92話
「一九世紀にスイスで商品化された、というところまでは分かっているんだが、そうなると時代が合わない。だからお手上げ」
マリー・アントワネットは一八世紀の中期から後期にかけて。ジェイドが調べた結果を報告すると、元々やる気のなかったオードも諦める。
「私も。はい、お疲れ様」
サラッと手掛かりを失い、静かに推理の幕が閉じた。そもそもが抽象的すぎて、イメージが全くついてこない。
ここで、まだ明かしていなかった特典の情報が、ジェイドによって公開される。
「もし、このクイズに正解したら、新しい私のショコラを、オーナーに掛け合ってもらうことになっている。今回は食べられるやつだよ。そうすれば、オードのカルトナージュが必要になってくると思わない?」
輝いている、と思っていたジェイドの目が濁ってきた。ような気がオードはしてきた。本性はこっちだろう。美味しそうなものでワナを仕掛け、そして釣る。そんな手に引っかかるわけがない。
「……思わない」
「間があったね」
ムカつくことに、細かいところに鋭いジェイド。釣られたオードは睨む。あーもういい、さっさと話を終わらせよう。とりあえずこの場から離れたい。呼ばれてここまで来てしまった自分がバカらしい。
「ともかく。なんか他にヒントないの。その店長さんとどんな話をした?」
適当に会話を合わせる。そうすれば、コイツが勝手になにか思いつくかもしれない。自分は思考停止。むしろ、コイツの役に立つのも気に食わないくらい。
すると、そんなオードの思いを裏切り、なにか心にザラつくものをジェイドは感じた。
「話……そういえば、ダコワーズとマカロンの違いについて話していた。今思えば、なんか不自然だったかも」
もしかして、これもヒントだった? と深く掘り下げてみる。だとすると、ピースがさらに増える。違ったら違ったで、どうせ今現在なにも思いつかない。せっかくなので考えてみる。
「ダコワーズ? 違いってなんなの?」
食べたことはあるが、あまり気にしていなかった。そもそも、あまりお菓子に気を張っていなかったせいか、オードは似ているとすら思わない。
大まかにジェイドは説明する。自身も、あのあと帰ってすぐに再度調べてみた。
「薄力粉を使うか使わないか、マカロナージュするかしないか、乾燥するかしないか、が大きな違いかな。あとは、マカロンはイタリアで、ダコワーズはフランスってくらい」
ひとつくらいはなにか引っかかりそうだが、今のところは皆無。時間をおけば、なにか解決の糸口は見えるだろうかと楽観視しておく。でないと頑張れない。
「イタリアとフランス……なんかありそうね。ま、頑張って。解けたらまた話持ってきて」
欠伸をして、午後の授業に備えてひと眠りしようとするオード。次の授業はフランス語。あまり気が乗らない。
「うーん……もう少し調べてみるか……」
ぶつぶつと自身に言い聞かせるように、呟きながらジェイドは立ち上がる。やれることはなにかあるはず。誰かしらが。私はその知恵の結晶をかすめ取るだけ。考えながら、中庭から移動する。
「……」
半分寝たフリをしながら、その遠ざかっていく背中を見つめ、オードは再度目を閉じた。




