93話
学園三階にあるカフェ。見晴らしがよく、ガラス張りの広い窓からは、音楽科のホールも眼下に見える。その他、遠くにはエッフェル塔も。そのカフェにて、少女二人が窓際の長テーブルの座席で、コーヒーを飲みながら雑談に興じる。
「ニコルはどう思う?」
うち片方のオード・シュヴァリエは、対面席に座るニコル・カローに意見を求めた。数日前、音楽科のホールにて偶然知り合い、なんとなく意気投合。その後、初めてこうしてカフェで待ち合わせなどしてみた次第。
問われたニコルは、オードから伝えられた内容を吟味し、自分なりの意見を述べた。
「ダコワーズは好きだよ。クリームはキャラメルが一番かな」
ダコワーズ、マカロン、そんな感じの内容だった。ということは、必然的にこうなる。もちろんマカロンも好きだ。
「いや、そういうことを聞いてるんじゃなくて」
求めていたものとは違う答え。だが、なんとなく苦ではない。もしかして、こんな感じで他愛のない会話をするのが友達なのか? と、オードは打ち震えた。
そんな内心で盛り上がるオードとは裏腹に、とっかかりのないクイズに、ニコルは少し心が晴れない。
「しかし、ヒントがそれだけとは。なにを伝えたいのかさっぱりだね」
諦めムード漂う二人。そもそも、実際に話を聞いたわけではなく、又聞きであるため、詳細なこともわからない。ショコラについて詳しいわけではない。なかなかに詰んでいる。
「ま、そうよね……」
なにやってるんだろう自分は、とオードは正気になる。ニコルも巻き込んでしまった。まぁ、友人とはそういう話をするものなんだろう、と適当に推し測った。
だが、案外ニコルは真剣に取り合ってくれている。甘いものに目がない、というのもあるが、単純に謎解きは好きだ。
「イタリアとフランス、まぁなにかを対比させているような気もするけど、角砂糖と対比になるようなものってなんだ? 似て非なるもの、といえば氷砂糖、とかかな。もしくはガムシロップのような液糖」
「それにショコラをかける、ってのもよくわかんないね。かけるんじゃなくて『染み込ませる』か。なにが違うんだろう」
二人で様々な意見を出してみるが、どれも正解からはほど遠い気がする。雲を掴むような実感のなさ。近づいているのか、それすらもわからない。
マリー・アントワネットは悪女、くらいの知識しかないニコルだが、角砂糖を想定して疑問に思うことがある。
「つーか。マリー・アントワネットって、あの『パンがなければブリオッシュを』とか言っちゃうヤツでしょ? こーんな小さな角砂糖で満足するのかね」
角砂糖は基本的に、指先でつまめるサイズ。そんなワガママな女王様が、それだけでよしとするはずがない。角砂糖一〇〇個は必要な気がする。そうなったら角砂糖である必要もない。




