96話
「つまり、なにもわからないってことね。あー、お腹すいた」
ひとり、蚊帳の外のように引いてサロメは会話に参加する。このあとの調律のことを考えて、ゆっくり休みたいのに。なんでまたジェイドがいるんだろう、と不思議がる。
「しかし、その店長さんは、本当になにもヒントはなかったのかね」
だとしたら、あまりにもボヤけすぎていて、誰も到達できない。
「おそらくですけど。『なぜ角砂糖にショコラを染み込ませることが、マリーを示すのか』。そしてそこから導き出される想い……としか」
「……マリー……」
怪訝な顔つきで、ルノーが脳を働かせる。なぜ『マリー』なのか。その意味。その理由。なぜ『その方法なのか』。
マリー・アントワネット。ここになにか意味があるはず。ジェイドは想像する。同じ七区にある、彼女の薬剤師を担当していた者が開いたショコラトリー。そこでは古金貨の形となっている。角砂糖ではない。
だがルノーは心当たりがあるようで、誰にもバレないように口角を上げる。
「なるほど……こいつは、なかなかたどり着けない答えかもね。が、いい問題だ」
おそらく、この答えを知ること、そのものが目的ではない。そこに至るまでの過程。それこそが。




