95話
「——ということなんだ。誰かなにかわかる人はいるかい?」
パリ三区。ピアノ専門店、アトリエ・ルピアノ。その店の奥にある、パーテーションで仕切られた応対用の対面ソファーには、サロメとジェイド、そして同僚のランベールと社長のルノー。
ジェイドが持ち込んだのは、ワンディから出されたクイズ。なぜ、ショコラを染み込ませた角砂糖が、マリー・アントワネットを意味するか。それをちょうど、時間の空いた男性陣も加え、議論する。
「そもそも、マカロナージュってなんだ?」
なんとなくマカロンに関すること、というのは察しがついているランベールだが、そもそも作業工程も知らない。手がかりを手繰り寄せようとする。ちなみに、次の調律の時間まで暇なので付き合っている。ジェイドとは初対面。いい意味でお互い遠慮がない。
それに関して、持ち込み主のジェイドがジェスチャーも交えて解説する。
「マカロナージュというのは、マカロンの生地の固さを調整するため、メレンゲと混ぜ合わせる作業のことなんだ。これがないとダコワーズに一歩近づくね」
と、持参したダコワーズを、ガラス製のローテーブルに広げる。中身はキャラメルクリーム。自宅でも簡単にできる。
それを一枚とってランベールは口に運ぶ。食べることでなにか閃くかもしれない。
「ふーん、今のところなんもおりてこねぇな」
が、ダメ。噛み締めると、甘さ控えめな生地と、濃いめの甘さのクリーム。ちょうどいいな、とひとりごちる。苦めのエスプレッソが欲しい。
「少し、見方を変えてみたらいいんじゃないか。なぜマリー・アントワネットなのか」
今日の調律の資料を読み込みながら、片手間気味に社長のルノーが提案する。意識は資料。仕事が第一。
「なにかわかったんですか?」
なにも浮かんでこないランベールは、達観したような物言いのルノーに、早くも助け舟を要請する。
しかし、ルノーはとぼけたように肩をすくめた。
「いや? ただ、角砂糖というのが引っかかる。これをそのまま食べるのか、それともなにか違う使い方をするのか」
砂糖には他にも色々種類がある。その中で角砂糖を選んだ意味。もしくはなんでもいいのか。
「……角砂糖って、コーヒーとか紅茶に入れる以外に、使い道ありますっけ?」
相当限られる方法に、ランベールは疑問を抱く。頭の隅まで、今までに食した角砂糖の記憶を呼び戻すが、全くヒットしない。




