91話
翌日昼。
「朗報だよ、オード」
いつもの中庭でベンチに座りながら、初っ端からジェイドは、隣に座る相棒のテンションを上げにかかる。隣といってもやはり三人ぶんほどの隙間がある。
「はい、嘘。その手には乗らない」
どうせ裏がある、と先読みしつつ、オードは足を組んだ。コイツの発言の八割は疑ってかかる。残りの二割は嘘。これはその二割。確信がある。
その読み通り、少しずつジェイドが真相を明らかにする。
「正しくは、朗報になるかもしれない、だね。今のままだと朗報未遂」
そんな単語は存在しないが、悪びれずに話を展開させていく。
しかし、内容が伴わなければ、オードの前では門前払いとなる。当然のごとくその話は霧散していく。
「なにそれ。意味わかんない。じゃあ朗報じゃないじゃん。なったら持ってきて。そしたら聞くだけ聞いてあげる」
最大限に譲歩してみたが、期待はしていない。まだコイツを知って数日だが、だいたいわかる。
わざとらしくジェイドは落ち込んだフリをする。
「それがねぇ、私の力だけじゃ、どうしようもならなそうなんだ」
でた。他力本願。背中に悪寒が走ったオードは、早々に切り上げる。
「いや、またそれ。もう作らないから。はい、おしまい」
「今回は作るんじゃなくて、知恵を貸してほしい。どうも解けなくてね」
大袈裟なジェスチャーで、ジェイドは降参をアピールする。実際、なにも浮かんでこない。
つまらなそうに噴水の水飛沫を凝視しながら、オードはキッパリと断る。
「あんたのほうが頭がいいんだから、もっと無理じゃん。頭使うのはイヤ。諦めて」
「で、その内容なんだけど」
「……」
全く話の噛み合わない流れに、オードは絶句する。だが、視野の端っこで見えているのは、目を輝かせたジェイドが見つめてくる姿。
オードの言い分など関係なく、ジェイドは内容を提示する。
《なぜショコラを染み込ませた角砂糖が、マリーを意味するのか》
《私にとってショコラはこうあってほしい、という想いが、今回のクイズの答え》
「ということなんだよね。さぁ、一緒に頑張ろう」
諦めて帰る気配が感じられないため、仕方なしにオードは返すだけ返す。
「……そういう食べ方をしていた、とか」
「と思って調べてみたんだけど、そんな記述は見つからなかった。むしろ、彼女は砂糖とバニラのショコラだったらしい。その中に角砂糖を入れた、というのとはなにか違う気がする」
はい、終わり。即、ジェイドにダメだしをされ、真面目に考える気もないオードは思考を停止する。が、まだ見てくる。
「……そもそも、その時代に角砂糖ってあるの?」
素朴な疑問。砂糖や塩はもっと昔からあっただろうが、加工する技術はどうなんだろうか。そこからなにかわかることもあるはずだ。だが。




