88話
ジェイドは作ったことはないが、有名なお菓子だと気づく。元々ショコラはかかっていないはずだが、アレンジした模様。
「ダコワーズ……たしか、アーモンドプードルとメレンゲを使ったお菓子、でしたね。それにショコラを。これは新作にしないんですか?」
なんとなく味のイメージはつくが、間違いなく美味しい。焼き目もほんのりとついており、視覚としても満点。サイズとしても、気軽に買えるような気もする。
「もう散々いろんなお店で作られているから、このままではとても。さらになにかあれば、お店に置きたいけどね。ところで、焼き菓子に味のついたバタークリームを挟んだだけ。何かに似てるね」
と、疑問を問いかけるワンディに対し、賭けを申し出られたジェイドは、すでに始まっているのか、と気を張り詰める。
「マカロン、ですね。ほぼ一緒です。違いはたしか、薄力粉を使っているものがダコワーズ。使っていないものがマカロン」
「その通り。マカロンはイタリア、ダコワーズはフランスがそれぞれ発祥。でも全く別のお菓子。不思議だね」
たしかに、言われてみてジェイドが思ったのは、見た目としては全く似ていないこと。もちろん、両者にはそれ以外にもいくつかの相違点がある。
「乾燥やマカロナージュの有無といった違いがあったはずです。つるんとしたマカロンに対し、ダコワーズはヒビ割れたほうが美味しい、とも」
実際に作ったことがあるわけではないので説得力は皆無だが。
「よく知ってるね。まぁ、洋菓子の道に進もうと思っているなら、これくらいは当然かな。言ってしまえば、ダコワーズは乾燥もマカロナージュもない。『過程を省いた』とも言える。その結果、また違った美味しさが生まれた」
やっぱり不思議だね、とお菓子の奥深さをワンディは噛み締める。
だが、まさかこれを食べさせるためだけに残されたとは思えないジェイドは、核心を突こうと探りを入れる。
「……どういう意味ですか?」
曲がりくねった会話の道筋だったが、ひとつダコワーズを食べたワンディが本題に入る。
「マリー・アントワネット……それがテーマのショコラを作ったそうで」
今日来るまでは写真で送られただけのものだったが、実物を見て、よく考えられられたものだと感心した。クープ・ドゥ・モンド・ドゥ・ラ・パティスリーや他の世界大会とかでは不可能。ただただ、店舗の客寄せにしかならない規模で、粋を集めた。




