99話
しかし、ふざけているように見えたマスターだが、意外にもちゃんと答えは考えていた。
「うん。もうわかったよ。たぶん間違いないね」
確信のコーヒー。うん、美味い。豆変えたのかな?
ひらひらと漂い流されているだけのように見えたマスターだが、ギャスパーは結果的に喜ぶ。
「え、ホント? さすがチェスの元ドイツ王者。頭いいねぇ。で、答えは?」
矢継ぎ早に語を当て、解答を待つ。やはり、持つべきものは友。
「むしろ、これはフランス人のキミ達がわからないとダメだと思うけどね。ほっほ」
余裕を見せるマスターに、ギャスパーは焦ったさを感じる。
「もったいぶってないで。じいさん、教えてよ」
答えを求め続けられるが、さらにマスターは引き延ばすかのように、携帯を取り出した。そしてなにやら指で操作する。
「待って。一応、教え子にも聞いてみる。頭のいい子でね」
念のため、他の人の答えと合うか検証しだす。同じ問題に対して、同じ解答がくれば、安心して答えられる。石橋を叩いて渡る。
「教え子? チェスの子?」
問いかけながらギャスパーは、すっかり冷めたエスプレッソをちびっと飲む。すっかり忘れていた。それほどまでにペースをこの老人に乱されている。
「教えてる、ってほど教えてもないけどね。ちょくちょくチェスを指してる。『角砂糖にショコラを染み込ませたもの』から連想できる歴史上の人物、で大丈夫かな」
携帯を操作しつつ、マスターは質問にも答える。
無駄はないが、一切文脈もなく、もし自分にこんなメッセージがきたら、見なかったことにするな、とギャスパーは半分以上諦める。
「こんなのでわかるのかね」
先の先の先の先、くらい読める人じゃないと、意味すらわからないだろう。わかっても、ここから答えの人物にたどり着くことができたら、むしろ怖い。
送り終えて携帯をポケットにしまいつつ、マスターは満足気にソファーにもたれかかる。
「どうだろう、まぁでもヒントは『植物』『三人』、そして『女王』かな」
うん、間違いない、と自信ありげ。
かたや、ギャスパーはよりわからなくなる。
「? なにそれ?」
三つのヒントが繋がらない。どういうこと?
「あ、きた」
すぐに返信がきた。マスターは楽しそうに、まるで恋する乙女かのように、ワクワクしながらメッセージを開く。そこには。
《くだらんことをメッセージで送るな》
まずこの一文。
厳しい意見だが、続きを読んでニヤリと笑う。
「と言いつつ、ちゃんと答えてくれるあたり、ツンデレってやつなのかな? 一緒だ」
「え、誰?」
身を乗り出すギャスパーに、マスターは携帯の画面を見せる。そこに書かれていた名前。当たっていたらすごいが、それは当然マリー・アントワ——
「え?」
心の中でその名前を呼んだギャスパーは、自身の目を疑う。
「どういうこと? え? え?」
これは一体——?




