激突!ディルドVSオナホール
「ねぇ、あなたのオナホールと私のディルド、戦わせてみない? 私のディルドであなたのオナホを犯して、先にイった方の負けね」
「あの……どこから突っ込めばいいんですか?」
「どこ、ってオナホの穴は一つしかないでしょう? それともあなたは穴が複数あるタイプのオナホを使ってるのかしら?」
「いや、そうじゃなくて!」
「もしかしてあなた、私のディルドをオナホで受け止めるのに自信がないのかしら。それは仕方のないことだわ。私が普段使っている超極太カリ高エラ張りパーフェクト・チンポは私以外には到底扱えそうにない究極の逸品だもの。戦う前から怖気付くのはもっとも
ね」
「いや、怖気付くって言うか、理解が追いついていないって言うか……」
まず、オナホやディルドといった大人の玩具が絶頂するわけがない。そんな当たり前の事実を認識できているのか怪しい。つまり今後一切、この人に常識というものが通用する保証がないことが恐ろしい。
それに、普通ならそのような玩具類は使用しているという事実そのものを公言することは憚られるはずだ。それにも関わらず、この人は恥ずかしがる素振り一つ見せず堂々とした態度で声高に淫語を叫んでいる。
僕も一応、1人の健全な男児として人並みの性欲は持ち合わせていると自負している。河原にエロ本が落ちていたら、多分拾う。でも仮に政府がエロ本を毎日読むことを国民の義務にしてしまったとしたら、僕は流石に辟易する。僕だけじゃなく、老若男女誰もがそうだろう。その政府はきっと支持率が0.1%を下回っている。
つまり何が言いたいのかというと『痴女はNG』ということだ。
「それじゃあ、今から私は家に帰ってディルドを取ってくるわ。あなたもオナホを持ってきなさい。1時間後、またここで会いましょう」
そう言って彼女は足早に公園を去っていった。
「どうしてこうなった……」
遡ること約30分前。
僕は彼女(さっきのあの人ではなくてガールフレンドのこと)とこの公園で盛大に喧嘩をしてしまった。
その喧嘩の内容というのが、彼女と僕の価値観の違いに起因するものだったのだが、僕も彼女も自分自身の価値観を曲げようとはしなかった。
僕が思うに、価値観の合う人間と付き合うことはとても素晴らしいことだ。しかしそればかりに こだわっていると、価値観の合う人間に巡り合えなければ一生孤独なままでいることになる。
つまり、時には相手に合わせてあげることが重要である。
と、言いつつも自分自身を偽り、他人に都合の良い自分を演じるということはやはり難しい。
そんなことを考えながら、今回の喧嘩の反省会を1人でベンチに座ってしていると、目の前に長く艶のある黒髪に、きっちりとしたスーツ姿の女性の陰が現れた。
年齢は……女性の年齢をあれこれ邪推するのも野暮というものだろう、と言い訳をしておく。実際分からない。20代くらい?
学生時代はいかにも委員長や生徒会長をやってましたと言わんばかりの真面目さと気品を纏った清楚な雰囲気を醸し出す美人だった。
「あなた、さっき恋人と喧嘩をしていたわね」
「……まあ、はい」
別れを切り出したわけではないけれど、今の気まずさのまま、ずるずると仲を修復しなければいずれ別れるだろうとは思う。
そんな失恋間際の男につけ込んで『わたしならそんな思いさせないのに〜』みたいな人が寄ってくるイベントが僕の人生にも起こったかと胸を7%くらい躍らせていたのだが……。
「もう彼女とセックスはした?」
「…………は?」
思わず面食らってしまう。こういう変わった人との出会いを想定していなかったので、僕の返答には遅延が生じた。
というか、初対面の人間に二言目にしていい質問ではない。
初対面でこれが許されるのはせいぜいAVのインタビューくらいのものだろう。
「返答を渋るということは、まだなのね?あなたもしかしてED?」
「違えよ! というか何で初対面の相手にそういうこと聞くんですか!?」
「あら、違うのね。じゃあ、したけど彼女のは気持ち良くなかったと」
「え、いや……」
「でも、大丈夫よ。セックスが気持ち良くなかったのなら、オナニーをすればいいじゃない」
「あ、はい」
つい流されてしまったが、何の解決にもなっていない。詭弁だ。
そして、そこからオナニーについての話題(というより一方的に語られた)が始まり、なんやかんやあって冒頭に繋がる。
話を戻すと今は1時間後に開催されるディルド対オナホの決闘に備え、家に戻ってオナホを用意したり、セーブポイントでセーブをしたり、自分のオナホのレベル上げをしたり、回復アイテムを買い込んでおくべき時間である。
とはいえ、僕にはオナホを持ってくる義理はないわけで、このまま帰宅して延々とオナニーについて話す奇妙な女性のことを記憶から消却したまま、日常に戻ってしまっても構わないのだ。
そう。構わないのだけれど……。
「あら、早かったわね。てっきり私のパーフェクト・チンポに尻尾を巻いて逃げるかと思ってたけど、意外と度胸あるじゃない」
「ああ、どうも……」
1時間後、お互いに自分のディルドとオナホを握りながら再び相見える。
正直に言ってしまえば、好奇心が勝ってしまった。ディルドとオナホ、どっちが勝つのかということではなく、この女性がどのくらい僕の予想を超えた行動を起こすのか、気になってしまった。
「さあ、あなたのオナホを出しなさい。私のパーフェクト・チンポはこの通り準備出来てるわ」
そう言って彼女は、半透明なシリコン製のディルドを自身ありげに掲げる。
僕も言われるがままに、用意してきたオナホを彼女に見せた。
「ふーん、なかなか良いじゃない。名前は何というのかしら?」
「いや、名前はないですけど……というかつけないですよ普通」
「そう、じゃあ私が名付け親になってあげるわ。あなたのオナホの名は、そうね……『無窮の探究』とかどうかしら?」
「いや、勝手に付けないでくださいよ」
「いいじゃない。名前を付けた方が愛着も湧くし。それに『無窮の探究』。なかなかいい名前でしょう?」
「はあ……もういいです、それで……」
「それじゃあ、早速始めましょう。『無窮の探究』VS『超極太カリ高エラ張りパーフェクト・チンポ』。先に絶頂した方の負けよ」
戦いの火蓋は切られ、相手の『超極太カリ高エラ張りパーフェクト・チンポ』が僕の『無窮の探究』に挿入される。
ちなみに相手のディルドは“超極太カリ高エラ張り”と銘打ってはいるが、実際は普通のサイズのディルドと全く遜色ない見た目をしている。
現在の時刻は午後3時頃。そんな時間に成人した男女が公園でディルドをオナホに挿入している。客観的に見れば脱法露出セックスをしている変態が2人である。通報されたらギリギリアウトで公然猥褻罪で捕まってもおかしくはない。
しかし、今は真剣な戦いの真っ最中。そんな些細なことを気に留めている暇はない。
「この勝負、勝たせてもらうわ。私のパーフェクト・チンポの前じゃ、あなたのオナホが勝てる可能性なんて万に一つもないと思うけど」
「いやいや、やってみないと分からないですって」
「あなたもそういう見苦しい言い訳を口にするタイプの人間なのね。でも大丈夫、何も恥ずかしいことはないわ。あなたはただ負けることを認めればいいのよ」
「その言葉、そのままあなたにお返ししますよ」
「言ってくれるじゃない」
煽り合いは盛り上がり、手元では2つのアダルトグッズが本来の用途を若干逸脱して盛り合う。
ディルドは激しくピストンし、オナホはディルドをぎゅうぎゅうと締め付ける。
しかし本当のセックスとは違って、生々しい肉の音や嬌声などはなく、ただシリコン同士が擦れ合う乾いた音だけが響き、ちょっと滑稽である。
「……」
「……」
「……」
「……」
「……これ、どうやっても引き分けじゃないですか?」
「そうね」
「どうします?」
「やめましょう」
「はい」
5分に及ぶ激闘の末、僕達はあっさりと戦いをやめた。それはそうだろう。これ以上戦う意味などなく、そもそもこの決戦が無意味であることは最初からとっくに分かっていたのだから。
「決着が着かなかったことは残念だけど素晴らしい好敵手、いえ志の高い同胞に出会えてとっても嬉しいわ。また縁があれば会いましょう」
「いえ、こちらこそ」
社交辞令的な言葉を交わすと、彼女は名前も名乗らずに颯爽と公園を後にした。その手に『超極太カリ高エラ張りパーフェクト・チンポ』を握り締めたまま。
「僕は一体何をしてんだろう……」
僕はオナホ片手にその背を見送りながら、少しずつ正気に戻りつつあった。
「なんか、全部どうでもよくなってきた」
僕は空いた方の手でスマホを取り出し、彼女に電話をかけた。
『もしもし。ああ、さっきのこと謝ろうと思って──」




