変更し、自分の手元に引き寄せた菓子を少女に見せた。

 

「……今、お菓子が急に消えたと思ったら……あなたの手元に……?」

「そう、今俺がやった……信じてもらえたかな、俺が君と同じだって」

「いや、でも……」

 

 少女は未だ信じられないと言った様子であったため、ちょっとからかうか……という悪戯心が芽生えてしまった。

 俺は彼女の座っているクッションと俺の座標を変更させ

 

「これで、信じてもらえたかな」

 

 と、彼女の耳もとで囁いた

 彼女は何が起こったのか理解が追いつかず呆然としていたが、数秒後自分が俺の膝の上に座っているという現実に気付き悲鳴をあげて俺の顔を全力でビンタしてきたのは言うまでもない。


 

**



「やっぱり体目的じゃないですか!この変態!変態!」

 

 ちょっとやり過ぎたかな

 

「……いや、今のは君に俺も魔法が使えることをわかってもらおうと……」

「それなら他にもっとやりようがあるでしょ、変態!」

 

 俺は選択を誤ってしまたようだ。緊張をほぐそうとした小粋なジョークだったのに。


 

**


 

 しばらくして彼女も冷静に戻って話し合いを再開した。

 

「……先ほどは……すいませんでした……」

「いや……俺も悪かった……とにかく、俺は君と同じだからそれで見てみぬふり出来なかっただけだ、見返りを求めてなんかないよ」

「ですがこのお礼は……」

 

 真面目な性格なんだろう、一方的に恩を受け取るのではなく礼をしたいと言うことか

 

「……そうか、そう言うことなら……」

 

 ……どうしようか、全く考えてなかったな……何があるかな〜

 チラリと彼女の方を見ると……なんですか、体を求めようとしてますか、この変態……とでも言いたいかのような目で見てきていた。

 

「……あっ、じゃあ助手をやってくれ、いくら探偵業と言っても一人じゃ大変だからな」

「……お兄さん、探偵なんですか」

「ああ、この街唯一の探偵だ……まあ、探偵と言っても、多くが手伝いに呼ばれるような依頼だ。何でも屋だと思ってくれていい」

 

 まあ、自分では認めたくなかったんだがな

 

「……わかりました、助手を務めさせていただきます。これからよろしくお願いします」

「ああ、こちらこそよろしく」


 そこで彼女は思い出したように聞いてきた。

 

「あの、私、お兄さんの名前、知らないんですけど」

「そういえばお互い自己紹介してなかったな……俺は有坂和佳人、歳は24だ」

内田彩良(うちださら)です、歳は17です」

「……17!?……高校生⁉︎」

「高校生ですけど」

「いやいや、中学生ぐらいにしか見えんだろ」

「なんでですか、どっからどう見ても女子高校生でしょ!!」

 

 漫画だったら背景にムキーと書かれるぐらいには起こってしまった、地雷を踏んだな俺、コンプレックスだったんだな。

 こうして世にも稀な先祖返りした二人の探偵コンビが生まれた。


 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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